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何故現代兵器をファンタジー世界へ持ち込んではならないのか?  作者: ウォルギリウス
第七章

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雪崩打つ

太陽は沈み

騎士団領ブルグントによるダヌビウス合衆国への侵攻から、3ヶ月の月日が経過した。

緒戦の猛攻を雪山の要塞線で耐え抜き、高地の国の本隊到着を待って反転攻勢を行った国防軍兵士達は、今や完全に攻勢限界点を過ぎて敗走するブルグント兵の悲惨な姿を幾度となく目撃していた。


彼らの手には既に弾薬すら尽きており、重傷を負って包帯を巻いたままの負傷兵までが、無理やり最前線に立たされている有様だった。

ブルグント軍が守る手薄な陣地へと高地の国軍は容赦なく空爆や砲兵火力を集中させて完全に粉砕し、その突破口から最新鋭の装甲師団を中心とした打撃戦力が雪崩れ込んでいく。


高地の国の兵士達が後方からの完璧な兵站によって温かい食事と十分な弾薬の補給を受け万全な状態で戦い続けているのとは対照的に、ブルグント兵は負傷兵が落伍しても助け起こすことすらせず放置して「我先に」と安全だと信じて疑わない自分達の陣地へと逃げ込んでいる。もはや軍隊としての規律は完全に失われ、無様な姿を晒して潰走していた。


開戦以来高地の国からの空爆は日を追うごとに激しさを増していた。ブルグント側の航空戦力は基地から飛び立つ前に滑走路ごと粉砕されて壊滅しており、神聖皇務庁から強引に割譲させた沿岸部もレーダー提督率いる艦隊戦力からの激しい艦砲射撃と巡航ミサイルによって補給拠点が消滅している。


砲兵は撃つための弾薬が無く、歩兵部隊は銃弾も食糧も得られず、装甲師団は整備に必要な工具一つ受け取れない。それどころか、後方に降下した降下猟兵(特殊部隊)により、なけなしの物資すら略奪される有様である。

P-18「スプーンレストD」やP-14「トールキング」早期警戒レーダー、そしてP-37「バーロク」防空レーダーといった東側の防空網は、高地の国のトーネードECR(電子戦・防空網制圧機)によるHARM対レーダーミサイルの攻撃で、S-200P地対空ミサイルごと完全に制圧され、沈黙した。

戦闘機も対空火器も喪い、空の守りを完全に剥ぎ取られた軍隊の末路を、東ドイツ軍出身の彼らは史実の湾岸戦争の記録映像等で良く知っているはずであった。

兵站線は、補給拠点や結節点を持たぬまま、前線からの要求に応えるために長く惰性に伸びきっていた。それによって作り出されたウラル・トラックの長大な車列は、制空権を掌握した高地の国にとって、好きな時に好きなだけ任意に叩くことが許された「射的の的」のような、非常に無防備な状態であった。

補給車両も徹底的に空から襲われて車列は黒焦げの残骸に変わり、前線は補給を受けられず、損傷した車両を後方へ送って修理することも出来ない。基地に残された数少ない整備済みの車両でさえ、上空を悠々と飛ぶユーロファイターやトーネードIDSの搭載したペイブウェイIVや、KEPD 350空中発射巡航ミサイルの標的として事務的に「処理」されていく。

結果として、ブルグント軍は組織的な戦闘能力を完全に喪失し、抵抗する事さえ覚束ない烏合の衆にまで落ちぶれた。

かつて赤いプロイセン軍(NVA)と呼ばれた軍隊は、真のプロイセンの系譜を継ぐ高地の国(国防軍)によっていとも容易く打ち砕かれ、その余波は最前線の兵士だけでなく、後方の指導部にも重大な影響を与え始めていた。

「……こんな、こんな馬鹿なことが、馬鹿なことがあってたまるか……」

夜。親衛隊全国指導者、ハインリヒ・ヒムラーは、薄暗い執務室でうわ言のように呟きながら、目の前の分厚い報告書を読んでいた。だが、その内容を心は決して受け入れたくないと拒絶していた。

