3-6
一心は先日妹にも話した過去を、語る。
自分が、かつて剣道やっていて、病をきっかけに挫折したことを。
「だから、俺には無理なんだ」
そう締めくくった一心に対して、新宮は小首をかしげる。
「今の話のどこに無理な要素があるんですか?」
「いや、だからさ――」
「VRゴーグルの視野は、剣道の面よりかなり確保されていますし、距離感の有無については、まぁ慣れてもらうしかありませんが、実体のある物を振るっているわけじゃないので、ケガをする心配もさせる心配も剣道よりはないはずです」
そこまで一息にまくし立てて話した新宮は、まっすぐ一心の瞳を見据えてこういった。
「それはあくまでいいわけで、本心は後ろめたいからじゃない?」
その言葉に、一心は愕然とした気持ちになる。
「後ろ、めたい?」
「その親友に背を向けた自分が許せなくて、新しいことに挑戦すること自体もためらっているように見えるけれど」
「――!?」
一心は、今の今まで意識していなかった、自分の本当の感情、理由を言い当てられたことに、動揺した。
そうだ、あの一件以降、無意識に新しいことを始めるのを一心は避けてきた。
それは、剣道に対する未練でなく、親友に対する後ろめたさ。
ここで何か、新しい道を見つけてしまったら、親友を――薫を本当に裏切ってしまうのではという、どうしようもない感情だった。
そうして空いた穴を、孝弘や朝陽を手伝ったり、家事をしたりという“他人の為に働く”という行為で代用――否、罪悪感を償っていたのだ。
「俺は、そん、な」
右手で頭を抑え、気が付きたくなかった事実を受け入れる一心。
「気が付いてなかったのね」
新宮の言葉に一心は頷く。
気が付くと、食べ終わっていた定食の乗っていたトレイを持って彼女が立ち上がる。
「そんな精神状態じゃ、一緒にやるなんて無理ね」
「に、新宮?」
「【NEW WORLD】はゲーム。楽しめなければ意味がないわ」
そう言って、新宮は踵を返して一心に背を向ける。
「土曜日の件は忘れて頂戴。体験入部も来なくていいわ」
「ま、待ってくれ!」
「貴方が心から楽しめるような気分になったら、また声をかけて」
彼女はそんなことを言って、一心の元を去っていった。
そんな彼女の去っていく後ろ姿を、なすすべなく見送る一心。
「なんなんだよ、畜生」
断ることを目的にしていたはずなのに、この胸の内を埋め尽くす、もやもやとしたこの感情は何なのだろうと、一心は思った。




