Cランク昇格試験
成人を迎え正式に冒険者になったアレク達
《漆黒の魔弓》は、Cランク昇格試験のため
試験官バルドと護衛対象ミザと共に馬車で
魔物が群生する街道を往復する依頼を
受けていた。
のどかな昼下がりに馬車を操りながら
アレクは、バルドと冒険者について改めて
話をしている。
「へぇ〜Cランク冒険者の平均レベルは、
20前後でステータスは200前後ですかぁ
基本的に冒険者の情報って秘密にしてる人が
多いから初めて聞きました」
「だろうな、俺も冒険者ギルドの役職に
ついてなければ詳しく情報を知ることは
なかっただろう。
まあ、レベルもステータスもあくまで
強さを示す簡単な数値でしかないからな……
実戦経験や生き残る知識がなければ意味を
持たないし数字に囚われないことが
長生きするコツと言えるだろうな」
「そうですね……いくら強くても攻撃に
よっては一撃死もありますもんね……
俺も注意します」
「そうしてくれ、それはそうとアレクは、
自分を呼ぶ時は“僕”じゃなかったか?
慣れてないから少し違和感があるな」
「あ、気付きました?実はパーティー内に
“僕”呼びのミカエラがいるから“俺”呼びに
変えたんです。
なんだか年下の子が、“僕”なのに自分も
“僕”だと年上として恥ずかしくて……
成人を機に自分呼びを変えてみました」
「恥ずかしくて、か。いいんじゃないか?
後輩を持ってアレクも先輩として成長した
ということだろう。
あの子供だったアレクが、もう成人だと
思うと俺も歳を感じるよ!はははっ!」
「成長ですか……じゃあ、しっかりと
バルド教官に成長の証を見せないですね!
あっ、それはそうと護衛対象のミザさん
ですが……ガチガチに緊張してましたけど
何かあったんですか?」
「あー、それはだな……今回の試験の話が
ギルド内で出た時にセシリアのやつが
どうしても自分が行きたい!と言い出してな
。
もちろん、ギルドの皆から反対されたんだ。
セシリアのやつはギルド受付の中心だからな
セシリアが抜けると大変だし何かあったら
ギルド内も混乱する。
色々と騒いでいたが……結局、新入りのミザ
に白羽の矢が立ちセシリアが直接ミザに
アレク達のことを頼むと言い含めたらしい。
その結果が、あの緊張というわけだ」
「そんな、事情があったんですね……
セシリアさん、色々と世話を焼いてくれる
のは嬉しいですけどやり過ぎなんじゃ?」
「セシリアも、アレクのことを家族のように
思っている。
それにセシリアは、家族を失うことを極端に
恐れているところがあるからな……
ギルド職員も冒険者達も古参の者なら
知っておるから悪く思う者もいないだろう」
「そうでしたね……今度ゆっくりと話す
時間を取ろうと思います。
心配性な姉の面倒を見るのも成長した弟の
役目ですからね!それに成人してお酒も
解禁になったので一緒に飲めますし」
「そうしてやってくれ!お酒なら俺も一緒に
飲むから、こちらから誘ってやろうか?
色々な酒の飲み方を教えてやろう!」
「はははっ!その時はお手柔らかに
お願いしますね!まだ強いかも弱いかも
分からないので楽しく飲める程度で
お願いします」
その後も、馬車に揺られながらアレクと
バルドの世間話は途切れることなく
続いていった。
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初日は、魔物の出現エリアに入っていない
場所で野営することになり街道から少し
外れた開けた草原で馬車を止めた。
バルドとミザが不思議そうにしているが
アレクは、いつものようにアイテムボックス
から自分の木造2階建て家を取り出す。
“ドスンッ!”あまりに非常識な光景に
口をあんぐりと開けて呆然とするバルドと
ミザの2人を置いてけぼりしにて馬達を
家の土台に繋ぎ直してアレク達は家の中に
入っていく。
「あ、あのう……驚くと思いますけど……
このパーティーだと普通のことなんです……
よ、良かったら家の中に入りませんか?」
オドオドした様子ながら固まっていた
バルドとミザに声を掛けて家へと迎えようと
するミカエラ。
「はっ!す、すまない!あまりの光景に
呆然としてしまった……ミカエラ君達は
慣れた様子だったが野営の時は、いつも
こうなのか?」
「い、いえ野営は、広い場所が確保できる
時に限り家を使っています。そ、それ以外は
普通の野営ですよ?」
「そうなのか……この歳になって新たに
驚くことばかりになるとは本当に人生は
分からないものだな!良し、家の中に
入るとしよう!なあ、ミザよ!」
「………………」
「どうしたミザ?驚き過ぎて声がでないか?
