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魔樹討伐

「姉さん!!よけてえぇぇぇぇ!!!」


 叫ぶベラの声に反応して顔を上げたキアの頭上には、重たく太い根っこが凄まじい速度で、キアを押し潰そうと無慈悲に迫っていた。


(死ん――)


 直感的に死を悟ったキアの頭の中に、走馬灯のように過去の思い出が浮かんでは消えていった。

 時が止まったように全てのものが、ゆっくりに見える。


(あぁ、私……死んじゃうんだ……もっとベラに優しくしとくんだったなぁ)


 そんな停滞した時の中で、1つ影がキアの前に飛び込んでくる。

 それは白金の大盾を持ったアマリアだった。

 その背中には一切の迷いがなく、むしろ城壁のような安心感すら覚える。

 大盾を上に構えると太い根っこを受け止める構えを取る。


(……ダメ!逃げてぇぇぇアマリア!)


 “魔樹の攻撃を彼女が受け止めきれるわけがない……このままでは、私と一緒にアマリアが死んでしまう!”そう考え、声を出そうとするが……キアの口から声が発させることはなかった。

 振り下ろされた根っこが、アマリアの大盾と接触する一瞬!アマリアの身体が輝き始める。

 それは治癒の優しく暖かい光、そして“ゴウゥゥゥン”と低い音を上げて魔樹の一撃がアマリアとキアを押し潰した。


(あれ?私……生きてる?)


 魔樹の一撃に押し潰されそうになった最後の瞬間、キアは恐怖から目をつぶっていた。

 恐る恐る目を開けたキアの目の前には、信じられない光景が広がっていた。

 それは、アマリアが大盾を上に構えたまま、完全に魔樹の攻撃を受け止めていたのだ。

 衝撃からアマリアの足元は、楕円状に砕け足首が地面に埋まっていた。

 しかも、回復魔法を使ったにも関わらずアマリアの足元には血溜まりができていた。


「ぐっ!!重すぎる……でしょうがっ!!」


 苦しそうなアマリアが、魔樹の攻撃に対して文句を言っていると、今までアマリアとキアを押し潰そうとしていた、根っこの圧力が急に消える。

 何事かと混乱していると凄まじい熱風がアマリアとキアの前方から吹きつけてくる。

 “ドオォォォン!!”火柱が上がると同時に魔樹の根元が切断され熱風の勢いで浮き上がる。


 その隙に最後の力を振り絞り、アマリアはキアを抱えるようにして根っこの攻撃から脱出する。

 先程、自分達がいた場所が根っこ重さで“ズシン”と潰れるのを見てキアは、心からアマリアに感謝した。

 少しずつ冷静さを取り戻し始めたキアは、現状を把握しようと先程、火柱と熱風の発生源に視線を向ける。

 魔樹の根元には、炎を纏った大剣を持つアレクが剣を振り下ろしていた。


(さっきの火柱はアレクの攻撃?それに……あの大剣は一体?)