しかし、親衛隊騎士団領ブルグントが物理的にも軍事的にも『崩壊』した事を示すその冷酷な文字の羅列からは逃れる事は出来ず、目に見えない鎖で椅子に縛り付けられるような絶望的な感覚に苛まれた。

「閣下……陸軍は既に崩壊致しました。死地に取り残されていたはずのディートリヒの部隊も、既に包囲を打ち破って逆侵攻を開始しております。あのヒトラーも一番先頭で旗を持ち、フェーゲラインも従軍し、我が国の領土を荒らし回っているそうです……。閣下、今ならまだ」

「嫌だ! その言葉を続けるな!! 降伏など……降伏など絶対にあり得ん!!」

ヒムラーは、ヴィンツェンツ・ミュラー中将からの悲痛な進言に対し、報告書に目を通して尚、必死に現実から逃げようと耳を塞いだ。

だが、更に厳しい物理的な現実が彼を襲う。

突如、ブルグント首都である『オストパリ』の市街地に、腹の底を揺らすような激しい爆音が響き渡り、ヒムラーは椅子から転げ落ち、頭を激しく机の角にぶつけた。

手に持っていたコニャックのグラスが割れ、琥珀色の液体が頭からかかり全身がびしょ濡れに成った彼は、無様に呻きながらも慌てふためくが、悲報は更に続いている。

「一体、一体何事か!!」

「閣下、閣下どちらにいらっしゃいますか!?」

「私はここだミュラー、ここにいるぞ……痛たた、これは一体どうしたのだ」

窓の外の視界が暗闇に覆われ、その場に居た、いや庁舎内に居た全ての者達は、何故今このような「完全なる暗黒」に包まれたかすぐに解った。いや、解らされたのである。

深夜であるにも関わらず、オストパリから遠く離れたロドモの方角から、まるで太陽が昇る時のような煌々とした、不自然な明かりが見えるのだ。

ロドモの強制労働発電所が無ければ、この騎士団領の必要電力は全く賄えない。だが、そのロドモの空が燃えるように照らされ、そして宮殿内が完全な暗黒と静寂に包まれていると言うことは、この騎士団領指導部の人間達が絶望の悲鳴を上げるには、妥当かつ当然の帰結である。

「あ、あぁ……ロドモが、我が国の心臓たる発電所が攻撃されたのだ。なんてことだ、あそこには核爆弾の実験施設まで有ったというのに……」

深い落胆と悲鳴が、騎士団領の元首の口からこぼれ出た。

そんな暗闇の中、廊下からドタドタと慌ただしく数名が騒ぎながら入って来た。そのうちの1名が、懐中電灯の細い光をヒムラーに向けている。

ヒムラーが今、側近に置いていて、プロの将軍達よりも遥かに信頼の置ける人物と評価しているアドルフ・アイヒマンである。


「閣下! ご無事ですか!!」

「おお、その声はアイヒマンか! 私はまだ無事だ、だがロドモが……」

「ロドモは落ちました! 今すぐ地下の防空壕へお移りください閣下! ここは危険です! 既に上空には敵の爆撃部隊が居ます!!」

「だが、我が国の空軍が奴らの相手をしている筈では無かったのか!? ケスラーがMiG-21で迎え撃ち敵艦隊ごと沈めると言っていたではないか!!?」

「我が国の空軍はとっくに壊滅しておりました! 司令官のケスラーが閣下を謀っておりました!! 偽装報告です!!」

「何だと!? 貴様ら、我が国の不忠なる輩はそんなところにも潜んでいたというのか!!」


情けない他責的な金切り声を全国指導者は上げるが、無情な現実は変わらない。


上空ではヴォルフガング・シェンク中佐の率いる高地の国の第51爆撃航空団が悠々と旋回して待機し、そしてトーネードIDSが次々と順番にペイブウェイ精密誘導爆弾を投下しては帰投していく。

