51 贖罪のやり方を、あたしは知っている。
あたしの名前は姫路ナキ――だった。
あたしは本当の意味で人間を辞めていたらしく、神と呼ばれるほどの存在にまでなってしまった。
それも――邪神と呼ばれるレベルにまで。
「あんたには、ウチを守ってもらう責任がある」
あたしよりも圧倒的弱者からの言葉。
ここで殺してやってもいいが、面倒という理由で責任を放棄する行為は、自分を幼児だと認めたことと同義。
それは、あたしにとって気に喰わない大人たちの匂いがするものだった。
「優しいウチが、この世界を滅茶苦茶にした償いをさせてあげるから。よろしく」
あたしが目を開けて、5分後の出来事だった。
◇ ◇ ◇
聖鐘教会が悪魔認定した正体不明の化物〈BLACK〉との戦い。
奴は、かつてクウラバの樹海を創造したと言われる龍にまつわる伝説・神として崇められた人々による感情の集合体――一つの魂にカウントされるまで凝縮された思念集合体が肉付きしたものだった。
あたしを串刺しにした樹木も、その力の一端に過ぎない。血を媒介にして能力を奪い、獲得していくのが本来の力に近かったのではないかと思う。
生まれたばかりの疑似的な神。より確かな存在になろうと能力を集めるために、あたしが殺された。なるほど、元々異世界になかった力だ。それはレアリティで言えばSRだわ。
おまけに、その〈BLACK〉はダンジョンマスターの力を自分本来の力を重ね合わせ、好き放題に暴れた。基本パラメーターはもちろん、眷属を召喚するときのコスパが各段に良くなった。
だけど、そんな神でもあたしの敵ではなかった。
日本のメディアミックスに激感謝。主人公が絶望しそうなラスボスの力・スキルを全てインスパイア・オマージュさせてもらい、人間の負を煮詰め煮込んだような力で対応した。
魔女も吃驚の釜料理だと言えるわ。
え? もっと具体的に?
あたしの体を疑似的ダンジョンに置換し、ダンジョンマスターの権能による完全管理の元、細胞レベルで主に魔力吸収術式に設定した魔術的因子を構築と改造。後は、様々な所に散布しあたし自身にパスを通して魔力原の確保を行う。
細胞を散布→失った細胞をptで魔力から細胞に変換→散布した細胞から魔力獲得→再び細胞を散布。
細かいところを説明すればキリがないけれど、この無限ループで魔力無尽蔵となったあたしが〈BLACK〉を倒すのは難しいことではなかった。
あれから一か月過ぎた頃だったと思う。ソーダとベルの死を受け入れたのは。
あの時、ハイになっていた。頭のネジが外れて、謎の全能感さえ味わっていた。それが、ソーダとベルの死から与えられた感情の暴走。それを〈役者魂〉が更に倍増させた。だが、その効力も消失した。
二人の墓を作った後、どうすればいいのかを考えた。どうすれば、彼ら二人への贖罪になるのか――と。
最初に思いついたのが蘇生だった。だが、それは二人の死を無かったことにしようとしている、都合の良い自分の陰が見えてしまった。吐き気がした。
後付けの理由になってしまいけれども、死者の蘇生は基本無理なのだ。成功したとしても記憶・感情の欠如が見られる。思いつくゲームあるあるの設定とはいえ、あるあるを前提で自分の能力値を改造したあたしにとっては、無視できない〈あるある〉でもある。
人間、最初から後ろ向きな欲望を叶えることは出来ない。文字通り、無理が立ってしまうものなのだわ。ならば、どうするか――次に閃いたのが過去のソーダとベルを死から守ることだった。未来から過去へのアクション、これは死をなかったことをする方法の――あたしの拒否反応を起こらなかった方法だ。
あたしは過去のソーダにメッセージを送り、過去の姫路ナキとソーダの行動を変えた。近しい仲なったエンカや、諸悪の原因であった(本人にその気はなかった)リジェにもメッセージを送る。これで、〈BLACK〉が生まれてくることはないだろう。
だが、出来たのはそういう並行世界が出来たという結果だけだった。あたしのやりたいこととは大分違い、ただ虚しいだけの行為だった。
判っていたけど、これ以外の方法が思い付かなった。自分の気持ちに決着をつけるために行った、救いようのない自己満足。やり直しがきかないのはどこの世界でも同じ。あたしの世界ではソーダもベルも死んだまま。
