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エルフの里の揉め事

 アレク達《漆黒の魔弓》が、魔樹討伐を終えてエルフの里に帰ってきた次の日。

 風の精霊の使徒になったアレクは、個人的にエルフの里の長老であるエドアルに呼び出され、彼の家を訪れていた。

 しかしアレクが通された部屋は、いつもの会議室ではなく、様々な道具や書物が置いてある生活感のある部屋だった。

 アレクが珍しそうに部屋の中をキョロキョロと観察していると、奥にある机にいたエドアルが声を掛けてくる。


「そんなに珍しいですか?人族の方の興味を引くようなものは、ないと思うのですが?」

「いえ、ここはエドアルさんの私室ですよね?実に興味深いですよ!部屋は、その人のことを知るには1番分かりやすいですから」

「ほぅ……それは、何だか恥ずかしいですね!」


 アレクは冗談言いながら、部屋に備え付けられた対面式のソファに座り、エドアルと話を始める。


「度々(たびたび)、足を運んで頂き感謝致します。今回、お呼びしたのは風精霊の使徒についての件と魔樹討伐の報酬についてです」

「あっ……やはり、その件ですか」

「アレクさんの、その様子だと本当に風精霊の使徒になられたようですね」


 アレクは、静かに頷くと胸元からネックレスを取り出してテーブルの上に置く。

 それは、以前にもエドアルに見せたものだったが……前回よりもエメラルドの宝石が増え、風精霊の使徒になったことを証明していた。


「この通り、俺は風精霊の使徒になりました。」

「キアとベラから報告は受けていましたが……本当だったのですね。アレクさんには本当に驚かされる」

「まぁ、炎の精霊の口添えがあったのと、魔樹討伐の報酬みたいなものですから」

「魔樹討伐の報酬ですか?」

「えぇ、昨日も報告しましたが……魔樹は聖域まで影響を及ぼそうとしていました。それを解決した対価として、我々に力を貸してくれることになったんですよ。ですので今回の魔樹討伐についての報酬は、エルフ族には求めないつもりです」


 エドアルは、少し考える素振りを見えるとアレクに向き直り話し始める。


「風の精霊が決めたことなら……我々エルフは、それに従うだけです。それと……風の精霊はエルフに対して何か言っていましたか?」

「そうですね……エルフの未来について、心配していましたよ」

「心配ですか?」

「はい、自分の存在がエルフ達を縛り付けているのではないか?追い込んでいるのではないかと……」

「そんな!我々は風の精霊を、そんな風に考えたことなどありません!確かに今の世代のエルフ達には風の精霊を見ることも、話を聞くことできずに、それを嘆く者も多いですが……決して悪く思ったことなどありませんよ!」


