第6話:説明前に
部屋に電気がついた。
随分、時間かかったな。まぁ、使い続けていたら、そうなるか。
先ほどまで電気がついてなかったのは一応、納得はできた。
「お待たせしました」
そう言って、灼網会長が戻ってきた。
手には茶色いトレーが二つ。上にはサンドイッチやホットドックなどの軽食と、コーヒーカップに入っている紅茶。
「どちらか持ちますよ」
「ありがとうございます。でしたら、こちらをよろしくお願いします」
受け取ったのは軽食が乗っているトレーの方。つまり、重い方だ。
まぁ、当然ちゃ、当然だけどな。でも、案外軽いな。
「こちらに置いてください」
俺が座るように促された椅子の前にある机だ。言われた通り、そこに置く。
このあと、どうすればいいかと思ったが、会長が座ったので、その向かいの席に座る。
「それにしても、軽食が本当にいっぱいありますね。これはどうしたんですか?」
「朝買ってきました」
「ん? こんなにも?」
「はい。あなたを昼休みに連行するのは決まっていましたからね」
「やっぱり、生徒会長にもなったら、その辺の情報は早いんですね」
「まぁ、生徒のことを把握するのも生徒会の役目ですから」
「えっ……?」
「ですが、全生徒は厳しいので、目立つ生徒だけですよ。いい意味でも悪い意味でも」
目立つ生徒か……。俺が覚えられているのは多分、転入生だからだろうな。転入生ってだけで、注目の的だし。
「それじゃあ、紅茶が冷めないうちにいただいてもよろしいですか?」
「はい。どうぞ、召し上がれ」
許可を得たので、早速食べようとしたが、やめた。
先に食べるよりも紅茶を先に飲んだ方がいいだろうな。
カップを手に取る。中は透き通った赤みの液体だ。
普通の紅茶と代わりはない。
とりあえず匂いを嗅いでみる。
あれ? スッゴイいい匂い。紅茶って、こんな香りを出せるんだな。
一口飲んでみる。
飲みやすい。でも、香りが鼻をスッと通る。後味もスッキリしていて、美味しい。
「この茶葉って高いですか?」
「ん〜、どうでしょう」
「どうでしょうとは?」
「使っている紅茶は自家製なんですよ」
「ファッ!?」
ま、マジで? 自家製でこんな美味しくできんの? 何か淹れ方に工夫があるのかな?
「別段特別に淹れ方にはしていませんよ」
「心を読まれた!?」
「生徒会長ですから」
ウインクしながら、可愛く言う。
「生徒会長スゲェェェェェェ……って、なるか!」
「ダメでしたか」
「生徒会長だからって、人の心を読めるわけないじゃないですか!」
「ですが、人心を掌握する術はありますよ。そうしないと選挙通りませんから」
「なんか、恐ろしいこと言っていますけど、灼網会長って、選挙で決まったわけじゃないでしょ」
「はい。先ほども言った通り、この学校の生徒会は成績優秀者しか入れませんからね。よく覚えていましたね」
「帰っていいですか?」
「ま、待ってください! まだ生徒会の話全然できてませんよ」
「入らないので、気にしないでください」
「強制的に入ってもらいますよ」
「拒否権が……欲しいです」
「なら、成績を下げることですね」
「グッ! やっぱり、それしか選択肢はないのか!」
「はい。当然ですが。ちなみにあなたが生徒会に入らないと、明日から生徒会はわたくしと藍華さんだけですよ」
「…………はい?」
聞き間違いかもしれないので、頭を落ち着かせるために一旦、紅茶を置く。
「明日から生徒会がどうなると?」
「わたくしと藍華さんだけになりますよ」
聞き間違えじゃなかった……。
「俺が知っている限りですと、アイツは六十点くらいのはずですよ?」
「そうなのですか?」
「それで、生徒会に入れるのは平均が九十点以上の成績優秀者だけと……。つまり、藍華は平均を九十点以上取ったということで、よろしいのですか?」
「はい」
よかった。まぁ、代わりに会長と藍華を二人っきりにするわけにはいかないので、成績落とせないけど。
それに藍華が落ちて、生徒会をやめることになったら、生徒会は俺と会長だけになる。さすがにそこまで行くと、アイツがどんな行動するかわからない。
クソッ! 結局、退路を塞がれただけじゃないか!
