前世の記憶
カインとの訓練も、落ち着いていた頃に約束していたドリーとサリアの訓練を見ることになりアレクとカインが、それぞれの訓練の動きを見ながらアドバイスなどをしていた。
とは言え、アレク達と比べてDクラスに上がったばかりの彼女達の動きは、単調で無駄の多いものばかりである。
それを軽く模擬戦をしながら、致命的な部分は注意し少しずつ矯正していく。
そして、1番の問題は彼女達の基礎能力の低さであることを短期間で看破したアレクとカインは、訓練もそこそこに基礎トレーニングを重点的に行うことを提案する。
アレク達にとっても決して無駄にならない基礎トレーニングは、走り込み・筋トレ・短距離ダッシュと地味なものだからだが……全ての土台となる部分として強くあることが絶対条件となる。
アレクとカインが、いつも訓練前にこなしてあるメニューを一緒に行うことになったが……最初の走り込みで地下訓練所を回っていたが、アレクとカインが30周を終える間にドリー達は10周でダウンしピクリとも動けなくなっていた。
仕方なく、次の筋トレに移ったのだが……先程までゾンビのようにフラフラと足を引きずりながら走り込みをしていた彼女達に筋トレをする余力は、残っておらず結局そのまま基礎トレーニングは終了となった。
「はぁはぁはぁ、すみ……ません……私達の所為で、貴重な……時間を……」
「うん?ああ、別に構わないよ俺達は俺達で、基礎トレーニングを重点的に行えるから迷惑にはならないし」
仰向けに倒れ込むドリーの横で体をほぐしながら、息一つ乱さずにアレクが受け答えする。
「ありがとう……ございます……スゥーハァースゥーハァー、やっと落ち着いてきました。アレクさん達は、いつも訓練前に同じ基礎トレーニングをしてるんですか?」
「そうだね……模擬戦を本気でやる時、以外は基礎トレーニングは、いつもやってるかな?」
その話を聞いたドリーは、アレクが今まで見た彼女の表情の中で1番悲壮な顔をしていた。
そんな、彼女とカインと話しているサリアを眺めながら取り留めない話を続ける。
「そういえばマギーの訓練は、どうしてるのかな?……もしかして、うちのミカエラと?」
「はい、私達がアレクさん達に訓練をお願いした後にマギーもミカエラさんに訓練を頼んでました!今頃は、ミカエラさんとアマリアさんと一緒にアステルの外周で魔法の訓練をしてると思いますよ?」
結局、彼女達の訓練に付き合うことなったアレク達《漆黒の魔弓》は、1週間ほど彼女達と共に基礎トレーニングを行うことになった。
その間に、ドリーやサリアとも距離が縮まりパーティーメンバー同士で食事にも行くようになり、お互いに良好な関係を築いていく。
そんな、ある日……基礎トレーニングを終えたアレク達とドリー達が一緒に柔軟体操をしていると、アレクとカインが騒ぎながら柔軟しているのをサリアがジッと見つめていた。
その視線に気付いたカインが、こちらを見ているサリアが、何か用があるのかと思い話しかける。
「どうしたサリア?俺達を見てても面白くもないだろ?それか何か聞きたいことでもあるのか?」
「えっと〜こんなこと聞いてもいいのか分からないんですけど……アレクさんとカインさん、って付き合ってるんですか?」
まさかの爆弾発言にアレク・カイン・ドリーが、一斉に吹き出す。
特にカインの動揺が激しく、顔を真っ赤にして怒った顔で否定してくる。
「おい!!そんなわけないだろ!俺達は、親友だぞ!?そんな変な関係になってたまるか!」
「あっ、いえ、そういうことではなくて……カインさんは、かなりの美人な顔をしているので男性に見えないというか……私も自分で言ってて良く分からなくなってきました!」
4人の間に微妙な空気が流れるが……この空気を変えようとドリーが、アレクに話題を振ってくる。
「あー、ちなみにアレクさんって恋人関係の方とかいないんですか?それか、既にパーティー内で付き合ってるとか?」
「俺か?俺は恋人とかいないぞ?パーティー内って、アマリアのことを言ってるなら別にそういう関係ではないし……確かにスタイルは、いいと思うけど色々と見てるからなぁ」
(色々と醜態も見てるから、そういう目線で見れないんだよな〜アマリアも、俺のこと仲間として扱うから変な空気になったこともないし)
