3-8
▽▲▽
そうして、ふたりがやってきたのが、放課後の武道館であった。
この七崎学園には、体育館とは別に、武道館というものがある。
校舎から体育館を経由して来れるこの武道館は、体育館より一回り小さく、床に畳を敷き詰めることができる為、柔道部をはじめとした運動部が放課後利用したり、授業で選択柔道した時に利用されていた。
「よし、着いた。練習の邪魔になるから、騒ぐなよ」
「今更騒がねーよ。って、今の武道館の使用部はたしか――」
「あぁ、女子剣道部だよ」
そう言いながら、一心たちは武道館の入り口をくぐる。
武道館の内では、道着を来た女子生徒たちが竹刀を振るっていた。
竹刀を振るいながら、タイミングを合わせてすり足をする――剣道の基本の練習の一つだ。
一心たちは、邪魔にならないように隅に移動し、その様子を見つめる。
「一心、あそこを見ろ」
孝弘が顎で指す先には、一心不乱に竹刀を振るう妹・朝陽の姿があった。
そこにいた妹は、普段家で見るような気が抜けた姿ではなく、真剣なサマになる姿をしていた。
「――昔、お前が剣道を辞めた一年後、朝陽ちゃんが剣道を始めただろ」
「あ、あぁ」
「あの時、ソレを知った俺は腹が立ったんだ」
「え?」
親友の意外な告白に驚く一心。
だが、驚きはそれぐらいで収まらなかった。
「それでさ、朝陽ちゃんに直で文句言いに行ったんだよ」
「は、はぁぁああ!?」
あまりの衝撃告白に、啞然とする一心。
大きく驚いた一心は、そして孝弘に詰め寄る。
「お前、なんで!?」
「――俺はさ、お前の最盛期は知らない。けれども、お前が一番苦しんでいた時期は知っている」
孝弘は、一心の方を見ずに、まっすぐ朝陽の方を見て、こう続ける。
「だから、お前が苦しくて挫折して、そのすぐ後に、お前の妹が剣道を初めて、俺はちょっとどうかと思ったのよ――お前に見せつけているように見えてさ」
「それは――」
一心は、孝弘のその言葉を聞いて言葉に詰まる。
――事実、表向きずっと彼女を応援してきた一心ではあるが、以前は内心孝弘の言ったようなことを感じていた時期があったからだ。
しかし、かつての自分のように剣道をはじめた妹に、なにも感じるなとは、土台むりな話だ。
「――正直さ、お前の事情だから安易に踏み込むのはどうかとも思った。だけど、流石に黙って見ていられないと思っちまって、意を決して会いに行ったのよ」
一心は、かたずをのんで孝弘の次の言葉に耳を傾ける。
「でさ、『お前、兄の気持ち知ってそんなことやってるのか』って聞いたのよ。そしたらなんて言ったと思う?――『お兄ちゃんは関係ない。私が楽しいから、やりたいから始めただけだよ』ってさ」




