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未成年の山姥

 ある夜。川下屋で飲んでいると、ガラリと扉が開いた。

 見ると、身長二メートルばかりの巨大な少女が入り口に立っていた。山姥女子高生の大子である。

「こんばんはっす、師匠」

 と言いながら私の方に向かってくる。

「あ、ああ、どうも、こんばんは」

 と、私も返事を返した。が、すぐに姿勢をただし、

「子供がこんなところに来ちゃダメよ」

 と返してやる。

「こんなところっすか……」

 大子は辺りをぎょろりと見回した。

「ただの居酒屋にしか見えないですけど」

「それが問題なのよ。お酒飲むところに未成年がなんの用よ」

「あ、師匠はそういうのお嫌いですか」

「そりゃ、まあ、ね」

 未成年の飲酒を推奨するほどアンモラルじゃない。

「なるほど、分かりました。これからは自分、外飲みはしません」

 大子が立ち上がり、私に礼をした。いちいち大声なので、店中の注目が集まる。

「いや、そういうことじゃなくて……」

 飲酒自体が問題なんだ、と言おうとしたが、大子は

「それでは、失礼します!」

 と、くるりと向きを変え、ずんずんと歩き、川下屋の中から去っていった。


「なんだったんだい、ありゃ」

 私のそばで飲んでいた、うわばみの甚六さんが言った。

「実はかくかくしかじかでにゃー」

 と、にゃんぱちが私を差し置いて顛末を説明する。

「なるほど。弟子、ねえ」

 話を聞き終わった甚六さんが、舌をにょろにょろさせながら言った。

「酒を飲まない分にはいさせてやってもよかったんじゃないかい」

「だって、あの子、明らかに普段飲んでるでしょ。そういう子を酒の席に置いとくとさ……」

「はずみで飲んでしまうかもしれませんねえ」

 こう言ったのは、甚六さんの友達で死神の卓造さんである。

「そういうこと」

 私はそう言い、ビールを傾けた。

「しかし、京子ちゃんだってガキの頃飲まなかったわけじゃないんだろう」

「私? 私は……」

 あまり覚えていない。

 覚えていないということは、つまり、全く飲まなかった、というほどガチガチに真面目だったつもりもないけれど、飲むのが当然、というほど飲酒に親しんでいたわけでもないんだろう。

 そのことを正直に話したところ、

「なるほどな、まあ普通ってわけだ」

 と、甚六さんの言葉が返ってきた。

「そうそう。普通よ」

「でもあの子は普通かにゃ?」

 にゃんぱちが言った。

「どういうことよ」

「女番長だったんにゃろう。つまり飲酒喫煙ぐらいはふっつーにしてるんじゃにゃいかにゃ」

「ま、その辺りはそう考えた方が道理にあいますねえ」

 卓造さんが言った。

「そりゃそうかもね。でも……」

 私はまたぐびりとやった。

「人の道に外れた話ならともかく、飲酒喫煙程度の話までどうこう言うほどの間柄じゃないわよ」

「でも、いいとは思ってないんでしょう」

 卓造さんが言う。

「そりゃ、未成年だからね」

「でも、深入りもしたくにゃいと」

「そういうこと」

「面倒だにゃー、あんた」

「面倒になりたくないからこうなるの」

 私はそう言って、また飲んだ。


 数日後の夕方。

 居酒屋に行くほどでもないが、ちょっと飲んだりつまんだりしたくなった私は、近所のスーパーへと足を運んだ。

 店内で酒とつまみを物色していると、見知った巨体が歩いているのが見えた。

 大子である。

 こちらから声をかける前に、向こうから、

「こんばんはっす!」

 と声をかけてきた。

「こんばんは」

 言いながら私は、彼女の買い物カゴの中を見る。

 しこたまのタバコとチューハイが積んであった。

「これ、お父さんかお母さんの?」

「自分のっす」

「あっそ」

 私はそう言って、大子のカゴをひょいと持ち上げ、中のタバコとチューハイを奪い取った。

「あれ、どうしたんすか」

「これは没収します」

「欲しいんだったら、金は自分が持ちますよ」

「そういうことじゃなくて……」

 私は少し逡巡した後、続きを言った。

「酒と煙草はやめなさい」

「へっ」

 大子はぽかんとした顔をした。

「意外っす。師匠の口からそんな先公みたいな言葉が出るなんて」

「私は未成年がお酒とタバコを飲むのには賛成してない方なの」

「なんでっすか」

 私は一瞬、言葉に窮した。

 法律だから、道徳だから、では彼女は納得しないだろう。

「体に悪いからよ」

「体に、ですか」

「酒とタバコはいいケンカの大敵よ。若い内は養生しないと」

 こういう時は相手の納得できる論理に訴えかけるに限る。

 大子はたちまち、納得した顔をして、

「分かりました! 酒とタバコは当分のあいだ控えます!」

 と晴れやかな顔をし、去っていった。

「うまく逃げたにゃ」

 にゃんぱちが言った。

「当面はね」

 私は大子から没収したチューハイ缶を棚に戻しながら言った。

「今後はもっと懐かれるぞー」

「分かってるわよ、もう」

 まあ、いい。そういうめぐりあわせなんだろう。

 私は残ったタバコ箱を見ながら思った。

 タバコはどこのコーナーに置いてあったっけ。

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