ブンさんと言う人物①
和也の言っていた2人目のニートの当てだが、どうやら見事に取材の約束に漕ぎつけたみたい。そう言われた充希は、そうなのかと次の木曜日の集会の予定を仲間に告知。
つまりは恒例の駅前集合でと、それを『ニー党連合』の仲間へとラインで一斉に送り付ける。それからその当てって、どんな人なんだと改めて和也に問い質す。
和也の説明は至って簡素で、駅近くのアーケード通りの八百屋の息子らしい。厳密には働いて無い訳では無いらしいのだが、ほぼ無職状態のよう。
両親がまだ健在で、店の方も暇なので手伝いと言っても配達位しかする事も無いそう。他にも土地を持っていて、そこから定期収入も入って来るのであくせく働く必要も無いそうな。
良い身分だなって充希の感想に、そんな人もいるんだよって和也の冷めた返答。それでも薄い伝手で、何とか協力を取り付けたのだ。
そんな訳で、良い取材にしてねとの嘆願付きの和也の言葉。どうやら前回の、親戚のシノさんへの詰め寄り方に少々問題があったとの認識のよう。
それは否定しようのない充希は、もちろんだと根拠のない自信を込めての返答。これでまたニートに対する造詣が深まるなと、何とも前向きな発言の充希である。
それを疑い深い目で見る、仲介役の重荷を担う和也であった。
「安心しろ、前回みたいなヘマはしない……それより、皆にも前もって色々と質問を考えて貰っておかないとな。八百屋ってのもいいな、将来的には俺たちが育てた野菜を、店頭に置いて売って貰おうか。
今回の接触で、その人物と良い縁が出来ればいいな」
「よくそこまでポジティブになれるね、充希君……まぁ、母親の話だと変わり者だけど、性格は至って温厚らしいからね。学生たちに会わせられないって、変な人物じゃないのは一応保証しておくよ。
ただし、前のシノさんの時みたいに、言葉で追い込むなんて本当にしないでよ?」
あれは向こうが勝手に追い込まれたんだと、変に悟った感じの充希はいつものペースで偉そうな態度。それにすっかり慣れてしまった和也は、気にせずに話題を最近読んだ漫画にチェンジして行く。
そこからは他愛のない話題ばかり、普通の高校生の日常の一コマって感じ。そうこうしてると周囲の同級生も会話に混じって来て、話題はどんどんおちゃらけて行く。
そこには『ニー党連合』としての面影はまるでナシ……そんな活動を2人が行っているなど、面倒なので周囲には話していない2人である。
高校に入って出来た友達も、幸か不幸か部活に所属する者が大多数である。そんな訳で、放課後の珍妙な活動も今の所は勘繰られてさえいない。
和也としては、そのまま今の活動を隠密に済ませたい所。ただまぁ、リーダー役の充希の挙動次第では、何だか大袈裟な事になってしまいそうでとっても不安。
ついでに今から動画をアップして、世間に彼らの活動を知らしめようとしているのだ。変な方向に事態が動く可能性も大いにある訳で、それに一役買う身分としては背筋がゾワッとしてしまう。
時間は授業前の休憩時間で、もうすぐチャイムが鳴って英語の先生がやって来る。今回翻訳を当てられそうな生徒が、予習をして来た者がいないかと慌てて尋ねて回っている。
それも日常の風景に違いなく、放課後の活動との違和感が凄い。和也としては、さっきの予感が本当にならなければ良いなと秘かに望むのみ。
そんな秘密を抱えたまま、学生生活は過ぎて行くのだった。
そして約束の木曜日はあっという間にやって来て、場所は集合場所に指定した駅前である。時刻は放課後で、既に『ニー党連合』のメンバーは集合済み。
目的地の八百屋にしても、地元の者ばかりなので皆がすんなりと辿り着ける場所である。なんなら、そのブンさんなる人物を見掛けた事もある者もいる始末。
そんな訳で、今回の取材は特に誰も緊張などしていないと言う顛末に。それでもちゃんと、全員が質問を考えて来たし取材に手を抜く考えは無い。
そう言う意味ではとっても真面目な面々、取り敢えずは和也の紹介と言うので彼が先頭で出発する。向かうは歩いて2分も掛からない、アーケードの一角に位置する八百屋さんだ。
