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第六十一話:全色同期、無限反転の覚醒

 視界が、白銀の閃光に塗り潰された。

 世界の核――『第零のプロトタイプ』へと飛び込んでいった母アイリスの背中が、因果の渦の中に消えていく。


「……母さん!!」


 私の叫びは、無機質なシステムの電子音にかき消された。

 アイリスが自らの実体を「楔」として核に打ち込み、強制的に初期化プロセスを内部から逆流させている。彼女の『根源反転』が、世界を白紙に戻そうとする神の指先を、数秒だけ、……たった数秒だけ、震えさせ、止めていた。


『 ―― [ INTERNAL ERROR : IRREGULAR INTERFERENCE DETECTED ] ―― 』

『 ―― [ TEMPORARY STALL IN INITIALIZATION ] ―― 』


「……レイ! 今よ! お母様が、……あの子(神)を……あやして……寝かしつけている間に……!」

 核の深淵から、アイリスの掠れた声が響く。彼女は今、世界の初期化という巨大な負荷を、その身一つで引き受けていた。


「……っ、……ルナ、ガオ、リタ、セレナ、フィオナ……ヴィクトリア!!」


 私は、膝を折りかけた六人の仲間たちに向かって、血を吐くような思いで手を伸ばした。

 迷宮の崩壊は止まらない。私たちの足元から、存在の定義がパラパラと剥がれ落ち、虚無へと還っていく。


「……主様。……私は、……ここにいる。……貴方の、……影として」

 ルナが、透け始めた指先で私の手を強く握り返した。

「……旦那! アタイを、……アタイのこの命を、……全部あんたに預けるぜぇ!!」

 ガオが、火花を散らす義手で私の腕を掴む。


 リタの黄金の知恵、セレナの紺碧の時間、フィオナの純白の福音、そしてヴィクトリアの断罪の赤。

 六つの異なる色が、私の『極光の魔導核』に吸い込まれ、一つに溶け合っていく。


「…………一日に一度。……二度、三度……。……そんな『制限ルール』、……誰が決めたんだよ!!」


 私は、自分の心臓に宿るすべての因果を、……母から継いだ「お釣り」も、仲間から託された「今」も、すべてを爆発させるように逆回転させた。


 ドクン、ドクン、ドクンッ!!


 三位一体トリニティを超えた、四つ目、五つ目の鼓動。

 心臓が千切れるような激痛。だが、それ以上に熱い「生きたい」という執念が、私の血管を駆け巡る。


「…………制約を、……この世界の、……全ての限界ごと、……食い破れ(インフィニティ・インヴァース)!!」


 その瞬間。

 私の身体から放たれた光は、白でも黒でもなかった。

 それは、あらゆる色彩を内包し、あらゆる「消去」を拒絶する、透明にして重厚な**『無限の光』**。


 一日に一度という制約。

 一対象のみという限界。

 それら「神が定めた仕様ルール」を、私は今、完全に反転し、破壊した。


 私の指先から、一秒間に数億回の反転衝撃が、放射状に放たれた。

 崩れゆく迷宮の壁を、消えゆく街の記憶を、透明になりかけた仲間の肉体を。

 私は「無限の連打」によって、端から『実体』へと描き直していく。


「……ありえない。……ありえないよ、レイ。……キミの因果の波形が、……計測不能オーバーフローを起こしている……!」

 セレナが驚愕に瞳を輝かせる。彼女の視る「一秒先の未来」が、私の放つ無限の反転によって、数千、数万の「新しい可能性」へと枝分かれしていく。


 白紙化の波が、私の光に触れた瞬間に「虹色の奔流」へと裏返り、逆に世界をより鮮やかに、より強固に塗り固めていく。


「…………母さん、……待ってろ。……今、……その核(檻)ごと、……裏返してやる!!」


 私は、無限に溢れ出す力を両手に宿し、アイリスが囚われている『第零の筆』の心臓部へと、真正面から突っ込んだ。


「…………無限反転、……神の孤独ごと、……食い破れ!!」


 ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!


 世界の中心で、真白な爆発が起きた。

 それは破滅の光ではない。

 停滞した昨日を、爆発的な明日へと変える、新しい世界の「産声」だった。


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