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俺の自作黒歴史カードゲームが、まさか潰されそうなキミの逃げ場になるなんて【後篇開始】  作者: とむ
後篇

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34/37

34.場に自分の指定クリーチャーがあれば、このカードをフュージョンしてもよい



 赤くなり、動かなくなった海風を残して、古瀬は微笑んだまま一人で席を立った。



「……じゃ、おれも学食行ってみるかな」



 そう言って席を立ち上がった西垣に向かって、一言だけ「がんばれよ」と伝えると、西垣は俺の背中をパンと叩き「お前もな」と言い残して廊下に出ていった。



 彼らを見送った後、俺は決意を新たにする。

 席を立ちあがり、海風の元にゆっくりと向かう。


 正直なところ――まだ“あの言葉”を口にするために必要なピースが、ひとつだけ欠けてしまっているような気がしてならない。

 本当に今日で良いんだろうか、今でいいんだろうかなんて、何度も考えた。


 でも、彼らにここまでお膳立てしてもらって、もう引き下がることなんてできない。

 もし土壇場で勇気が出なくても、どんな手を使ってでも――必ず伝えるんだ。



「海風、場所を変えよう」

「……ぷしゅう」



 あ、まだオーバーヒートしちゃってる……。



 ◆



 俺たちがやって来たのは、以前も戦場となった屋上出入口前の空間だった。

 残暑と呼ぶことすら憚られる籠った熱気を、開いた小窓から吹き込んだ一筋の新鮮な空気がわずかに和らげる。


 悪あがきのように、年季の入った鉄のドアノブを回したが、やっぱり回らなかった。


 あーあ、屋上に出られれば――もっとロマンチックだったのにな。


 そんなことを考えながらも、こんなムードもへったくれもない空間が妙に落ち着く自分がいることも、また事実だった。



「おーい、海風さーん」

「は、ひゃい……」



 ただ、落ち着いていない人もいた。


 海風を正面から見ると……すごく目がトロンとしてて、目元にもすごい隈ができてるな。

 寝不足に加え、さっきの古瀬の件もあって、脳の処理が追い付いていないと見た。

 かくいう俺も、西垣の爆弾発言が無ければ同じような状態だったかもしれない。


 このままじゃ、どうあがいてもあの言葉は伝わらない。

 そして、こんな状態になったのも――昨日、ろくに彼女の行動に応えてあげられなかった俺の責任だ。


 コーラと麦茶の冷えたペットボトルを差し出すと、彼女は迷わず麦茶を手に取り、急いでごくごくと飲み始めた。

 そして、「ぷはっ」と口を離したタイミングを見計らい、俺は“エタデモ”を懐から出して海風から見えるよう掲げた。



「いったんこれやって落ち着こうか」

「……うん、する……」



 彼女が一番欲しがっている言葉が、これでないことは分かっている。

 でも、俺だって冷静を取り繕っているだけで心の中は一杯一杯だし、彼女も未知の感情からの逃げ場として無意識にエタデモに目を向けている。


 今は、こうして段階を踏むことが最善手に決まってる。


 そして、“何らかの間違い”がエタデモ中に起こって、気持ちが伝わることがあっても――それはやむなしと言わざるを得ない、はずだ。



「えー、ゴホン。前回の反省を踏まえまして、今回の第5弾はよりシンプルに、かつエンタメ性を追求した自信作となっております」

「おー……ってこれ、第6弾でしょ。第5弾をなかったことにしちゃだめだよ」



 くっ、こんな状態になっても手ごわい。

 今回ばかりは泣かれては困るので、敢えてあの難解カードたちは家に置いてきたのだが……。



「そ、そして……第6弾の目玉はこちらです。じゃーんっ」

「……おぉっ、えぇすごい! キラカードだぁ!」



 それまでトロンとしていた海風の目が、輝きを伴って大きく開かれた。


 エタデモ史上、初の手作りホイル(箔押し)カードとなったそれは、イラスト周りに生まれた立体的な銀の世界の中で、角度を変えるごとに虹色のレーザー光が万華鏡のごとく千差万別の動きを見せている。



「わあぁ……すごいなぁ。こういうカード、昔ずっと欲しかったんだ……」

「あはは、天宮祭りの屋台でずっと見てたもんな」



 海風の無邪気な眼差しが、カードの動きに合わせてチラチラと動く。

 ここまで嬉しそうにしてもらえると、わざわざホイルネイルシールを一生懸命加工して、丹精こめて作り込んだ甲斐があるってもんだ。


 彼女にとって、それはこの世に存在するどんなダイヤよりも輝いて見えてい……たらいいなぁ。


 何にしても、彼女は知る由もない。

 まさにこのカードこそが、対応するもう一枚と組み合わせることで完成する――夢の中で悪魔と契約した末に生み出された、真に“危険なカード”だということを。



「これは“神代の石板獣『朱』”という、新要素のクリーチャーカードだよ」

「へえ……。ねぇ、この『朱』ってなんて読むの?」


「……ま、まぁまぁ、いいじゃないのそういうの」

「ねぇ、どうしたの? なんで赤くなってるの?」


「……で、こ、これに対応するもう一枚のカードが……」

「ねぇー」



 キラカードを見たせいか、海風のテンションが戻って来たのかもしれない。

 そんな彼女の追及を振り切るように、俺は件のもう一枚の“キラカード”を掲げた。



「この“神代の石板獣『鬼』”だ。ちなみに、読み方は“おに”じゃなくて、“き”だよ」

「ねぇー『朱』の方はー?」


「そして、この二枚は“フュージョン”といって、特定の二枚を揃えた時だけ発動できる、強力な効果を持っているよ」

「ねぇねぇー!」


「フュージョンしたカードは、名前が合体した一体のクリーチャーとして扱われるんだ。是非、使ってみてよな!」

「もぉー!」



 ――なんてね。


 そう言ったところで、きっと海風は“フュージョン”を使わないだろう。

 今までのプレイングから察するに、彼女は用意されたデザイナーズコンボを嫌い、かつ俺が最も困った顔をする勝ち方を考えるはず。


 そう思ったから、俺は“敢えて”海風が使わなさそうなカードデザインにしたんだ。

 だって、海風にフュージョンを使われて、“名前を口にされる”と困るからね。



 このカードを使うのは、他ならない俺だ。

 よもや卑怯とは言うまい。


“神代の融合石板獣『朱鬼(すき)』”によるダイレクトアタックで――俺は必ず想いを海風に届けるんだ!


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