↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
8/38

07 【エラー】断罪フラグの不具合報告

 

 優雅な音楽と共に夜会が始まった。

 私は腹を据えて会場に足を踏み入れ、一直線にローストビーフのコーナーへ向かう。

 もう、こうなったらローストビーフをやけ食いするしかない。


(もう嫌な予感しかしないけど……後はフランチェスカ様の断罪を見届けて定時退勤だ)


 ローストビーフを頬張ったその時、会場に黄色い悲鳴が上がった。


 レオンハルト、セドリック、ノアの入場の合図だ。


(ぎゃーー! 4K高画質で並んだスチルが神ってるーー!!)


 壁のシミとなって、ローストビーフを高速で口に運びながら堪能していると、視界の端に赤い髪の女性が映った。悪役令嬢、フランチェスカだ。


(あれれ?)


 プライドの高そうな顔立ちの彼女だが、今日はその瞳が揺らいでいる。

 スチルの外の画面など、今まで見た事などなかったから、意外な姿に目をひかれた。


 そういえば、前世でゲームに夢中になっている時には気づかなかったけど、私にクラスメイトFではなく、クラリスという名前があるように、ここでは画面の外にそれぞれの人生の背景がある。


 家の事情でレオンハルトと婚約したとは言え、フランチェスカにも思う所があったのかもしれない。


 しんみりしていた時、フランチェスカが豪奢なドレスを翻して前に出た。


「レオンハルト殿下。今日は大変な事故に遭われたと聞きましたわ。お怪我はありませんか?」


 フランチェスカに声をかけられたレオンハルトは、眉根を寄せて真紅の瞳を鋭く細める。


「……は、よく言えたものだな。これまでのお前の所業、全てきいているぞ、フランチェスカ。今回もお前の仕業ではないのか?」


「何の話ですの?」

 フランチェスカは妖艶に微笑んだ。


「毒殺未遂、馬車爆破、今日のシャンデリア落下――。お前の関与を示す証言は揃っている」


 レオンハルトは、フランチェスカの伸ばされた手を避けると、シナリオ通りのセリフを告げた。


「フランチェスカ=ローデンベルグ。お前との婚約は破棄だ」


 その瞬間。

 フランチェスカの指先が、微かに震えた。だが、それも一瞬だった。

 彼女はゆっくりと顎を上げ、高飛車な笑みを浮かべる。


「……許さないわ。アネット男爵令嬢。そして、レオンハルト。よくも私にこんな恥をかかせてくれたわね」


 赤い髪がふわりと揺れる。その美貌も相まって、壮絶な迫力だった。周囲からは騒めきが波のように広がっていった。


「下級貴族のくせに忌々しい女。お前のせいで全て台無しよ。殿下の側から消えなさい。我が侯爵家に伝わる禁忌の魔導具の錆にしてあげるわ!」


 会場の混乱に乗じて、フランチェスカはアネットを指差し、勝ち誇った。

 一ミリのずれもない。

 ゲーム通りの完璧な悪役令嬢の動きだった。


 そのまま彼女の指先が、ドレスの裾に隠された禁忌魔法の媒介石へ伸びる。

 その手から、一撃で会場を灰にする禁忌の闇魔法が解き放たれようとした、まさにその時。


「……ちょうどいい。発動、――『875(ハナコ)』」


 会場の壇上にいた天才魔導士ノアが、実験動物を見るような目で呪文を呟いた。


 直後、ノアが展開した防衛結界が、眩い光を放って大炸裂した。

 私が魔導書に仕込んだ落書きによって、元の計算式の「875倍」に膨れ上がった結界だ。


 空間が激しく明滅し、フランチェスカの禁忌魔法を完全に包み込んだ――はずだった。


 ――パパパパパパパンッ!!! パパパンッ!!!!


