第29話 銃職人顛末記!
——二週間後の放課後、空き教室。永遠が有田莉愛の自宅に呼び出されている頃。
模型部とゲーム愛好会とラジオ研究会が共同で使用している教室で刹那がローリーとラジ研部長の宮土飛鳥から、仕上がったばかりのスモルトの説明を受けていた。
フレームはスミス&ウェッソンM19、バレルはコルトパイソン、二つのメーカーの回転式拳銃を組み合わせことで粘るような動作のパイソン機関部のネガが解消され、精度の良いパイソンバレルが活きてくる。このようなコンセプトでカスタマイズされたのがスモルト。と、但しこれは実銃でのお話。
エアーソフトガンの刹那スペシャルでは、パイソンバレルのアンダーリブ部分にレーザーユニットと電池を組み込み、グリップパネルに設けてあるスイッチまでの配線はフレーム内部に埋め込まれ、見えない様に工夫されている。インナーバレルは空気の対流により発射される弾を飛距離よりも命中率を重視した回転をかける効果を狙ったサイクロンバレル。
「電池サイズとレーザーモジュールのサイズの所為でどうしても6インチのままじゃ厳しかったんだよ」6.5インチに延長されたバレル長にやや不満そうな顔の刹那にラジ研メンバーが伝える。
刹那は黙ったまま後ろ手にファストドロウ動作を色々と試している。幾通りかのドロウを試す内、通常のドロウではマズルの移動距離が長く感じた刹那は、盗賊が活躍する古いアニメで髭の相棒が行う抜き撃ちのように手首を返すリバースドロウへと辿り着いた。ブレザーの裾を払う動作と銃を抜く動作が繋がり、ウエストの細さも貢献して数回試す内にバレル長も気にならなくなったようだ。
「ま、愛しのハリー警部とお揃いのバレル長だし、いっか」と納得した様子。
グリップは琥珀をイメージしオレンジ色に染色されたクリアレジン製。そのシルエットは古いドラマであぶなっかしい刑事が愛用するM586に使用され一躍有名になったデイビス社製のラバーグリップの形を模倣しつつも、薬指から小指にかけては刹那の手に合わせて絞り込まれたオリジナルデザイン。親指の当たる箇所にはレーザーサイトのスイッチが埋め込まれている。
そして、デイビス社のグリップを倣うことによって不要になるのがグリップセンタービスだ。結果、ガスタンクのネジ受け山を削り取ってグリップを少しでも薄くすることができた。
グリップ底には刹那の希望でバランスウェイトの役割も兼ねた金属板(精肉ハンマーから切り出した物)が貼付けられている。これにはグリップの資料集めをしてくれたゲーム愛好会の面々からデザイン的にダサ過ぎると猛反対を受けたが刹那が譲らなかった。
「ここはどうしても完全に気泡が抜け切らなくて……」とクリアレジンの仕上がりに納得のいかないローリーだったが「このくらいの方が本物の琥珀っぽくていいよ」と上機嫌の刹那に言われ、安堵する部分とクラフトマンとして妥協を許せない部分とがひしめき合い何とも言えない表情。
シリンダーをスイングアウトさせ、ポケットから出したカートを詰め込む刹那。
ティッシュペーパーの空き箱にペーパーターゲットを貼付けて5メートル程離れた場所に置き、スモルトを構えた。
「あ、忘れてた! 先に……」と鞄から丸く貫通穴が空いている長方形の箱状の機械を取り出しセットし始める。
「刹那ちゃん、何それ?」
「これはねー、BB弾の速度を測る機械でぇ、この数値と弾の重さとで……
サイクロンバレルって先にガスが少し抜けてくから初速が落ちてるかもで……」
寺西に説明しながら後ろがカーテン側になるよう三脚を立てて位置を決める。本体に空いた空洞部分に銃身を向けると手動で撃鉄を起こしてからトリガーを引くシングルアクションとトリガー操作のみで撃つダブルアクションでそれぞれ3発ずつ、計6発の初速を測ると平均値を出した。
「やっぱ大丈夫そうね」
「最初から最後までちょっと意味がわからない……」
「ローリーにもわかり易く言うとぉ、パワーが強いと18歳以下はダメなんだけど、これは大丈夫ってこと!」
シリンダーをスイングアウトして鞄から『Blade Bullets』と書かれたプラケースを出すと、オタマジャクシの様な尻尾付きの特殊弾を先込めする。今度はペーパーターゲットに照準を合わせる。
最初はフロントサイトとリアサイトを使い2発ほどシングルアクションで着弾位置を確かめる。リアサイトを調整し、着弾点が落ち着いたところでレーザーサイトのスイッチを入れ、おおまかな調整を行う。6発撃ち尽くし、またスイングアウトして排莢。
「刹那ちゃん、何その弾?」と見慣れない弾に違和感を感じたゲーサー部長の高橋幸利が尋ねる。
「これはねー……」と、刹那が語りモードに入る時の含み笑いをする。
ローリーは(あちゃー)と心の中で呟く。この顔をした時の刹那の話は長いのだ。
……結局刹那の長話は30分以上続き、その後は僅か5分程でレーザーサイトの調整を終えた。
「うん! 精度も申し分無い! みんなイ〜イ仕事してるね! けど、ローリーはタダ働きで良いとして、ホントにみんなも報酬とかいいの?」
「だったら……」とローリーが事前にみんなで話合っていた内容を刹那に耳打ちする。
「ええっ?」最初戸惑った表情をした刹那だったが、出来上がった〝スモルト・セツナ・スペシャル〟のグリップを握りしめ目を閉じる。
「……いい、よ……」俯き加減でぼそりと刹那が呟くとローリーもゲーム愛好会とラジオ研究会のみんなも小さく歓声を上げた。その声を聞いて刹那の口元も緩む。
黒板前の教壇に座って脚を組みスモルトを構えてポーズをとる刹那。
彼女の周りをみんなが囲み、辞書や教科書を使って絶妙なバランスで固定されたスマホの画面を見る。スマホ画面にはタイマーのカウントダウンが始まる。
「3・2・イチっ!」と元気いっぱいな刹那の声が教室に響いた。
カシャカシャと数回シャッター音が鳴り、最初はピースサインだけだったみんなも好きなゲームやアニメキャラの決めポーズを真似してみたりと思い思いにポーズを変えて数枚の写真を撮った。
ローリー達はカスタムガンを作っている間「完成したらみんなで記念写真を撮りたいね」と話していた。ローリーからそれを聞いた時は一瞬躊躇った刹那だったが、出来上がったスモルトからみんなの気持ちが伝わったみたいだ。
友達同士の普通、そんな感覚が少しづつ刹那に芽吹いていく。
刹那の部屋にある本棚の一角。そこに置かれているスモルト・セツナ・スペシャルの後ろにはこの時撮った写真が一緒に飾られている。刹那もみんなも最高の笑顔で。




