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50 25番目の勇者

 女神様曰く、姫路ナキという人間は勇者として召喚される予定だった。だが、その資格をあたしは持っていない。


 だから、その資格を得るためのお膳立てを計った。それが、あたしがこの異世界イーヴァンプールに召喚されたき、ゲームのNPC であたソーダが肉体を持って召喚された理由であり、あたし自身の戦う理由と結びつくと女神は考えたと。


 戦う理由を持って欲しい――――確かに、これまでの人生であたしは戦うことはなかった。する必要もなかったし、頑張って無理して王道を進むことは嫌いだった。幼いころから偏屈だったとはあたしも自覚している。


 近道や横道へ進むことに疑問さえ抱かなかった。この異世界イーヴァンプールに召喚されたときだって、一回も本気に、真面目に生きようとなんて思わなかった。


 ――こんなものは夢みたいなもの。死んだら、それで仕方がないじゃない。だって、異世界に召喚されたんだもの。


 本心というわけではないが、思っていたときがあった。死んでも仕方がないと思える心――――あたしは、自分の命でさえ大切にしようという思いが欠如していたことに、最後まで気が付かなかったんだと思う。


 ようやく気付けたのは――あたしが生き返って、ソーダとベルが死んでしまったという事実からだ。


 この救いようもない、どうしようもない悲しみの感情がどこから来ているのは判らない。女神様は言っていた。感情は蓄積されるものであり、ソーダとベルの感情があたしの中にあるということ。


 あたしがあたしでなくなる――という恐怖があった。だが、実際には違った。苗木に水が注がれるような温かな気持ちがあたしの心の中にあり、それと同時に悲しみが溢れ、目から涙を流していた。


 麻痺していた感情が、また動き出したような気がした。『役者魂』によるものじゃない。本当の涙だ。


 ――涙なんて、流さないと思っていたのに。


 我ながら、温かい涙を流すものだと女神様の前で感動してしまった。


 彼女の微笑みとともに、まどろみの夢からあたしは目を覚ます。



 ◇ ◇ ◇



「……戦う理由か」


 あたしが目を覚めた時、辺りは樹海だらけだった。どこかで見たことがある黒い蜥蜴を殺し、その肉で食事している。


 思い出す。


 突然、現れた黒蜥蜴の上位互換のような存在。あれが〈BLACK〉なんだろう。あたしの体はあいつの腕に貫通させられ――その時にダンジョンマスターの力の構造を掬い取り、それをオリジナルにアレンジして使っているのだろう。


 そう、掬い取った――表面だけだわ。ダンジョンマスターだからか、彼の領域内から見える景色は、穴だらけも良いところだった。


「――――仕方がないわね。あたしって、もっとさっぱりキャラだったんだと思うんだけど。でも、それじゃあ、ソーダとベルが浮かばれないわよね」


 ダメだ、さっきの女神様から戦う理由を求められたはずなのに――あたしは、まだ他人を理由にしている。


 自分の醜さを――あたしは認められない。まだ、自己保身へ走っているというのに、そっちの方が暴力を振るうよりもマシだと思っている。


 クソだろ――――あたし。


 雑念――もとい、これまでのあたしを忘れようと近くの幹に額を思いっきり、ぶつける。流れ出て来る血の感触が――今は気持ちい。


「――――殺す。それ以外のことを考えたらダメ」


 用意しておいた二人分の食事に合掌し、口にする。人よりも少食だったはずなのに、水を飲むように喉に流す。


 全てを平らげたあたしは、体が気分のいい何かに満たされていることを感じる。


「テンプレ、データ引き継ぎ、都合の良い展開――――そんなハッピーエンド前提の力はいらない。狂気のまま――今は憎悪に飲まれるのよ、あたし」


 後は吐き出すだけ――――その吐き出し方に、あたしは使命感に似た憎悪をイメージし、未だに『使命感』という言葉を活用する自分に――さらに、嫌悪を重ねる。


 どこまで自分のことを嫌いになりたいのか、嫌いにさせてしまうのか判らない。


 今は、納得のいく形まで高純度に力を高める。


 ダンジョンマスターの権能。迷宮の支配者。その本質はダンジョンを自由に構築すること。だが、あたしの心は未だ歪まず――歪むことがあたしとって許された償いだと自覚しながらも歪まれない――その力だけでも望むまま、希望のまま――醜く悪意的に、歪みたいように歪ませる。


 イメージは蟲毒だ。魔法に感情を寄生させて、悪意と狂気をブレンドさせる。後は、あたしの大好きなゲーム。飽きないレベル上げ、それに適応した環境は自前で済める。


「――そう言えば、好きなキャラクターがあったわ」


 どうしてそう思ったのか判らない。


 不幸になろうとした反動で、幸せな思い出が刺激さたのか。どちらにしても、どれだけ歪もうとしても根がゲーム脳なあたしに――その性根にやけに笑えてしまう。ああ、旨く笑えている気がする。言うなれば――女神みたいに。