そんなことを淡々と答えるアレクに、ドリーが前から疑問に思っていたことを聞いてくる。
「アレクさん、って成人になったばっかりなのに凄く落ち着いてますよね?たまに、私達以上に年上に感じることもあるんですけど……なにか理由があるんですか?」
「う〜ん、もしかしたら……幼い頃から大人の人達に囲まれて育ったからかな?俺の師匠も年上の女性だし」
アレクがポロっと言ったことにドリーが、すかさず突っ込みを入れてくる。
「えっ?アレクさんの師匠って女性の方なんですか?どんな方ですか?美人ですか?」
「師匠かぁ、かなりの美人だよ。色々と問題がある人だけど……今までに師匠以上の美人は見たことないな……」
アレクの答えに、もっと詳しく知りたい!と食いついていたドリーに何故かカインが、答えていた。
「アレクの師匠のルシアさんは、紫色の髪をした妖艶な色気を持つ美女だぞ!綺麗な長い髪に凄く魅力的な体をした人で、魔法・錬金術に長けたAランク冒険者なんだ」
「な、なんて人なんですか!?そんな美女を見て育ったアレクさんは、ちょっとやそっとでは揺らがない男性ということですね……手強い!それにAランク冒険者が師匠とか羨ましいですよ本当に!」
なんだか妙な方向に話が進んできたので、アレクは、逆にドリー達に恋愛についての質問を返してみる。
「そういう2人は好きな人とか恋人は、いないのか?2人とも顔は整ってるし相手がいても、おかしくないと思うんだけど……?」
「へっ?私ですか?いや〜恋人は冒険者を、やってると中々に難しいですよね〜憧れてる人ならいるんですけど……」
そんなことを言いながらチラチラと、アレクを見てくるドリーだったが……アレクは、年上特有のいじりだと判断して軽く流すことした。
一方、サリアはジッとカインを見つめて視線を外そうとしない。
さすがに気不味くなったカインが、サリアに話しかける。
「あのな〜そんなに見られるとさすがに俺も居心地が悪いんだが……何かあるなら、はっきり言ってくれないか?」
「……じゃあ、遠慮なく言わせてもらいます!カインさんは、顔がメチャクチャ私好みなのに……何故か全然ドキドキしない」
そのサリアからの言葉の意味を考えて、男としてダメージを負ったらしく……暫くカインは訓練所の隅から帰って来なかった。
それからも定期的にドリー達と一緒に訓練するようになり、仲を深めていくのであった。
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アレク達《漆黒に魔弓》は、いつもなら依頼を受けたり訓練をしたりと忙しく活動してるのだか……今日は珍しく、昼飯を食べるとアレク達が拠点にしている夜空の輝き亭の部屋に集合していた。
元々はカインから強くなるための方法があれば教えてほしい、というお願いだったが……ステータスの底上げや超回復について、この世界の常識を超える知識を説明するためには、アレクが仲間達に自分の前世について話さなければならないと考え集まってもらっていた。
部屋に集まったカイン・アマリア・ミカエラは、真剣な顔でアレクの言葉を待っていた。
アレク自身も仲間達に説明しても、前世のことでしかも異世界の話など信じてもらえるか自信がなかったが……これからも命を預ける仲間に必要なことだと自身に言い聞かせて話を始める。
「今日は、みんなにどうしても話しておきたいことがあるんだ…突拍子もない話だけど、最後まで聞いてほしい」
アレクの言葉に黙って皆が頷くと、ゆっくりとアレクは話し始める。
それは、この世界よりも遥かに文明が進んだ
世界の話……ガラス張りの摩天楼が、いくつも立ち並び魔法ではない電気というエネルギーによって利便性を追求した街。
魔物が存在しておらず、誰もが安全に過ごせる環境を得ることができる世界。
鉄の馬車が高速で往来し、空にはドラゴンのような人を運ぶことのできる鉄の箱などが数え切れない程、溢れているなど常人には信じられない話を聞いてパーティーメンバー全員が、目を丸くして驚いていた。
それがアレクの記憶の中にある前世の世界だと説明し自分が、その記憶を完全な状態で覚えていること、それを元にステータス強化のトレーニングを考え常人よりも効率良く強くなっていること、などを順番に説明していった。
