第20話 恋のAトゥZ
週末、隣町のとあるファーストフード店で待機する刹那・那由多・ローリーの三人。
片田舎の高校生は近隣で一番栄えているこの町くらいしか遊び場のない事が悩みの種。
唯一ミニバイクで移動が出来る永遠は今回ターゲットの先輩宅最寄りのバス停付近で待機している。
「なぁ、そもそも週末だからって必ず出掛けるもんかぁ?」永遠がヘルメットに取り付けられたインカムにリンク済みのスマホを介して刹那に話しかける。
刹那と那由多は依頼主と連携して普段のデート頻度や何日が怪しいかなどの情報を事前に入手しているが、真実を知らされていない永遠とローリーは本当にターゲットが現れるのかどうか半信半疑だ。
しかし30分も待つことなくあっけなくターゲットの先輩がバス停に現れた。
「あっ、マジ出てきた! アルファワンよりシエラワン、これより尾行に入る、オーバー」
永遠は二〜三台の車を間に挟み、先輩が乗車したバスの尾行を開始した。
永遠が駆るのはいつもと同じエイプ100だが、念の為カラーリングが変更され青一色に塗り替えられている。タンクとサイドカバーとフロントフェンダーの三点のみが純正色のアイボリーから青色に変わっただけだが、パッと見の印象は随分と違って見える。しかしその塗装はいかにもなやっつけ仕事。塗料が垂れてスジ状になっているし、何より全体的に艶が無く、まるでホームセンターで売られている安物ペンチの持ち手だ。
「さて、アルファワンが追尾に入ったわ。私たちも尾行の準備よ」
女子二人は着替えの入った紙袋を抱えてトイレへと向かった。一人手持ち無沙汰のローリーはスマホを出して何を見るでもなくぼんやりとタイムラインに流れてくる呟きを眺めていた。
「お待たせー」
しばらくしてローリーの元に現れたのは、眼鏡こそ掛けていないが地味女メイクの那由多と、地味女には不釣り合いなイケメン男子。
「え? こちらの方は……てか刹那ちゃんは?」ローリーがトイレの方向を見てみるが刹那の姿はない。
「……変態」と、イケメンに見下ろされながら罵られたローリーがハッとした顔になる。
「刹那ちゃん⁈」
地味女とイケメン刹那のカップル。この組合せはターゲットに気づかれないのが狙いの尾行チーム。
映画や食事などの施設に入ったタイミングで、ギャル那由多とローリーの『何であんなブ男が可愛い娘連れてんだ』チームに交代。こちらは悪目立ちして逆に相手に意識させるのが狙い。
一方を目立たせる事で、もう片方と遊撃手の永遠への注意を逸らさせる作戦だ。
「アルファワンよりシエラワン、ターゲットはバスで移動中。あと10分位でそちらに着く。……なぁ刹那、この暗号必要?」
「こちらシエラワン。こちらもスタンバイ完了。ノーベンバーワンと共にミッションに入る、オーバー」
「……アルファー、了解」
こんな調子で始まった尾行ミッションだが、思いの外、順調に進んだ。
ターゲットは映画館前で待ち合わせをして女の子と合流、映画の後は喫茶店で歓談。ショッピングモールでウインドーショッピングをして、現在はカラオケ中。
永遠達はまた別のファーストフード店に入りカラオケ店の入り口が見下ろせる席を陣取り、今まででわかった事をお互いに報告しあっていた。
「で、結局先輩には彼女いるってことだよな?」
「んー、どうも彼女じゃ無さそう。さっき喫茶店で盗み聞きしたんだけど、相手は合コンで知り合った女子大生みたい。あと、男の方が私のことチラチラと見てたからおそらく私とローリーはもう尾行出来ないと思う」
そう話すギャル姿の那由多はいつもより露出度の高い服を着ている。胸元を気付かれないようにチラ見していた永遠の頭に、目線に気付いた刹那の手刀が振り下ろされた。
「私メイク変えてくる」と言って着替えとメイク道具を持ってトイレに向かう那由多。
イケメンとフツ面たちは窓の外を見やった。
「あ、ヤバ! 会計してるのそうじゃない?」
「うわぁ、顔真っ赤! アレどう見てもお酒飲んでるよね。二人ともベタベタと……」
「腕にがっつり胸当たってますね」
「永遠とローリーの童貞コンビにはツラい眺めじゃないのー?」
「刹那だって処……」
ゴッ。
「お待たせー、ってどうしたの永遠くん頭押さえて?」
トイレから出てきた地味那由多とイケメン刹那で慌てて尾行に向かった。
しかし、僅か15分後。
長かった一日の終わりを告げる報告が。
「シエラワンよりタンゴワン及びリーマワンへ。ミッションフェイルド。ターゲットをロスト。……オーバー」




