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 夢中で鈴を鳴らして、応えてくれと叫んでからは、本当に一瞬の出来事だったと思う。

 会いたかった人が古い社から姿を現した。

 嬉しくて、悲しくて、どうしていいかわからないまま、どうして今まで会いに来てくれなかったのかという想いが暴れて涙が零れた。


「もうどこにも行かないで」


 そんな言葉が、気づいたら口をついていた。

 置いていったのは、彼を独りにしたのは、私なのに。

 言わなければ、彼がどこかに行ってしまいそうで怖かった。

 少しだけ強くなった彼の力に、安堵の息が漏れる。

 

「どうやら……」

「え?」

「どうやら、俺はもう一度、お前を愛せるようだ」


 灰色の瞳に、私が映る。

 それだけで無性に嬉しくて、欠けていたピースがピタリとハマるような感覚にまた涙がこみ上げてきた。


「どうする?」


 そう問いながら、視線を私から外す彼。

 スッと離された腕。

 遠ざかっていく温もり。


「――っ!」


 喉が張り付いて、声が出ない。

 涙がまたボロボロと落ちる。

 残して逝く悲しみを思い出す。

 置いて行かれるという不安が、今までにないくらい心をズタズタに切り裂いていく。


「――やっ!」


 必死に声を上げ、彼の胸に飛び込んだ。

 何か言いたかった。

 けれど、どんな言葉でも、この想いを告げるには足りなくて、代わりにギュウギュウと彼の背に回した腕に力を込める。


「……流石にそれ以上されると苦しい」


 困ったような、でも、楽しそうな声が頭上からした。

 顔を上げれば、昔と変わらない苦笑気味の彼の笑顔があった。

 その瞬間、ああ、私はまたこの人を愛していいのだと許された気がして、安堵と喜びと気恥ずかしさとで、心がまた違う熱を持っていく。

 くっと彼のゴツゴツとした指が、私の顎を上へとあげる。

 そのまま静かに交わされるくちづけ。

 唇が離れた時、私達は同時に口を開いていた。


 愛している


 それぞれの声で紡がれた同じ言葉。

 再び交わされるくちづけ。


 人と神。

 時の流れも、住む世界も、理も違う。

 けれど、それすらも乗り越えて、彼女と彼は共にあることを選んだ。

 二人が歩むその未来みちの行末。

 それは、運命を操る神ですら知らない。

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