 あの独りぼっちの女神より、可愛く笑えている気がするわ。


 壺から溢れ出る水のように、足元から流れ出る黒い粘着質の高い渦のようなあたしの魔力源泉――そこから魔法を手に取る。


 それは剣だ――あたしの好きなキャラクターの好きな武器。快活さがあたしを好きにさせた剣は、今のあたし色に――淀んだ黒に染まっている。


 墨のような真っ黒でないところがあたしらしく――雑念が入っているような複数の色の線が見えてしまうその剣は、率直に言えば大っ嫌いだ。


 完全ではないところがあたしらしく――――とても、救いようがない。


 この憎しみは――奴にぶつけよう。そうだ、剣を振るい、肉を絶つどくどくしい感触に慣れれば、あたしは望むように歪めるかもしれない。

 

 特性を決める。魔法の属性のように、望ましい悪感情に沿った特性をその剣に与えるのだ。


「『過剰』――――償う願いだけで全く気持ちが償えないあたしには、ちょっとやり過ぎるのがいいのかも。そんな償いを込めたのだわ」


 まず、この煩わしいと思えるだろう――この樹海を破壊しよう。


 あたしは、自分のあるべき狂気(しめい)に沿って剣を振るう。



 …

 ……

 …………



 短く、そして長い時が流れた。




 ◇ ◇ ◇




 時は変わって――アムン王国の蔵書。保管されてある〈クウラバの砂漠〉に記載された書物に、とある重要人物の項目がある。


 〈クウラバの砂漠〉悪魔出現における重要参考人物名:姫路ナキ。

 異世界ブロンズの日本という島国の出身。

 埼玉という都市のとある高等学校に学籍がある。


 だが、同人物は学園に籍があったものの、その責任を放棄。学園側もその状態を黙認しており、それは同人物の能力・才能が学園内で制御不可能であったと予測される。


 また、上記の学校は軍訓練予備学校と仮定されており、主に規律・道徳・正義感を培う場であると同時に、その保持に必要な学を収める施設とされる。


 以上の情報は、同年召喚された勇者24名の証言によるものであり、物的証拠はない。


 …

 ……

 ………


 以上のことを踏まえ、同人物は〈クウラバの砂漠〉の悪魔〈BLACK〉を衝突・討伐したものと思われる。


 同年、その地区の預かり元となる聖鐘セイリン教会は、樹海の完全消滅と同地区の一か月の監視を行い、各国に〈BLACK〉討伐を正式に発表。〈クウラバの砂漠〉の封印措置は解除された。


 聖鐘セイリン教会は悪魔討伐した強さ、召喚された24名の勇者の証言から、同人物を25番目の勇者と認定する。


 だが、同人物は〈BLACK〉討伐後、消息を絶っており――二年に及ぶ捜索活動は成果につながらす、同人物の捜索はその年で打ち止めとなる。

前話を含む姫路ナキについての説明。


姫路ナキは「ソーダとベルが浮かばれない――」と発言していますが、二人の死を認めているわけではなく、無理にでも自分を追い込もうと強迫観念から出た発言です。でも、口にしてから二人の死を自分の都合のよい理由に使っていることに気付き、自己嫌悪に陥ります。これは本編でも姫路ナキの心情とともに描かれています。


彼女は映像の回顧録を見ても、二人が死んだと認めることが出来ませんでした。一度認めてしまえば彼女の心の中で本当に死んでしまうと思ったからです。認めなければ嘘でも綺麗な記憶のまま二人は生き続けてくれます。だから、人にそれを指摘されらば、かなり切れます。激怒です。


この話を最後に「姫路ナキ・幻想喪失編」は終了します。


次話から、「幻想再生編(仮)」となり、場面も変わります。


保釈ですが、姫路ナキが〈BLACK〉を討伐出来た理由は、利用できるものを全て利用したからです。魔法・科学・怨念・呪い・憎しみ・信仰・洗脳――――全部、ゲームに出てきたものであり、姫路ナキにとって全て身近なものでした。ダンジョンマスターの権能と統合させる、防波堤ともいえる精神的抵抗は、二人の死をきっかけに脆く崩れました。


難しく言いましたが、要はゲームのボスキャラや最強能力を参考に、自分を永遠に強化させたのです。良いとこどりのオマージュ・インスパイアです。


漫画・アニメ・ゲームが生き甲斐であった彼女にとって、その行いは好きな作品に対する裏切りでした。私欲に使っているという事実が法律的問題と相まって、ファンとしてやってはいけない行為だと思っています。ですが、それでも実行しました。ファンの矜持を捨ててでも、自分で自分が嫌いになっても、〈BLACK〉のことは許せませんでしたし、歪もうをする彼女にとってそれが選択できる楽な道だったのもあります。


それでも、自分を捨てきれない彼女が好きなキャラクターの好きな武器を魔法にしたのは、歪もうとしても変わらないだろうと自分に諦観・見切りをし、だったら素直に付き合ってみようろするのも有りかという根の前向きさが無意識に働いたからです。本人には全くその気がありません。

それが、復讐を行う彼女にとっての唯一の救いです。


別世界では、彼女は漫画家、もしくはイラストレイターになっていたかもしれません。

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