ハートの種が芽吹く時 1
恋に種ってあったらどんな形だろう?by菫
ー今年の夏も暑くなりそうですーいつものように耳を素通りして行くニュースの何て事のない長期予想に私はなぜか気にとめた。
今年も…暑いのか。自宅の緑のカーテンをどうしようか?と思っていた所だ。
今までは、小学校の理科の時間で栽培して増えた朝顔を使っていたのだが、それもそろそろ飽きてきた。
世間では、ゴーヤもいいと言うが、食べきれなくなって完熟して落ちたのは見た目的に良くないし…。
コンテナガーデンもそろそろ春植えの植物にしてもいいから…行きつけの園芸店で聞いてもいいかなと思って期末テストの最終日に私は園芸店とカレンダーに書き込んだ。
「やっと、終わったね」
「そうだねって言いたいけど、皆4月には会うじゃない」
「そうだね。でもその前に卒業式あるんだよ?忘れていない?」
「…そうだったかも」
私は卒業式がある事をすっかりと失念していた。
私達が通う学校は私立学校で幼稚園から大学院。それと専門の総合研究所まで所有している。
幼稚園の頃は周囲には何もなく山の所々に施設がある状態だったのに、今では周囲の山林は開発されてしまい都心のベッドタウンに変化した。
そのせいか、学園の志望倍率もうなぎ上りに上がったんだそうだ。
高等部の募集定員は二クラス…60人と中等部卒業後、転校する人員のみだから62人とかそんなものだろう。
皆がほとんど顔見知りだ。幼稚園で90人。初等部で90人…高等部で240人になるはず。
ほとんどが持ち上がりだから、卒業試験にも係らず危機感が一切ない。
卒業するという感覚だってひょっとするとかなり怪しい。
「週末ってあいてるの?菫」
「ごめん、その日はちょっと無理」
「珍しいね。どこに行くの?」
「家の夏の暑さ対策を考えに園芸店に行ってくる」
「流石園芸部部長さんは自宅まで管理している…と。もうそんな時期?」
「春植えならちょっと遅いものもあるけど…この位よ」
私はのんびりと鞄に荷物を入れ始める。今日はホームルームでお終いだ。
明日からは卒業式の練習が始まる。初等部と合同の卒業式だから大講堂を使う。
あそこって、冷暖房完備だけども…微妙に寒いんだよね。
「菫?どうしたの?」
「講堂の寒さ対策について…考えてみた」
「そっか…。カイロにババシャツ…か」
「うん。カスミはそれに腹巻でしょう」
「知られたくないけどね。それよりね、今年買った毛糸のパンツがいいのよ」
「おっほん、お嬢さん方。ガールズトークもいいですが、TPOというものをですね」
「はいはい、徹君。失礼しました」
「もう少し柔らかくいこうよ。生徒会長」
「うっ…はい。すみません」
折角徹君が注意してくれたのに、皆のパワーに負けちゃった。残念。
「菫?帰るよ」
「それじゃあ、皆また明日ね」
私は幼稚園の頃から徹君と一緒に帰る。学校では自宅から一番近い人と帰るようにと指導されてる。
2軒隣の徹君と一緒に帰り始めてもう10年は経ってしまった。正門を出て右に曲がる。
そこから直線で500メートルが徹君の家。私の家はさっきの通りだ。
「おばさん達は?どう?」
「…元気みたいだよ。まだ時間がかかるみたい」
私の両親は、父の仕事に母がついて行っているので、ここ2年ほど家にはいない。
元々商社マンだった父は各国を飛び回っていたのだが、ここ数年中東の開発の為、遠いアラビアの地にいる。
普通なら、私も一緒に行くべきだろうけど情勢不安だからと一人で自宅で暮らしている。
なるべく一人でできるように両親に躾けられたのでたまに寂しい以外は不安はない。
むしろ不安なのは…両親の方だ。今は隣国がクーデターで大変なことになっている。
「卒業式は、来れないのか?」
「うん。それをするともっと帰れなくなるって。平気だよ。持ち上がり進級だしさ」
「そう言われるとそうだけども…。そう言えば園芸店って?」
「うん。うちの緑のカーテンを朝顔にするか、他の植物にするか悩んでるの」
「ふうん。だったら、大学部所有の植物園に言って、学芸員の先生に聞いたら?」
「そっか。そうだね。明日聞きに行くのに…いい?」
「俺が誘ったようなもんだろ?いいよ」
私達はいつものように徹君の家の前に。
「それじゃあ…またな」
「うん。夕方ね」
私達はいつの通りの約束をして別れた。
「菫ちゃん、緑のカーテン変えたいの?」
「そうなんです。朝顔もそろそろ…って思って」
夕飯は徹君の家で皆と一緒に食べる。今夜はおでんだ。おばさん朝から煮込んでいたんだなぁって位に味が染みている。
