第31話 スポンサー以外のクレームは一切受け付けません!
永遠のおごりで坂の上にあるちょっとだけ高級そうなハンバーガー屋にやってきた刹那と那由多。
いつもは刹那をエイプのタンデム席に乗せて移動する永遠だが、那由多を気遣って刹那用に自転車を貸してもらい、自分はバイクを押して歩いた。
結果、電動サポート付き自転車の那由多以外の二人は満身創痍だ。
「のどカラカラー! 永遠ー、ドリンクLにしていい?」
「あぁ、流石に俺もそうするわ」
「私は普通で」
「コーラLで。えぇ? そんなに高いの? 女が買えるわよ!」
「いや、買えねーから。アクセルのセリフ言いたいだけだろソレ」
「やめてよ、恥ずかしい」
三人で結構な量を(主に刹那と永遠が)頼んだので番号札を持たされてテーブル席で待つことに。二階へと移動し席を決める前に永遠はそれとなく周囲を見渡す。
少し離れた店舗に来たため店内に同じ学園の生徒の姿はない。永遠達以外で制服を着ているのは中学生っぽい女の子が一人だけ。他は世間話に花を咲かしている主婦達やカップル、コーヒー一杯で粘っているサラリーマンなどがほとんど。しかし一人、いかにもなチンピラ風の男が気になったので、テーブルで二つ分隔てた席を選んだ。
すぐに那由多が注文したバーガーセットがテーブルに運ばれ、二つ渡されていた番号札の内一つを女性店員が持って帰ったが、途中でその柄の悪い男が女性を呼び止めてなにやら揉め始めた。
聞き耳を立てていると、どうやら自分も待たされているのに後から来た永遠たちのテーブルに先に運ばれてきたことが気にくわないようだった。
「すぐにお持ち致しますので……」とマニュアル通りの対応をしていた店員を怒鳴りつけながらタバコを取り出して火を付ける。女性がおろおろしていると、店内モニターで異常を確認した店長がやって来て「店内は喫煙なので喫煙場所に移動するか火を消してください」と丁重に伝えたが、待たせるのが悪いなどと大声で謎理論を捲し立てる。
「しかし他のお客様の迷惑に……」と言う店長の目の前で咥えタバコのまま男が立ち上がり睨みを利かす。
店内では食事を終えていたカップルが早々に席を立ち店を後にする。そのカップルにも男は怒声を浴びせた。こうなってくると永遠の心配事は今にも立ち上がって制裁と言う名のマーシャルアーツを披露してしまいそうな刹那だ。
刹那のそれは幼い頃から護身の為にと彼女の父親が愛娘に仕込んできた格闘術。しかし今回のようにいざ目の前で現在進行形で行われている悪事に出くわすと、それを見過ごすことの出来ない性格の刹那が首を突っ込むのだ。その結果毎度ゝやり過ぎてしまう。
その度、仲の良い警察署員にもみ消してもらうといったことが中学卒業まで続き、高校入学の際見かねた父親からエアーソフトガンを買って貰うという交換条件でマーシャルアーツを封印する約束をさせられていた。
それ以降、表だって問題は起こしていないが、果たしてその我慢もいつまで続くのかわからない。
立ち上がりかけた刹那を、永遠が抱きつく様にして抑える。
「ほっとけって!」
「でもっ!」猛然と抗議する刹那。
「バカっ! お前が先に手ぇ出してどーすんだよ!」小声で正論を囁く永遠。
睨み合う二人の距離を歯痒い気持ちで見守る那由多はほんの少しだけ胸が締め付けられていた。
「わかったって。手ぇ出さないから、いい加減離してよ。スケベ」と小声で静かに言って永遠の手を解くと、座りかけたその姿勢のまま中腰でブレザーの裾を払い上げ腰の自家製ホルスターに納められたスモルトセツナスペシャルを抜いた。
「動かないでよね、弾が外れるから」刹那が小さく呟くと、ドロウと同時にスイッチが押されたレーザーサイトのドットがチンピラの咥えているタバコの根元を照らす。刹那はその赤い点を確認すると腰撃ちのままトリガーを引いた。
バシュ! 店内の喧噪に紛れる小さな発射音。
一番近い席にいた中学生の女子がちらりとこちらを見たが、既に刹那はスモルトをホルスターに仕舞い終えていた。
「手は出してないわよ」
「いや、お前今のって……」完成したスモルトの事を秘密にされていた永遠はとっさの対応が遅れ、刹那の不意撃ちを許してしまった。しかしもし知っていたとしても間に合わなかっただろう。それくらい鮮やかな早撃ちだった。
回転しながら一直線に飛んでいった黒く長いプラスチック弾がタバコの先端にヒットし、その火種が店長の胸倉を掴んでいる男の手の上に落ちた。
「アチッ、いッ!」と声を出した男が店長を解放し、その勢いで尻餅をついた店長は慌てて階下のバックヤードに駆け込んで行き、レジ下に隠されている非常ボタンを何度も押した。
(実は店長が掴まれているのをモニターで確認したバイトの女の子が既に押していたのだが店長は知らない)
ばつが悪そうに周囲を見回すチンピラの耳に刹那の高い笑い声が届く。
「アハハ! いい気味よっ!」
「このガキっ! 何笑ってやがる!」
刹那の嘲笑に激高したチンピラが一目散にこちらに向かってきた。