 普段は冷静な様子のエドアルが、話に夢中になり思わず口調が強くなる。

 そんな様子をアレクは黙って話を聞き、エドアルの目を見つめていた。


「……すみません、つい熱くなってしまいました。しかし、これはエルフの偽らざる本音です」

「エドアルさんの気持ちは良く分かりました。それでは、もしエルフが風の精霊の姿や声を聞ける可能性があるとしたら、どうしますか?」

「ほ、本当ですか!?そんな方法が?」

「まだ可能性に過ぎませんが……今のままよりは、問題解決に近くと思います」


 こうして、アレクとエドアルの話し合いは進み……エルフの生活に変化が、生じ始める。



 ===============================



 エドアルとの話し合いから数日後、アレク達は魔樹討伐の功績からエルフの里に長期滞在することを許され、皆が自由に過ごしていた。

 カインとアマリアは、ベラに案内されエルフの里を守っている“守護”の訓練に参加していた。

 カインは弓使いとの戦闘を学ぶために参加し、アマリアはエルフ特有の受け流しの技術を学ぶために訓練に参加している。


 ミカエラは、風の精霊から新しい刻印を授けてもらったこともあり、エルフの魔法士に知らない魔法を習いに出かけていた。

 一方、アレクはキアと共にエルフの里の周辺に薬草やキノコなどを採取しに出かけていた。

 キアは、エルフの中でも若い部類に入る者だったが……薬草やキノコにも詳しく、採取しながら効果や特徴をアレクに教えてくれていた。


 また、戦闘訓練についてもキアには協力してもらい、【ウインド束縛ボンデージ】などの魔法や新しいラグトゥスソードの訓練にも付き合ってもらっていた。

 風の精霊から祝福を受け、烙印がされたラグトゥスソードは、アレクが【鑑定】したところ……名前や能力が変化していた。


 鑑定結果:疾風剣ラグトゥス

 効果:風精霊の祝福を受けた剣。風の刃を発生させ、あらゆるものを切り裂く。


 実際に疾風剣ラグトゥスを使ったところ、魔力を通すと剣身があわく光り出し…見えない風の刃が剣を包んでいるように感じる。

 試し切りをしようと訓練所で藁人形を相手に剣を振るってみたところ……恐ろしい切れ味に驚愕することになった。

 実験では鉄までなら問題なく切断でき、ウルティムでも大きく損傷させることが可能であると判明した。

 感覚としては【付与】で魔法特性を剣に乗せているものに近かったが……大きく違ったのは、リーチが伸びていることだった。


 左薙切りでは剣が目標に当たる10㎝手前で、風の刃によって切断されており、突きも同じくらいにリーチが伸びていた。

 更に魔力を込めると斬撃を飛ばすことができ、射程は5mほどで距離が伸びるほど威力と切れ味は落ちるようだ。

 何度も試した結果、2〜3mが最も斬撃の威力と切れ味が高いことが分かり、訓練を重ね体に適切な距離を覚えさせた。


 そんな研究と訓練の日々を送っていたアレクだったが……最近は嫌な視線を受けることが多くなっていた。

 特に何かをされるわけではないが、殺意に似た視線を訓練中や、エルフの街を歩いている最中に感じていた。

 そんな日が続いた、ある日……アレクが1人で訓練所で剣の訓練をしていると、森の中から風切り音と共に矢が飛んでくる。


「ほっ!」


 アレクの後頭部を狙った矢を、アレクは素早く振り向くと剣で切り裂いてみせる。

 そして、何事もなかったように剣術の訓練を再開する。

 それからは、矢での攻撃はなく無事に1日を過ごすことができた。

 夕飯の際に今日、訓練所で狙われたことを一応、キアとベラに報告すると2人は愕然としていた。


「ってことがあってさぁ〜、その後は矢は飛んでこなかったけど……訓練所に向かって矢を放つなんて危ないよな?」

「あ、アレク!それは本当なのですか!?命を狙われた?エルフに?」

「これは、あってはならないことです!よりによってエルフの恩人であり、風精霊の使徒であるアレクさんを狙うとは……」


 激しく怒るキアと静かに怒るベラに、アレクは落ち着くように説得する。


「いや〜、もしかしら誤射かもしれないじゃないか?そこまで怒らなくてもね?」

「エルフ族において、弓で誤射などありえませんわ!確実にアレクを狙っていると考えるべきでしょうね」

「犯人を捕まえて、尋問とキツイお仕置きが必要ですね!」


 そんな3人の話を聞きながら、カイン達が口を挟んでくる。


「普通の矢くらいでアレクが死ぬとは思えないし……あんまり心配いらないんじゃないか?俺も矢くらいなら落とせるし」

「それもそうね、アレクなら探知スキルで回避・撃ち落としも余裕だろうし……毒矢でも解毒剤とかも完備しているもんね」

「で、でも!気を付けて下さいね?エルフの秘術とかあるかも……しれないし」


 パーティーメンバーはミカエラ以外は、アレクのことをあまり心配しておらず、むしろ冷たくすら感じる対応だった。

 もちろん、アレクであれば大丈夫だろう、という信頼からの態度であったが……キアには、そう思えなかったらしく1人で対応に燃えていた。


「絶対に犯人を捕まえてやりますわ!明日からはアレクの傍を離れないので、そのつもりでお願いしますね?」

「いや、自分ことは自分で守れるから心配いらないよ?キアも忙しいんだし、俺の傍にいなくても……」

「いえ、これは決定事項ですわ!」


 こうして、キアがアレクの護衛として傍につくことになった。

 次の日から、ずっとアレクの傍をついて回ることになったキアは、鋭い目つきで周囲を警戒していた。

 家にいる時以外は、常にアレクの傍でキアが目を光らせ、周りに睨みを利かせている。

 街を歩く出る時も、訓練をする時も、森に採取に行く時も漏れることなく、キアはアレクから離れない。


 2人の異様な光景は、すぐに里のエルフ達の目に止まり注目させることになる。

 1週間ほど、その状態が続き……エルフの里ではアレクとキアのことが噂になっていた。

 その内容は、2人は恋人であり他のエルフが、ちょっかいを出さないように副長が見張っている。

 逆にアレクが浮気をしないように副長が見張っているなど……色恋に関するものだった。


 そんな噂になっているとは知らずに、今日もキアはアレクにベッタリと張り付いている。

 訓練所で一緒に訓練を行い、アレクとキアが休憩をしているとキアが不満を漏らしてくる。


「最近、何故か周りの者から好奇心を含んだ視線を感じますの……更には“頑張って!”とか“今日も一緒で羨ましいね!”とか声を掛けられたりしますわ。何かアレクの護衛とは違う意味で言われてる気がするのですが……良く分からなくて不満ですわ!」