「ちなみに藍華さんと裕翔君のテストは全く同じです。そして、驚くべきことに全ての教科で、あなたと同じ点数で、同じ間違いをしていました」
「…………はっ?」
「仲良しなんですね」
灼網会長が優しく微笑む。
「仲良しって問題なの? 怖いんだけど。えっ? そんな偶然ってある?」
「兄さんへの愛が為せる技だよ」
扉を開けて、藍華が堂々と入ってくる。
やっぱり、鍵が閉められたのは幻聴だったんだ。まぁ、そりゃあそうだよな。会長が俺を閉じ込めるメリットなんてないし。なんで帰ってないのか、聞きたいけど、ついでに一応紹介しておくか。
「会長。コイツが俺の妹の」
紹介しようとすると、会長が慌てて椅子から立ち上がる。
「どうして?」
「ん?」
会長がこちらに近寄ってくる藍華を、あり得ないものでも見るかのような目で見ていた。
「どうしてって、簡単な話。あんた如きが、あたしに勝てるわけないじゃない」
「ですが、アレは!」
「アイツの最高傑作でしょ」
「っ!?」
何言ってんだ、こいつら。何を伝えたいのか全くわからん。
「あのー、全くわからない会話を目の前で繰り広げるのやめてもらえる?」
「そ、そうですね」
「ごめんなさい」
なんで、二人して悲しそうな表情を浮かべているんだ? なんか、俺が悪いみたいじゃないか。
「それにしても、二人は知り合いだったんだな」
「うん。偶然、知り合ってね」
「同じゲームをしていたんですよ」
「あー、なるほどね。さっきの会話もそれ関係か」
「う、うん! そうだよ! ねぇ、雑代」
「はい。藍華さんと、よく一緒に遊んでいるんです」
「そのゲーム、俺が参加しても」
「ダメ!」「ダメです!」
二人同時に即効拒否されたんだけど。まぁでも、どんなゲームかわからないし、変に参加するよりはいいか。
今はそれよりもだな。
「藍華。なんで帰ってない?」
「なんか、ある気がしたから」
「大丈夫。何もなかっ」
その瞬間、耳を咥えられたことを思い出した。だが、それを藍華に言うわけにはいかない。
「……たから」
「何? 今の間?」
藍華にジト目で見られる。
助けを求めるように灼網会長に目を向けた。彼女はなぜか微笑んだままだ。
えっ? 助けて。
「ただ、裕翔君の耳を舐めただけですよ」
「「はっ?」」
俺と藍華は会長の言葉に同じ反応を示してしまう。まぁ、確実に意味が違うだろうな。
「っ!?」
な、なんか、殺気立ってるんだけど? しかも、会長はどういうわけか嬉しそうに少し口角を上げている。
……あっ、そういえば会長って、ドMだったな。
「ふっふっふっふっ」
藍華が不気味な笑いを放ちながら、近くにあった箒を手に持つ。
片付けておけよな。
少し呆れながらも、このまま放っておくわけにはいかないので、椅子から立ち上がり、会長を背後にして両手を広げる。
「どいて兄さん! そいつ殺せない!」
「いや、殺そうとすんなし」
「なら、どうすればいいの?」
「何もしないでいい」
「それだったら、あたしの怒りが収まらない!」
「藍華。やめておけ。この人はドMだ」
「ちょっ!」
会長が止めようとしてくるが、関係ない。
「お前が何かしても、この人を喜ばせるだけだ」
「た、確かに」
藍華は少し引き気味だ。
「そうだな、今日一緒に帰ってやる。これで手を打たないか?」
「喜んで!」
俺の提案に乗ってくれた藍華は箒を元の場所に戻す。
こういうところはマメだよな。
「藍華、ついでだし、生徒会についての話を聞いていかないか? お前も明日から生徒会の一員なんだろう?」
「兄さんも一緒に聞くの?」
「ああ」
「じゃあ、一緒に聞く!」
藍華は本当に嬉しそうだ。
「会長、これでいいですよね?」
背中にいる会長に振り返りながら、聞く。
「はーい」
見事に不貞腐れていた。




