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呪いの交響劇  作者: S man
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第二章 悩み 1

いよいよ第二章になりました。


「ハァ..ハァ...」


彼女がこちらに近づいてくる、どれだけ逃げても...逃げても追い付いて来る。


「やめて!来ないで!」


少女は叫びながら必死に走った。

しかし、それもむなしく...



リュシルは勢いよく目を覚ました。

最悪な目覚めだが、時計を見ると悪くはない時間だ。


「あらリュシル、今日も早起きできたわね。最近よく早起き出来てえらいじゃない」


あれだけ寝坊癖のひどかったリュシルが、近頃見違えるほど寝坊することが無くなったのでアニーが喜ぶのは無理もない。

しかし、リュシルは全く嬉しくなさそうだ。なんせほぼ毎日悪夢にうなされて起きるのにはうんざりだ。

彼女は今日もゆっくりと着替えを済ませ顔を洗って食卓へ行くと、エステルが用意していた朝食を黙々と食べると玄関へ向かった。


「リュシル、最近顔色が悪いぞ。大丈夫なのか?」


「うーん、なんだか最近夢見が悪くて...」


眠そうな目をこすりながら返事をすると、扉を開いてあくびをしながらと外へ出て行った。


「あーあ、寝坊癖が治ってもこんなに目覚めが悪いんじゃ何も嬉しくないわ。今までこんなに連続で悪い夢を見ることなんてなかったのに...一体どうしちゃったのかしら?もしかしてあの時...」


「ようリュシル!今日もちゃんと起きれたみたいだな」


リュシルがぶつぶつしゃべっていると、ステファヌが飛び出してきて話しかけた。


「去年のお前の寝坊率ときたら、一週間に一回は必ず寝坊するレベルだったのに、見直したぜ。いや、でも寝坊しないことを褒められるんじゃなくて普通にしなきゃな。なんせ当たり前のことなんだから」


「あなたっていつも余計なことを言うわね。それに早起きできたって、これほど目覚めが悪いと逆に疲れるわ。いっつも変な夢ばかり見るの。暗闇の中から得体の何かが私のことを追いかけてきて、しかもそれは妙に聞き覚えのある声を発しているのよ。気味が悪いわ」


「ほぉ、何かに追いかけられるって、いつもの行いが悪いから怒っている人が夢の中に出てきたんじゃないのか?」


「もう!私は真剣に言ってるのに!あなたって最低!」


リュシルがぷんすか怒り出した。


「冗談だよリュシル、そんなに怒らないでくれ。でも、悪夢っていうのは自分が経験したトラウマなんかが投影されるってよく聞くぜ?リュシルは何か似たような経験とかしたことないのか?」


「別に、そんなおっかないこと今までされたことないけど...」


「うーん、じゃあ何か普段の生活で悩んでることとかあんのか?」


「....」


「あるんだろ?話してみろよ」


「いや、特にないわ。今で十分だと思ってる」


「本当かぁ?どうせ隠してるんだろ?とっとと話せよ」


ステファヌはそう言うとリュシルの頬を引っ張った。


「ちょっと!やーめーて!」


リュシルが振り払おうとしたが、ステファヌはそれを見切って彼女の手を取ると一つにまとめ、片手だけで押さえてしまった。


「ハハハ、まだまだへなちょこだな」


そう言ってケラケラ笑うと、リュシルは頬を膨らませてぷんすか怒っている。


「もう!なんて最低な奴!今に見てなさい!」


2人がじゃれあっているとあっという間に正門まで到達し、立っていた先生に挨拶をされた。


「おはようございます」


「おはよう」


リュシルとステファヌはそう言い返すと、門を通り越して行く。

後ろを見るとなぜか先生は執拗にこちらを、もはや監視しているのではないかと思うほど見てきた。


「ねぇ、あの先生なんだか妙にこっちを見て来るんだけど」


「ああ、お前はこの前のことがあったし、俺は去年大暴れした問題児だからな。これ以上面倒ごとを起こさないように学校の人間が監視することにしてるんだろう。特に2人でいる時はな」


「あー、だから以前から色んな先生が私のことを注意して見てくるようになったのね。でも、あれは私だってやりたくてやったわけじゃないのよ。あの時は...なんというか、変な夢でも見ていた感じで...」


「ごちゃごちゃ言うな。お前がどうであれ、あれほど危なっかしいことをしたんだから目をつけられて当然さ」


リュシルは納得いかなかった。あの時は自分の意志ではない何かがやったというのに、誰も信じない上に自分の評判が勝手に落ちていくからだ。


教室に着くと、自分の席に着いて荷物をそろえた。


「お...おはようリュシル」


声の聞こえる方に目をやると、そこにはとっくに支度を終えているフィリップがいた。


「あら、おはよう。もう支度が終わったの?早いわね。私もそこそこ早く来たつもりだったのに」


そういわれると彼は少し嬉しそうにしていた。しかし、彼の顔は疲れている様にも見えた。


「あなた、顔がやつれてるわよ?早起きのし過ぎで寝不足になってるんじゃないの?」


「いや、大丈夫だよ。毎日6時に起きてるけど、寝るのはいつも夜の9時だから十分さ。ただ、最近ちょっと問題があって...」


「問題?」


「最近僕の兄が喧嘩が毎日喧嘩をしていて、家庭内の雰囲気がとても悪いんだ。食事をする時も、休憩をする時も相変わらずで、いつも気分が悪いんだ」


「どうしてあなたの兄は毎日喧嘩なんてするのよ?」


「僕の兄は遺産相続のことで揉めてるんだ。少ない額じゃないし、何せ2人とも性格が全くの逆だからね。どっちも譲らずといった感じで全くと言っていいほど話が進まないんだ」


