彼女が選んだ人。そしてそれからのこと
最終話です。徹がその後の事を語ってくれます
あの日、テストの後の打ち上げの為に、諭と一緒に菫を迎えに行く途中で、兄貴からの着信が入った。なんか嫌な予感がした。
「徹、すうは打ち上げには行けなくなったから。悪いけれども、諭と一緒にカラオケに行ってくれないか?詳しくは葉月に詳しい事を聞いてくれ」
「えっ?何?」
「いいから。今はそんなに話せる状態じゃない。悪いけど切るな」
一方的な通話で切れてしまった。微かに聞こえていた、すうが兄貴を呼ぶ声に妙な胸騒ぎがした。
そして、カラオケに着くと何が起こったのか分かる事ができた。
黒木先生が逮捕されたという。今回の事件の経緯をほとんど知っている俺と葉月と双子は、警察に行って話をしないといけないという。そこのところは葉月の姉の弥生さんから連絡が来るというから待つしかなかった。
気になる菫の状態だが、怪我はなく無事だという。ただ、菫の家の中は滅茶苦茶にされてしまい、暫くは家には入れないという。
「徹?すうには誰が付いているんだ?」
護が俺に聞いてくる。
「兄貴がいる。多分、あいつ……何でもない」
多分、すうは兄貴を選んだ……。何となくそう感じている。
俺の直感はかなりの確率で当たるんだ。すうが兄貴の呼ぶ声が、聞きなれたのもではなくて少し兄貴に甘えている様な気がしたからだ。
「すうが、薫君の事好きな事は昔からの事だろう?まあ、お前の気持ちも分かるけどさ」
「まも……やっぱりそう思うか?」
「吊り橋効果もあるかもしれないけど、あの二人の場合は違うと思うけどな。ところで徹、お前今夜家に泊まるか?」
いきなりの護の提案に俺は戸惑う。護の家にはたまに泊まるから問題はないけれども、どうして今夜なのだろう?
「すうは、美枝さんのところだろ?さっきの葉月の説明からすると」
「多分、ばあちゃんの所だな」
「ってことは、薫君はお前の家にいるんだろ?それにおじさんは学園の対応に追われているんじゃないか?」
「うーん、確かにその通りかも。今は兄貴に会いたくないのは本音だな」
「徹、だったら俺は家に連絡入れておくから、お前も連絡しろよ」
護の言う事もその通りな訳で。俺はその提案に有難く乗っかる事にした。
学園の方は、菫を徹底的に擁護した。そりゃそうだ。今でこそ進学校何て言われているが、幼稚園からの一貫教育になったのは俺達が幼稚園の入る時からの事。
完全エスカレーター組の中には、近所の子も多いし、俺の家の様な学園関係者も多い。
一見近所の子の扱いになっている菫本人も、実のところは理事長の姪にあたる。
あいつの場合は、おじさんが婿養子になった為、そんなに知られてはいないし、その事に甘える一家でもない。
そもそも俺達の父と菫の父が高校からの同期で、菫の父がヨーロッパ赴任を終えて帰国の際に帰国子女の菫に幼馴染が欲しいと言って家に頼ってきたのがきっかけだ。
そんな菫に手を出した黒木が不幸というかなんというか。
今夜はとりあえず祖母の所だろうけど、暫くは学園隣の理事長の家に住むんだろうな。
両親が中東赴任の時に、家が荒れるのは嫌だと言って家に残ったというのに。
あいつはこれからどうなるんだろう?
「葉月、もっと早く言ってくれ
翌日。警察の事情聴取が終わった俺達はパトカーでカラオケまで送って貰う。
兄貴と菫の方は、昨日簡単に事情聴取があって、今日は休んで明日あるという。
俺達が知りえた事は、菫をターゲットにしたのは半分は偶然で、半分は兄貴への逆恨みだったという。
その逆恨みも弥生ちゃんが関係していた。要は、高校生の頃から恨みがあったいうことになる。その事については弥生ちゃんも詳しくは教えてくれなかったけど、ストーカー規制法を適用にすれば良かったと言っていた。要は弥生ちゃんにもストーカーだったようだ。
そんなこんなで、俺達に対する警察の対応もすこぶるいい。そう思ってしまうのは気のせいじゃないと思う。
結果的に、黒木は事件を起こしたその日付で学校を解雇されたことになっていた。今回の件でも、複数の犯罪をしているし、更に余罪もあるらしいのでこのままだと有罪で刑務所に入るだろうという事だ。最後の事情聴取の時の調書作成の時に担当の刑事さんが教えてくれた。有罪になる程の余罪の方が本当は問題なのではないだろうか?
