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交渉術のコツ

 アルテスに帰還していきたアレクは、レナードの提案により蒼糸の繭を買い取ってもらいに商人ギルドへと足を伸ばしていた。

 アレクとレナードの2人が建物に入ると、中は木造ながら冒険者ギルドと違い整った内装をしている。

 ギルド内の人々も、身なりの良い人から旅の商人まで様々な格好の人で溢れていた。

 レナードは真っ直ぐに受付へ向かい、何かを伝えるとそのまま商人ギルド3階の応接室へと案内される。


 革のかなり上質なソファに腰掛けながら、待っていると2人の男性が部屋に入ってくる。


「いや〜お待たせして申し訳ない!本日は、わざわざ商人ギルドまでお越しくださり本当にありがとうございます!私が、商人ギルドのギルドマスターをしておりますネゴンと申します」


「私は、副ギルドマスターのロマニーと申します」


 ネゴンと名乗った男性は、ふっくらとした体型しており頭皮も薄い、前世でいうところの社長っぽい人であった。

 対照的にロマニーと名乗った男性は、シュとしておりスマートな立ち姿が印象的で優秀な秘書っぽい人だった。

 アレクとレナードも挨拶を返し、話もそこそこに本題に入るためにアレクが懐から品物を取り出す。


「では本日、商人ギルドに買取を依頼してきた目的の物を見て頂こうと思います。アレク君、アレを出してくれるかな?」


「はい、レナードさん。それでは、こちらが商人ギルドに買取をお願いしたいものになります」


 アレクが話しながら、取り出した布に包まれた物をテーブルに置き丁寧に布を解いていく。その中から現れたのは、サファイヤのように深い青さをし手の平の大きさをした幾重にも編み込まれ繭の姿をした塊……蒼糸の繭であった。

 ネゴンとロマニーは、話は聞いていたはずのに蒼糸の繭をジッと見つめがら唾を飲む。

 しばらくすると、ネゴンが震える手で蒼糸の繭を調べても良いかと問いかけてくる。


「どうぞ、遠慮なく調べてみて下さい。削ったり叩いたりしなければ、こちらとしては問題ありませんので」


「……では、失礼して調べてさせて頂きます。しかし、これほどの大きさの蒼糸の繭は見たことがありません……一体どちらで入手されたのですか?」


「それは、さすがに商人ギルドのギルドマスターさんにも教えられませんよ。けれど、これを、もう一度入手すことは難しいでしょうね」


 恐らく、ダメ元で聞いてきたのであろうが……ネゴンの目元が鋭くなるのをアレクは見逃さなかった。

 答えを、はぐらしながらネゴンとロマニーが蒼糸の繭を調べ終わるのを待つ。

 5分ほど色々と確かめていたネゴン達が、蒼糸の繭を丁寧にアレクに返してくると早速、交渉がスタートする。


「拝見させて頂きありがとうございました!間違いなく高品質な蒼糸の繭で、大きさも過去最大と言えるでしょう。こちらとしても是非、買取たいと思います!ですので、1つ金貨450枚でいかがでしょうか?」


「過去に取引が、あった時にはアレク様がお持ちになっているものよりも6分の1ほどの大きさで金貨50枚で取引されていることから、今回は特別に希少価値を含め金貨450枚が、妥当ではないかと……」


 ネゴンが、買取金額を提示するとすぐにロマニーが詳しい説明と過去の情報を補足してくる。


(おおっ!金貨300枚の予定が一気に金貨450枚まで金額アップしたぞ!すごい!)


 ウキウキするのを必死に表情に出さないように我慢しながらアレクは、レナードの顔色を窺う。

 交渉をお願いしたが……レナードが、どれほどの交渉術を有しているのかをアレクは、知らなかった。

 けれど、もし交渉が上手くいかなくとも別にお金に困っているわけでもないので……アレクは、純粋にネゴンとレナードの駆け引きを今後の交渉の勉強に役に立つと思い、楽しみながら見つめていた。

 アレクの気持ちも知らずにレナードが、ネゴンに対して答えを伝える。


「正直な話……これほどの蒼糸の繭は、2度とお目にかかることはないでしょう……だからこそ、こちらとしては金貨800枚で買取をお願いしたい」


(ええぇぇぇ!レナードさん、ふっかけ過ぎじゃないですか!?向こうの提示金額の2倍以上ですよ!!)


