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くいかえし『lとr 』  作者: 上尾こたつ
13/14

12、過去の隔たり


真っ白い柱の間から見える青空は一段と眩しい。

 

「よそ見していると、迷子になるぞ」


言われなくとももう迷子になっている。


魔術師総会本部。もう何度目か訪れた場所だが、目が眩みそうなほど眩しい白い建物は迷宮だ。


目の前を歩くラシオンの後のついて歩くことはできるが、彼がいなければローリエは歩けない、そう歩けないのだ。


「ラシオンさん、つかぬことをお聞きしますが、……その魔術訓練は、ラシオンもいますか」


「俺は、ギルドの仕事がある」


当然ローリエだけの仕事だ、ラシオンはいない。


「つまり迷子になりますね」

「そうだな」

否定されなかった。ラシオンも想定できてしまったのだろう。


「訓練が終われば向かいに来る、ギルドに帰れないことはない」

「はい」


ギルドと総会本部は歩いて通える位置にあるため、ローリエは二週間ギルドから通う事になっている。

朝少し早く起きなければならないが、全く知らない場所、知らない人だらけの場所で寝泊まりするよりかはずっと良い。


何せローリエは魔術を使うだけの魔力量はあるが、魔術師としては心許ない量しか無いらしいのだ。

訓練中ショボい魔力を連発して、周囲から白い目を向けられる自分の姿はすぐに思い浮かんだ。


「強化と言っても実際は個人の力よりも団体での連携力を高めることが目的だ、王族を護衛するのは、直属の近衛騎士の上に、観覧席も一般とは違い魔術師総会総帥、つまり主催者専用の席になる」


ラシオンは改めてそうローリエに説明する。


魔術師総会総帥、この組織で一番偉く、すごい魔術師が王族と一緒に観覧と護衛もかねるから、ローリエ達が直接身を呈すことはない。


例年と違うのは当時、ギルド職員と魔術師学生のボランティア会場警備ではなく、ある程度の想定訓練を受けた状態にし、しっかりとできる対策はしていますよーと周囲にアピールするためだと言う。


「そもそも、総会本部は高度な魔術結界が敷かれている、ここの警備は王宮と同等、その上リーブル総帥が常に目を光らせているからな、そんな肩を強張らせる必要はないし、そんな顔をする必要はない」


廊下の先を真っ直ぐ向いたまま、そう話したラシオン。


迷子にならないようにずっとその後姿を見ていたローリエはラシオンがこちらに目配せした様子が見えなかった。


「ラシオンさん、背中に目がついていますか」


「前もそう言っていたな」


言っただろうか。言いそうではある。ラシオンと出会ってからまだ一年と半年なのに、彼はローリエの内心を読んだかのようにその不安を言い当てる。言い当てるが顧みることはないのだが。


「心が読める魔術を使っているとか」

「そんな魔術ない、少なくとも現在公表されている魔術史には存在しない」


否定はしないらしい。


「魔術は未だ解明途中の産物だ、基礎、応用ともに出尽くしたと言う者もいるが、それは個人の想像力の欠如が問題だ……普通の生活に置いて必要がない産物は総じて名前も与えられることなく、現象の一種として、存在が掴めないまま放置される物は山ほどある……お前の魔術のようにな」


この施設の図書館で初めて触れた、ずっと頭の中にあった魔術陣。

「範囲内の声を聞く事ができる」ただそれだけの魔術は確かに普通の生活では必要ないだろう。


自身が魔術を教わった場所だからか、ラシオンは普段よりも饒舌で、同じ冷淡な物言いだが少し力の入った口調にローリエは首を傾げた。


「ラシオンさん、もしかして()()()()()|んですか?」


パタパタと、ラシオンの横に並びその顔を覗き込みながらローリエが小さな声でそう問うとラシオンの眉間にシワがよっている。


ローリエに魔術を教えたラシオンは、訓練する上で、ローリエの固有魔術を知り尽くしている。

ただ、こうやって実際に使っている姿を見るのは初めてで、少しこそばゆい感覚がした。


「ローリエ、この場所には多くの魔術師がいる」


「はい、わかっています」


「魔力、家柄、それらに恵まれたからといって、全ての人間が聖人になれるわけではない、どうしようもない性悪もいる、今回の基礎訓練でそう言った人間も一人はいるだろうが、相手にするな……」


「了解しました」


新鮮な感覚と心配の言葉にローリエの不安は何処かに行った。


「あと、必要ないと言ったが……」

「はい?」


「なかなか、便利だ……」


どうやら、先ほどの説明が自分で言って引っかかっていたのだろう。実際そうであるのでローリエは気にしていなかったが本人が気にしているので、これを気にし茶化す事にした。


