表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

ハートの種が芽吹く時 3

動きだした兄を見て弟徹はどうする?

俺の幼馴染は罪作りだ。もちろん、本人にはそんな自覚は一切ない。

何が罪なのかって言えば…俺達兄弟がその幼馴染に恋している事…だよな。絶対に。

とにかく、生まれた時から側にいた。彼女の親の仕事の都合で家で預かる事も多かった。

小さい頃は、一緒に寝たし、お風呂も一緒だったし…俺達兄弟を必死に追いかけてきていた。

彼女に対する気持ちが恋だと気がついたのはいつだろう?

俺は軽く目を瞑って思い出す。多分…小学校の頃だろう。

あいつが誰を眼で追っているのか…その目線の先に兄がいた時。その時だろう。

その時、俺が見たのは、泣きじゃくるあいつに対して、兄が涙を大事そうに拭ってやり、小さな生き物を手に乗せるように右手を

持ってその手にキスをしたところだ。

母親とたまたま出かけていて、家にいたのはあいつと兄の二人だったらしい。

その光景を見て、俺は凍りついたように動けなくなってしまった。

その光景を見ていた俺が思った事は一つだけ。俺の事を見て欲しい。俺もいることに気が付いて欲しい。

それしか思いつかなかった。



それからは俺も変わったと思う。僕と言っていたのを、兄と同じは嫌で俺に変えた。

あいつが宿題が分からないって言われてもすぐに教えてあげられるように必死になって勉強した。

私立学校とは言っても、基本的にのんびりとしている学校だから、成績もあっという間に学年で一番になった。

気が付いたら、学級役員や児童会役員になって、今に至る。

今の俺の肩書は…前生徒会長って所か。昔は徹と呼んでいた同級生も今になると会長って呼ぶ。

俺の名前は奴らには会長にすり替わっていると言うのが皮肉なんだが、気にしない。

女子の一部は菫の騎士と言っていたな。それも間違っていない。

近付き過ぎず、離れすぎず…俺の視界には必ず幼馴染の菫がいる。

秋に生まれたのに、春に妊娠したから菫と名付けたという菫の両親の感性は俺は好きだ。

俺なんて、語尾を同じにしたいってだけで、徹だ。兄は薫と言う。

同じクラスにはゴンベンがいいからって諭と護という双子もいるからそっちよりはいいだろう。

ゴンベンツインズは母音まで揃って嫌がる。皆して幼稚園の頃の呼び方のさと(兄)とまも(弟)と呼んでいる。

俺は双子とも仲良かったはずなのに、気が付いたら諭とつるんでいるようになった。

子どものから大人に変わりつつある今、自分が気がつかないうちに変わっているんだと痛感する。



そんな俺が今、何をしていたかと言うと、久しぶりにアルバムを開いている。

普通なら兄と一緒のモノが多いはずなのに、内に限って言えば、菫も含めた3人の写真だ。

お袋は、小さい頃の俺達の写真を見て、リアルドリカム!!すっごく素敵よって言っていたな。

ドリカムって昔3人だったんだ。俺…ずっと2人だと思ってたよ。

今なら、いきものがかりじゃないかい?母さん?と思いながらそこはスル―する。

中学に入学したころから、一気に写真が減るのは仕方ないとして、そこから3人で撮った写真は1枚もない。

どれも、俺と菫の二人で撮ったもの。もしくは学校の皆でごっちゃりと移ったものだ。

うちの学校は、なぜか中等部では外部の募集はない。気にしていなかったけどそれって変だよな。

先生達も理由があってそうしているんだと思うから深く考えるのはやめよう。

明日から、卒業式の練習が始まる。始まっても、外部に入学する人は誰もいないから卒業という意識が薄い。

でも、入学式と卒業式は初等部と合同なので練習も大変。最初の練習は体育館だが、直前は大講堂を使う。

菫はこの大講堂が苦手だ。地味に底冷えするから嫌という。

俺達の学校は冷暖房完備だから、外に出る以外で寒いと思う事もない。

けれども、コンクリート打ちっぱなしの大講堂は暖房を入れても足元は暖かくなりにくい。

菫はそれが嫌いなのだ。結局それは、靴に淹れるカイロとかでしのいでいるらしい。

まぁ、女の子は冷やしちゃいけないからそれは当然だと思う。



先生は、すまんなと言って、俺に答辞をやるようにと言ってきた。ついでに高校の入学式もなと言って。

なので、とりあえず、資料として出来上がった卒業アルバムを借りてきて、自分のアルバムも引っ張り出して見ている…今ここ。

3年前から比べると皆、大人になったなぁと思う。結構校則が中等部までは厳しいからいわゆるチャラい人はいない。

俺達全員、原則徒歩通学のみだから。高等部からは自転車通学が解禁になる。

とにかく、近隣で自然と触れ合いながら学んでいって欲しいというのが学園側の意図で幼稚園から刷り込まされている俺達はそんなものだと事前に受け入れた。

でも…他校との交流が生徒会長が故に多い俺は…少しだけ外の世界が気になっている。

大学は外に大学に進学してもいいかなって考えている。このまま学園にいてもいいけど、心地よい環境にずっといたら成長できないのではないか?と不安になったから。

今の俺でも菫を守ってやれるけど、今以上に頼られる男になりたい。



