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第2話:再会

「うぅー」


「お疲れだな」


 唸っていると半笑いで江口が話しかけてきた。その半笑いが妙にイラっとする。


「かいむ」

「死ね」


「…………ヒドくねぇか?」


「今、話しかけんな」


「イライラしてるな。生理か?」


「残念ながら、俺は男だ。それと、簡単にそんなこと言うなよ」


 一応、注意したが、本人は不思議そうに首をひねってる。


 その首をさらにひねってやろうか。まぁ、置いといて。


「デリカシーないと嫌われるぞ」


「安心しろ。既に嫌われている」


「南〜無」


 手を合わせて、拝む。


「勝手に殺すな。おいやめろ! かわいそうな子を見る目を向けてくるな!」


 まぁ、実際にかわいそうだから仕方ないけど。絶対に嫌われるより、好かれる方がいいのに。……と言いつつも、あまり絡まれるとウザいだけだけど。ソースは俺な。実際に積極的に話しかけたくはない。それにウザ絡みされるとイラっとする。さらに好きなものをディスられたら、キレる。さすがに。って、俺は誰に言い訳をしているんだろうな。


「あっ、そういえば改叢はバイトしているか?」


「いいや、今はしていない。探さないといけないけどな」


「ならさ、部活に興味ねぇか?」


「モノによる」


「文化部なんだけど……」


「活動は?」


「日本の文化の良さを研究する」


「人数は?」


「今のところはオレだけ」


「なら、パス」


「おい!」


 男二人きりの部活とか、どれくらい寂しいんだ。絶対いや。


「美少女がいるなら、いいけどな」


「大丈夫いるから」


「はっ? どこに?」


 さっきの言葉から、俺と江口しかいないと思ったんだけどな。


「今から改叢が誘う」


「えっ? 無理だけど?」


「大丈夫大丈夫。お前ならできる」


「どこからその自信が来るんだよ!」


「お前はそこそこ顔がイケるからな」


「お世辞を言うな」


「お世辞じゃないって。絶対、お前のことが好きなやついるって」


「うっ……」


 面倒くさい奴のことを思い出した。アイツの好きは本当に異性としての好きなのか? いや、あんな好き好き言ってきてんのに、異性としての好きじゃなかったら、俺は何も信じられなくなる。でも、アイツだしな……。


「どうした? そんな疲れた顔をして」


「いや、ある奴のことを思い出してな」


「はぁ? この裏切り者!」


 裏切り者か。そりゃあそうなるよな。


「じゃあな」


「うそうそ。冗談冗談。だから、頼む! この通りだ。部員集め手伝ってくれ!」


「嫌と言ったらどうする?」


「そうか……」


 江口は妙に悲しい顔をする。


 ヤベェよ。申し訳ねぇ。


「なら、改叢」


「な、なんだ?」


「一つ聞く。お前はただの溜まり場の部活に入りたくないのか? もしかしたら、集めた中に人間以外がいるかもしれないぞ」

「よし、乗った」


「そうこなくっちゃ」


 江口と握手する。少しヌメッとしていたが、気にしない。


 ザザッ!


「うっ!」


「どうした改叢? 急に額を抑えて苦しそうな表情をして」


 ザザザッ!


 濃霧さんを見た時と同じようにノイズが脳内から聞こえてくる。


 そして、モザイクがかった景色が映し出される。


 俺が誰かと一緒に遊んでいる。しかし、その誰かはわからない。すると、今まで誰かと二人でそこにはいたが、他のメンバーもたくさん集まってくる。その中で俺は楽しそうだった。


「またかよ」


「本当に大丈夫か?」


「あ、あぁ。少し……寝不足でな」


 俺の言い訳を聞いた江口は真剣な眼差しでジッと見てくる。


「なんだよ。俺は男にジッと見られて喜ぶ趣味はないぞ」


「そりゃあそうだろ。そんな趣味があったら、お前に近づかないからな」


「安心しろ。たとえ、そんな趣味があったとしても、お前にはなにも感じないわ」


「だろうな。オレもそんな趣味あったら、自分には何も感じないわな。まあ、当然すぎることだ」


「そろそろ授業が始まりそうだな」


 時計を見ると、実際にそうだったので、江口に伝えた。


「そうか。でも、無理はするなよ」


「大丈夫だって。江口って、実は心配性なんだな」


「そうか? 誰だって、そんな血の気の引いた顔されたら、心配すると思うぞ」


「そんな顔していたのか?」


 俺の言葉に江口はコクリと頷いた。


「今は大分とマシになっているけどな。それでもやっぱり、顔色悪いな」


 マジか。自分では気づかないものなんだな。

 それにしても、血の気が引いているということは、たしか、何かに怯えているか、貧血かのはずだけど。まあ、二つは一例に過ぎないんだけどな。


「なら、保健室で少し寝ている」


 ん? どうして江口は目を丸くなんかしてんだ? そんなに驚くこと言ったか? 俺は。もしかすると、正直じゃないと思われていたのかもな。それだと、納得できる。


「わかった。先生に伝えとく」


「行くまでに遭遇したらいいのだけど、次の先生の顔も名前も知らないからな」


「転入してきた初日だし、当然だろ」


「できる限り、早く覚えたいのだけどな」


「その気持ちわからなくもないが、無理は禁物だ」


「わかってるって。だから、こうして江口の言う通り、保健室に行くんだろ」


 心配性だな。まるで前から俺のことを知っているみたいだ。旧友みたいな絡み方してくるな。まあ、こんな見た目のインパクトが強いやつに一回でも話したら、忘れられないから、気のせいだろうけど。


