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救ったはずの仲間が、俺を忘れていた。〜追放ヒーラーは“存在を削る回復魔法”で世界の裏側に立つ〜 ―未記録層と界喰いの神話―  作者: 白銀レン


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33/33

第33話 未観測

 あの日、監査局の塔は半壊し、未記録層の亀裂は静かに閉じた。


 だが、世界は崩れなかった。


 数年が過ぎた。


 町は復興している。


 石畳は敷き直され、崩れた塔の代わりに低い時計台が建った。


 削除は、今もある。


 罪は裁かれ、事故は記録から消える。


 だが――侵食は起きない。


 空に裂け目は走らない。


 界喰いは現れない。


 削られたものは、どこかへ流れている。


 堆積しない。


 溜まらない。


 ただ、循環している。


 記録院は形を変えた。


 監査局は解体され、観測は公開制になった。


 削除には必ず“流路確認”が義務付けられる。


 白一色だった監査室は、今は窓がある。


 風が通る。


 リゼ・アークライトは、記録を閉じた。


 厚い冊子の最後の頁。


 そこに記されている名。


 境界干渉者

 アルド・レヴァイン


 備考欄。


 ――現在、未観測。


 ペン先が、わずかに止まる。


 観測不能ではない。


 消失でもない。


 未観測。


 存在は確認できない。


 だが、削除もできない。


 世界のどこかで、流れている。


 リゼは窓を開ける。


 風が紙を揺らす。


「……更新は完了した」


 誰にともなく呟く。


 返事はない。


 だが、風が少し強く吹いた。


 丘の上。


 ミアが立っている。


 あのときと同じ場所。


 空は青い。


 裂け目はない。


 彼女は目を閉じる。


「アルド」


 呼ぶ。


 風が頬を撫でる。


 削られたわけではない。


 忘れられたわけでもない。


 ただ。


 形がなくなった。


 世界の流れになった。


「いるよ」


 ミアは小さく笑う。


 それは確信だった。


 町の少年が走り抜ける。


 転びそうになり、踏みとどまる。


 消えない。


 なかったことにならない。


 ただ、時間が進む。


 遠くで鐘が鳴る。


 時計台の鐘。


 新しい時刻を告げる音。


 世界は続く。


 削られずに。


 溜まらずに。


 流れながら。


 境界干渉者アルド・レヴァイン。


 現在、未観測。


 だが。


 確かに、残っている。


 ――完――

ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました。


「追放ヒーラー」という、なろうでは王道の入り口から始まったこの物語ですが、気がつけば

“削除とは何か”

“なかったことにするとはどういうことか”

そんなテーマに向き合う話になっていました。


バトルもありました。

界喰いという怪物も出ました。

監査局という組織も出ました。


けれど、この物語で一番書きたかったのは、


削ることは本当に悪なのか

残すことは本当に正しいのか


という問いでした。


アルドは削除を否定しませんでした。

ただ、溜めない道を選びました。


そして最後に、彼は“消えた”のではなく、

“流れになった”。


これは悲劇のつもりではありません。

救済のつもりでもありません。


選択の物語です。


アルドが未観測であっても、

あなたが覚えている限り、彼は削られません。


最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。


また別の物語でお会いできたら嬉しいです。

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