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アレクの評判とドリーの恋

〜某国のスパイの走り書き〜


最近、アルテスでの兵士の間で良く噂されている冒険者達がいた。

彼らは、ドゥールム出身の冒険者達らしいが……今はアルテスの冒険者ギルドを拠点に活動しており頻繁に《漆黒の魔弓》という名を耳にする。

元々、彼らについては色々な噂が回っていたが……特に兵士の間で語られるのは《漆黒の魔弓》のリーダーであるアルクと呼ばれる青年の話だ。

銀色の髪をしており黒と赤が特徴的な全身レザーアーマーを装備している。若干15歳ながらCランクを預かる期待のルーキー。


彼の知名度が高いのは2年前の“静寂の影”による連続殺人事件までさかのぼる。

当時13歳の少年だった彼が、単身で誰も発見することができなかった“静寂の影”を発見。

しかも、命を狙われていた少女を全身傷だらけになりながらも守り抜き、さらに“静寂の影”を撃退してみせたのだ。

これは誇張した話でなく当時、事件で街の捜索に当たった多くの兵士達や冒険者達が目撃している事実である。


更に驚くべきことに、彼は“静寂の影”の撃退と生きて詳しい情報を持ち帰った報酬として冒険者ギルドから支払われた金貨を、被害にあった少女と病気を患っていた彼女の母親の治療に使っている。

そして、事件の捜索に参加した兵士達と冒険者達に協力してくれた者に等しく報酬を分配してほしいと伝え、アルテスを去っていった。

この小さな英雄の話は、アルテスでは酒を飲むと必ずと言っていいほど話題なっていた。


そして、彼がアルテスに帰ってきたことが最近になって発覚する。

きっかけは、Aランク冒険者 死拳のクラウが直々に稽古をつけている青年がいるとの噂だった。

その青年の容姿が、銀色の髪をした青年でドゥールム出身の冒険者ということとアレクと呼ばれていることから一気に噂が広がることになる。

酒場にいた、2人の訓練を見学していた冒険者に詳しい話を聞くことができた。


〜冒険者の男〜

2人は、体術を特訓しているらしく武器などはほとんど使わずに、ひたすら実戦形式の戦っていた。

けれど、そこはAランク冒険者とCランク冒険者……かなりの実力差があり見学の冒険者が最初に見た時は、クラウにアレクがボコボコに殴られて酷い有り様だった。

多くの冒険者は、アレクが噂ほど強くないのかと失望したり、ボコボコにされているのを笑う者すらいたが……彼は立ち上がることを諦めることはなかった。


見学し始めて3日が過ぎた頃から、見学していた冒険者は、この時点にアレクに違和感を覚えた。

1日ごとにアレクの動きが良くなっている気がしたのだ……しかし、既に3日も限界まで体を酷使し精神的にも追い詰められている彼の動きが急激に良くなることなど、あり得ないと彼も考えていた。


しかし、アレクの成長速度は本当に恐ろしく早く……数日でAランク冒険者と互角の動きをするまでになっていた。

ここで、ようやくアレクの実力に多くの冒険者達が気付き、彼への認識を改めたのである。

更に信じられないことに彼の成長は、留まることを知らず……訓練の終盤には死拳のクラウに見事に一撃を入れ勝利してしまう。

そこまで、話した冒険者は嬉しそうに、彼は大物になるかもしれないな!と語っていた。


それからしてしばらくして、アルテス兵士達の間で、またしても《漆黒の魔弓》についての課題が上がる。

アルテス近隣の村で魔物が目撃され、その調査に向かったDランク冒険者達が行方不明になっていた。

Dランク冒険者達の捜索と魔物の調査に向かったアレク達は、そこで村を支配していた盗賊と遭遇する。



〜盗賊の男〜

これは、アレク達が捕らえてきた盗賊達の副官にあたる者の証言だが……18人の元兵士で構成された盗賊達は、村近くの森に潜み《漆黒の魔弓》を襲おうとしていた。

しかし、盗賊達の襲撃は1人の妨害によって失敗に終わる。

森に溶け込んだ闇は、まるで最初からそこに存在していたように死を告げる。

影も形もない攻撃によって仲間達が、なす術もなく次々と殺されていく光景。

今でも耳に残る……頭を砕かれ、胸を抉られる音……その悪夢は覚めることはなく延々と続いていった。


逃げようとした者達も、当然、死からは逃げることはできずに森には叫び声や泣き声が響き渡っていたが……それも次第に数を減らし、最初に足を潰され仲間達の死を傍観することしかできなかった盗賊が、最後に見たものは……お頭の首をはねる銀色の髪をした悪魔の姿だった。

