風車は燃え上がる
風車は回るよどこまでも
ジルフェルダム近郊のチューリップ畑から何とか当日中にジルフェルダムに到着すると宮殿へ向かって歩きウィレム王との会談を身分を明かした上で求め、無事面会を許可され内閣が揃っている会議室に入った。
しかし護衛のソコロワ中尉とナディアを外に出そうとする衛兵に対して万が一ではあるが月白もねが敵対的行動をしてきた際の護衛が必要だった為副官である事を主張して何とか入れてもらった。
「お初にお目にかかり光栄ですウィレム王陛下。私平原の国で摂政を務めております君塚悠里と申しましす。そして後ろに居る二人は私の副官です。」
君塚と二人は綺麗にお辞儀をしてウィレム王に粗相の無いようにして今回の内容について急ぎ協議する必要が有った。
低地の国では国王が絶対王政を敷いてはいるが実態は国王を取り巻く貴族階級や王族、富豪出身の大臣達の意向に権威付けするのが国王の仕事であり、まさにこの場に介入するのは平原の国にとって好都合な場面であった。
「うむ、苦しゅうない面をあげよ。よくぞこの西の果ての国へ参られたな君塚殿。さて、単刀直入に尋ねるがね。このような場に乱入…とまでは行かぬがわざわざ土足で上がった以上何か龍の国の問題に対してそなたは何を我等に齎すのかね?」
自らの王国にズカズカと入り込んでいた乱入者にウィレム王は関心を持った眼差しで見つめ、しかし警戒心を顕にしながら尋ねた。
「龍の国からの保護でございます陛下、軍事通行権の許可を求めます」
「安全保障なら間に合ってる!同盟国である高地の国の国家人民軍が1個大隊駐屯しているんだぞ!!龍の国からの軍など、我らの軍と国家人民軍で粉砕してくれる!!!大体得たいの知れない奴等は高地の国だけで充分だ!!!!」
アードルフは君塚に対して大声で叫び今回の申し出について反対の姿勢を示した。
高圧的なれど軍事力の強い高地の国と同盟国であるのに政変後まるで事情が良くわからない平原の国との同盟を結ぶなど正気の沙汰では無いからだ。
「では、明日にはこの王宮から見える花畑や風車は燃やされるでしょう。既に龍の国は動員を発令して下級妃達は越境してきています。…まだその報せは届いてい無いのですか?」
「! 何だと、一体何処から─」
「よせアードルフ・ヴァン・ナッサウ大臣。…儂は知っておるが。じゃが既に軍が追い払っておる、それも高地の国の国家人民軍の部隊と共同でな」
ウィレム王は心強い安心しきっていた、訳では無いが
国家人民軍駐屯部隊が既にIV号戦車で追い払っている事を報告で聞いていたからだ。
「では再度お伺いしましょう。─何故、こんな大切な議題の会議にその追い払った張本人たる国家人民軍の司令官がいらっしゃらないのでしょうか?」
「…ああ、そうじゃ。問題無いとあそこのシュタインベルク少佐が報告して、下級妃達を追い払って自発的に帰らせたからじゃよ。我が軍の軍人曰く威力偵察の可能性も有るが、儂は戦力不足故に帰ったと見ている」
月白は何か言いたげではあったが生来の気の弱さと優柔不断さ、そして場に流される傾向のから何も言い出せずアワアワと慌てふためくだけであった。
「奴は既に国境線へ下級妃部隊を貼り付けて居ますし山の国の傭兵達も姿を現している。…我々の戦力は無駄にはならないと思いますが」
「ふむ…のう、月白や。お主はどう思うか、この者達の申し出は受けるべきか否か」
「ふ、ふえぇ!?わ、わわわわ私ですか!??え、ええと…そ、そのですね、…君塚さん?でしたっけ、一体幾らほど戦力を展開出来そうでしょうか?」
月白は王に話を振られて慌てるも君塚にどれだけの兵力をこの低地の国に展開可能か尋ねた。
どれだけ彼が勇み、兵を展開すると申し出があっても戦力不足であるなら兵站上無駄飯食いを抱える事になりむしろ不要である。
(儂らの国に何が起こったか此奴が知らぬ筈が無いのにわざわざこの国に警告の為に来ているとは…一体何の目的が有るのだ君塚悠里…?儂らをカジミエシュのように上手く陥れようと考えておるのか?)
