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何故現代兵器をファンタジー世界へ持ち込んではならないのか?  作者: ウォルギリウス
第二章

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破門される

修正済

平原の国に、鉛色の朝が訪れた。

聖女教総本山・神聖皇務庁による「破門宣言」。その衝撃は、君塚の想定を遥かに超える速度で国中を侵食していた。王都ズラトポルの大聖堂前には、救いを求める市民が蟻のように群がっている。だが、その重厚な扉は冷酷なまでに固く閉ざされたままだ。

「どうしてだ! なぜ聖堂の中に入れてくれない!?」

「昨日亡くなった父の葬儀はどうなるんだ!魂をどう慰めろと言うのだ!!」

「私たちは……本当に神に見捨てられたのか?!」

悲鳴にも似た嘆願が木霊する。被害は教会だけに留まらない。墓地への鉄扉には太い鎖が巻かれ、死者への鎮魂すら許されない。皇務庁の厳命を受けた神父や司祭たちは、長年守り続けた教会を焼き払ってでも撤収する構えを見せていた。

郷土愛に篤い若き聖職者たちの抵抗も、「破門」という絶対的な権威の前には無力だった。

執務室の窓から眼下の混乱を見下ろしていた君塚は、冷めたコーヒーを一気に煽った。口の中に広がる苦味は、今の状況そのものだ。

「……読みが甘かったな」

誰もいない執務室に、自嘲が落ちる。

財政健全化のための「十分の一税」廃止。

現代的な政教分離の観点からは正義でも中世的価値観が骨の髄まで染み付いたこの世界において宗教的権威を敵に回すことの「実害」は計り知れなかった。

君塚はそれを、砂糖菓子のように甘く見ていたのだ。

「宗教改革や国教会設立なんて大業は、信頼できる宗教家がいて初めて切れるカードだ。今の俺の手札には、そんなジョーカーは一枚もありゃしない。全くな…」

自身の軽挙妄動を鼻で笑い、デスク上の報告書に視線を落とす。

平原の国では精神的な支柱を失っただけではない。

もっと物理的で、致命的な欠陥が軍を蝕んでいた。

ノックと共に、ヴァシレフスキー元帥の幕僚が駆け込んでくる。彼から手渡された報告書をめくると同時に、焦燥に満ちた口頭報告が続いた。

「同志閣下! 軍需・兵站部門より緊急報告です。前線の弾薬備蓄率、及び燃料輸送能力が限界値に達しています。もし今、戦狼の国と全面戦争になっていれば……一週間で全部隊がガス欠で立ち往生していたでしょう」

(…成る程、つまりあの時の砲艦外交は大正解と大失敗の両方だったってことか?)

君塚は無言で頷いた。

確かに戦車や装甲車の数はある程度揃えた。

だが、その鋼鉄の巨獣を養うための「足」――トラックと、空からの支援が絶望的に欠如している。攻勢どころか、戦線の維持すらままならない。

「表層だけ取り繕って、足腰が死んでいる頭でっかちの軍隊か……。こんな間抜けな組織は修正するぞ。可及的速やかにだ」

「は……?」

「想定より規模はデカくなるが、構わん」

君塚は躊躇なく『軍隊創造』のギフトを発動させた。

事前に調査済みだった無人の荒野。そこに、突如として現実を侵食するように巨大な滑走路と管制塔、そして無機質なハンガー群が出現する。

続いて空間が歪み、次々と鋼鉄の翼たちが産声を上げた。

空気を切り裂くジェット音と共に現れたのは、制空権を絶対的なものとするMiG-29SファルクラムとSu-27Sフランカー。その数、計64機。

さらに、対地攻撃の要となるMiG-23MLD、Su-25、Su-24といった攻撃機群が、猛禽類のように翼を広げる。

そして、見る者を畏怖させる独特のローター音を響かせ、"空飛ぶ戦車" Mi-24Pハインドの大編隊が空を埋め尽くした。

「制空権さえ取れれば、あとは彼らの狩り場だ。狩人たちにのびのびハンティングしてもらわなくてはな、幸い対空ミサイルのような物は無いしな。」

仕上げとばかりに、軍の血管となるトラック車両群――ZIL-131、ウラル-4320、MAZ-537が地平線を埋め尽くすように具現化される。その数、一万両以上。

鉄道網未発達なこの国において、このトラック群こそが勝利への生命線となるはずだった。

「しかしこれだけ召喚したせいでしばらく軍拡は不可能だな…今ポイントはそんなに残っていないし収支も今回の件でトントンだ。全く、こんなにデカくなるならもう少し早く備えるか何か出来たような気がするな…やれやれ」


君塚の号令一下、いびつだった王国軍は劇的な変貌を遂げた。民兵と騎士が混在する「中世の軍隊」から、戦列歩兵を主体とした職業軍人により編成される「近代的な常備軍」へと、本当の意味で脱皮したのだ。

          


一方、国内の腐敗臭も限界に達していた。

離宮に軟禁されているはずの旧王族たちが、懲りずに蠢きだしたのだ。

「あの愚かで下劣な異邦人の男が……! 神に見放された異端者が、いつまでもこの国の玉座で我が物顔でいられると思っているのか!」

廃王カジミェシュは、離宮を訪れる反体制派の貴族たちに唾を飛ばして喚き散らしていた。彼らの態度は日に日に増長し、特に第1王子アレクサンデルの愚劣さは、もはや喜劇の域に達していた。

