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episode 6 「サラの覚悟」

「まずは足をいただこうか」


ベルクの豪快な一撃がサラに襲いかかる。彼の言葉の通り、直撃すれば間違いなくサラの足は砕け散るだろう。


「その次は腕ね」


間髪いれずにシャムの素早い攻撃が襲いかかる。一撃一撃は軽いが、気を抜けばあっという間に蜂の巣にされるだろう。


持ち前の身のこなしで死を避け続けるサラ。だが、確実に死へと向かっている。




「なぜ、答えないのですか?」




伍長、イアン・レンバーが口を開く。恐怖と疑問と少しばかりの呆れを含んだ顔で目の前で死に行く少女に語りかける。


「伍長、静粛に。質問はだるまにしてからでも構わないだろう」


ベルクは殺意むき出しだ。


「あら、兄さん。答えさせてからだるまにするのもいいんじゃない?」


シャムは冷静かつ冷酷に言い放つ。


「うむ。それもいいだろう。お嬢ちゃんに選ばせてやろう」



もう、サラに動き回るだけの力は残されていない。そんな事は目の前の二人の兵士にもわかりきっていた。あくまでも二人は兵士であり、快楽殺人者ではない。目的はサラの殺害ではなく、クレアの探索だ。そのためサラを追い詰め、死の間際ギリギリまで命を削った。


だが、そろそろ限界なのだ。サラの命も、ベルクの辛抱も。おそらく、次の問答が最後となる。



(ねぇ、クレア)


サラは力なく、地面に倒れこむ。


「では、改めて問おう。王子はどこにいる?」


ベルクが質問するが、サラに答える意思はない。


(私もずっと一人だった)


「無視……か。何故そこまでして奴を庇うのかね?」


ぶちぶちとベルクの血管が切れる音が聞こえる。


(だからね、本当は)


サラはまっすぐとベルクを睨み付ける。恐怖はもう無い。覚悟は決まっていた。



「決まってるでしょ。友達だからよ」



(アンタが家に来たとき)




「こ ろ す」




(すっごく嬉しかったんだ!)









刹那。ベルク剛剣が振り下ろされるよりも一瞬速く、イアンの横を何かが通りすぎる。


カキン!金属音とともに黒髪の少年が姿を表した。



「てめぇ……」



少年はイアンから奪った剣を握りしめながらベルクを睨み付ける。


「クレア?」


サラは自分の目の前に表れた少年を見つめる。それは間違いなく、絶交した筈のクレア・セルフィシーだった。




「俺の友達に手ぇ出したら」


クレアの顔が怒りに満ちていく。共に過ごした期間はごく僅かだが、サラはクレアのあんな表情は想像も出来なかった。



「ぶっとばすぞ!!」



ビリビリと森が揺れる。イアンは剣を奪われたことにようやく気がつくが、それどころではない。目の前で殺されそうになっていた一般人の少女を守ることができず、ただ震えていた自分とは違い、あの少年は剣を握り飛び出した。イアンはただ、クレアの存在から目を離せなかった。



「ふっ!」


そんなクレアをベルクは鼻で笑う。


「ははははは!! まさかそちらからお越し頂けるとは、手間が省けて助かる」


更に剣に力を込め、威圧するベルク。たまらずクレアは一歩後ろに退く。



「ちっ、何て力だよ。これが本物の兵士ってわけか。サラ、下がってろ」

「後ろ!」



クレアがチラリと後ろのサラを見たとたん、再びベルクが斬りかかってくる。咄嗟に声を張り上げるサラだったが、クレアは大きく体勢を崩したまま剣を受けることとなり、結果クレアの剣は真っ二つに折れてしまった。




「くっ!」

「ははは! 次は君の体がそうなる番ですね」



折れた剣を踏み砕き、高らかに笑うベルク。クレアは苦し紛れに残された剣の半身をベルクに投げつける。


「往生際が悪いですね」


難なく剣を弾き飛ばすベルク。その隙にクレアとサラは姿を消していた。


「追いましょう、兄さん」


すぐに駆け出そうとするシャムを止めるベルク。そしてサラが残したであろう地面に落ちた血の道しるべを指さす。


「あせる必要は無い。それに我らには他にもやることがある」


ベルクの言葉にはシャムも賛成のようで、二人はゆっくりとイアンの方へと振り向く。始めは呆然としていたイアンだったがすぐに自分の置かれた状況を理解したようで、小刻みに震えだした。



「大失態だ伍長。ターゲットの内通者である小娘を見逃したばかりか、ターゲット本人に剣まで奪われ、結果的に二人とも逃がしてしまった。この責任をどうとる? そして大佐に何と説明する?」

「わ、わたしは!」



ベルクのプレッシャーに、そう答えるだけで精一杯だった。「あ、死んだ」イアンの頭に浮かんだのはそれだけだった。



「貴様はターゲットと交戦し、返り討ちにあったと報告しよう。無様にガキに殺されたと、笑われながら逝くといい!」



剣を振り下ろすベルク。剣を持たない、いやたとえ持っていたとしてもイアンにそれを防ぐ術は無い。殺されるのを待ち、そこに棒立ちしているしか無かった。


が、その剣が振り下ろされる事は無かった。ベルクの目線の先にある人物が現れたからだ。



「これはこれはヴァルキリア中尉。このようなところでお会いするとは」

「それで? お前は何をしているのだ?」



イアンの後ろには六将軍、リザベルト・ヴァルキリアの姿があった。金髪の長い髪を後ろで束ね、鋭い目付きでベルクを睨み付ける。


「我が部下に手を掛けるつもりなら、私が相手になるが?」


剣に手を添えると、ようやくベルクも戦意を静める。


「手に掛ける? 勘違いです。私めは彼に稽古を付けていただけであります」

「丸腰の相手にか?」


にらみ会う両者。


「やってしまいますか? 兄さん。後処理は大佐がどうとでもしてくださるでしょう」


ベルクに耳打ちするシャム。だがベルクは首を立てにふらない。


「我々二人でかかればリザベルトはどうにかなるやもしれん。だが奴を殺れば間違いなく姉どもが出てくる。特に長女ジャンヌには我々が何人いようとも決して敵いはしない」


シャムに返答するベルク。形だけ抵抗する素振りを見せてはいるが、ベルク本人に戦闘の意思はないようだ。



「良いのですか? 我々は今、キラ大佐の命によって行動中です。その妨げになるということは、キラ大佐の命に背くということになりますぞ?」

「何? ゼクスの?」


ゼクスの名が出たとたん、リザベルトの表情にも曇りが表れる。それを見たベルクは僅かに微笑み、シャムを連れてその場を去っていく。


「待て! 話はまだ!」

「ああ、それはもう要りません。どうぞ持ち帰って便所掃除でもやらせておいて構いません」


ベルクはリザベルトを完全に無視し、最後にイアンを睨み付けるとクレアたちを追いかけていった。


「クソッ!」


リザベルトはそう吐き捨て、戦う相手の居なくなった剣を振り下ろす。イアンは腰が抜けたまま立ち上がれず、そのまま己の不甲斐なさを悔いた。






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