 そこまでキアが考えていると、カインが凄まじい速度で2人に駆け寄ってくる。

 そして、手に持っていたポーションをアマリアとキアに振りかけてくる。


「おい!動けるかっ!アマリア!キア!」

「ごめん……私は動けなさそう……」

「なんとか私は動けますわ」


 アマリアの言葉を受けてカインが、アマリアを背負うと、同時にベラがキアの元に走ってくる」


「姉さん!!大丈夫っ!」

「ええ、なんとか……生きてますわ」


 声を掛けながら、ベラがキアに肩を貸し移動するのを手伝う。

 そんな2人にカインが大声で呼びかける。


「キア!ベラ!早くここから離れるぞ!!俺達が近くにいるとアレクが全力を出せない!」


 アマリアを背負ったカインが、自分について来るように指示を出し、アレクから1番遠い場所に走っていく。

 わけが分からず混乱するベラだったが……アレクの迷惑なることだけは避けなければならないと判断し、大人しくカインの指示に従った。

 魔樹から距離を取っていると、自分達を援護するためなのか、カイン達が向かおうとしている所に待機していたミカエラが魔法を放とうとしていた。


「【ファイヤ・ストーム】×5」


 遠距離から発動したミカエラの魔法は、凄まじい威力を発揮する。

 直径10mほどの炎の渦が魔樹の周りを取り囲み、焼き尽そうとしていた。

 炎の渦に包まれた魔樹は我を失い、枝と根っこを振り回して大暴れしている。

 しかし、その攻撃範囲にはアレクがおり、ミカエラの魔法に巻き込まれていた。


「まだ、あそこには……アレクがっ!!」


 悲痛な声でカインとベラに、アレクのことを伝えようとするキアだったが……ミカエラの所まで辿り着いた皆が、ある一点に視線を向けていることに気が付き、それにつられるようにキアも視線を向ける。

 その視線の先には灼熱に輝く大剣を両手で天に掲げ、構えを取っているアレクがいた。


 ミカエラの発動した魔法によって、甚大なダメージを受けながらも、凄まじい勢いで再生しようとしている魔樹の正面に立ちはだかり、一切の防御もせずに構えている。

 そして、驚くべきことにミカエラの放った炎の渦が、まるで生きているようにアレクの元に集まっていく。


 正確には、逆巻く炎が天に昇ると5つの筋になり、アレクの構える灼熱の大剣に集中して吸収されていた。

 かなりアレクから離れているはずなのに、キアの額には大粒の汗が浮かぶ。

 おおよそ、人族が耐えられるとは思えない熱量が大地に満ちていく。


「あれが……火精霊の使徒に選ばれた者の力なの……?」


 桁違いの力を前に、キアとベラは膝から崩れ落ち、目を見開いてアレクを見つめることしかできなかった。

 “ギイイィィィィアアァァァ”と広場に魔樹の大音量の悲鳴が響き渡る。

 近くいるだけで生物として致命的なダメージを受け続けることは明確なアレクの放つ熱量によって……魔樹は、その凄まじい再生力を持つが故に、簡単に死ぬこともできずに苦していた。