彼らの任務は敵国首都オストパリにおける戦略爆撃であり、政治的・軍事的施設を重点的に爆撃していた。


何故ならオストパリの建物の中で指導部の庁舎や軍事関連施設だけがわざわざ浮いたような『ブルターニュ様式の建築様式』で建てられており、周囲の質素な建物とは完全にデザインが異なっていたため上空からのターゲティングが容易すぎたからだ。


まるで地上の全ての炎が煌めく星のように照らしてくれる眼下の惨状に対し、ブルグント側の対応は空から見てもわかるほど稚拙かつ無意味なものであった。


水道管が破壊されているのにバケツリレーをしている姿や燃え盛る炎を布で叩いて消そうとする者、更には熱さに耐えかねて川に飛び込んで命だけでも助かろうとしている者など、様々である。


《愉快な燃え方をしているな。華やかなパリの名を騙るクセにこんなに思想の歪んだ醜い街なら、お似合いの末路かもな》

《隊長、酷いことを仰っしゃりますね》

《ああ。だが、俺達全員の面汚しをしやがった愚か者にはこれくらいキツいお仕置きをした方が良い》


シェンクの率いる爆撃隊は残りの爆弾を再度投下すると全機一斉に本国へと方向を向けて飛び去った。


一方で地上ではブルグント兵達による必死の消火活動が行われていたが、その内容は空で見ていた彼らの想像以上にお粗末な現実がそこには広がっていた。 


「早く、早く水を! 消防車もってこい!!」

「ダメだ、全部今度の爆撃で吹き飛ばされた! 取水場も浄水場も貯水塔も、全部ふっ飛ばされたんだよ!! この街に消火用の水はもう何処にもねえ!!」

「川は? 川の水なら」

「どうやって運ぶ!? バケツリレーでもう間に合う火力じゃない! もう良い、俺達は避難するぞ!!ついて来い!!!」

「誰か井戸水持ってこい! 今すぐだ!!」


オストパリの市街地は燃え盛り完全に手が付けられない火災旋風となり、ブルグント軍は蜘蛛の子を散らす様にオストパリから退去していった。


本土深くまで侵攻された彼らはもはや軍隊ではなく烏合の衆と化しており、全ての戦線で後退に次ぐ後退を重ね徐々に、しかし確実に押し込まれていった。 


騎士団領ブルグントは、正真正銘の崩壊の時を迎えていた。


這う這うの体で地下防空壕へ逃げ延びたヒムラーは急いで今回の対策を会議室で行う事にしたが集まった将軍達の顔色は全く晴れず、むしろ地下壕へ入る前の方がよっぽど元気が有ったであろうというほどの絶望に包まれていた。


「……地下壕へ逃げ込み、上の戦線は敵に食い荒らされ、その上この様な無意味な会議を強いられ、勝ち目の無い負け戦をどうやって1日でも長続きさせるかをこうして議論するとは……。まるで何処かの誰かのようだ。あの、私たちをコケにした愚かな『総統閣下』殿のようなな!」


それは今彼が一番憎んでいる第三帝国の始祖にして立役者であり、そして史実における破滅の直接の原因と信じているアドルフ・ヒトラーに対する八つ当たりめいた悪態であった。


「指導者閣下、そのような事はございません。まだ我らは戦えます。勝てずとも、少なくとも奴らに出血を強いることはまだ可能です」

「……どうやってだ。もう戦車は役に立たんぞ? 制空権は完全に握られ、何処もかしこもドレスデンの様に燃やされ、我が首都もベルリンの様に廃墟と化しているのに、一体どうやって奴らに痛打を与えられるのだ?」