あたしの終わらない食材――欲望を叶える物語はまだ続くんだ――笑いながら思っていたんだけど、とある手紙がその幕を閉じてくれた。
それは生きてくれたソーダとベルの、並行世界からのメッセージだった。あたしのメッセージの経路を逆算し送ったもの。それには――あたしへの感謝の気持ちが綴られていた。
それも二人の音声付のもので、彼らの声を久しぶりに聞いたあたしは号泣した。わんわん、泣いて、一回目は彼らの言葉がまともに入ってこなかった。
ソーダがあたしの欠点を指摘する言葉でさえ、今では優しさと愛に溢れた言葉のように聞き取ってしまう。人間とは都合良く出来たものだと自嘲したわ。
ベルはやっぱり優しかった。大人になれば、とてもモテたんだろう。大人になった彼女の姿に懸想する。
手紙を大切に仕舞ったあたしは、ようやく自分の目的に終止符を打ったのだと思う。
生きている二人に負けないように何をしようかと、目的を作ったり消化したりして、あたしは静かに余生を過ごすことにした。近所のガキを捕まえて、魔術とは何か、先生みたいに授業を取ったりもした。
何度かトラブルにも巻き込まれたこともあり、勇者が魔王を倒したという話も聞いたけれど――あたしは五体満足でこの世界を生き抜き、寿命を全うした
享年87歳だった。
――このことを思い足したのが、あたしが5歳のとき。
あたしは前世の記憶を思い出した。いや、正確には思い出された。
ジャンクな感じを意識して、敢えての荒く染められた金髪のギャル高校生――神凪ミソラに。
◇◇ ◇
「おい、本当にこのガキが上層部へのカギだっていうのか?」
「はあ? その質問何回目なわけ? ウチ、何回も言っているよね? 耳、詰まってる?」
「だって、まだ5歳だぜ?」
「はあ~。これだから、無能力者は。能力者に年齢なんて関係ないっての」
神凪ミソラは舌打ちをし、椅子に拘束して幼女を見る。年齢は5歳。ロープでぐるぐる巻きにしなくても大人が囲えば抵抗などされない。
だが、能力者の場合は例外だ。神凪ミソラの言う通り、能力者にとって能力とは身体機能の一部に過ぎず、指を動かすように炎を発火させるのだ。
神凪ミソラ――彼女も能力者だ。彼女は自らの能力を使用し、幼女の覚醒へと促す。目を開けた幼女は自分がどういう状況に置かれたのかを理解し、抵抗を試みた。
ロープを紙紐のように千切り、魑魅魍魎の悪魔を次々へと生み出した。男たちも銃で反撃をするが、藍色の鬼が放つ衝撃波で壁まで吹っ飛ばされる。
唯一、その攻撃を避けた神凪ミサトは二重に巻いたベルトに挟むように仕舞っていた抜き身のレイピアを抜き――抜刀。
一瞬で五の斬撃を残し、魑魅魍魎の悪魔を全て切り殺す。刀を反転させ、勢いを殺さず返す刀で幼女の首に振るう。
だが、幼女の首に刀が届く僅か一ミリ手前で刀が止まる。神凪ミソラが目を凝らせば、幼女の皮膚から何らかの光が放出されていた。密となった光が層となって刀を止めたことに気が付く。
神凪ミソラは体を硬直させたのがいけなかった。魑魅魍魎を一瞬でやられたことに動揺した幼女だったが、新たにムカデの悪魔を呼び出し、神凪ミサトを硬直する。
「……それで、あたしがどうして拘束されたのか訊いてもいいかしら?」
クラゲの悪魔を椅子替わりにして幼女は訊ねた。
その踏ん反り返った年だけを食ったガキのような口ぶりに、神凪ミソラは確信する。
「あんたが、姫路ナキだと確かめるだけ。まあ、その人生舐めてます――みたいな口振りで、確信したんだけどね」
「はあ? なんであたしが姫路ナキだって分かるのよ?」
「あり? そこは否定しないんだ?」
「間違ってないからね。それに、否定しても話が遠回りになっちゃうだけでしよう。そっちやり取りの方が面倒だと思っただけだわ」
「そういうこと」
一応、話は聞いてくれるみたいなので、神凪ミソラは結論から言う。
「異世界って知ってる? ウチらが召喚させられた世界」
「知っているけど――え? あんた、元クラスメイトの奴?」
「いや、違う。ウチの場合は転生なんだけど、それはいいや。話に関係ないし、説明ダルいし。
