第7話:一瞬で終わった説明
「さて、それでは説明いたしますね」
すぐに姿勢を正す会長。
切り替えが早いな。
少し感心しながらも、同じく姿勢を正す。藍華は特に何もしない。
元々、藍華の姿勢は滅茶苦茶いい。だから、常に正しているようなものだ。
「ウチの生徒会は特にやることがありません」
「どういうことですか?」
思わず聞き返してしまうが、そりゃあそうだろう。というか藍華はどうして驚きもしないんだ?
気になり藍華の方を見る。すると、すぐさま俺の視線に気づいたのか、満面の笑みを浮かべた。あまりにも早すぎる。
少し怖くて、灼網会長に目線を戻した。
「生徒会と言っても、仕事はたった一つです。この学校は生徒の自主性を目標としています。そのため、個々の生徒が色々と考えて、行動します。生徒会はそれの許可を下すか否かを決めるだけです」
「あまりにも簡単すぎませんか? なんか裏とかあります?」
「ありませんよ。ですから、今までわたくしだけでやってきたのです」
「でしたら、このまま会長一人でもいいのでは?」
「一人だと、許可する内容の傾向が偏ってしまうのです。ですから、他にもいてくださると助かります。それに今学期は体育祭に文化祭などがありますから、どれくらい人手があっても足りないのです」
なるほどね。そりゃあ人が足りないな。
「ちなみにその二つの祭りでは何か特別業務とかはありますか?」
「当然、ありますよ。体育祭では団同士で別れますので、点数の計算や進行補助。文化祭では見回りと時報があります」
「思ったよりもすることが多いですね」
「こればっかりは仕方ありません。生徒の皆さんに楽しんでもらうためには」
「それなら、やるしかありませんね。ちなみに体育祭と文化祭の日程はどうなのですか?」
念のため聞く。その質問に灼網会長は困ったように笑う。
なんか嫌な予感がするな。
「文化祭まではあと二ヶ月。そして、体育祭まではあと二週間です」
「二週間っ!?」
思ったよりも少ないな。
「誰か他に手伝ってくれるような人はいるのですか?」
「今日の放課後に来てもらうつもりです。三名ほど追加できていただきます」
「それなら、少しは安心ですね。ちなみにその三名の名前を伺っても……」
「秘密です」
「どうして?」
「なんとなくです」
「マジか……」
まぁ、事前に知ったところで転入初日の俺にはどうしようもないけど。
あっ、そういえば。
「放課後は俺もここに来た方がよろしいでしょうか?」
「いえ、結構です。あなたには明日から来ていただきます」
「わかり」
「部員探し頑張ってくださいね」
了承の意を込めた返答をしようと思ったが、言葉を遮られた。しかも、話していないことなのに。
「どうして、俺が部員を集めていることを?」
「あっ! えっと…………あなたたちが部員を集めようとしていることを、あなたのクラスメイトが話していたので」
なんか、怪しいな。
「本当ですか?」
「えぇ、本当です。あなたは今日来たばかりの転入生です。注目されていますから」
ジッと目を見ながら質問すると、灼網会長もジッと見ながら答えた。
目が泳がなかったということは、本当なんだろうな。
「あっ、一つ提案いいですか?」
「なんでしょうか?」
「部活に入ってくれませんか?」
「えっ?」
「いえ、集まる部員の条件が少し厳しくて。会長なら、その条件も満たしていますし、入ってみませんか?」
「ちなみにその条件というのは?」
「美少女であることです」
「……っ!?」
会長は顔を真っ赤に染める。
どうやら、言われ慣れていないようだな。
「会長は紛れもなく美少女ですよ」
「〜〜〜!!」
身悶えている。
なんだろう。こういう感じで、いじめるの楽しいな。誰も傷つかないし。
「会長は本当に綺麗ですよね。髪の一本一本、手入れが行き届いていそうです。その髪がとても整った会長の顔立ちにピッタリです。それに声も心癒されるように穏やかだが、心に響く声色ですし」
「や、やめ」
「どうです? 会長。完全に条件を満たしているどころか、大きく上回っているので」
「〜〜〜!」
また声にならない声を出している。しかも、今回はどういうわけか椅子から立ち上がり近づいてきて、ぺちぺちと肩を叩かれる。全然痛くない。
「ね、ねぇ、兄さん! あたしは?」
「入りたいなら、別に入っていいんじゃないの?」
「ということは、あたしが美少女ということ!?」