 レナードに金額提示に、応接室の空気が緊張感溢れるものに変化していくのを肌で感じながらアレクは、ネゴンをジッと観察する。

 ネゴンは、一瞬だけ目の中の光が動いた気がしたが……表情には一切出さずに腕を胸の前で組むと、静かに返答してくる。


「随分と大きく出てきましたなぁ、けれど余りに常識外れな金額になると、お互いに不幸な結果しか生み出さないと思いませんか?」


「いいえ、私はそうは思いません。今回は、蒼糸の繭の希少価値だけでなく武器や防具などの装備品に加工された場合の価値も、加えるべきだと思いますので」


 そこまでレナードが、話を進めるとネゴンの眉がピクリと動きをロマニーも少しだけ目つきが鋭くなる。


「……と言いますと?」


「今までの蒼糸の繭の大きさでも、防具なら魔法防御力が高まり魔法耐性も高くなる。逆に武器として加工すれば魔法を強力にし魔力の消費も少なくなる有用なものが作れる。では……今回の大きさの蒼糸の繭があれば更に性能が高い装備が作れる可能性があると思いませんか?」


(えっ?ってことは今までになかった高性能の装備ができて、より高額で取引されるかもしれないってことか)


 ネゴンは、口を手で隠し目を閉じながら何かを考えているようだった。

 ロマニーもネゴンの様子を窺いながら、考え込み市場に商品がでた際の計算をしているように見える。

 やがて、考えが纏まったのかネゴンが重い口を開き自分の考えを話し始める。


「それは……いえ、その可能性は……確かにあります。これほどの高品質な鉱石であれば、今までにない高性能な装備が作れる可能性は高い……それも踏まえ改めて金額を考えると金貨650枚でいかがですか?」


(金貨650枚!?想定より本当に2倍も高くなったぞ!レナードさん、すげぇ!)


「もう一声!アレク君は、いつくも繭を所有しています……加工品も余裕を持って作ることができるでしょ……でしたら、効果的に宣伝を行って大々的に売り出せるでしょ?」


「むうぅぅぅ、仕方ないか……なら金貨700枚で、どうですか!?こちらとしても、これが本当に限界です!」


 そこまで話が進むと、レナードがアレクの方を見て最終決定の意思をアイコンタクトで聞いてくる。

 アレクは大きく頷いて、それに答える。


「では、金貨700枚でお願いします!それでは数量は、どれくらいをお求めですか?」


「金貨700枚だと、そうですね……10個ほど頂ければ嬉しいのですが……さすがにそんなに量は、ありませんよね?」


 ネゴンが苦笑いしながら、アレクの方を見てくるので自分で使う分を除外して個数を伝える。


「えっと、買取に出せる個数は18個までですね……10個以上になりますが大丈夫ですか?」


「えっ?そ、そんなに蒼糸の繭をお持ちになっているんですか!?ちょっと、待って頂けますか?予算の確認を……」


 結果として、18個を買取してもらい合計で金貨12,600枚で取引を終えた。

 さすがに金貨では量が重過ぎるので大金貨に換金してもらい大金貨1,260枚を受け取る。

 最後には両者が、ソファから立ち上がり合意の握手を交わす。


「素晴らしい取引ができ感謝しております!また珍しい素材などありましたら我々、商人ギルドに依頼をお願い致します」


「いえ、こちらこそ大変勉強になりました……今回は、ほどんどレナードさん任せだったので次の機会があれば私も交渉ができるようになりたいものです」


「はははっは、その際には素晴らしい取引と駆け引きができることを祈っております」


 蒼糸の繭とお金の交換を終え、アレクとレナードが冒険者ギルドへの帰り道で先程の取引の交渉術について話していた。


「レナードさんは何故、あそこまで大胆な金額提示ができたんですか?もしかしたら、断られて取引が破談になることも考えられと思うのですが?」


「それは、事前に商人ギルドが何をしようとしているか知っていたからだよ。彼らは、こちらが蒼糸の繭の情報を伝えてから、お抱えの鍛冶屋や武具店に人を送って調整を進めていたからね……」


(そんなことまで、調べてくれてたのか……レナードさんには最初から最後まで頼りきりになってしまったな)