ちなみに、今回の最初の被害者とも言える弥生ちゃんは上司から怒られてしまったそうだ。
とは、言っても当時の高校生としては出来る範囲の事をしていたのだから怒られるのは理不尽じゃないだろうか?
そして、その時に弥生ちゃんと兄貴が当時付き合っていたことになっていた事を始めて知った。確実に水と油の性格の二人が付き合うとは思えないけど、それが今回の事件の引き金になっていたと思うと怖くなる。
人って追い詰めたらいけないのだとつくづく痛感したのだった。
黒木が起訴されたと弥生ちゃんから連絡のあったその日に兄貴は菫と婚約した。
それを切っ掛けに二人は菫の家に暮らし始めた。
最初は俺を可哀想な子扱いした周囲も今は今までと変わらない。菫が今まで通りに俺に接してくれるからだ。
そんな菫だったけど、まだ教室に入る事ができない。事件をフラッシュバックしてしまう為に、教室に入れないのだ。今の菫は職員室が定位置。時間割の時間に開いている先生が見てくれているようだ。菫のノートを見せてもらうと、全教科俺たちよりもかなり先まで進んでいるようにみえる。
そんな期末テストは理事長室で受けたらしい。成績が学年トップ。このことについては誰も文句は付けることはなかった。
夏休みの直前に、ようやく菫が教室に戻ってきた。不安定だった菫の心もようやく落ち着いたようだ。
夏休み、毎日のように花壇の手入れをかかせない。大きな麦わら帽子にハンドタオルを首に巻いて草取りに水やりに大忙しだ。高等部と中等部の風船葛も小さな花をアクセントに順調に成長している。11月の学園祭で取れた風船葛の種を販売することになった。
どうやら小さなきんちゃく袋に入れて、恋のお守りとして先輩達は販売する予定の様だ。
菫と兄貴は恋を結んだだろうけど、ハートブレイクは俺はどうなんだ?と一人悪態をつきながらも俺は花壇の手入れをするのだった。
「学園祭お疲れ様でした」
学園祭の最終日。後片付けも終わった俺達は温室の中で簡単な打ち上げをしている。
俺の横には菫がいて、菫の横には兄貴がいる。
そんな二人を見ても何も思わなくなった俺も、来年には新しい恋が訪れるのだろうか?
ポケットに中に忍ばせている風船葛の種が指に触れる。
今年は菫達に恋を運んでくれたこの種が、俺にも恋を運ぶ事を祈らずには居られなかった。
エピローグ
「菫、出して来たよ」
昼休み、いつものように皆で弁当を食べている所に兄貴がやってくる。
「本当?不備はなかったんだね」
「そうだよ。これで書類上は竹田菫だからね?学園にいる間は六条でいいんだけど」
「平気かな?間違ったらどうしよう?」
「うーん、ほっぺにキスで許してやろうか?」
「絶対にやだ」
あの日から交際し始めて、婚約をした二人。先週菫が16歳になったらすぐに婚姻届を出すと思ったらそうではなかった。
だからって、いい夫婦の日に出すって俺達に対する当てつけなのか?
バカップルって言っても過言でない位、仲のいい二人をいつものように視界にとらえて弁当を食べる俺達ってのもかなり凄いよな。
「徹?読んでみな?」
「何?」
兄貴がいやらしく笑っている。言いたい事が分かったよ。俺に菫をお義姉さんと言わせたいってか。本当に根性悪いよな。
「いいから。分かっているだろ?」
「うーん、菫さん。こんな根性のいい兄貴ですけど、面倒見て下さいね?」
「徹君。私が義理の姉になるの……嫌だよね。今まで通りでいいよ。それに薫君がこんな人なのは……あの事件で分かったから大丈夫よ」
菫は俺にそういうとにっこりと笑った。
本当に怖いのはもしかしたら……菫かもしれない。俺にとっての穏やかな日々は戻ってくるのだろうか?
全てはあのハートの種にお願いしてみようか。
今日、入籍しましたってオチです。
突っ込みどころがあると思いますが、そこはフィクションですのでスルーして貰えると嬉しいです。




