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救ったはずの仲間が、俺を忘れていた。〜追放ヒーラーは“存在を削る回復魔法”で世界の裏側に立つ〜 ―未記録層と界喰いの神話―  作者: 白銀レン


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第28話 七日目の夜明け

 七日目は、夜明けと同時に始まった。


 空は異様なほど澄み切っている。


 風は止み、鳥の声もない。


 世界が、息を潜めている。


 丘の上には全員が揃っていた。


 リゼ、グレイス、執行官たち。


 ガルドは大剣を地に突き立て、静かに目を閉じている。


 ミアは俺の隣。


 俺は、胸に手を当てる。


 冷たい余白は、もうほとんど全身に広がっている。


 削らなかった。


 均した。


 だが代償は積み重なった。


「存在安定度、限界域」


 リゼが告げる。


「最終接続に耐えられる保証はない」


「保証はいらない」


 俺は空を見る。


 そして。


 裂けた。


 音はない。


 だが、空が縦に割れる。


 白と黒が入り混じる裂け目。


 そこから、巨大な影がゆっくりと姿を現す。


 今度は部分ではない。


 半身だ。


 山より大きい塊。


 無数の瞳が、地上を見下ろす。


 界喰い本体。


 町全体が、震える。


 建物の輪郭が、薄くなる。


「第一段階!」


 リゼの声。


 俺は接続を開く。


 降り注ぐ侵食を均す。


 だが量が違う。


 粒子が暴風のように流れ込む。


 視界が揺らぐ。


「持たせろ!」


 ガルドが叫ぶ。


 大剣を振るい、触手を叩き落とす。


 グレイスが核へ向かう。


 執行官が陣を重ねる。


 固定。


 凍結。


 だが本体は、笑う。


 ――削らないの?


 甘い声。


 ――削れば楽だよ。


 確かに。


 核を削れば、一瞬で終わる。


 だがその瞬間、未記録層が暴走する。


 世界規模で。


「第二段階!」


 核が露出する。


 巨大な白点。


 脈打つ。


 グレイスが斬り込む。


 亀裂が走る。


 だが再生が速い。


「アルド!」


 リゼの声が鋭い。


「今しかない!」


 第三段階。


 俺は前に出る。


 触手が迫る。


 ガルドが割り込む。


 血が飛ぶ。


 だが立つ。


「行け!」


 胸を開く。


 未記録層が広がる。


 核の中へ。


 堆積。


 膨大な削除履歴。


 この世界がなかったことにしてきた全て。


 飲み込まれそうになる。


 界喰いが囁く。


 ――全部抱えれば、君は消えない。


 誘惑。


 甘い。


 抱えれば、世界は守れるかもしれない。


 だが俺は消える。


 ミアの声が響く。


「アルド!」


 ただ名を呼ぶ。


 それだけで、輪郭が保たれる。


 リゼが叫ぶ。


「均衡を!」


 グレイスが核を押さえる。


 ガルドが触手を斬り続ける。


 全員が繋いでいる。


 俺は理解する。


 抱えるのではない。


 分ける。


 均すのでは足りない。


 “循環させる”。


 未記録層へ返すだけでなく。


 削られた歴史を、世界へ再配置する。


 なかったことを、なかったままにしない。


 核を分解する。


 粒子を、空へ散らす。


 町へ。


 人へ。


 地へ。


 重みが、世界へ戻る。


 界喰いの輪郭が揺らぐ。


 ――それは、痛い。


 初めて苦悶が混じる。


 核が崩れる。


 巨大な影が縮む。


 空の裂け目が、閉じ始める。


 だが。


 俺の体が、透ける。


 存在確率が、急落。


 視界が白くなる。


「アルド!」


 ミアが飛び込む。


 腕を掴む。


 ガルドが叫ぶ。


「アルド、戻れ!」


 リゼが陣を重ねる。


「固定!」


 未記録層の裂け目が、俺を引く。


 だが。


 今度は違う。


 世界中から、微かな声が響く。


 町の人々。


 名を呼ぶ。


「アルド」


「アルドさん」


 少年の声。


 母親の声。


 認識が広がる。


 削られなかった。


 守られた。


 その記憶が、俺を固定する。


 輪郭が、戻る。


 界喰いの半身が、崩壊する。


 裂け目が閉じる。


 空が戻る。


 静寂。


 町は崩れかけている。


 だが。


 存在している。


 俺は地面に倒れ込む。


 息が浅い。


 冷たい余白は、まだある。


 だが。


 完全に消えてはいない。


 リゼが空を見上げる。


「本体、退却」


 グレイスが剣を下ろす。


「核崩壊確認」


 ガルドが大剣を肩に担ぐ。


「……終わったか」


 俺はかすれた声で言う。


「終わってない」


 空を見上げる。


 亀裂は消えた。


 だが。


 界喰いは消えていない。


 削られた世界がある限り。


 それでも。


 今日、町は消えなかった。


 削らずに。


 喰わせずに。


 均衡を、保った。


 ミアが涙を流しながら笑う。


「アルド、いる」


 ああ。


 俺は、まだいる。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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