いつまでも外にいる訳にもいかないから
早く家の中に入ろうじゃな……」
「あ、あのう〜バルドさん、たぶんミザさん
立ったまま気絶してます……白目ですし……」
「………………」
バルドから助けを求められたアレク達は
ミザを抱えて家に入り2階の個室にある
ベッドで彼女を休ませるのであった。
アレクの家はルシアの小屋と比べても
かなり大きく5,6人でも問題なく入れる
家だった。
家具などは、廃品回収をしている時に
手に入れ使える物は再利用している。
2階には3つの個室があり各部屋にベッドを
完備しているし1階にはリビングにキッチン
仮眠室やトイレに風呂場まで用意されている。
アレクが追加で用意したのは人が寝れる
大きさのソファと食器に浴槽だけだった。
しかし、この浴槽が用意するのが一番大変
だったのだ……まだこの世界では浴槽が
一般的ではなく王族や貴族が使用する
だけであった。
なので浴槽だけで金貨200枚の出費に
なってしまったのが本当に痛かった。
それでも浴槽を手に入れたアレクは
今では自分の判断を本当に良かったと
思っていた。
いつも通りに浴槽に【水源創造】でたっぷり水を張り威力を調節した【火炎弾】で水を適温へと温める。
師匠直伝の湯沸かし魔法で準備を終える。
最初は、カインもアマリアもミカエラも
は冒険中に快適な生活をしてもいいものかと
戸惑っていたが今では風呂がない生活に
戻れないと断言するほどにハマっている。
人によっては贅沢な冒険者の旅など
無駄に思えるだろうが……アレクは、
そうは考えていなかった。
何故なら実際に一カ月ほどの長期間の旅を
経験して感じたことだが、長旅になるほど
体に疲れが蓄積していきストレスも期間に
比例して高くなっていくのだ。
野営での睡眠、美味しくない食事、体に
こびりつく疲労と汚れ。
そういったものは、体力と集中を確実に
削っていき最悪なタイミングで魔物と
遭遇すれば生き残る可能性は低くなる。
だからこそ、アレクは安心して休める拠点、
疲れを癒すベッド、体と心をリフレッシュ
する風呂、美味しく食事、自分が用意
できる最高の環境を揃えようとしたのだ。
そのことを皆で食事をしながら常識外の
色々なものを見せられアレクに質問攻め
してきたバルドとミザに丁寧に説明した。
最初は、興奮気味だったバルドもアレクの
話に思い当たることがあったのか途中からは
納得したように頷いていた。
ミザは、というと最初はアレクのことを
信じられない物を見る目だったのが次第に
瞠目して話を聞いていた。
話を聞いていたパーティーメンバーも
思っていたことを口にしていく。
「そりゃ、最初は俺も驚いたさ!
冒険中なのに家で休めて風呂に入れて
温かい食事が食べれてベッドで寝れる
んだからな!けど家で休めるように
なってから明らかに疲れや体の動きが
改善されたことが分かったからな……
贅沢だとは思うが今は本当にありがたいと
思ってるぜ?」
「私も冒険者になって女だからこそ色々と
覚悟はしていたわ。
けど、アレクは私達の命を預かるリーダー
として全力を尽くして最高の環境を整えて
くれている……これを当たり前だと思わずに
感謝しながらアレクを支えることが私が
できることだと思ってる」
「ぼ、僕も……アレクさんは本当に賢くて
優しい人だと……思ってます!こんな僕が
みんなと一緒に冒険できるのもアレクさんの
お陰ですから……ずっと一緒に冒険できたら
……いいなって……」
「なるほどな……冒険できる最高の環境か。
今まで冒険者をしてきたが、そんな風に
考えたことは一度もなかったな……
生き残る確率も高くなり心の余裕も生まれる
素晴らしい考えだな!まあ、アレクくらい
しか実現できない方法ではあるが」
パーティーメンバーの感想を聞いたバルドが
何か羨ましそうにアレクを見つめると
突っ込みを入れてくる。
それを聞いた皆が、突っ込みに同意し
笑い合いながら食事の時間を過ごした。
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森の木漏れ日が降り注ぐ街道を走る馬車。
昇格試験3日目、朝から馬車で移動をして
いたアレク達だったが気配探知と魔力探知に
引っかかるものがあり馬車の速度を落とす。
するとすかさず反応したカインを状況を
把握しようと御者席へと声を掛ける。
「アレク魔物か?数は?」
「カイン恐らく魔物だ……街道沿いの林に
12体、魔力が高い個体がいることから
ゴブリンかボブゴブリンで魔法を使って
くる可能性がある。
魔力が高い個体の数は……3体かな?