今回も直哉は私服姿で、帽子を深く被ってまるで変装をしているような風貌である。みんなの後ろをとぼとぼと付いて行くその姿は、自信の欠片も見受けられない。
それでも今回の会合の撮影役を仰せつかって、一応ヤル気はあるみたいで何より。例え無理やり乗せられた船が、どこへ辿り着くのか分からないとしても。
それは自分のためにと、かつての同級生が用意してくれた船なのだ。乗り心地が悪いとか、今にも沈みそうなんて文句は間違っても口には出来ない。
今日だって、さっき基哉に授業内容のコピーとプリントを貰ったばかり。
今は自分の出来る範囲で、友達に頑張っている姿を見せるのみ。そう考えると、あれだけ悩んでいた不登校問題も幾分かスッキリした角度で見える不思議。
ただまぁ、まだせっかく受かった高校を辞めると言う選択には至れてはいない。それでもその問題は後回しにする、余裕みたいなモノも生まれて来たのも確か。
今は撮影や編集と言う、与えられた仕事を全力で全うするのみ。これも趣味の一環として見れば、なかなか面白くて奥が深い気も。
そうやって実益でも趣味でも、身に着けて行くのも悪くないと思える次第。人生は長いのだと両親からも応援されているし、寄り道も皆ですれば怖くはない。
最近では、映像関係の大学や専門学校の資料もネットで調べたりもしている直哉である。それから和也の勧めてくれた、お婆ちゃんが主人公の漫画も一通り読んでみた。
考えてみれば、この新しい交友関係も自身の不登校が原因で出来たのだ。それが何とも面映ゆいと言うか、不思議な気にさせられてしまう。
そのうえ、この世間で言えば脱落とも思える不登校から、この先の進路が決まるとしたら何という巡り合わせだろう。短絡的に考える訳ではないけど、そのきっかけに友達が周りを囲んでいるのも心強いと思う次第。
そんな事を直哉が考え込んでいると、いつの間にやら一行は目的地のアーケード通りに辿り着いていた。そこはありふれた、寂れた雰囲気の半分以上シャッターが閉じた町のかつての中心地だった場所。
直哉からしても、そんな認識しかなくて昔は人通りも多く栄えていたと言われてもピンとこない。恐らく、他の同級生も同じ思いなのだろう。
俗に言うシャッター街の、割とスタート地点に目的の八百屋は存在していた。人通りもまばらなアーケード通りは、まるで栄枯盛衰を絵にかいたような面持ち。
土曜の計画を話し合っていた面々は、そこでいったんお喋りを中止する。
「おっと、喋り込んでたらもう八百屋の前だった。そんな訳で、今週の土曜は朝の9時に駅前集合な! 先週と同じで動きやすい服装に、それから買った農作業の道具の持参を忘れない事。
その日に買う苗の代金は、取り敢えず朋子の親が出してくれるそうだ。今回はその厚意に甘える事にして、収穫物が出来たらそれで返して行こうと思う。
そんな訳で、予定の無い者は参加よろしく頼む!」
「了解っ、今週は苗植えだよね……ちょっと楽しみかも、俺も参加大丈夫だよっ」
「私もっ、今回も参加するけど……朋ちゃんに貰った花の種、まだ芽が出てないんだよね。どうしよう、ガンちゃんのはもう芽が出た?」
俺のポットのもまだ無反応だと、充希の反応はちょっと寂しそう。そんなコントを店の前で繰り広げていると、八百屋のおっちゃんが君達が息子のお客かと話し掛けて来た。
どうやらブンさんへの取材依頼は、父親の耳にも入っていたよう。息子なら2階にいるよと、気楽に家に招き入れてくれようとしている。
ブンさんの父親は、威勢の良い八百屋の店主にピッタリの性格の模様。こんな団体に詰められても、全く物怖じせずに笑顔で対応してくれている。
和也が代表してお礼を述べているが、女性陣もそれに負けずに挨拶からのお邪魔しますを元気に発している。そして店の奥に2階に上がる階段を発見して、階段あったよと皆に声を掛けている。
そして各々、靴を脱いで部屋の主へと突入の構え。
――さてさて、2度目の取材敢行は一体どんな結末に?




