月曜日の動画視聴会④
秀才キャラの基哉の言葉に、う~んと場は静まってしまった。朋子のバイト禁止規則は、ウチの高校も同じかもと知佳が付け足すにつけ。
何と言うか、どこの学校も事なかれ主義なのが透けて見えてガッカリな感じ。その点、充希と和也の東雲一高校は、割と自由な校風には違いは無い。
そうは言っても、校則はある程度守らねばならないのは当然である。それは社会のルールを守る事にも繋がるのだが、カリキュラムに関しては至って普通かも。
充希も和也も、このまま部活動に入らなかったら物凄く平凡な学生生活を過ごす事になるだろう。もっとも現在は、放課後にこんな特殊な活動を行っている。
そういう意味では、間違っても平凡な学生時代とはならない筈。とは言え、この『ニー党連合』も、様々な問題を内包していて一筋縄では行きそうもない。
例えば集会場所問題とか、金銭的な面で言っても自腹での活動継続はちょっとキツいかも。週末の農作業も、どうしても諸経費が掛かるし時間もそれなりに取られる。
学校の文句など並べ立ててる暇は無いのだが、そんな自分たちが現在は学生と言う身分なのだ。金を稼ぐ算段をするより勉学に励めと言われれば、返す言葉も無くなってしまう。
だからと言って、学校の授業で身に着けた知識だけで立派な社会人になれるかは大いに疑問である。基哉の言う通り、型にはまった無個性な集団が生まれるだけな気もする。
その現代の教育システムは、ただ単に教える側の教育者が楽なだけなのだろう。無駄な労力を割かないために、生徒達がバイトや政治に関わる行為を全面的に禁止する。
社会の荒波は大変なのだが、それを教えずに送り出すシステムは間違っている気がする。自由と不自由さ、そのバランスを保つのは本当に大変。
それを補うように、朋子からの提案が為された。つまりは授業とは別に、この『ニー党連合』の集まりで色んな雑学や教養を身につけようと。
もちろん一番の目標は、ニート問題の解決に他ならない。ただしそれを成すにも、自分達の知恵や教養の大幅な底上げは必須である。
それを含めての今後のこの集まりの方針は、この場の皆に概ね受け入れられた。これから一緒に頑張ろうねの雰囲気が、狭い室内に座る学生たちの間に充満する。
そんな感じで話し合う内に、直哉の母親のお茶とお茶菓子の差し入れが。毎度の心遣いに各自でお礼を言いながら、そろそろ集合場所の問題も片付けなきゃねと誰かの呟き。
幾ら崇高な目的があっても、人様に迷惑を掛けている内はまだ半人前である。顧問の問題も決まったとは言え、まだ本人に確認も取っていないのだ。
順調なようでいて、まだまだ問題も多いこの『ニー党連合』の船出ではあるけど。さて、動画を発表した後にどうなるかが見モノである。
少しでも、良好な反応があれば励みにもなるのだが。
「そういえば、ユーチューブってどうなったら勝ちなんだ、直哉? 俺はほとんどその手の物は見ないけど、判定方法があるんだろう?
バズるとかって言葉を良く聞くけど、そんな状態になれば良いのか?」
「えっ、ガンちゃん本当に知らないんだ……投稿者が気にするのは、主に登録者数と再生回数かなぁ? まぁ、どっちにしろ1つ2つ動画を上げた程度じゃ、そんなに数は増えないよ。
良質な動画を、定期的にどんどん作って行かないとね」
「世界中に色んな有名ユーチューバーがいるけど、両極端な例を紹介しておこうか、充希。みんなも知識として、今後出すアイデアの参考にしてくれ。
まずは小さな子供のユーチューバー、この子は色んなおもちゃで遊ぶ姿を動画で撮って、そのおもちゃの評価を発信してるって話だ。
これが物凄い登録者数で、企業案件まで舞い込むって話だよ。
「企業案件って何だ、基哉?」
その業界の知識がほとんどない充希は、素直にそう尋ねて来た。訊かれた基哉は、前もって勉強した情報を皆の前で披露する。
ユーチューバーで稼ぐには、幾つかの手段が存在する。動画をサイトにアップして、ユーチューブ側から広告収入を得る方法がまず1つ。
それから、ライブ配信で投げ銭を視聴者から貰ったり、今話題に出た企業案件もお金を稼ぐ手段となって来る。つまり動画内で企業を宣伝して、その広告料を貰うのだ。
ただしこれは、ある程度有名にならないと案件自体がやって来ない。さっきの例で言えば、登録者数を多く持つ子供にウチのおもちゃを宣伝してくださいと企業がお願いする形。
下手にCMを打つより、その子供の視聴者は元々おもちゃのレビューを聞きたくて動画を観に来るのだ。テレビを見ている不特定多数にCMを流すより、ずっと効果が高いのは誰もが理解出来る。
まだ始めても無い『ニー党連合』には関係ないが、数字を持つって事は力を得るって事でもある。実際に有名なユーチューバーは、今や国民の誰もが名前を知るレベル。
「そんな感じで、お金を払うからウチの商品も宣伝してくれって企業からの直接の提案だな。動画の再生と共に企業のCMも流れるのは、また別の収益になる訳だ。
考え方としては、再生回数が多い程お金も多く入って来るって思っておけば間違いないかな」
「ちなみに時勢なのか、今や“ユーチューバー”は子供の憧れる職業の上位に入ってるよ。付け加えると、うちらが名乗ってる政党の“政治家”は、どの時代でもランキングに入った事は無いんじゃないかな?
