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俺の自作黒歴史カードゲームが、まさか潰されそうなキミの逃げ場になるなんて【後篇開始】  作者: とむ
後篇

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33/33

33.お互いのプレイヤーは、手札をすべて捨てる


『皆さん、おはようございます。こうして2学期の始業式で、皆さんの元気な顔を見ることができ……大変うれしく思います。この夏休みを皆さんはどのように過ごしたでしょうか。部活動に打ち込んだ人、進路について真剣に考えた人、あるいは――』



 始業式が始まって間もなく、前列のパイプ椅子に腰かけていた海風は、校長のスピーチを子守歌にしながらウトウトと船を漕ぎはじめていた。


 もしかすると、海風も俺みたいに……昨夜は頭が真っ白になっちゃってたのかな。



 いつもよりぼーっとした感じは、先程から確かにあった。

 だから、俺との挨拶が気まずい感じだったのは仕方がなかった……はずだし、一条先輩(あの野郎)に対しての返事も、どこか塩っぽかった……ような気もしている。



『お疲れ! お昼の予定ある? 8:08』



 朝に送ったメッセージがまだ読まれていないのも、まぁ無理もない……だろう。


 始業式までの間も、坂野先輩と添削云々の話をしていたはずだし、きっと忙しかったんだろう。

 そう、一条先輩との用事じゃなくて、あくまで坂野先輩との用事で忙しかったはずなんだ。


 そんなことを考えながら、自分の気持ちを落ち着かせるように、しばらく様子を眺めていると……ゆらゆらと揺れていた海風の頭が、時おり隣に座っていた宇田山君の肩にコトン、コトンと触れた。



「……てめぇもか……」



 誰にも聞こえない声で呟いたつもりだったが、隣の横山が俺の方を振り向いたような気がした。


 ふつふつと湧き上がる、この感情の置き場を探すように――俺はポケットに忍ばせていた“危険なカード”に、そっと触れた。



『――なにか、特別なことをする必要はありません。毎日の小さな努力を続けること。それが、学期の終わりに大きな差となって現れます。最後に皆さん一人ひとりが、それぞれの目標に向かって充実した時間を過ごせることを願っています』



 ◆



 もうすぐ、下校前のSHRが終わる。


 メッセージの既読は、まだついていない。

 始業式が終わった後も、休憩時間のぼーっとしている間も、SHRの間も……メッセージを読んだ形跡がない。


「まぁそんなこともあるだろ」と一人ごちて、スマホを一旦ポケットにしまった。

 そして、すぐにスマホが振動したので、慌ててもう一度スマホを取り出した。



『人気のアイウェアが¥6,600~¥9,900で購入できる、期間限定クーポンを――』



 ちくしょう!

 伊達眼鏡を一度買いに来てもらったくらいで調子に乗るんじゃねぇ!


 俺は会員割引欲しさに自分で眼鏡屋の公式アカウント登録をしておきながら、怒りに手が震えた。

 SHRが終わったのは、それとほぼ同時だった。



「海風ちゃん、おつ~」

「あ……古瀬ちゃん、おつおつ」



 追撃のメッセージを送るか否か、脳内で紛糾していた議論は古瀬が海風に話しかけはじめたことで、うやむやとなった。

 俺は机にかじりつくような体勢で、遠巻きに二人の様子を窺うことにする。



「ミーティングまで時間あるけど、よかったら一緒に学食いく?」

「えっ、行きたい行きたい。あ……でも今日もおにぎり持ってきてて……」


「えー、海風ちゃんだったら定食もおにぎりもペロリでしょ。今日くらい奢るよ」

「あはは、確かに。でも奢りは悪いよー」



 俺は二人の会話を聞きながら、心の中で「スマホを見てくれ!」と必死に念じていた。

 隣でスマホを触っていた西垣は、そんな俺と二人を交互に見回している。


 途中、きょーや達が「おっす、今日――」と話しかけてきたが、西垣が謎のサインを送ると引き下がっていった。



「実は日替わり定食のラインナップ、今日で更新されてるんだよ」

「え、本当?それだったら――」



 うわぁん、待って行かないで!

 俺は夕方からバイト、海風は水泳部のミーティングの後に練習。

 今、時間が作れないと、今日は何もできなくなってしまう。


 そんな、俺の邪念など知る由もなく、海風と古瀬のやりとりは、つつがなく進んでいく――と思った矢先だった。



「あ、坂野先輩からだ」



 水泳部のグループメッセージだったのだろうか。

 古瀬がスマホを開く。

 そして、その様子を見た海風も自分のスマホを開いた。



「どれど……わっ!」

「ミーティング後にズレるんだって……って海風ちゃん、それ誰のメッセージ?」


「あ、や、これはっ」



 分かりやすく狼狽する海風。

 じっとりとした目で彼女を見つめる古瀬。


 これは……ついに俺のメッセージを見てもらえたのか。

 しかし、この状況は――



「……ふぅん」

「ふ、古瀬ちゃん……このメッセージには別にその、な、なんてことないもので……」


「あやしい」

「くないっ、あやしくないってば……ひっ」



 スマホをずいっとのぞき込む古瀬に、後ずさる海風。


 西垣は隣で「いい匂いしそうだなー」などと抜かしている。

 俺は俺で、心臓がいつになく跳ねまくっていてどうしようもなかった。



「……なるほど、妬けちゃうなぁ」

「だから、ちがくてっ」


「いいって、前からそんな気はしてたし」

「……っ!?」



 古瀬は嫌味のない朗らかなニヤケ顔で、聞き耳を立てている俺たち以外の人間には聞こえそうで聞こえない、絶妙な声量でこう続けた。



「いっといでよ。室井君によろしくね」

「……ぷしゅう……」



 赤くなっているのは――海風だけではなかった。



「……ぷしゅう……」

「そうか忍……お前の狙いは古瀬じゃなくて、海風だったんだな」


「わ、忘れてくれ……頼む……」

「……まぁいいよ。俺も安心したし」



 な、なんだ……えらく聞き分けが良いじゃないか西垣。

 やっぱり持つべきは親友――



 ――えっ?



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