「フッフーン!」


しかし茶化すと言ってもローリエが咄嗟に上手い言葉を言える事はなく、ただ胸を張って、鼻を高くして見せただけだった。


その姿にラシオンは無意識にローリエの赤毛にそっと手をのせていた。


「あら?」

不意に白い世界に声が響く。


背後から聞こえた声は、ローリエとラシオンの背に届き、二人は同時に振り返った。


「久しぶりね、ラシオン」


涼やかな女性の声、長く緩やかなウエーブを靡かせる髪、高いヒールのコツコツとなる音と背筋を伸ばした歩く姿。


全てに目を取られるがそれ以上の物にローリエは目を見開いた。


「……ルージュ・ラデアード」


隣にいるラシオンが口にした名前を持つ彼女は、ローリエよりも鮮やかな赤い髪を持ち、その陶器のような白い肌に赤い弧を、口元に描いた。


綺麗な人だとローリエは思った。ウェーブのかかった長い髪もこの距離からでもわかる長いまつ毛そして何よりスタイルが良い。


大人の女性と言う言葉がピタリと当てはまる人だ。


「そちらの子は?」

ジッと見ていたから女性が尋ねると同時に目が合いローリエは肩を縮ませた。

「えっあっローリ」「ギルド職員だ」


舌をもたつかせながらも呼び名を発したローリエだが、最後の一音はラシオンによて被せられてしまった。


何故と思ったがラシオンの纏う空気がいつもと違う感覚がしてローリエは静かに口を引き結んだ。


ラシオンの学生時代の話は一度も聞いたことはない。


ただ彼が優秀だったことは知っているが、何をして、どのように優秀だったのか聞いたことはない。


学生時代、同じ立場で彼について語る人間がギルドに現れなかったからだ。


「久しぶりね、ラシオン」


「……あぁ」


だが、今はラシオンの在学していた魔術師総会本部に来ている。それはラシオンの過ごした風景や人に出会う可能性が上がると言う事。


親しげには見えないが気軽な雰囲気で言葉を交わす二人にローリエは疎外感を感じてしまった。


その女の人がリーリエと同じ赤毛であることもその原因だろう。ルージュ・ラデアードと言われたその人はすごく綺麗な人だった。


ふわりとウェーブのかかった腰ほどまである艶のある赤毛は宝石のようで、その赤の映える白い肌にスタイルの良い体はタイトなスカートと何の飾りもないシンプルなシャツ姿、仕事が出来そうだ。そう思ったローリエは、無意識にラシオンを横目で見る。


(ラシオンさん、こんな綺麗な人と知り合いだったんだ……)


仕事で来た懐かしいの場所で再開した学友、きっと今まで見た事のないラシオンの表情が見れるはずだ。


(どんな表情するのかな……笑うのかな……)


そっと想像し始めたローリエの頭の中に綺麗な女の人に話かけられてた、冒険者達の姿が浮かんだ。


青年もおじさんも皆鋭い顔つきが一変して目尻が下がり鼻の下が伸びた表情に変わっていった。


(ラシオンさんがあんな表情になるのか……なんか嫌だな)


想像して少し後悔した、いつも無表情でキリリとしたラシオンの表情が変わるその瞬間がよりにもよって鼻の下を伸ばす瞬間になるのは。ローリエの中の頼りになるラシオン像を壊しかねない。


どうかいつものラシオンでいてくれとローリエが一人悶々とし始めたと同時に、ラシオンがローリエに前に立ちその視界を遮った。


(見えない!ラシオンさんの顔も女の人も!)


「ギルド職員にしては随分と若い子ね?」


「そうでもないだろう」


ローリエは考え事をしていたため気づかなかったが、ラシオン達が久しぶりと挨拶を交わしたその後、わずかな、そして不自然な沈黙が流れた。


「そうね、こんにちは私の名前はルージュ・ラデアード。ラシオンくんと同じ魔術学園(ここの)卒業生」

「あ、はいローリエです」


今度は直接、ラシオンの背にすっぽりと隠れたローリエを覗きこみ自己紹介をし微笑みを浮かべたルージュに、ローリエもたじろぎながらも名乗る。


「ローリエちゃん、可愛い名前ね……もしかしてギルドからの魔術訓練生?」

「は「そうだが」


ローリエに聞かれた質問を何故かラシオンが食い気味に返した。

 二度目の行為にローリエはあからさまに「えっ」と声を出したが、ルージュは特に気にする様子もなく。笑みを浮かべたままラシオンに向き直る。


「そうなの、私も補佐係として参加させてもらうからよろしくね」


「……ラデアード……何故学園にいる、お前は王都の研究所勤務になったと聞いていたが」


「えぇ、でもずっと同じ仕事も飽きるでしょう、たまに学園の方から依頼がくるの、今回もその依頼を受けただけよ」


声はいつもと同じだが、警戒するような話口調のラシオンに普通ならそこで、なにかを察しそうだが、何故だかローリエはそうは思い至らず、ラシオンの行動に頭を悩ませていた。


「行くぞ、ローリエ……遅れる」


最後の声はローリエにだけ聞こえる声で言い、ローリエの体を反転させ廊下を進み始めた。


手を引かれ、白い廊下を先ほどよりも早い歩幅でローリエは歩く、少し前は流れる風景を見ていた瞳はラシオンの内心を探ろうとその背中を見る、少し不機嫌なのは引かれた手の握る力でわかり、自分の知らない彼の過去がその強引な姿から壁となって隔てられているような気がした。


だから無意識にその壁の向こうにいるであろう人を振り返り見てしまった。


ほんの少し気になったその女の人は、振り返った先にはおらず、少しばかり胸の内に広がったモヤモヤはつっかえて解消されることはなかった。


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