第19話 探偵の王道!
九月に入り暑さも少しばかり落ち着いてきた頃。
昼休み。
永遠と刹那たちは屋上でレジャーシートと弁当を広げていた。
以前は二人だけの昼食だったが、最近は科学部の那由多や模型部の寺西も一緒に食べるようになった。
刹那は容姿だけなら完璧な美少女。
背も高くプロポーションも抜群。欠点はアクション映画厨な性格ぐらいだ。……あとは高校入学時に封印しているが、怒りに我を忘れると出てきてしまうマーシャルアーツも。
しかし見た目の完璧さと本人の無愛想さから、男子からは近寄りがたい存在として見られ、女子からは疎まれてスタートした高校生活だった。
二年生になる頃にはその性格も知れわたる所となり、遠い存在から可愛いけどちょっと残念系へと印象は変化したが、それでも親しい友人は出来なかった。
永遠はスクールディティクティブの仕事としては珍しく事件らしい事件を通して親しくなった那由他やローリーに感謝している。刹那を盗撮していたり、勝手にブロマイドを売ったりしている事への罪悪感はあるが、刹那の厨二病に付き合って本当に良かったと弁当共々噛みしめていた。
「美味しそうじゃないのっ。ローリーのママって料理上手!」
丁度、刹那がローリーの弁当箱から厚焼き玉子を奪ったタイミングで、屋上へのドアが開いた。辺りを見回した後、そろそろとこちらに歩いてくるのは永遠や刹那、那由多たちと同じクラスの女子生徒。
「……江口さんお願い、相談に乗って!」
「え? 私?」
「だって江口さんって探偵みたいなことしてるって」
「あ、うん。よ、要件を聞こうかしら?」
スクールディティクティブへの依頼は大抵の場合が男子。しかも毎度毎回永遠に相談に来ることがほとんどで、いざ正しく刹那の元に依頼主(しかも女子)がやってくるとそれはそれで調子が狂ってしまう。
だが女生徒はもじもじとしてなかなか話し始めない。永遠とローリーの方を気まずそうにちらちらと見る。
「と、男子がいるとちょっと……」
依頼主にそう言われてしまっては仕方がない。永遠とローリーは弁当箱持って教室へと移動した。
「ねぇ、でも実際に仕事の時は永遠と、あと場合によってはロ……寺西にも動いてもらうから、その時に話して欲しくないことがあったら先言っといてよね」
「うん、わかった……。その、恋愛相談なんだけど。あのね、私の彼氏がね、その、二股してるんじゃないかって思ってて。もしそうなら証拠を掴んで欲しいの」
「それって、同じ学校の人?」
「うん」
彼女が部活の先輩と付き合っていることや怪しいと思う根拠など、詳しく話を聞いていく刹那。聞けば聞くほどに浮気はほぼ確実だろうと感じ、一緒に話を聞いていた那由多も状況的に黒だと判断した。
「それもう別れちゃえばいいのに」
「うん、私も正直それが正解だとは思うんだけど。もし浮気って言っても既成事実が無いようなら許してもいいかなって。最終的に私を選んでくれるならいいかなって気持ちもあるの」
「既成事実って?」
「……他の娘とその、シちゃってたり」
「し、ってセッ……」真っ赤になり言葉を濁す刹那。俯いて目をそらしている那由多。しかし校内では地味女を演じている那由多に関してはこの仕草は勿論フェイク。
さてどうしたものかと腕を組んで首を傾げる刹那。
「これは確かに永遠やローリーには話せないわね。二人にも協力はしてもらいたい案件だけど……」
依頼主の顔色を伺う刹那。
「出来れば先輩と付き合ってるのは知られたくないんだけど。あと先輩と最後までいってることも」
「さっ、最後って!?」
「ちょっと江口さん、声大きい!」
「他の女の子と既成事実が無ければっていうんだからそうでしょ」余りにも見かねて那由多が割って入る。
「へー、宮瀬さんって案外喋るんだ」
地味女を演じている那由多は学内では無口キャラを通しているから当然の反応だ。那由多本人も言われて初めて刹那にペースを乱されている自分に気付き後悔した。
しばらく女三人で話し込んだが、刹那の頭と経験から打開案は出せず最終的に那由多が考えた案で落ち着いた。
——放課後、科学部が部室として使わせて貰っている化学実験室に集まっている面々。教室は広いが隅っこに固まっている。
みんな椅子に座っているが、刹那だけは机の上に胡座をかいて座っている。
「つまり、依頼主の友達の為にその先輩に彼女がいるかどうか調べて欲しいってことね」
「そ! で、その、どの辺まで進展してるのかも証拠が欲しいって」
「だとしたら尾行が必要になるな。ローリーや那由多も出来れば協力して欲しいとこだけど」
「私は報酬次第なら手伝ってもいいよ」
「俺は面倒なことには巻き込まれ……」
言いかけたところで、刹那が腕を組んでローリーを見下ろし無言で圧力をかける。
「……やらせていただきマス」
さてと、考え込む永遠。
(那由多は一人二役出来る。俺やローリーは学内でも陰キャ寄り、モテ男の先輩さんは気にかけていないだろうからまず大丈夫。問題はただでさえ美少女と名高い上に結局髪を染め直していない金髪刹那だ)
「なぁ、那由多ってどっちが本当の顔なんだ?」
「えぇ? どういう意味だ?」
ローリーが疑問に思うのは当然。永遠は那由多に了承を得てから人魂騒動の際の那由多の画像を見せた。
「これ……って宮瀬? めちゃカワイイじゃん!」
画像と那由多を交互に食い入るように見比べるローリーの頭に刹那が手刀を振り下ろす。
「鼻の下伸ばすな!」
「伸ばしてないって」
クスクスと笑う那由多。
「那由多もつけ上がらない!」
「別につけ上がってないわよ」
確かに那由多は可愛いけど、見た目で言うなら刹那が那由多に突っかかる必要はないと思うのだが、何故か刹那は那由多に対向意識を燃やす事が多い。永遠はそんなやりとりを不思議な気持ちで見ていた。
そして放っておくと益々話が逸れていくので永遠がもう一度、今度は少し違った質問をする。
「那由多、刹那をメイクとかで地味めに出来るか?」
「そりゃ出来るけど、要は同じ学園の生徒が刹那だってわからなくすればいいのよね?」那由多にも永遠の意図するところがすぐに伝わったようだ。
今日のところはとりあえず週末にでも対象者の先輩を尾行してみるという方針までを決めて解散した。
決行日までの放課後、刹那は那由多の家でメイクの予行演習。
永遠は思うところがあり一人バイク用品店へと向かった。