「いいかいアレク君……交渉術のコツは、どれだけ相手より有利なカードを集められるに掛かっている。相手に自分達の方が有利だと思わせておいて最高の時にカードを切るんだ。だから、ある意味……今回のような交渉は、交渉が始まる前に勝敗が決まっていると言っても過言ではないんだよ。そのためなら冒険者を、雇って調べたりもするものだ」


「え?それじゃあ今回は情報収集とかで、お金が掛かったんじゃないですか?」


「まぁ、そこは君達に対しての投資だと、思ってもらえれば嬉しいかな?過去のことも、あるけど……最近でもアレク君達は、ギルドの冒険者を助けてくれたり、近隣の村を盗賊から解放してくれたりとアルテスのために色々と動いてくれている。そんな君達に、早いうちから良くして今後も、困った時には助けてもらうとしてるんだよ私はね!」


 イラズラっぽく笑うレナードは、そう言うとアレクの肩を軽く叩き先に行ってしまう。

 そんなレナードの背中を眺めながら、まだまだ勉強することがあるなぁ、と感じながらアレクは彼の後を追いかけるのであった。

 ちなみに、宿に帰ったアレクが仲間達に今日の買取で得た金額を伝えると、全員が青い顔をしてアレクにお金の管理を頼んできたために大金貨1,260枚を4当分し315枚に分けてアイテムボックスに収納することになった。そして、この時点でアレクの個人資産は金貨7100枚ほどに達していた。



 ===============================



 蒼糸の繭の取引から1週間ほどを過ぎ、アレク達は冒険者ギルドの地下訓練所で訓練にあけくれていた。

 ドリー達との訓練の前に、やれることをやっておきたいとカインから頼まれてアレクとカインは一対一で訓練に取り組むことになった。

 アレクも、体術の師匠であるクラウ以外とも戦闘経験を積んでおきたいと思っていたので喜んで訓練を行っている。


 以前より、色々な部分が【身体強化・極】によって見えるようになったアレクは、体術の模擬戦をカインと行いながらジッとカインの体術を見て盗んでいた。

 カインの体術は、足技が中心になっており……柔らかい下半身からムチのように放たれる蹴撃は、アレクのシンプルな蹴りと違い、スピードに緩急があるように感じられる。


 同時にバネのような筋肉から、作り出されるフットワークはアレクが会得した縮地に近い動きを可能にしていることに驚きを隠せなかった。

 そこまでカインの動きを観察していたアレクは、休憩中でカインから体術についてのアドバイスを求められ際に感じたことを素直に話していた。


「カインの体術の形は、既に完成しているから無理に俺に合わせなくてもいいと思うんだよな……」


「ん?どういうこと?俺からしてみたら、アレクの動きが早すぎて追い切れないくらいなんだけど?」


「えっと、それは俺が【身体強化・極】を使ってるからだと思うんだ……だから俺の型を真似しなくても【身体強化・極】を習得できればカインは問題ないと思ってさ……上手く言えないけど、俺が剛の体術だとしたらカインは柔の体術みたいな感じかな?」


「柔の体術かぁ、あまり自分の体術について考えたことなかったけど……言われてみたらアレクの言う通りに柔らかい動きからの攻撃が多いかもしれないな」


「っていうかカインは、すげぇ体が柔らかいよな?股関節とか、どうなってんの?」


 そこからは、お互い体の柔らかさを比べたり協力して体を柔軟にする体操などを一緒にやっていた。


「おい、アレク!変なところを触るなよ!ぶん殴るぞ?」


「はっ?男同士で、何言ってるだよ?それにこれくらい念入りにやんないと柔軟性を高めることなんてできないだろ?」


「いやー、男同士で触られると何か……ぞわぞわしないか?俺は、どうも苦手なんだよ」


「ぞわぞわすると、お前は顔を赤らめるのか?もしかして、お前……男色とかじゃないよね?」


「……喧嘩売ってるのかお前は!柔軟して体が温まってきたからだろ顔が赤いのは!?」


「はいはい!俺の勘違いでしたー!すみませんねー」


「アレク……覚えてろよ。お前が大変な時に、俺は見捨てるかもしれんぞ?」


 そんなことを言いながら騒いでいた2人を、1人の影が見つめていた。

 はたから見れば、なんともない男同士のじゃれ合いであったが……それを、そう捉えないものもいることをアレクとカインは、まだ知らない。



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