さっきの話に繋がるけど、政治家ってどう言う枠組みで捉えたらいいんだろうね?」
そう付け加える和也に、スパイス効いてるなと楽しそうな充希の返答。確かに将来は政治家になりたいって口にしてた同級生って、いないかもねと朋子と知佳も話し合っている。
頭の良い人間が勧められる事はあるかもだが、政治家=汚い人種って刷り込みは、既に一般に広まって久しい気が。宗教団体=ヤバいってのと、双璧を成すイメージが形成されているのかも知れない。
それが前述の、学校でのポスター騒動になったのと思うとちょっと悲しい気が。
ちなみに、さっき話題に上がった登録者数は、俗に言うチャンネル登録と言う意味らしい。そのユーチューバーの上げた動画を、毎回積極的に観るよと言う数になるとの事。
その基哉の丁寧な説明に、なるほどそうなのかと納得した感じの充希。側にいた2人の女性陣も、細かな流れは実は分かっていなかった模様。
なるほどねぇと、感心しながら熱心に聞き入る素振り。それから知佳が、両極端ってどういう意味なのとさっきの説明の続きを催促して来た。
それを受けて基哉は、これは日本人の85歳のユーチューバーらしいんだけどと再び説明を始める。昭和の時代の就職面接や飛び込み営業などを、コント仕立てで動画で撮影してアップしているそう。
それがバズって、若年層が多いと言われるユーチューブで異例の登録者7万人だそうな。それは凄いねと、幼児と高齢お爺の動画の活躍に舌を巻く一同。
そんな感じで極端な内容が、視聴者にはウケるのかも知れないねと。そんな分析をする一行だが、そうなると自分の所の動画の売りが薄く感じてしまう。
壮大な目的こそあるけど、撮影した内容は楽しみながら開墾をしている高校生ってだけ。感動とか地域貢献的なニュアンスはあるけど、それが果たして伝わるかどうか。
とは言え、田舎の過疎化や放棄農地、それからニート問題はどれも大きな社会問題である。それに取り組んで行こうとする『ニー党連合』の活動は、上手い事宣伝すればバズる可能性も無くはない。
その辺は、やはり編集や宣伝次第だろうか。
そう振られて、やや緊張した顔持ちになる和也と直哉であった。それでも最終チェックはみんなですると聞いて、幾分ホッとした表情に。
とにかく楽しんで作業している風景をメインに、後はみんなの自己紹介や意気込みショットが欲しいかなと。和也はそう言って、残りの時間で追加撮影を行う素振り。
それに大人しく従う面々、何しろ誰もがユーチューバー初心者である。何が必要で、どんな行動や言動が受けるのかなんて、実は良く分かっていなかったり。
それでも直哉の番になると、皆が茶々を入れて積極的にアピールしろと騒ぎ立ててる。それに釣られた直哉は、動画を盛り上げるよう頑張ると、勢いでそんなアピールをしてしまう次第。
本人は全く、そんな自信は無かったり……裏方を上手く出来れば良いなと、心中ではそんな感じで取り組む予定だったのだ。ただまぁ、フォローしてくれてる皆の応援には応えたい。
動画の編集も、色んな素材を観て今後も勉強するつもり。フリー素材にも詳しくならないといけないし、文字入れにもある程度センスが必要な気がする。
そんな諸々の作業を、何とかこの1週間で成し遂げなければ。
――そんな各々の意気込みも新たに、月曜の集会は幕引きとなった。