ミュラー中将は苦虫を噛み潰したような表情をしながら、本当ならばこの狂人には絶対に使わせたくなかった『最後の切り札』を提示した。


「弾道ミサイルです。我が軍のOTR-23(オカ)短距離弾道ミサイル部隊は…未だ健在です。お電話して確認を取られますか?」

「弾道ミサイル……V2ロケットのような物が有るというのか。なら、何故最初に出さなかった? もし緒戦で撃っていれば――」

「もし最初に撃てばそれを無駄撃ちする結果になるでしょう。奴らの航空機はずっと我が軍の弾道ミサイル部隊を血眼になって捜索しておりました。撃たず、移動も一切させず、森の中に偽装しながら隠していたからこそ我が軍の戦略戦力は温存されていたのです。もし撃てば、発射位置を特定され間違いなくこの高価値資産は最初に仕留められていました」


顔を歪ませたヒムラーは怒りを一度ぐっと堪え、アイヒマンに差し出された胃薬を水無しで無理やり飲み込んだ。


そして目の前の将軍達へと冷徹な命令を下す。それはもはや戦争に勝つためではない。これから確実に破滅する自分達の苦しみを少しでも敵に分け与える為の純粋な悪意の行使である。


「……いいだろう。秘匿していた事を不問に処す。だが、ロドモやこのオストパリの仇は取れ。奴らの首都ゲルマニアに全弾撃ち込んでやるのだ。我らと共に苦しめ、高地の国よ……!!」

「はっ! では直ちに発射シークエンスへの移行を命じます」


地獄の業火に焼かれるのはお前もだ、エリカ・フォン・ホーエンハイム。そして、どこかで生きているであろうアドルフ・ヒトラー。

我が怒りを受けよ、偽りのライヒよ。

千年王国は、貴様らが築くのではない。

我ら、真の親衛隊こそが築くのだ。


そう目に漆黒の憎悪の炎を灯しながら執務室から何とか持ち込めたシュナップスの瓶をラッパ飲みしていたヒムラーであった。



一方、最前線の暗闇の中。

「フェーゲライン! フェーゲライン!!」と、どこか甲高い声で叫ぶ声がした。

泥濘の塹壕内によく響く声に、フェーゲライン二等兵は紙巻きタバコをまたもや軍靴の足で火を消して、声の主である上官の元へ向かって行った。


フェーゲラインが気怠げに敬礼したあと伍長はテキパキとした無駄のない小気味良い動きで答礼を行い、永遠かと思える程の時間が立哨を交代した。


「フェーゲライン、交代の時間だ。立哨中、敵の動きなど何か起きたか?」

「いえ、何も。至って平和であります、伍長」


現在の彼らの陣地は炎上するオストパリの西部前面わずか300m。


過酷な山岳地帯からそこまで怒涛の進撃をし、ブルグント軍の包囲から完全に解放されたディートリヒ上級大将の部隊は、今にも夜襲をかけて市街地に突入しそうな勢いではあるが、流石に他の将校が「夜戦は損害が増える」と理詰めで抑えたようだ。

だが、兵士達はいつでもオストパリへの入城に備え、銃の手入れを怠らず戦力はこの無意味な戦争を終わらせる号令を虎視眈々と待ち望んでいる。


(私があの戦争(第二次大戦)を起こし、そして負けたから……ヒムラーのような今も尚執念に取り憑かれている怪物を生み、この異世界にまでこのような悲惨な事態を招いたのであるなら、私が、私の手で引導を渡さなくてはならないだろうな……)


伍長は野戦双眼鏡で燃え盛る敵の首都を観察していた。だが、ふと、視界の端の遠くの森林地帯から、一筋のオレンジ色の光が空高く昇っていく様を目撃した。


(……あれはもしや!! ロケットか!!?)


急ぎ後方の司令部に連絡を入れようとしたが、突然頭上を「ピシッ!」という空気を切り裂く破裂音と共に、敵の狙撃弾が通り過ぎた。

ブルグント軍は破滅の前の最期の悪あがきとして、絶望的な総攻勢に出ている。

高地の国に決して癒えることのない出血を強いる戦略兵器を実施したのだ。

また太陽は昇る

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