 なんとなく、何が起きているのかの想像がつき、アレクは苦笑いをして誤魔化すことにした。

 そんな2人の元に10人ほどの反応が向かってくるのをアレクの探知スキルが捕捉する。


「どうやら、お客さんみたいだぞ?キア」


 アレクは休憩していたベンチから立ちがると、訓練所の入口の方に視線を向ける。

 キアも遅れて耳で物音に気付いたらしく、アレクに続いて立ち上がり戦闘態勢に入る。

 そして、入口に現れたのは10人ほどのエルフだった。

 全員が武装しており、抜剣しながらアレク達の方に真っ直ぐ向かってくる。

 キアも緊張した様子で、抜剣すると切っ先をエルフ達に向ける。


「そこで止まりなさい!!こんなところで抜剣して迫ってくるとは何事ですか!?」


 警告にも似た声色で、キアがエルフ達に問いかける。


「我々はエルフ至上主義を掲げる者だっ!!エルフに劣る人族が、我が物顔で里を闊歩かっぽするなど今日までしてもらおう!そこの人族を引き渡してもらう!」

「エルフ至上主義ですって?自惚れもいいところですわ!アレクがいなければ、エルフの里は滅びていたかもしれませんのよ?」

「ふん!人族などの手を借りるくらいなら、里の場所を他に移せば良いのだ……それに我々を見捨て、人族に手を貸す風の精霊など滅びてしまえばいい!」

「なっ!?あなた達、何故アレクが風精霊の使徒になったことを知っていますの!?」


 驚愕の表情を浮かべるキアに、エルフ至上主義を掲げる者達は軽蔑の目を向ける。


「あなたに話す必要は、ありませんね!守護副長様……あなたはエルフでありながら、人族と恋仲になるという罪を犯した。これは許されない大罪だ!なので……あなたには、ここで死んで頂きます」

「えっ?は?恋仲?誰と誰が?」

「しらを切るつもりですか?そこの人族と、あなたがですよ!」


 すると、キアが何度もアレクと自分を交互に見て確認する。

 そして、言葉の意味を理解したのか……顔を真っ赤にして慌て出す。


「いやいやいやいや、私達が……恋仲に?いつの間に、アレクと私が?」


 恥ずかしさで混乱し始めたキアが、あわあわしている間に、今まで黙って話を聞いていたアレクが話し始める。


「それで俺を攫って殺すために来たんだろ?なら、さっさと始めようぜ?実は俺も、お前達を待ってたんだ……けど逃げられると面倒だろ?だから、とりあえず動けないようにボコボコにするけど……いいよね?」


 アレクは凍るような笑顔でアイテムボックスからウルティム・ナックルを取り出し、装備しながら構えることなく、ゆっくりとエルフ達に近づいていく。

 数の上は、絶対的に有利なエルフ達がアレクの笑顔に後ずさる。

 そんなエルフ達に追い打ちを掛けるように、アレクは挑発を仕掛ける。


「あれぇ?どーしたのかな?エルフ至上主義の皆さんの足が震えてるみたいだぞ?人族よりも優れてることが自慢なエルフでも、怖いものは怖いんだねぇ〜」


 アレクの言葉を聞いたエルフ達は、顔を真っ赤にして怒りに支配されると一斉に襲いかかってくる。

 アレクを包囲した5人のエルフ達が剣を振り下ろし、アレクに攻撃を仕掛ける。

 しかし、剣を振り下ろしたと思った、次の瞬間には鳩尾みぞおちに激痛が走り、皆2〜3mほど地面を転がっていく。


「おえぇぇぇ!!はぁはぁはぁ……」


 地面に転がったもの達が、肉体と内臓の両方にダメージを受けて痛みから、のたうち回る。

 本来なら逃げられることを防止するために、呼吸困難に追い込んで気絶させても良かったのだが……同族であるキアを簡単に殺すと言い切った者が、許せなかったので……アレクは気絶することを許さずに痛みを与え続けることを選択する。


 圧倒的な速度で、5人を即KOしたアレクが歩みを止めることはなく、残る5人の元へ笑顔で近づいていく。

 今更になって触れてはならない者に、触れたことに気が付き、恐怖から腰を引けたエルフ達に、無慈悲にアレクは拳撃を放っていく。


「く、くるなぁぁ!化け物ぉぉ!!」

「もう……やめてくれぇぇぇ!俺達が悪かった……ぐはぁぁぁ!」

「殴らないで……がはぁ!もう……なぐられるのは……」


 エルフ達の嗚咽おえつが漏れる訓練所では、静かになるまでアレクのお仕置きが続いた。








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