「誰の、遺産なの?」


「僕の、父親さ...一昨日...他界した」


「へぇ、それは面白いわねぇ」


「え?」


リュシルは慌てて口を塞いだ。

フィリップは驚いていたが、それ以上にリュシルは驚いている以上に怖がっていた。

リュシルの最近の悩みは、自分の中にもう一人の人格が宿っているかのようで、時々それが表に出てきて今のようなことをするのであった。


「ごめんなさい、フィリップ。ごめんなさい...」


リュシルは謝った。本当はこのことを言いたかったのだったが、いくら言ったところで誰も信じるわけがなく、悔しさと悲しさでいっぱいだった。

いつ自分がおかしくなってしまうのか、誰かを気づつけてしまうのではないか、そして...誰かと絶縁することになるかも...

こんな恐怖が彼女の心にのしかかる。


「リュシル?大丈夫?」


フィリップが頭を抱えて怯えているリュシルに声をかけた。

その言葉に目を覚まされてようやく落ち着きを取り戻すと、荷物を整理して姿勢を整え、何とか平常を保とうとした。


「君にも...何か悩みが...あるの?」


「ないわ。なーんにもないから」


リュシルはそれはフィリップに言うだけでなく、自分自身に言い聞かせるかのように口にする。

彼は首をかしげると同時にリュシルの顔を改めて見ると、何故だか新しい疑問が漠然と頭に浮かんでき始めて、それを彼女に聞こうとした途端。


「皆さん、席に着いてください。朝の会を始めますよ」


チャイムが鳴ると同時に担任の先生が教室に入って来て、皆を席に着けさせる。

おかげでフィリップはリュシルに質問するタイミングを失ってしまった。


「では皆さん、まず単刀直入に言わせていただきますが...最近掃除の出来が甘いという報告を受けています。皆様方の中にはしっかりと取り組んでいる人もいるでしょうが、それでもほとんどが...」


また長話が始まった。どうして教師というものはどいつもこいつもつまらない話を延々としていられるのだろうか?

その力と時間をもっと有意義な方に使うことができるのであろうに。


「はーあ、早く終わらないかしら。次の授業は私の大好きな料理実習があるのに」


「リュシル君、聞こえているよ。君が料理実習をやるなんて、私は心配で仕方ありませんよ。くれぐれも人を傷つけたりするようなことをしてはいけませんよ」


(ゲッ!今の聞こえてたの?あの人妙に耳がいいわね。ていうか、いくら何でも私マークされすぎじゃない?!)


今の言葉はリュシルの本音で、悩みのこととは関係なかったため自分に言い訳することもできなかった。

ひとまず笑ってごまかしつつ長い話を聞くと、ようやくそれが終わった。


「あーあ、あんなどうでもいいことを長々話し続けられるなんて、ある意味スゲーよな」


ステファヌは体操着を抱えてリュシルのところに行って話した。


「あらステファヌ、そういえばあなたは今日護身術をやるんだったわね」


「ああ、だが最近どいつもこいつも俺に歯が立たなくて、正直飽きてきたんだ。俺も料理実習をやりてーぞ」


「男子は護身術、女子は料理実習。選べないから苦手な人は大変ね。フィリップとかいろんな人に吹き飛ばされちゃうんじゃないの?」


ステファヌはいきなり話の中にフィリップが出てきたことに一瞬ムッとしたが、それは表には出さず、支度をしているフィリップに意地悪をした。


「ああ、こんなひょろひょろが護身術なんてまともにできるわけないだろ。俺ならこんな奴、片手でだって持ち上げられるぜ」


そう言うと、フィリップを本当に片手だけで持ち上げてみせた。


「こいつ、思ったより軽いな。まぁリュシルより背が低いんだし、当然か」


フィリップは身長132cmで、リュシルの134cmより2cm低い。

それに比べてステファヌは139cmでオドレは134cmであり、男子の中で彼の身長は一番低かった。

ステファヌはそれを小ばかにした上に彼との実力差をまじまじと見せつけるなど、どう考えても嫌がらせであったが、なぜか彼は全く嫌がらず、むしろ少し喜んでさえいるようだ。


「おいおい、何がおかしいんだよ。気味が悪いぜ」


ステファヌはそう言うと、彼を下ろしてさっさと更衣室に行ってしまった。

それを見ていたオドレは、自分の用具を持ってリュシルのところへ現れると、フィリップに言った。


「フィリップ、あんなに意地悪されたのにどうして喜んでるの?」


「...実は僕、今までこんなに人から仲良くされたこと...なくてね」


「あれが仲良く?いやはや、今までどんな生活を送ってたらそう感じるようになるのやら」


リュシルは少し呆れ気味だったが、フィリップは相変わらずだ。


「ねぇ、そんなことより早く行かないと。もうすぐ授業が始まっちゃうわよ」


オドレが言うと、2人は思い出したかのようにそれぞれ自分の行く先へ急いだ。


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