 結界の内部から響いたのは、なんとも景気の良い、ただの爆竹の破裂音だった。


 ドレスに仕込まれた禁忌魔法の媒介は、私がすでにすり替えていた。

 そこへノアの結界が重なる。

 結果――世界を焼くはずだった魔法は、爆竹程度の威力しか発揮せず、虚しい煙だけをシュウシュウと吐き出していた。


「えっ……? あら……?」


 禁忌魔法を盛大に不発にされたフランチェスカが、処理落ちしたように目を点にしたまま固まる。


 あまりのショボさに、武器を構えたセドリックもレオンハルトもフリーズしていた。


「……なるほど。この規模の結界で、魔力消費効率は悪くないとは興味深い」


 ノアは一人で美麗な4Kの納得顔を浮かべると、「もう満足した」とばかりにパチンと指を鳴らし、会場を覆っていたハナコ大結界(ドーム)を解除した。


 同時に、視界を遮っていた光と煙が、サァァ……と引いていく。


 ――白い煙が少しずつ晴れていくと。


 そこに浮かび上がる人影があった。


 ビュッフェ台の陰にひっそりと。


 山盛りローストビーフを抱えて、必死に咀嚼している人物。


 ――つまり、私が。


 ぽつん、と佇む、低画質モードのモブ令嬢。

 口からは、今まさに飲み込もうとしていたローストビーフが一切れ、はみ出ている。


「あ」


 レオンハルト王子、セドリック様、ノア様、アネットちゃん、そしてフランチェスカ様。


 会場にいる全主要キャラクターの視線が、床にしゃがみこむ私へと一斉に突き刺さり、完全に静止した。


 王子がハッと目を見開く。


「……その、鼻腔をくすぐる甘いフローラルの香りは……まさか、君が――」


「君が……875(ハナコ)」


「テロリストの、ボス……?」


 私は慌ててお皿を放り出し、ガバッと立ち上がった。


(見つかった! 何で!? てか、王子達の脳内ネームプレートの更新速度が光の速さなんだけど!! とにかく逃げよう!)


「待て!」


「捕まえろ!」


「875」


 パニック気味で走り出し、細工した扉のドアノブに指差が触れた――瞬間。


 ピコン、と耳慣れた電子音が脳内に響き、私の目の前に真っ黒な【システム画面】がポップアップした。



 =============================


 エラー:重大なシステム不具合が発生しました。

【 悪役令嬢がみつかりません(404 Not Found) 】


 本来のシナリオが成立しません。


 世界線を再起動します。



「はいぃぃぃ!?」と叫ぶ暇さえなかった。

 突如、世界全体がぐにゃりと万華鏡のように歪み、激しい目眩が私を襲う。


 足元の床が消失し、私は果てしない暗闇の底へと真っ逆さまに落ちていった。



 ◇◇◇



「――っ、はっ!!!」


 次に目を開けた瞬間、私はベッドから跳ね起きていた。

 ローストビーフは手元にない。というか、ここはどこだ。


 パニックになりながら周囲を見回すと、そこは学園の寮でも、清掃員の宿舎でもなく、中世ヨーロッパの王族か大貴族のような、息をのむほど豪華できらびやかな子供部屋だった。


「お嬢様、お目覚めですか? 本日はレオンハルト殿下との初めてのお茶会でございますよ」


 優しそうな老メイドが、恭しく頭を下げる。

 私は恐怖に震えながら、ベッドの横にある大きな鏡へと視線を向けた。


 そこに映っていたのは、NPCの地味な顔ではない。

 ウェーブがかった美しい赤い髪に、意志の強そうな大きな瞳。


 間違いなく――


 さっきまで婚約破棄されていた侯爵令嬢。

 爆竹を鳴らして呆然としていた悪役令嬢。

 フランチェスカ=ローデンベルグ。

 ――その十歳(推定)当時の姿だった。


「悪役令嬢が404だからって、私を悪役令嬢にするなぁぁぁぁぁ!!!!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。