 魔樹は苦し紛れに枝を振り回して必死に抵抗するが……枝はアレクに直撃する前に燃え尽き、炭化して崩れ去る。

 やがて、アレクの掲げる大剣は炎の嵐を吸収しきると、炎が巨大な剣へと姿を変える。


「これで終わりだ……“灼炎”!!」


 アレクが巨大な炎の剣を、魔樹に向かい振り下ろす。

 その巨大な炎の剣は、いとも簡単に魔樹を両断すると、魔樹の高さを超える火柱を上げる。

 “ドオォォォォン!!”と轟音ともに天に届かんばかりの炎が上がり、完全に腰を抜かしたキアとベラは無意識に体を震わせる。


 どれ程の時間が過ぎたのか……アレクの周りの温度が落ち着くまで距離を取っていると、大剣をアイテムボックスに収納したアレクがキア達の元に歩いて近付いてくる。

 その顔は疲れ果て、今にも倒れそうに見えたが……そんな状態でもアレクはアマリアとキアを、気遣う言葉を掛けてくる。


「2人ともケガの具合は、どうだ?2人には無理させてしまって、すまなかったな……」

「私は、かなり限界だから休養を取りたい。さすがに、あの攻撃を受け止めるのは無理し過ぎたわ」

「私の方は、もう大丈夫ですわ!アマリアさん……助けて頂いて、本当にありがとうございます!貴方がいなければ、私は死んでましたわ」

「私からも、お礼をさせて下さい!アマリアさん、姉さんを助けてもらって本当にありがとうございます!」


 キアとベラは揃ってアマリアに頭を下げ、心からの感謝の言葉を伝える。

 そんな2人に、アマリアは座り込むと手をヒラヒラ振りながら答える。


「なんとかキアを守りきれてよかったよ!これも身体強化の極意を特訓した、お陰だわ。じゃなきゃ、普通に押し潰されて死んでたよ」


 アマリアは、決して武術の才能があったわけではなかった。

 アレクやカインに比べれば、スキルや技術の習得も遅いし、習得したものが誰よりも優れているわけでもない。

 しかし、大盾で仲間達を守ると決めた時から1つのことを、集中して取り組んでいた。

 それは大盾を使った、攻撃に対するエネルギーの逃がし方だった。


 アレク達から体術で攻撃を受け流すことを教えてもらってから、ずっと取り組んでいたことだった。

 大盾で受けたエネルギーを、体の腕・肩・腰・足と螺旋状に連動させることで地面に逃がしてみせたのだ。

 これに加え、アマリア本来の得意分野である回復魔法を併用することで、驚異的な防御力を手に入れることができた。


「それにしても、特訓の話は聞いてたけど……ミカエラの魔法とアレクの灼熱剣イグニスの連携技は、とんでもない威力ね」

「確かにミカエラとの連携技として使えば、凄い威力になるんだけど……使い勝手が悪すぎる」


 それは周辺の景色を見ても明らかだった……魔樹は真っ二つに割られ、切断面は炭化している。

 恐らく魔石も失われているのだろう……そして、なにより汚染されていた紫色の地面はアレクの炎の熱により真っ黒になり、まだ所々燃えているところもある。


「あの大剣は、一体どういったものなのですか?あのような炎を発する剣など見たことも聞いたこともありませんわ」


 先程のアレクの一撃を思い出したのか、身をブルブルと震わせてキアが質問してくる。


「あれは火の精霊の炎によって鍛えられた大剣だよ。炎の隷属れいぞくという能力があるんだけど……まぁ、今見た通りの力だよ」

「火の精霊によって鍛えられた大剣……炎の隷属れいぞくですか……色々と言いたいことはありますけど、人やエルフに扱える力の領域を超えていますわ」

「あぁ、だから扱いが非常に難しい……今回も、この広場以外に被害が出ないように力を操らないといけなかったからな」


 キアは、内心かなり動揺していた。

 先程見たアレクの炎の巨剣が全力ではない?では、もし全力でアレクが全力で攻撃を放っていたら?エルフの里など簡単に滅ぼすことができるのではないだろうか?……むしろ、アレク以外の者に火精霊の大剣が、渡ってしまったら?と悪い想像ばかりが膨れ上がり不安が心を支配していく。

 それはベラも同じように考えたらしく、2人は深刻そうな表情を浮かべていた。

 賢い2人が真剣に可能性を考えるほどに、アレクの放った一撃は衝撃的なものだったのだ。


「灼熱剣イグニスは、その特性上アレクしか扱えないから悪用はされないと思うけどね」


 アレクの説明を聞き、明らかに顔色が悪くなったキアとベラに対して、アマリアが補足を入れて2人の考えを察し、安心させるように説明する。

 熱が落ち着いた魔樹を回収すると、トレント・魔樹と連戦を終えたアレク達は、そのまま広場にアイテムボックスから家を出し、休憩することになった。

 その様子を見たキアとベラは、またしてもアレクに驚かされることになるが……さすがに驚かさせることに慣れてきたらしく、自然と状況を受け入れるようになっていた。



 ===============================



 次の日には完全回復したアレク達は、瘴気の原因もいなくなったことで、やっと本来の目的地である風の精霊の聖域に行けることを喜んでいた。

 朝から澄み渡るような晴天に恵まれ、心地の良い風が頬を撫でる。

 魔樹の塞いでいた道の先に進んだアレク達を待っていたのは、見上げても上が見えないほど大きな1本の大樹だった。

 風が吹くと大樹の枝や葉が、ゆらめき……太陽の光が、キラキラと眩しくアレク達を照らす。


 神聖な雰囲気は、ドルミレ大森林の大樹のドームがあった場所に似ていたが……こちらは川ではなく、湧き水が大樹の根元を満たしていた。

 森の中にポッカリと広い泉があり、その中央に大樹がそびえ立っている。

 大樹の周りには鳥や動物達が自然と集まり、清らかな空気に守られているようだった。

 100mはあるかと思われる大樹の傍に歩み寄るアレク達は、大樹の前の水面の上に1つの影を発見する。

 その影から聞こえた声は、距離を感じさせないほどに、はっきりとアレクの耳に届く。


「初めましてアレク、私が風の精霊です」








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