「それなら…風船葛はどうかしら?」
「フウセンカズラ?」
「そう。明日、二人で植物園に行くんでしょ?折角だから調べてきなさい。種は園芸店で今だったら売っているわ」
徹君のおばさんは私に微笑んでくれた。まぁ、手入れが簡単ならそれで充分なんだけども。
「二人が来るのなら、俺が案内してやろうか?」
そう言って会話に混ざるのは徹君の兄の薫君。来年大学4年生なのだが、大学院を志望しているらしい。
「兄さんはいいよ。来なくて」
「そっか?植物園の管理の手伝いもゼミの一つだぞ」
そうそう、薫君は理学部なんです。バイオテクノロジーの研究で品種改良を目指すとか。
私は理系が苦手だから専門的な事は分からない。
「でも、風船葛なら菫ちゃんでも楽しめるかもな」
そう言って、リビングの隅のデスクトップパソコンの電源をいれる。
検索エンジンを使ってあっという間に風船葛を調べてくれた。
画像で見るその植物は、見るからに涼しげで初夏には最適な気がする。
「ほおずきみたいだね」
「そうだな。でももっと面白いのは種の方だ」
薫君は次の画像を見せてくれる。出てきたのは種の写真。そこにはハートの形の模様のある可愛い種があった。
「母さんが勧めたのは…こっちの意味が強いんだろうな。ハートの種って意味もあるし」
意味ありげに薫君が私を見る。
「菫も高校生だもんな。初恋をしてもいいお年頃だろ?」
「うーん、皆はそう言うけどね。私は良く分からない」
「そっか。こればかりは相手次第だと思わないか?徹?」
私に振ってきたかと思ったら、今度は徹君にも聞いてくる。薫君はいつも予測不能で振り回される。
「そういう兄さんはどうなのさ?ぜひともお聞きしたいものですね」
徹君は質問には答えないで、慇懃無礼に聞き返す。
二人の間にはシベリアの冷気が吹き込んだのかと思う位冷え切っている。
そんなに中が悪くないと思ったのにな…どうしたんだろう?
「ちょっと、二人ともご飯の後でそんな事しないの。とりあえず明日3人で植物園に寄って戻ってらっしゃい。いいわね」
結局、おばさんに諭される形で明日は3人で行くことになってしまった。
そして、あっという間に放課後になった。私と徹君は薫君と植物園の前で待ち合わせをしている。
そのことを、カスミ達に言うと…はぁ…入れ食いなのにねぇって言われた。
そんな事を言われても、どうしていいのか分からなくなってしまう。
だって、二人ともずっと一緒にいる兄弟みたいな存在だから。
甘やかすだけでなくって、ちゃんと見ていてくれる薫君と双子って位に同じ時間を過ごした徹君。
今までは恋愛対象として見た事はない。それに…薫君なんて6歳も年が離れている。
普通ならそんな対象ではないだろう。
「兄さんが言った風船葛なら育てやすいみたいだぜ。俺もあの後ネットで見た」
「徹君も?私も調べたの。確か幼稚園の緑のカーテンがそうだったよね?」
「そうだったかもしれないな。見た目も涼しげでいいんじゃないか?またネットをつるすのか?」
「うん。そうすると、ベランダまで一気に広げられるし、楽そうだと思わない?」
「成程な。菫の家って今時珍しく生垣だものな。大変じゃないか?」
「そうね。本当はね…アレお茶の木なんだよ。だから新芽を積めば紅茶も作れるはずなんだ」
「何でまた…それを?」
「なんかね、お父さんの実家の生け垣を再現したかったんだって。コンクリ壁じゃないから風通しもいいし」
「確かにお前の家って打ち水すればかなり涼しいよな?」
「夏に快適に過ごせる方向で家を作ったみたいね。本当に暑い時だけエアコンは使うけど」
「確かに夏は菫の家に住んでるようなもんだし」
「否定しない。気がついたら、客間以外に徹君の薫君の部屋あるし」
二人が家に入り浸るものだから、物置だった部屋を、二人が寝泊まりできるように変えたんだっけ。
最近はテスト前の徹君の部屋だけども。薫君は…ここ3年位この部屋使ってない。
「菫?どうした?」
「うーん、考え事。大丈夫だよ」
私はぼんやりしていた事を徹君に指摘されて、咄嗟に誤魔化した。
「これが風船葛だよ。どうだい?見た感じは?」
薫君が学芸員代わりに、植物園を案内してくれてる。私達がいるのは、夏のエリア。扉で温度と湿度を調整しているから
四季の植物…冬は代わりに南半球の夏の植物だったりするけどね…を見る事ができる。
主に使うのは、総合学習でここにくる初等部と高校の園芸部と大学部位だろうか?