視察に訪れた君塚の傍らに控えるナディアに対し、アレクサンデルはねっとりとした視線を這わせたのだ。

「おい、そこの褐色。君塚の夜の相手も飽きただろう? どうだ、次は王族の相手をしてみないか? 報酬は弾んでやるぞ」

ナディアが無言で攻撃魔法を構える為に拳を握りしめるより早く、君塚が彼女の前に立った。だが、激昂はしない。ただ、路傍の石を見るような冷徹な瞳で一瞥し、無視を貫いた。

彼らに割く言葉すら惜しかった。

「君塚様……申し訳ありません。私の家族が、あのような……」

心を痛めるヤドヴィガに対し、君塚は表情を緩めて声をかける。

「殿下、気になさらないでください。彼らは所詮、過去の遺物です。……まともなのはゾフィア姫くらいですか」

「ええ…姉様だけは……」

14番目の王女ゾフィアだけは、一族の狂気から距離を置き、諦念の瞳で事態を静観していた。だが、彼女にそれを止める力はない。

そして、破門宣言は、借金塗れの不満分子たちにとって格好の「燃料」となった。

「君塚とヤドヴィガを討て! カジミェシュ陛下を復位させるのだ!」

とある貴族の子弟が叫んでそれは現体制への不満を煽る結果に成った。

某国の密使から渡された工作資金が、彼らの欲望に火をつける。衝突は不可避だった。


その夜、離宮からの定時連絡が途絶えた。

確認に向かった兵士が目にしたのは、無残な血の海だった。銃撃戦の痕跡以上に、何かに食いちぎられたような跡や、鋭利な刃物で切り刻まれた遺体が散乱している。

「報告します! 離宮警備隊、全滅! ……状況が異常です。これは通常の襲撃ではありません!」

「……『転生者』か」

君塚は即座に結論付けた。王国軍と君塚の私兵、双方が一方的に虐殺されている。このような手口はこちらの世界の常識ではない。

時を同じくして、王国西部で反体制派貴族が武装蜂起した。

「我らはカジミェシュ陛下を迎え入れた! 逆賊を討ち、神の国と聖なる王国を取り戻す!」

歓喜の声と共に、旧王族を旗頭にした反乱軍が結成される。

その背後には、神聖皇務庁、龍の国、さらには低地の国までもが影を落としていた。

「君塚様……! 私が甘かったのです。家族だからと情けをかけたせいで……!」

蒼白な顔で謝罪するヤドヴィガの肩を、君塚は強く掴んだ。

「殿下が自分を責める必要はありません。……むしろ好都合だ。それと契約に関してはまた後で話し合いましょう、それよりもこれで国内の反乱分子の『掃除』をする正当な理由ができたのですから」

君塚の瞳に、かつてないほど冷たい炎が宿る。

「他国の介入を許す前に終わらせる。貴女の治世に泥を塗るような連中だ……完膚なきまでに叩き潰す」

反乱軍の総数は3万。対する正規軍は2万5千。

数では劣る。だが、その中身の質は、数世紀分の隔絶があった。

反乱軍の実態は、烏合の衆そのものだった。食い詰めた傭兵、ならず者の騎士、借金貴族。彼らは各々略奪に勤しみ、総司令官ピエール枢機卿の命令など聞く耳を持たない。

特に龍の国から派遣された二人の少女――「転生者」たちは、協調性のかけらもなかった。彼女たちが離宮の惨劇の下手人であり、カジミェシュらを連れ出した張本人であることは、ピエールたちこの戦争を引き起こした者達以外知る由もない。

対する王国軍は、この一年で君塚によって徹底的に練磨されていた。

「王国軍軍人諸君、準備はいいか。これは『戦争』ではない。『鎮圧』だ」

開戦から4日後。

王国軍は事前に策定されていた西方の補給線に沿って進撃を開始した。

上空にはSu-24MR偵察機が飛び交い、敵の布陣から指揮所の位置まで全てを丸裸にする。圧倒的な情報格差。見えない空からの目によって、反乱軍は文字通り「何も知らぬまま」削り取られていった。

小部隊が次々と各個撃破される中、カジミェシュ8世とアレクサンデルは焦燥と激昂に駆られた。

「おやめください陛下! 自ら出陣など!」

「ええい、どいつもこいつも不甲斐ない! 朕が自ら指揮を執る! 黙ってついて来い!!」

「そうだ、皆のもの、俺と父上に続け!!」

ピエール枢機卿の制止も虚しく、彼らは本隊を率いて無謀な攻勢に出た。

しかし王国軍の猛烈な反撃に遭いやむなく撤退した。

指揮系統は崩壊し、反乱軍本隊は、まるで導かれるように「盆地の底」へと入り込んでいく。

周囲の高地を王国軍が完全に制圧しているという、戦術的自殺に等しい死地へ。

彼らは王国軍の布陣に気づくことさえなかった。

高地から眼下の盆地を見下ろし、君塚は、獲物にすらなり得なかった哀れな群衆に視線を送った。

背後には、転生者がいた際の万が一の「火消し」としてメレツコフ元帥率いる最新鋭の機械化軍団が控えているが、その出番すらなさそうだった。

「……この戦いであの馬鹿どもの命運は終わりだ。下らぬ欲をかいた暗愚極まりない逆賊どもの宴に、ここで幕を下ろしてやる」

再アップ

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