神様のことと、この世界の誕生についてだけは伏せて話し説明を終えた。
この2つの話を伏せたのは、仲間達の精神的ダメージを懸念してことだったが……いつか仲間達にも聞いてもらうことをアレクは、心の中で決めておく。
一通りの話を聞いた仲間達は、アレクから聞いた話を改めて考え、気になったことを質問してくる。
「アレクは、この世界の人間じゃないってことになるのか?異世界からの渡り人みたいなことなのか?」
「それは違うよカイン。俺は、この世界に生まれたアレクサンダーだ……前世の記憶……いや、知識をもっているだけのアレクだ」
今度は、アマリアが気になったことをアレクに問い掛けてくる。
「アレクが元異世界の人だとして、何故私達に自分の秘密を話したの?別に話さなくても済んだかもしれないのに……」
「それは、みんなに生きてほしかったから……かな?俺は、みんなのことが好きだ……これからも色々な所に一緒に冒険に行ったり、世界の美しい風景や珍しいものとかを共に見たり体験したりしてみたい。けれど、この世界は弱い者が旅するには辛すぎる……だから、みんなには俺が提供できる前世の知識を使ってでも強くなってもらい生き残れるようになってほしいと思った」
最後にミカエラが、今まで話を聞いていた内容で分からないもの質問してくる。
「え、えっと、なんでアレクさんは強くなることにこだわるんですか?今でも僕ら、からしたらアレクさんは十分に強いと思うんですけど……」
「それは……前世では魔物は存在しなかったけれど、この世界でいう文献みたいなものには多くのことが記述されていたんだよ。その中には想像を絶する強さを持つ魔物や魔王の伝承みたいなものもあって……俺は、そういった上位種との遭遇を危惧しているんだ」
それぞれの疑問や質問にできるだけ、正直に話したアレクは静かに皆の反応を待つ。
もちろん、皆のことは信頼しているが……あまりに常識を外れた話なのでアレクも仲間達に理解してもらえるか、不安を滲ませる。
そんなアレクにカインが最初に声を掛けくる。
「なるほど……つまりアレクは、俺達のことが大好きで一緒にいてほしいから死なないように強くなってほしいってことだな?」
「は?なんだその解釈!?大まかには間違えていないけど……いや、間違えてるぞ!それは!」
クスクスと笑いながらアマリアも、楽しそうに声を掛けくる。
「アレクのことは、いつも大人だと思ってたけど……子供らしく寂しがり屋な一面もあったのね!なかなか可愛いところもあって安心したよ」
「なんでソコばっかり、注目してんだよ!もっと色々な感想とか突っ込むところがあっただろーが!」
最後に何故が、瞳をウルウルと輝かせながらミカエラがアレクに抱きついてくる。
「ぼ、僕もアレクさんのことが大好きでふ!
あ、噛んじゃった…………大好きです!」
「ミカにいたっては、話とか途中からどうでも良かったみたいだね……」
アレクが、皆の予想外の反応に突っ込みながら騒いでいるとカインから率直な感想が漏れてくる。
「だってよーアレクは、こんな時に悪ふざけなんかしないやつだし……仮にアレクが、前世の記憶を持っていても俺達のことを大切にしてくれてることには変わりないだろ?だったら、俺達はアレクの正直な気持ちが分かっただけで十分なんだよ」
「そうそう!カインの言う通り!私達にとっては、頼れるリーダーで、追いつくべきライバルで、寂しがり屋の仲間であることは変わらないからね?一応、私が年上でお姉さんだから甘えてみる?なんてね!」
「ぼ、僕は甘えさせてもらえる方が……どちらかというと……好きです!」
「お前らが、俺のこと普段いじれないからって今回の件を使って、いじろうとしていることは良く分かった!別に何も問題ないみたいだし……明日からまたガンガン訓練するから覚悟しとけよ!」
恥ずかしさを誤魔化すように乱暴に話すアレクからは、自然と笑みがこぼれていた。
なんだかんだ言いながらも自然とアレクのことを受け入れてくれた仲間達の優しさが、本当に嬉しくて。
皆からの質問や疑問は、アレクの話を真剣に受け止め考えた上でのものだった……それでも、アレクを不安にさせないように笑いながら関係ない!と教えてくれていた。
アレクは、胸の奥に高揚感を感じ仲間達との新たな冒険に胸を踊らせるのであった。