こっちが話したいのは、あんたの力のこと。〈BLACK〉を倒すときに使った力――確認だけど『過剰』っていう名前だよね?」
「そうよ。良く知っているわね」
「ウチがこの世界に生まれてくる前にカモトっていう神の代弁者的な奴に会ったんだけど――カモトが言うには、その『過剰』のせいで、この世界の人間の約1パーセントが能力者になっているの」
神凪ミソラは説明した。異世界では『スキル』『権能』など様々な呼び方があった人間とは乖離した力を、この世界では『能力』と統一されており、その保有者を『能力者』として呼ばれていること。
「細分化されていないだけで、根源的なものは微妙に違ってくるんだけど、まあ、それはいいわ。説明すんのも面倒だし。それで、どうしてあんたの『過剰』のせいかと言うと、その『過剰』によって能力が発現しているってーわけ」
「へえ? まあ、あたしのせいか。それは――良かったってことでいいの?」
「……良かった?」
「あ、ごめんさない。地雷踏んだわね。その顔で判るわ、謝ります」
神凪ミソラはため息をつく。良かった――という言葉も疑問形だったため、幼女――姫路ナキも本意で言ったわけではないのだけれど――かなり頭に来る言葉だったことは間違いなかった。
その理由をうんざりした顔で神凪ミソラは話す。
「良いどころか、お先真っ暗なんですぜ。なんせ、この世界の平均寿命が40にまで落ちたんだから」
「――――!!」
目を開く姫路ナキ。力というものにはリターンとリスクといものが必ず存在し、それが『過剰』によって生まれたものだと理解するのは難しくない。
「童話とかで――人間、生まれ変わる際に真っ白な魂になるっていう話、聞いたことない?
でも、あんたの魂が輪廻に組み込まれたとき『過剰』のスキルは浄化されることなく、輪廻に流れた。原因は知んないけど――そのせいで、この世界ではとある時期を境に、人間の寿命が徐々に下降。今では40にまで落ちた。それでも能力者になれるのは1%。割に合わな過ぎて、超笑える」
その能力者も、お偉いさん方の消耗品の如く使い潰されるわけだから、本当に救いようがない。
「んで。ここからが本題。その中でも、私は能力の適応率98%。適応率が基本50%を低迷するこの世界において、恰好の研究体なわけ――あんたも含めてね」
「……なるほどね。あんたが言っていた『カモト』っていう人物も気になるんだけど、どうやら、あたしとあんたとの共通点が――異世界っていうことと、それが適応率に関係しているっていうのがなんとなく判ったわ」
「ええ。その通り。理解したようで、ホント安心。つーわけで、あんたにはウチを守ってもらう責任があるわけ」
神凪ミソラは静かに動かしていた手でポケットから機械の玉を取り出し、それを起動させる。彼女を中心としてバリアが形成され、ムカデの悪魔はバリアの電気で灰となっていった。
灰を落すため服を叩き、神凪ミサトは挨拶と握手の手を伸ばす。姫路ナキも表情を変えることなく小さな手で神凪ミサトの手を掴んだ。
二人の異世界体験者の会合により、異世界の物語の幕はようやく閉じた。これから始まるのは、異常異能に侵食された現実の世界で新たな物語。
ココではない――どこかで、物語は語られる。
物語は取り合ず、この51話を持って終了します。
色々と考えたのですが、チートのバリバリと積んでいった姫路ナキを主人公にするよりも、彼女が意図的ではないにせよ、作ってしまった世界で生きていく人々にフォーカスを当てた物語を書いてほうが面白いのではないか、と思いました。
姫路ナキが抱えるソーダとベルの死の決着も、彼女が悩み・苦しみ続ける姿を書くよりも、前向きに倒れる勢いで歩く姿を書きたいという作者のわがままが大きな理由です。作者の身勝手な理由で、読者には申し訳ない気持ちでいっぱいです(´;ω;`)
次書くとするならば、同じ世界線で書きたいと思っています。
今のところタイトルは『回帰覚醒(仮)』と頭にありますが、もう少し煮詰めるかもしれません。
約3年と3か月続きましたこの物語ですが、これにて一旦終了とさせて頂きます。
今までありがとうございました。また、新たな作品で出会えることを楽しみに願っています。




