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episode 7 「勇気」

クレアとサラは森の中を駆けていた。サラはもうほとんど動けず、クレアが肩を貸していた。サラの出血はさほど激しくはないが、それでも絶え間なく体の外へと死を運んでいる。サラ本人は勿論の事、それを間近で見ているクレアも焦りが隠せない。


「はぁはぁはぁ、クソ! 何があったんだよ、アイツら誰だよ!!」


疑問は後を絶えない。


「帝国軍の兵士よ、あんたの命を……狙ってるって」


途切れそうな意識を何とか保ちながら答えるサラ。


「はぁ!? 何でだよ!!」


体を震わせるクレア。先ほどは勢いで何とか乗り切ることができたが、そもそもクレアに剣の心得など無い。あのまま戦っていたら間違いなく殺されていただろう。




「とにかく身を隠しましょ。安心して、ここは私の庭だから」


動揺するクレアを何とか落ち着かせ、サラはクレアを洞窟まで案内する。そこは何とか人が通れる程のスペースしか空いておらず、そう簡単には見つかりそうにない場所にあった。が、少々進んだ先はある程度の広さがあり、クレアたちはそこに腰かけた。


「はぁ、ここまで来れば大丈夫なんだよな!?」

「ええ、ひとまずはね」


僅かに差し込む光を頼りに、傷の具合を確かめるサラ。洞窟の奥には必要最低限の食料や薬もあり、サラはそれを使って治療を始める。




「大丈夫かよ」


少し照れ臭そうに聞くクレア。


「ええ、ありがとね」


サラも顔を反らして礼を言う。





サラの治療が完了し、しばらく経った頃、急にクレアが立ち上がる。


「あ、あの……さ」


塩らしく、もじもじとするクレア。サラは茶化さずに黙ってクレアの様子を見守る。



「ごめんな」



たった四文字の言葉。だが、その言葉にはクレアの勇気が詰まっていた。横柄な態度をとってごめん、皿を割ってごめん、傷つけてごめん、様々な謝罪がその言葉には込められていた。そして、その気持ちはきちんとサラに伝わった。



「うん」



それだけ返すサラ。クレアにはそれだけで充分だった。





「しっかし、何なんだここ」


疑問を口にするクレア。この洞窟は明らかに人の手が加えられており、自然にできたとは到底思えない。かといって機械等で掘削された様子もなく、人の手によってくり貫かれたように不自然な形をしている。


「あんたには言って無かったけど、私の父さんは軍人なの」

「へぇ。確かによく見りゃお前の服さっきの奴らと似てんな。お前も軍人なのか?」


クレアの質問に首を振るサラ。


「あんな乱暴な連中と一緒にしないで」


まだ痛む体を擦りながら答えるサラ。




「父さんがね、昔この場所を教えてくれたの。でね、いつも言ってた、何かあったらここに隠れろって」


幼少期の微かな記憶を思い返しながら、洞窟の奥を見つめるサラ。その先には一切の光の侵入を許さない深淵が待っている。


「あっちに何かあんのか?」


そう聞くクレアだったが、不思議なことに彼もまたその先の暗闇から目を離せないでいた。「こっちへ来い」まるでそう囁かれているかのようだ。



「わからないわ。でもきっとここには何か秘密があるはず」


二人は顔を見合せ、頷き合う。そして洞窟の奥へと進みだした。







「ヴァルキリア中尉を放っておいてもよかったの?」


クレアたちを追いかけるセルク兄妹。その妹、シャムはリザベルトの事が気がかりだった。ベルクがリザベルトに対してとった行動は明らかに問題、あの場で処分されていてもおかしくはない。いくらゼクスの後ろ楯があるとはいえ、不安なことに代わりはなかった。


「それは奴の姉どもの事を言っているのかね?」


ベルクの返答に首を降るシャム。そう、一番の問題はそこだ。リザベルトの姉、ローズ・ヴァルキリアは帝国軍の大佐。ゼクスと同じ階級だ。いくらゼクスといえど、ローズ相手では優位に事を運べるとは限らない。そしてそのローズの姉、ジャンヌ・ヴァルキリア。もはや帝国軍において彼女の存在を知らぬものは皆無。中将の地位もさることながら、その実力は間違いなく帝国軍五本指に入る。ゼクスは逆らう意思すら見せないだろう。



「安心したまえ。中尉は良くも悪くも正義感が強すぎる。姉に泣きつくような真似は死んでもしないだろう」


シャムとは違い、一切の恐れを出さないベルク。任務遂行、そして己の欲を満たすため、着々と血の後を辿っていく。



「哀れなものよ、セルフィシー王子。我ら帝国軍に目をつけられるとは。生まれてくる国を間違えた、たったそれだけの理由で殺されるというのだから」



振り下ろしたくてたまらない剣に手をかけ続けながら進むベルク。シャムもそんな姿の兄を見て安心したのか、リザベルトの事はすっかり頭から消えていた。兄、そして上官であるゼクスの命令を遂行することだけを考え、その背中を追う。



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