その悪魔の瞳は、人の死に何も感じていない……底が見えない水面を覗き込んだように漠然とした恐怖を感じさせる目をしていた。

あまりの恐怖と痛みに意識を失い次に目覚めた時には捕まってアステルへ運ばれていた。


アステルへ着くまで、いつ悪魔の気分が変わり殺されるのではないかと眠れぬ夜を過ごした。

今でも悪魔が、耳元で“逃げたら遠慮なく殺す”という呟きを思い出すと体の震えが止まらなくなる。

アステルに到着した時に、やっと安らかに死ねると盗賊の男は神様に感謝した。

あの悪魔の手にかかり、地獄のような苦しみを受けるよりも街の執行官に処刑される方が遥かに幸せなことだと感じたからだ。


盗賊の男は、あの悪魔が帰ってくる前に俺を殺してくれ!と牢獄でしきりに騒いでいたそうだ。

素直に尋問に答え、全てが終われば処刑を執行すると言われると盗賊の男は驚くほど正直に質問に答えた。

そして、処刑が執行される時は最後まで笑顔で死んだという。


以上が最近までの彼らの動向である……街の噂を集めてこれ程、情報が集まることも珍しいと思うが、彼らに街の有力者とも繋がりがあると言われている。

アルテスを代表する鍛冶職人であるフェルムの金槌かなづちのドワーフ店主 フェルム・アルテスで顔が広い夜空の輝き亭の女主人 スザンナ・Aランク冒険者死拳のクラウ・冒険者ギルド 副ギルドマスター レナード・商人ギルド ギルドマスターネゴンなど街の有力者達と次々に出会っていることから、今後も対象の情報収集にあたる必要があると判断する。



===============================



私は恋をしている。

今までの自分だったら恥ずかしくて口にすることもできなかった言葉を真剣に言えるほど私は彼のこと想っている。

私はDランク冒険者チーム妖精フェアリー羽根・フェザーのリーダー ドリー。

アルテス近隣の村で生まれ、幼馴染のサリアとマギーと共に冒険者になった。


私達は、成人してから冒険者になったために他の冒険者よりも色々なことが未熟だ。

もちろん、多くの人々が成人よりも後に冒険者になることも多い……しかし、それは武術の心得が以前からあり、途中から冒険者になったに過ぎない。

私達のように素人から冒険者になる者は、冒険者見習いとして早くから生きる術を学ばなくてはいけないのだ。


それでも、私達は諦めずにコツコツと依頼をこなして3年かけてDランクまで昇格することができた。

それに私達のようなルーキーでも応援してくれる人がいる。

夜空の輝き亭の女主人のスザンナさんは、私達のような新米の女性冒険者を積極的に支援してくれておりCランク以下の冒険者には格安で宿を提供してくれている。


そのため、スザンナさんにお世話になった女性冒険者はCランク以上になると……恩返しも兼ねて自ら通常料金よりも多く支払いをして宿の経営を助けている。

もちろん、スザンナさんは通常料金で構わないと何度も言っていたが……皆、多く払うことを止めないために仕方なく受け入れたという事情がある。


私達の第2の母と思っているスザンナさんに、いつも通りに依頼の期限を伝えて私達は魔物の目撃情報が入った村に偵察に向かった。

しかし、この時はまだ自分達が予想外の事件に巻き込まれるなんて考えてもみなかった。

魔物の目撃情報が入った村に到着するが……特に問題があるようには感じられずに近辺の森まで捜索を行ったが、大した成果は得ることはできなかった。


村長さんの好意で、村の空いている家を提供してもらえることになり私達は何の警戒もしないまま、これを受け入れてしまう。

思い起こしてみれば、この時点で不審な点は村のあちこちに見つけられていたはずなのに……村人達の何かに怯えた様子・若い女性が全くいない光景・村長の苦しそうな表情など、私達は気付くことができないまま罠に落ちてしまったのである。


村長さんが、差し入れてくれた料理を食べた後に急激な眠気を感じて、ベッドに横になったところまでは記憶があったが……次に目が覚めた時には見知らぬ部屋で、装備を奪われ手首を縛られていた。

食事を運んできた盗賊から、笑われながら“お前らは、これから奴隷として売られることになるから暴れたりして傷物にさせるなよ!それと村の娘達も捕らえているから、もしお前達が暴れたら娘達を殺すぞ”と脅され目の前が真っ暗になった気がした。


盗賊の男の口ぶりから、サリアとマギーも一緒に捕まったことが分かったが……あまりに情報がなかったために行動することができずに数日を費やしてしまった。

その数日で分かったことは、盗賊の男の言う通り自分達の他にも村の娘達が捕らえられていること……これは夜になると恐怖からか他の部屋からサリアとマギーの声ではない、何人もの女性のすすり泣く声が聞こえてくるので判明した。