そして転生者に対して慎重なのはウィレム王が転生者に怯えている所が有るからだ。
ウィレム王は愛する妻との間に3人の娘に恵まれ、長女のウィルヘルミナは次期女王と目されていた人物で次女のベアトリクス、三女のユリアナも見目麗しい美女であり3人とも聖女として目覚めていた。
そんな三人を無惨に嬲り殺したのは転生者達の暴動であり、ウィレム王も軍を率いて立ち向かうが敗れ虜囚の辱めを受け王国は誇りと共に全土を地獄の業火に焼かれていた。
そんな中月白もねが悪鬼羅刹と化した転生者達を尽く狩り尽くして悪夢を終わらせてからジルフェルダムの再建を手助けしていた。
彼女は神堂のような存在が、他者の不幸をものともしない傍若無人で悪魔の様な存在がこの世で最も嫌いであり数々の悪行を見て不愉快な思いを胸に彼らを鎮圧した。
低地の国の民に対しては食糧を生み出して飢えを凌がせたり服を描いて寒さを凌がせた。
アードルフ大臣はそんな彼女を推挙し王国の中枢に招いて英雄としての地位と権威を与えて王国指導部の権威と威光を取り戻す事に成功した。
だがしかし、民の間では転生者恐怖症が蔓延しており転生者の脅威については完全に立ち直れずやむなく高地の国の軍を受け入れて彼らに防衛の一翼を担ってもらいつつ低地の国の正規部隊が復活するまでの時間を稼いで貰うことにした。
そんな経緯が有り今回の龍の国の侵攻については極力箝口令を敷いておりもしバレたら低地の国は集団ヒステリーで統制が取れず前回の様な悲惨な末路しか待っていないだろう。
「私の率いる部隊は既に低地の国の沖合に居ますし、この大空にも我らの兵士が即座に展開する事が可能であります」
「ほぉ…じゃがの。儂は民にあまり負担を強いてくない。じゃから…」
「今回の出征は我が国の情報によると上級妃が来るそうです。龍の国は貴国の侵略行為に対しては本気です。そして─そちらの月白さんにも関係のある人物が今それらを率いています」
「…そうですか。大体察しは付きますが、念の為お伺いしてもよろしいでしょうか?」
月白が強い関心を示した。
神堂以外の関係性の有る神堂関係の人物については何人か心当たりが有るが恐らく彼女達である事は内心わかっていたからだ。
「月白美嶺と月白真奈です。ご存じですよね、月白もね殿。」
「…はぁ、やっぱりでしたか。そしてギフトも恐らく…私への嫌がらせのようなギフトの能力なのでしょう?」
もねは最早ギフトにさえ内心察してしまえるほど二人の内心が手に取るように分かっていた。
「彼女達のギフトについては月白美嶺が全てを飲み込み汚して消す『白濁汚濁』、月白真奈は認識した物をどんな物でも燃やし尽くして焼き払う『火炎万丈』。どちらもこのジルフェルダムを壊しきれる程の範囲を制圧可能です、では明日にも攻めてくる敵に対して高地の国の手勢は間に合うでしょうか?」
「そ、それは」
「それにIV号戦車では火炎万丈の格好の餌食です。まさに鉄板の上の肉の様に焼き焦げた戦車乗員の丸焼きガソリンの風味を添えて、って成るでしょうね」
アードルフは最早どうしたら良いか分からなくなった。
敵国から侵攻してくる悪魔がジルフェルダムを再び壊し尽くす程の強力な力を身勝手な男のわがままの為に振るうなど身の毛もよだつ悪夢であった。
「…確かに私のギフトとは相性は悪いかも知れません。少なくとも私の空間絵画は塗ることにより効果を得ますからその塗料を塗り潰されては…そのぅ…やっぱり…ごめんなさぃ…」
「ううむ…じゃがのお…」
ナディアがこの場を何とかしようと口を開いた。