中等部の園芸部は学園全体のお祭りの時に、植物園の苗の販売のお手伝い位だ。
園芸部って言っても部員は…私とそれに付き合ってくれる徹君だけ。実質上活動停止だ。
私達は、卒業する最後の作業に、中等部の緑のカーテンを作る予定でいた。
先生達からも了承を貰っているから、予算も試算して残してあるし、資材は購入済みだ。
後はカーテンの素材を決めるだけ。中等部もおなじでいいかな?
「徹君。中等部の緑のカーテンだけども…」
「俺はいいと思うぜ。風船葛でも。ってか、女子は喜びそうじゃないか?」
「そうだねぇ。それが定着すれば、素敵な事だね。部活は消滅しても」
「そうだな。俺達がボランティアで花壇の整備をすればいいんじゃないか?」
私達は学校の花壇も管理する事が条件で好きにさせて貰っている。
今は…菜の花が咲き始めた所だ。卒業式当日に皆で写真が取れるといいねっていいながら二人で作った。
その後は、カラフルなダリアと向日葵。秋にはコスモス。私達が作っていた花壇達。
「そうだね。先生達に相談しよう。ボランティアなら管理できるもの」
「菫、高校ではどうするんだ?」
「徹君は、もう私に付き合うことないよ。私は続けるけど。植物は嫌いじゃないもの」
「そっか。だったらそそっかしくてうっかり枯らしそうになる幼馴染をサポートしますか」
私達は植物園を眺めながら、のんびりとこれから先の事を話している。
徹君は私といるのは当然としているみたいだけど、本当の事はどうなんだろう?
ふと…そんな事を考えたら、胸がキュッと苦しくなる。
聞いてみたいけど…怖くて聞けない。
「二人とも…もう暫くここにいるかい?俺はちょっと…」
薫君が私達に声をかける。どうやら、実験の時間待ちを利用してくれていていたみたいだ。
「大丈夫。もう暫く見てから帰るよ。薫君は実験に戻って?」
「ちゃんと俺が菫を送っていくから。さっさと実験に帰れ」
徹君…そんな言い方ないよ。薫君がフリーズしているよ。薫君…帰ってきて。
すると、薫君は私の腕を掴んで引き寄せる。
「なんなら、ゼミまで来るか?来れるだろ?」
徹君に聞かれないように耳元で囁かれた。いつもなら…そんなことないのに。
「薫君?」
「徹に喧嘩を売られたから、買う事にしただけさ。お前も大きくなったな。菫…いい女になるぞ。このままでいてくれな」
そういうと私を徹君の側に戻してくれた。何か…暖かい温室なのに、寒さを感じるのはどうして?
「ふぅん、ようやく本性を見せてくれたわけだ。なんかむかつくし」
「それだけ、お前がガキなんだよ。じゃあ、俺はもう行く。貸し一つな」
そう言って、薫君は大学部に戻っていく。貸しってなんですか?聞いてもいいのかな?
「徹君、貸しって何?」
「菫には関係ない。ってか、絶対に教えない。どうする?もう少し見ていくか?」
「それよりも、さっきの話を先生達と相談しようよ。まだ先生いるはずだもの」
「そうだな。菫は思いついたらすぐに行動だものな。いいよ。行こう」
徹君は私に向かって手を差し出す。焦って転んだら嫌だろ?と目がそう語っている。
「そんなに…子供じゃないもん」
「子供じゃなくてもいいの。ほらっ、行くぞ」
無理矢理手を繋いで、引かれるように私達は歩き出す。
3月。草木も芽吹く頃。私達の恋の種はどうやら埋められたのかもしれない。
久し振りのお祭り参戦です。相変わらずのヘッポコクオリティーなのはスルーでお願いします。
風船葛…気が付いたら、庭の松の木に絡んでおりました。
どうやって我が家に辿りついたのやら?そんな植物はトムトム家では普通の事です。そんな我が家も3方向を生垣で囲まれております(うちはお茶の木ではなくてマキの木に囲まれてます)




