第40話 一件落着……かな?
私たちはフィオーラと子供たちのことを衛兵に任せ、ニコルたちの救出に向かった。
地下道からは出てしまったし、崩落して戻れなくなっているので、少々遠回りだがツェルの案内でまた別の入り口からニコルたちのいる部屋に行くことになった。
最初に私たちが通ったのとは別の入り口だ。ツェルはこの地下道の全容を完全に把握しているようで、迷いなく地下道を進んでいった。
「ここもそろそろ潮時ですかねぇ」
「潮時?」
「ほら、わざと潰してないって言ってたじゃないですか。けどこんだけ大騒動になっちゃうと表にもここは完全にバレたでしょうし。そろそろ潰そうかなぁと」
「いいんじゃないか? 他にもこういう所はあるんだろう?」
「ありますよ。それに、知らないうちに新しいのが作られてることもあるんで、一つ潰したところでどうってことないんですよね」
こんな大規模な地下道、作っている間に音とかでバレるんじゃないかと思うかもしれないが、この世界には魔法や魔道具がある。
それを使えば一日二日で工事を終わらせることも可能だし、バレないように隠蔽することも可能だ。
厄介だが、それを防ぐ術は今のところ確立されていない。衛兵や騎士たちのお陰で治安が向上して、王都ではだいぶ減って来たんだけどね。
そうこうしているうちにニコルたちのいる場所へ到着した。
王子が結界を解除し、ツェルが扉に手をかけた。
「迎えに来ましたよー!」
「うわああぁぁーっ!!」
「えっ、ちょま……っ」
子供たちとニコルの悲鳴が聞こえ、連続して銃声が鳴る。乱発したせいか土埃が舞い上がる。
ツェルの姿は見えなくなったが、これはもしかして……。
「あー……敵だと勘違いしたのかな?」
「そう……ですわね。恐らく……」
確かに身を守るためにと魔銃を渡したが、こんなことになるとは。いや、あれじゃ誰が入って来たのかわからないかもしれないから、仕方ないのかもしれないけど。
「ニコル―! 私たちよ!」
「え……!? お嬢さまですか!?」
ニコルの混乱した声が聞こえた。それに続いてざわざわと子供たちの声が聞こえてくる。
というか、ツェルは大丈夫だろうか。
「ケホッ、ケホ……ッ」
咳き込む音と共に、ぶわっと一気に土煙が霧散する。よかった、無事みたいだな。
「……ニーコールーくん?」
あっ、やばいこれキレてる。
「ひぇっ」
「どうしたの?」
「大丈夫?」
悲鳴を上げたニコルに子供たちが声をかける。
悪いけど私は手も口も出せない。ツェルは怖いからな。
「仕方ないとは思いますけど……一応オレ、声かけましたよね?」
「ごめんなさいごめんなさい。声は聞こえましたけどびっくりしたんです! 本当にごめんなさいっ!」
「はぁ……今日のオレはついてないみたいですね。どっかの紙袋にもやられましたし」
「いやそれはわざとじゃないって言っただろ?」
「あなたがコントロール出来なかったせいですよね?」
「そうだけども……」
「そろそろコントロールくらい出来るようになってくださいよ。せっかく希少な属性と大量の魔力持ってるのに、宝の持ち腐れですね」
「くっ、言い返せないのが辛い」
王子にまで飛び火してる……。私は逆に魔力量の割に威力が足りないと言われているので、そのことはツェルにバレたくないな。
いや、私はあそこまで厳しく言われることはないか、多分。
それにしてもいつまで続くんだろうか。
「皆さん、そこまでにしておきましょう? 上でこの子たちの兄弟が待っているのですよ?」
放っておくとキリが無さそうので、私は仲裁に入る。すると全員が私の方を向いて素直に頷いた。
「わ、わかった。すぐ行こう」
「すみませんお嬢さま! 行きますよツェルさん」
「そうですね。また今度にしますか」
「いや、今度は無くていい」
王子はそう言ったがツェルは素知らぬふりだ。また今度、とは言っているけど、ツェルは引きずるタイプじゃなさそうだからすぐに忘れそうだけど。
私たちは子供たちを引き連れ地上へ向かう。
ようやく地上に出ると、夏らしい強い日の光と、祭りの喧騒が届いた。
さっき無理矢理地上に出た時には思う間もなかったけど、やっと帰って来れた、という気分になった。と言ってもまだ数時間も経っていないんだけど。
この入り口からは祭りで盛り上がっている場所が近いので、人々の騒ぐ声がよく聞こえる。
私たちは、人の少ない道を通ってフィオーラやジーンたちのいる衛兵の詰め所へ向かった。
*
「メイ!」
「お兄ちゃん!」
詰め所に着くと、ジーンとメイはお互いに駆け寄り抱きついた。他の子供たちも、引き離されていた子たちは皆同じように抱き合っている。
苦労したし危険なこともたくさんあったけど、これを見たら全てが無駄じゃなかったと思える。
泣きながらお互いの無事を喜び合う子供たちから少し離れると、フィオーラが近くにやって来た。
「クリス様、本当にありがとうございました」
「私が勝手にやったことなんだから、あなたは気にしないで」
「それでも、お礼を言わせてください」
深く頭を下げたままのフィオーラに、私は苦笑する。いくら気にしなくていいと言っても、この子はきっと忘れないんだろうなぁ、と思った。
「失礼ですが、レヴァイン公爵令嬢の、クリスティーナ様でしょうか」
衛兵……いや、この感じだと騎士だろうか。予想はしていたけど、建国祭だから騎士も詰め所にいたのかもしれない。
王宮で私の顔を見たことがあったのかもな。これでは誤魔化すことは出来ないだろう。
「その通りですわ。けれど、これは内密に。衛兵の方々にも伝える必要はないわ」
「ですが……」
「わたくしがここにいたということが漏れれば、わたくしだけでなく貴方も困るはずよ」
「……わかりました。このことは自分の胸の内に止めておきます」
頭の固いタイプの人じゃなくてよかった。でも、他の騎士が来る前になるべく早くここを出た方が良いだろう。
王子とツェルは向こうで衛兵たちと話をしているから、挨拶が出来ない。無断で、ということになってしまうが、私はそろそろお暇しよう。
「フィオーラ、私はそろそろ帰ることにするわ。この代わりは、いつか必ず」
「そう言って頂けてとても嬉しいです。今日は本当にありがとうございました」
「気にしなくていいと言っているのに。でも、また遊びに行けるのを楽しみにしているわね」
「はいっ!」
元気よく返事をしたフィオーラには、満開の桜のような笑顔が戻っていた。それに釣られて私も笑顔になる。
私はニコルを呼び寄せ、そっと詰め所を後にした。