次に盗賊達の人数だが……声を覚えた限り、最低10人以上いることが分かった。

この時点で、盗賊達を倒して人質を解放して逃げるという選択肢が不可能になったことを悟った。

Dランク冒険者3人、装備なしで奴らを相手しながら人質を守ることは至難の技である。

絶望的な状況に追い込まれ、助けに来るはずのない助けを待つ日々に私は疲れ果てていた。


最後の手段で、私達の受け渡しの際に脱走する方法も考えるが……盗賊達が何の対策もせずに冒険者である私達を移動させるとは考えなれない……出来もしないことを考え、自身で否定する日々を過ごし仲間のことを何度も考える。

情けないリーダーの所為で、最悪な状況に陥ってしまったサリアとマギーのことを思うと苦しくなり涙が止まらなかった。


自分達が捕まってから何日も過ぎ、逃げる気力も失い自力での脱走を諦めていた頃……

久しぶりに盗賊達の不快な声が聞こえずに静かな夜を過ごしていた時に牢獄の扉が開く音がする。

突然のことに身を固くして、ゆっくりと開く扉を睨みつける。

今思うと食事の時間以外は、牢獄を訪れることのなかった盗賊達が来たのかと考えて危険を本能的に察知したのだと思う。


しかし、予想に反して私の前に現れたのは、銀色の髪をした逞しい青年だった。

私の姿を確認すると目を見ながら話しかけてくる。


「大丈夫か?俺はアルテス冒険者ギルドから

行方不明になっている冒険者の捜索依頼を受けた者だ。夜空の輝き亭のスザンナさんからも、よろしくと頼まれている」


「え?私達を助けにきたの?スザンナさん……うっ……ありがとう……本当に……」


彼の口から出た言葉が、聞いた時は信じられなかったが……スザンナさんの名前を聞いた瞬間に、今まで耐えてきたものが崩れ去り感情と涙を止めることができなかった。

その後は、彼に案内され彼の仲間達に介抱されながら馬車に乗り込み、盗賊達のアジトから脱出することができた。

馬車でサリアとマギーにも再会でき、泣きながら抱き合って互いの無事を喜んだ。

私達の他にも捕まっていた村の娘達も疲れ果てていたが……皆、どこか安心した顔をしている。


皆が安心感から、ゆっくり走る馬車の中で寝てしまっている時に修道服を着た女性に状況を聞いてみた。


「あの……盗賊達は、追ってこないのでしょうか?私が覚えている限りは10人以上いたと思うのですが?」


すると、修道服の女性は私に優しく安心させるように状況を教えてくれた。


「それは心配ありませんよ。盗賊達は、全て私達のリーダーが倒しちゃいましたから!私達のリーダーは、信じられないくらいに優しくて信じられないくらいに強い人なので安心して守られて下さい」

「えっ?あの……お一人で盗賊達を倒されたわけでは……ないですよ……ね?」

「いいえ、1人で全ての盗賊を倒しましたよアレクは」


彼女から聞いた言葉に唖然としながらも、私はリーダーでアレクと呼ばれていた銀色の髪の青年のことを思い出していた。


(私を助けてくれた人だったよね……彼は……アレクって名前なんだ……アレク)


彼の姿を思い出していると胸の奥が熱くなり今まで感じたことのない大きな鼓動が“ドクン”と流れた気がした。

村に帰った私達は、今回の事件の真相や村長の懺悔ざんげを聞き手厚い介抱を受けた。

アルテスに帰る道中でも、《漆黒の魔弓》には驚かされ何度も取り乱してしまった。

そんな私達を笑って見ていてくれるアレクの顔を見ると、自分の顔が火照り妙な恥ずかしさを感じていることに気がつく。


(私……アレクのことが好きなんだ……)


私よりも年下で、だけど強くて優しくて……時折見せる大人びた顔にドキっとさせられる。

アレクのことを意識した途端に、今まで通りに話せなくなっていた。

アルテスへの道中で、色々なことを話して仲良くなったはずなのにアレクとの距離が、全く縮まっていないように感じる。

それはアルテスに到着してからも続き、落ち着かない時間を過ごしていた。

なんとかアレクと一緒にいられる方法は、ないかと考えて、それとなくサリアに相談したところ……弟子にしてもらえば、1番いいんじゃない?と助言をもらえた。


今日の食事の時に、思い切ってアレクに弟子の件を伝えてみようと思う……どうなるかなんて分からない。

けれど、私は恋をしている。

この気持ちを伝えられるかは、今はまだ分からないけど…… きっと、伝えてみせると自分の心に誓って私は一歩を踏み出した。




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