「世間一般にはそうじゃないのか。俺はお前のことを知っているから、美少女というよりもヤベェ奴という認識の方が強いけど」
「ヒドい!」
「会長、説明は以上ですか?」
「え、えぇ」
会長は少し俺から距離を取りながら、答える。
「そうですか。ここにあるサンドウィッチとかは食べていいですか?」
「どうぞ。そのために買ってきましたので」
「助かります」
説明が一瞬で終わったので、今からは食事タイムだ。
近くにあったサンドウィッチを加える。
シャキッといい音をレタスが奏でる。それと同時にハムと塩で味付けされた卵も一緒に食べる。
シンプルなサンドウィッチだ。だけど、思ったよりも小さかったので、二口で食べ終わってしまった。
口の中をリセットするために美味い紅茶を一口飲む。
やっぱり美味いな。
カップを皿に置く。
さて、次は何にしようかな。近いしこれでいいか。
サンドウィッチの次に近くにあったホットドックを手に取った。そして、食べようとしたところで、手が止まってしまった。
紅茶は確かに皿の上に置いた。だけど今、何故か皿しか残っていない。カップの行き先はすぐに見つかった。
藍華だ。
藍華はどういうわけか俺の紅茶を飲もうとしている。
なら、取り返すしかないよなぁ。
藍華から、紅茶を取り返す。すると、その拍子で紅茶が藍華に向けて溢れてしまう。そして、かかってしまった。胸元に。
「あ、藍華っ! 大丈夫か!? 悪い俺のせいで。会長、バスタオルとかないですか!」
「はい、今すぐに!」
会長はバスタオルを取りに行ってくれるようだ。
「もう、兄さんったら」
藍華は濡れた箇所に触れる。
「濡らすのは家だけでお願い」
頬を赤らめながらチラチラと、こちらを見ている。
「あぁ、会長。俺が取りに行きますから場所を教えてください」
「えっ? えぇ」
会長はどうしようかとアワアワしている。まぁ、でも、俺がゴリ押したので、会長は素直に教えてくれた。
「ありがとうございます」
一応、お礼を言い、教えられた場所に向かう。
「バスタオル。バスタオルと。あっ、これか」
部屋を少し奥に進むと、真っ白でふわふわなバスタオルが何枚か置かれていた。
面倒なので何枚かのバスタオル全て取ると、まだ奥に暗闇が広がっているのに気づいてしまう。
まだあんのか。広すぎだろ。この部屋。
でも、今行っても意味がないので、二人の元へ戻る。
「はぁ〜」
藍華の方を見て、思わずため息が漏れてしまう。
「なんで、こんなところで脱いでんだ」
下着姿になっていた藍華にバスタオルを一枚着せる。
「染みついちゃうから」
「それはそうだけど、誰が入ってくるかもわからない、こんな場所で脱ぐか普通。痴女なのか?」
「あたしは兄さんに対しては、いつもお股ユルユルだよ」
「黙れ」
残ったバスタオルを投げつけた。それと同時にチャイムが聞こえる。
「えっ? マジで?」
「もう、そんな時間なんですね。わたくしが藍華さんと一緒にいますので、放課後、生徒会室にいらしてくださいね」
「えっ? 会長は出なくてもいいんですか?」
「生徒会権限で公休になります」
「えっ? 大した仕事をしないのにですか?」
「まぁ、そうですね。これは教師と生徒会役員しか知らない特典なので、広めないでくださいね。それと、裕翔君はまだ正式な役員ではありませんから、今日は公休取れませんよ」
「わかりました。藍華を任せます」
「はい、任されました」
会長に藍華を任して、俺は教室へ向かった。
♦︎
生徒会室に残された灼網雑代と改叢藍華。
「藍華さん。あなた攻めすぎでは?」
「そういう、あなたも漏らしすぎでは?」
お互いに笑う。共にどこか達観した笑いだった。
「今度こそ救ってみる。だから、邪魔しないで」
「邪魔なのはあなたの方ですよ。わたくし一人で救ってみせますから」
「ハッ。あなたが一人でなんて笑わせないで。化物」
「確かにわたくしは化物ですけど、それはあなたもでは?」
「あなたよりは人の心を残しているでしょ」
「どうだか」
雑代と藍華は睨み合う。仇を見るかのような眼差しで。
「それで、藍華さん。【コア】についての調査はどうなっているのですか?」
「そんなの簡単に進むわけないじゃない。長年探し続けたんだから」
「そうですか。さて、この話は終わりにしましょう。藍華さん。その服、洗濯しますね」
「ええ、お願い。あたしは別の用事があるから」
そう言って、藍華はどこからともなく取り出した、暗い青色のフード付きマントを着る。そして、その部屋から出て行った。




