11.持ち主の手札に戻してよい
手の震えが収まらない。
あのいつかの夜、『漆黒だからバッチリ黒く塗りつぶそう!』などと意気揚々とカード作りに勤しんでいた自分をはっ倒してやりたい。
切り札が海風にすっぱ抜かれてしまったことで、プランは早々に崩壊した。
カードに注いだ愛が、そのまま俺に仇を為す形となってしまったのだ。
「ふっふっふっ、ここから室井くんはどう立て直すつもりなのかな~? かな~?」
「くっ……!」
盤外煽りまで心得ているとは末恐ろしい……。
一体、お兄さんとどんなモラル環境でデュエルしてたんだよ。
――だが、案ずるな忍よ。
デッキに入れた“殲滅漆黒神魔龍”は3枚。
今回の一件は悲劇だったが、それでもたかだか1枚抜かれただけに過ぎないんだ。
ここで俺が取る選択肢は……これだ!
「“星滅のホワイトホール・ドラゴン”を召還!」
「おぉー、なんか強そうだねぇ」
こいつはパワー6000の黒陣営クリーチャー。
他のドラゴンと比べると派手さに欠けるが、そのぶん強力な効果を持っているぞ。
「“自身の山札を見て、好きなクリーチャーを1枚、相手に見せてから手札に加える”効果を発動します」
テキストを宣言してから、俺は山札を手にした。
選んだのはもちろん、“殲滅漆黒神魔龍”だ。
残りの一枚は山札に見当たらなかったから、たぶん“壁”になってしまってるな。
よく見ると真ん中の壁のカード、しっかり隆起してるし。
まぁ、一枚あれば十分だ。
落とされたのなら、こうして新たに増やせばいいだけ。
なんで“星を滅ぼす”なんて名前にしたのかは自分でも意味不明だが、こいつも十分優秀なクリーチャーだ。
「手札に加えるのはコイツだ。ククク……海風の余裕も、ここまでだな」
「むっ……」
「ククク……」なんて台詞、人生で初めて口にした。
カード名を読み上げるのにも少し慣れてきたし、こんなやり取りが許されるデュエルの独特な空気感は……なんやかんや楽しいな。
「じゃあ、次は私のターンだね」
海風の方はというと、特に慌てる様子もなく淡々とドローを行い、マナを貯めている。
あくまでまだ手はある、ということか。
しかし、彼女はドロー効果のあるカードはあまり使用せず、軽量な守護クリーチャーを次々と盤面に並べたせいで、手札はすでに残り1枚となっていた。
しかも、彼女に倣って裏面の隆起を凝視してみると、やや形が浮かび上がってはいるが、ハンデスが使える“白タイツクソ野郎”ではないことが分かる。
人の形をしてないし、あれなら形がもっと浮かび上がるはずだ。
つまり、彼女に次の“殲滅漆黒神魔龍”を抜く手立てはない。
やはりこのデュエル、俺の勝ちだ!
「えっと……“精霊龍プラチナ・ユニバース・ドラゴン……?”を召還するね」
海風が出したのは、第2弾の目玉カードにして、白陣営のテコ入れカードの一枚だ。
パワーは12000。
そして、奴は場に出たときに“場のクリーチャーを3体まで選び、持ち主の手札に戻してよい”という効果を持っている。
こちらも“殲滅漆黒神魔龍”ほどの派手さはないものの、彼女に禁止カードにされる恐れのない程度に、真っ当に強いテキストを持たせた。
だが……これでもまだ、勝利には届かない。
場に干渉できたところで、俺が手札に握った切り札をどうにかできなければ、海風はただ1ターンの猶予を得るだけだ。
ふん、時間稼ぎのつも――
「この子の効果で、私は自分の“創世の悪魔”と“精霊龍プラチナ・ユニバース・ドラゴン”を手札に戻すね!」
――え?
「……ご、ごめん海風。ちょっとテキストみせて。それ、自分のクリーチャーに使えるなんて……」
「えぇー、自分で書いたんじゃん」
“場のクリーチャーを2体まで選び”。
……うん、“相手の”とは書いてない。
つまり、自分のクリーチャーを選んでもいいということだ。
海風の顔を見る。
“白タイツクソ悪魔”を手札に握った彼女は、今全力でニヨニヨしていた。
「そして、残りのマナで“創世の悪魔”を召還します」
「……」
選ばれたのは、ドラゴンでした。
◆
「どうしたの室井くん、私のターンはおしまいだよ?」
海風の屈託のない笑顔は、俺の心を殲滅するのに十分な火力を持っていた。
ここまで来ると、俺は海風が壁を壊してくれることを期待した。
だが、そんな希望すらも、つい今しがた粉砕されたところだ。
海風の行動はさっきから一貫している。
俺の場の適当なクリーチャーを一体。
そして、彼女の場の“創世の悪魔”と“精霊龍プラチナ・ユニバース・ドラゴン”をバウンス(手札に戻す)して、“創世の悪魔”をまた出して俺の手札からアドバンテージを奪う。
それを、ただひたすら繰り返している。
何度も何度も、デッサン狂いの白タイツ悪魔が顔を出す。
盤面は海風の守護クリーチャーが数もパワーも、俺のクリーチャーの数を常に上回っている。
その上、俺の山札は序盤に景気よくドローをしまくったせいで禿山寸前なことに対し、海風の山札はまだ緑を湛えている(白いコピー紙だけど)。
この膠着状態が続けばどうなるか?
――俺の山札が先にゼロになって、その場で負けが決まる。
そう、海風は俺の壁を壊すリスクなんて犯さなくても、勝ててしまうことに気が付いているのである。
「室井くん、エタデモってすごいね! どうしよう……私、すっごく楽しいっ!」
海風は大きな目を輝かせ、もはや嬉し泣き寸前だ。
気付くのが遅かった。
彼女が楽しんでいるのは、単純なデュエルの勝敗ではない。
初めてのデュエルにも関わらず、的確にルールの穴を見つけ出し、挙げ句こんな“えげつない戦術”を思い付く。
想定と違う使われ方をした――他ならないクリエイターの反応を、心から楽しんでいるんだ。