戦闘は避けられそうにないから臨戦態勢に
入ろう。
馬車を止めて先制攻撃を仕掛けるから
基本作戦通りでとアマリアとミカにも
伝えてくれ!」
「ミザさんは、馬車内で待機ですが……
バルド教官はどうしますか?俺とカインは
馬車から少し離れて仕掛けに行きますが」
アレクの指示を確かめるように聞いていた
バルドが質問に答える。
「俺もアレク達に付いていこう。馬車は
アマリアとミカエラで守り切れるという
判断なんだろ?いざとなったら戻って
戦うが今回はアレク達のお手並み拝見だ」
話が纏まると馬車が止まり《漆黒の魔弓》の
面々とバルドが馬車を降りて素早く動き出す。
全員の戦闘準備が完了したことを確認すると
アレクとカインが森の中に入り気配を
殺しながら魔物を目視できるところまで
距離をつめる。
2人の後ろには少し離れてバルドが待機し
いつでも戦闘に参加できるようにしている。
やがて距離をつめていたアレクとカインは
アイコンタクトをすると戦闘を開始する。
どうやら狩りの途中だったのか辺りを警戒
してるホブゴブリン達が林の中で息を潜め
ているところに“キイィィィ!”と甲高い音が
凄まじい速度で通り過ぎていく。
何事かとホブゴブリン達が周りを見渡すと
一体の直立不動のホブゴブリンが不意に
倒れる。
“グシャ”倒れただけでは発生しない嫌な音に
元々醜いホブゴブリンの顔が更に醜く歪む。
辺りに血生臭い匂いが漂いホブゴブリン達の
雰囲気が一変する。
一体のホブゴブリンが何かを指示しようと
声をあげようとすると今度は“キイィィィ!”
と音が2つ重なるように聞こえた瞬間
2体のホブゴブリンの頭が突然弾け
脳と肉片が後方に飛び散っていく。
ホブゴブリンの中に恐怖が一気に広がり
逃げ出そうとする者もでそうになるが
リーダーらしきホブゴブリンが“いげえ”と
汚く濁った声で指示を出すと持っていた
ボロボロの剣で矢の攻撃がきたと思われる
方向を示めす。
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バルドは、驚くべき光景を目にしていた。
噂には聞いていたが……アレクの魔弓と
言われるパーティー名にもなっている弓術を
目の当たりにしたが、あまりに非常識。
本来、障害物が多い森の中で威力を発揮する
ことができない弓矢が障害物を全て貫通し
更には魔物を一撃で葬っているのだ。
(どうなんてるんだ……あの矢の威力……
あれを開発したアレクも凄いんだが)
驚くべきは貫通力と矢の速度だった……
冒険者としての経験を積み百戦錬磨と言っても良い実力を持つバルドが自分自身がもし
アレクの弓矢に狙われていると想像すると
背中に冷たいものが流れる。
目で追い切れないほどの速度で迫ってくる
矢は一撃必殺の威力を持ち、なおかつ
凄まじい貫通力を持つために障害物に
隠れることも不可能……まさに地獄。
許される選択肢は、神に祈って背を向けて
逃げるか。
または、狙いが自分に向かないことを祈って
矢が飛んでくる方向に突っ込むかだ。
目の前でアレクの攻撃によって即3体の
魔物の命が奪われた。
遠距離攻撃が可能なゴブリンメイジを最初に
潰されたホブゴブリン達は接近戦を
挑むために闇雲な特攻を仕掛けてくる。
(ここで前進か……まあ、それ以外の選択肢
がないからだろうが見てて可哀想とすら
思えてくるぞ)
こちらまでの距離は100mほどあるが……
3mほど近付くたびに一体ずつホブゴブリンの姿が林の中に倒れて消えていく。
最初に12体いたホブゴブリン達は即座に
3体を失い9体になった。
1分もしない内に残りは4体までに減り
やっとの思いでアレクの姿を捉えた
ホブゴブリン達は必死に剣や斧を振り上げ
襲い掛かってこうようとするが……
突然に横から現れた刃物の煌めきによって
1体の命が奪われる。
まさに言葉の如く横槍を受けたボブゴブリン
達は襲撃者を確認しようと動きを止める。
そこには真っ赤に燃える髪をした槍を構えた鬼がいた。
一瞬だけ見事な構えに気圧されるが
そんなことをしているうちに矢の攻撃が
1体の胸を貫き死を運んでくる。
せめて剣の届く距離にいる者を攻撃しようと
斧を持ったボブゴブリンがカインに突っ込む
が鋭い槍の突きによって致命傷を受ける。
しかし、胸に槍を受けながらも驚くことに
槍の口金を掴み槍を封じようする。
それを見た残りの1体が決死の一撃を
カインに放とうとするがカインは槍を
手放し軽く構えると下半身がムチのように
しなったと思うと空気を裂く苛烈な回し蹴りがホブゴブリンの頭部に命中する。
(あっ……痛そうだな……あの蹴りは、
確かカインのやつは体術も得意だったな)
身体強化済みカインの回し蹴りは簡単に
魔物の骨を砕く、“グギッ”と骨が折れる音が
するとホブゴブリンは力なく倒れた。
槍を封じていたホブゴブリンから槍を
抜き出すと無言のまま首の骨が折れた
ホブゴブリンを突き刺し確実に絶命させる。
戦闘を難なく終えたアレク達は手慣れた
様子で後処理に入っていく。
周囲の気配・魔力探知を終えたアレクは
カインと共に魔石と指定部位の解体を手早く
済ませバルドも合流すると馬車へと戻ること
になった。