高学年になってから、合気道を始めた。暴力はいけないけど、菫を守る手段は欲しいから通い始めた。

気が付いたら有段者になっていた。テストの時は流石に休むけど、始めてからもうすぐで6年になる。

がっちりとした体ではないけど、そんなに運動神経も悪くはない。体を動かすのは好きだけど汗は嫌いだ。

部活は、ガーデニングが好きな菫に付き合って園芸部。俺達が卒業すると休眠状態に入る。

卒業後のゴールデンウィーク前に、中等部で最後の作業をする予定だ。

学校を緑のカーテンで覆い尽くす。去年、お試しでゴーヤを使ってみたんだけど、思った割に涼しかった。

けれども、その分教室が暗くなったから、そこを反省しないとなって二人で話した。

そんな流れから、菫の家の緑のカーテンの話になった。菫は初等部から貰った朝顔を種を使っていたのだが、どうやら飽きてしまったらしい。

そんな時、母さんと兄から風船葛を勧められた。確かに見た目も涼しげで、実がもかなり可愛い。

見た目も可愛いのがいいという女子には是非お勧めの逸品である事は分かる。

最たるところは…花言葉か。あなたと飛び立ちたい…と来たか。まぁ、菫がそこまで知ってるとは思えない。

毎年、俺が庭のくちなしの花を切って渡しても、香りがいいから私は大好きしかいわないし。

俺はくちなしにお前に幸せを運んで欲しいって思っているのに…。まぁ、菫にそこを期待するのが間違いなのだが。



「徹?ちょっといい?」

滅多に俺の部屋に来ない母さんがドアを開けて入ってきた。

「あらっ、アルバム見てるの?珍しい」

「あぁ、答辞頼まれたから。それと入学式」

「昔はもっと天真爛漫な子だったのに、いつの間に優等生キャラになったのかしら?」

うっ、母さんは俺のキャラクターチェンジに気が付いていたのか。子どもがすることなんてバレバレだろうけど。

「そこはいいじゃない。世間的には問題ないでしょ?」

「そりゃそうだけど、つまらない。もっと自由になったら?型に閉じ込めたら疲れるだけよ?」

母さんが言いたい事は凄く抽象的だけども、何を言いたいのかはすぐに分かった。菫の事だ。

きっと母さんの事だ。兄さんに対しても煽るだけ煽ったんだろう。その結果が夜のリビングなのだろう。

母さんが母さんで良かったと思う瞬間だ。これが、学校の先生や、会社の上司だったら…キツイ。

選べるんだったら…こんなにまっ黒けで策士な母より、肝っ玉母ちゃんが良かったです。切実に。

「思った事を口に出さないでどうするの?傷つくのが怖い?」

「怖いよ。そりゃそうじゃん」

俺は一番恐れていた事を言い当てられた。そうだ。俺は怖いんだ。今の関係なら誰も傷つかない。

「そんなのすうちゃんが恋をしたら壊れてしまう位脆いものなのに。そんな砂の城、自分で壊せばいいじゃない」

はぁ?自分で今何を言ったか分かってんのか?この人…俺に砂の城壊せってけしかけたよ。



俺の敵って…兄貴だよね。今のところ。おっとりして見えるけど、元々母に似ている人だ。

腹の中だって真っ黒な訳。そんな人に直球ストレート一本で立ちうつ出来る訳ないじゃん。

「バカね、策士だからストレートな行動に一瞬ひるむんじゃない。そこを利用しなさいな」

…。完全に俺達で面白がってる。元々俺達のどっちかと結婚してくれればおばちゃんは幸せなのって公言してるからな。

本当に厄介な駆け引きを俺にしろと言ってくる。俺にここまで言うってことは…兄貴を引きずり出したってことか。

どういって、兄貴をその気にしたのか気になるけど、そんなの今はどうでもいい。

「誰にも…渡せない。兄貴にだって渡せない」

「そう。だったら実践しなさい。すうちゃんに直接行ってもフリーズしちゃうから手順は踏みなさいよ。それといきなり妊娠も止めてよね」

「そんなこと…今ここで言うな!!」

「はいはい。お邪魔虫は消えますよ」

バタンと音を立てて、竜巻のように俺の心を壊して母はいなくなった。

絶対にトラブルが起こったら更に大きくしてはしゃいでいたに違いない。絶対にそうだ。

よく、物静かな学者の父と結婚したものだなぁと感心する。

二人の出会いを聞いてみたいものだが、聞いたら後が怖いので聞くのが怖い。



大事にと思って、見守っていた彼女は温室の綺麗な花であって欲しいと思わない。

野に咲く、可憐な花であって欲しい。誰でも注目されるのではなくて、俺だけ見ていればいい。

今までだって、ずっとそばにいた。だったらそれをこれからもずっとそうであるようにするだけだ。

学園では俺達が付き合っていると思い込んでる人は多い。それを利用しない手はない。

こうやって画策すると兄さんみたいで嫌だけども、今はそんなことを言ってられない。

兄さんはもう仕掛けてきている。俺は、俺らしく菫に近付く。

まだ恋を自覚していないあいつに恋を意識するように俺は動く。

その時選ばれるのが俺である事を祈って。


菫…俺が好きって言ったら、お前は俺を選ぶか?それともあの時見たく兄さんを選ぶのか?今は答えを聞かないけど、そのうち絶対に答えて貰うから…いい?


まずは序章終了です。ある意味似た者同士。この恋はどっちに転ぶ?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