「ウィレム陛下、私共も平原の国が侵攻する為にこのような事を申している訳では無いのです。なので何卒此度お伝えした件、我らが王ヤドヴィガに代わり申し上げます。…良きお返事お待ちしております」
「…平原の国の摂政たる私からもお願い申し上げます陛下、何卒熟考された上でのご決断お待ちしております。ただ、時間はあまり残されておりませんが」
そして三人が去った後低地の国の政府首脳陣は頭を抱えた。
この世界の転生者トップ層の龍の国の上級妃率いる部隊が侵攻してきてて尚且つ自国の併呑を目論むのであれば恐慌状態にならなかっただけでも御の字である。
「どうすれば良い…あやつらを信じれば儂らは転生者に屈した事に成る…」
「陛下…」
「へ、陛下…私なら、あの、その、闘いますが…ええと」
「ならぬ。もね、そなたはまだ若い女子よ。斯様な戦争にこれ以上巻き込ませては王として恥を掻かねばならぬ」
大臣達は自らの王に何か言葉を投げかけて欲しかったが故に言葉を出せず自らも助けを求めてしまう程に追い詰められていた。
そして低地の国最高戦力たる月白もねの投入もまた議題に上がってしまった。
そして昼頃の騒動から時間が過ぎて夕暮れ頃、風車は夕日に照らされて白亜の外壁が美しさを際立たせて入り組んだ水路は今日も様々や積荷を乗せた船が行き交っていた。
「…ここも奴の支配下に落ちるのか?やはりここの高地の国駐屯部隊はだらしがなかった、俺の部隊の方がよっぽど規律が整っているぞ」
君塚は少しうんざりした表情で国家人民軍の大隊長が軍服のまま売春宿に入っていく姿を見て消沈していた。
「閣下…私はその…別に閣下の為なら」
「要らん。ナディア、君にはもっと相応しくてイイ男がきっと何処かに居るからそいつに尽くせ。君なら出来るさ」
ナディアはむっとした表情で君塚を睨みつけていたが怖さを全く感じさせない可愛らしい膨れっ面である。
それに引き換えソコロワ中尉─レーナは持参したSVUの整備に余念が無かった。
高地の国を名乗るファシストのような軍人どもがだらしなかったので自身はしっかりと軍人である事を再確認する為に銃身を磨き上げ弾倉のチェックを丁寧にしていた。
「…同志閣下、厄介な事になりそうですね。特にあの国家人民軍とか言う連中、我々の足を引っ張らねば良いのですが…」
「高地の国の主力たる国防軍が中々出てきやがらねぇ以上、レーナ…多分明日まで持ちそうか?ここを攻められると」
「恐らく1日持てば御の字、半日が限界でしょう」
レーナは流石にベテランの軍人故に簡単にこの街の陥落を予想していた。
彼女からしたら一方を白濁汚濁のギフトで消し飛ばしもう半分を火炎万丈で燃やし尽くして討ち漏らしを残りの下級妃で制圧すれば良いのだからソ連軍の得意な物量による市街地制圧をギフト持ちは単身で実行出来る当たり上位層は規格外なのだろうと思った。
そんな時である。
突然遠くの風車が燃え始めた。
運河が白く染まる。
青き美しき運河から悪臭が立ち籠める。
次々と風車が燃え始め運河が汚されて船は沈み、そして徐々に遠方から100人程度の軍勢が近づいてきていた。
間違いなく龍の国の妃軍団でありその主力部隊が侵攻を開始していた。
「ああ、やっぱか…急いでウィレム王の許へ向かうぞ!あの方の承認が無ければ我々は大義名分無しに低地の国を侵攻した侵略者に成ってしまうからな!!!」
君塚はウィレム王の居るであろう王宮へ駆け出した。
護衛の二人も後から続いている。
「はい!閣下、お供します!!」
「同志閣下!先走らないでください、守れませんから!!」
でも燃やされた