 教室を出ると、そろそろ次の授業が始まるので、多くの人が教室へ入って行っているのが見える。それに逆らうように教室を出ていると、少し特異に感じて、嬉しくなってきた。だが、それを表情に出すわけにもいかないので、表情に出さないようにする。



 少し歩いていると、チャイムが鳴る。そのせいで人が、ほとんどいなくなった。


 や、ヤバい。どうしよう。保健室の場所がわからん。


「ねえ」


 背後から声が聞こえてきたので、振り返る。そこには一人の美少女がいた。


 腰まで届くほどの長い、バニラのような薄い黄色の髪を持っていて、藤の花のようなキレイな薄紫の瞳がある。目つきは少し悪い気がするが、悪意は感じない。


 美少女はこちらをなぜかマジマジと見てきて、なんか怖い。


「俺の顔に何か付いているか?」


「ああ、そう。わからないか。でも、仕方ないよね。あなたにとっては、かなり久々に会ったのだから」


「久々?」


 記憶を思い返してみるが、全く心当たりがない。


 でも、どっかで見たことあるんだよな。もしかして、声優か? いや、そんなことはない。


「えっ? それすらわからない? 嘘だッ!」


 俺は幻覚などを見てしまう、とある病気にかかっているのか?


「わからないなら、仕方ない」


 彼女はそう言うと、少し前に流れてきた髪を後ろに戻す。


「改めて、久しぶりね。あなたは改叢裕翔よね?」


 なんで、こいつ俺の名前を知っているんだ? 怖いんだけど。


「違います」


「どえぇ!?」


「なんて声、出してやがる」


「わからない! わたしだよ! 能登(のと)沙由香(さゆか)よ!」


「能登……沙由香……?」


 聞いた名前を呟いた瞬間に、頭に鋭い痛みが走ったかと思うと、彼女との記憶を思い出した。しかし、どうやら全てではないらしく、どこか欠落がある。


 でも、どうして俺は沙由香のことを忘れていたんだ? 幼馴染なのに……。まるで、彼女に俺を関わらせないようにしているみたいだ。


「はは。……なんてな。ただのド忘れに決まっている」


「どうしたの?」


「いんや。どうもしてないぞ。白湯(さゆ)


「む。その呼び方は完全に裕翔だね」


 沙由香は少し不機嫌そうに言う。


「いかにも、裕翔だが」


「なら、どうしてさっきは知らんぷりしていたの?」


「ヤバイ人だと思ったから」


「えっ? わたしって、そんなに変わっている」


「あんまり。ただ、綺麗になったなと」


「なっ!?」


 沙由香は顔を茹でダコのように真っ赤にしている。いや、梅干しと言った方が良さそうか。


 それにしても、コイツの反応は昔から面白いな。こんなにわかりやすく、反応するか。普通は。


「は、恥ずかしがってなんかないんだから!」


「バレバレの嘘をつくなよ」


 あまりにもわかりやすすぎて、頭を抱えたくなる。



「……さん!」


「ん?」


 なんか、今、知っている声が聞こえてきた気がするんだけど。


 次の瞬間、腰に凄まじい衝撃が襲ってきた。


「ぐふっ!」


 案の定、潰れたような声が出てしまう。


「捕まえた!」


 押さえつけられた。


 嫌な気がして、背後見る。肩のあたりに切りそろえた黒髪を持っていて、ラピスラズリのような藍色の丸々とした瞳を輝かせている少女がいた。


 服装はこの学校の制服ではない。紺色の上着に白のワイシャツ。この学校はリボンだが、赤いネクタイをしている。


 案の定だ。


藍華(あいか)! どうしてお前がここにいる!」


「だって、兄さんに会いたかったから!」


「知るか!」


 言いながらも、藍華は離れようとしない。


「どけ!」


「いや! だって、兄さん成分を補充中だもん!」


「お前な……」


「二人とも。今、授業中だから……」


 沙由香は困ったように笑いながら、言ってくれた。


「そ、そうだよな。わる」

「黙れ。(めす)犬」


 藍華を押しのけて、頭を叩く。もちろん、俺の手を挟みながらだが。


「ど、どうして……?」


 藍華は本気でわからないという表情で言う。最低とわかっていながらも、軽蔑するしかない。


「どうして、そんなに冷たい目をするの?」


「自分で考えろ。それくらいわかるだろ」


「い、いいよ。裕翔」


「いや、よくない。こればかりは見逃せない」


 藍華は半泣きになっている。だが、そんなの知らん。しかし、藍華はおもむろに立ち上がった。そして、沙由香をまっすぐ見据えている。


「ごめんなさい」


 頭を下げた。


「それでいいんだ」


 藍華の頭を優しく叩く。


「えへへ……」


 藍華は嬉しそうに笑う。まあ、でもいいか。


「そういえば、沙由香」


「どうしたの?」


「保健室どこかわかるか?」


「ん? わかるけど、もしかして体調悪いの?」


「えっ? もしかして、兄さんも藍華成分が足りなか……あう」


 バカなことを言い出した、藍華に軽くチョップをかます。


「少しおかしな頭痛がな」


「なるほど。偏頭痛(へんずつう)ならぬ変頭痛(へんずつう)ということ?」


「まあ、そんなところだ」


「一緒に行ったほうがいい?」


「いや、場所さえ教えてくればいい」


「わかったよ」


 そう言って、沙由香はポケットから、地図を取り出す。


 そして、場所を教えてもらった。

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