アマリアの体験談
森から街道に出たアレク達は馬車に
向かってゆっくりと歩き出していた。
馬車を護衛していたアマリアとミカエラの
姿を視界に捉えるとカインが呼び掛けた。
「おーい、こっちは全滅させたぞ!
そっちは大丈夫だったかぁ!」
「カイン……そんなに大声出さなくても
大丈夫だから!一応、馬車の方にも意識は
向けて気配・魔力探知はしてたから異常が
あればカインに現場を任せて馬車に戻ってたし」
「いや〜、さすがアレク抜かりないね!
俺なんか馬車が気になって仕方なかった
からな!2人きりになった途端にアマリアが
ミカに襲い掛かってるんじゃないかとか……」
「さすがにそれは……ないと思いたい……
あとカインは忘れてるけどミザさんも馬車にいるからな?」
戦闘で緊張した空気を和らげようとする
カインの話に乗りながら馬車組に状況確認
をするアレク。
「アマリア、ミザさんの様子は大丈夫そう?
戦闘に巻き込まれるのは初めてって言ってた
けど?」
「ええ、こっちには魔物は出て来なかった
から恐怖もそんなになかったと思うわ。
けど、やっぱり緊張で真っ青になってたから
少し休憩を入れた方がいいかもね」
「分かった、それじゃあ森を抜けた平原で
早めの昼食にしよう!ミカと一緒に
ミザさんの様子を引き続き見てあげてくれ」
全員が馬車に乗ったのを確認すると
休憩を入れるために森の外に向かって
前進を開始する。
アレクは、隣にいるバルドに森を抜けたら
休憩を入れる予定を伝え先程の戦闘について
分析や感想を聞いたりして過ごした。
戦闘に関しては問題なく、むしろCランクの
実力だと太鼓判をもらえるほどだった。
1時間ほど馬車を走らせると平原に出て
街道近くにある小川で休憩を取ることなる。
アレクが馬の手入れをしていると
アマリアが川の近くで座っていたミザに
近づき話しかけていた。
「ミザさん、気分は少しは良くなった?
ダメそうだったら無理に食事せずに、アレク
が用意した干した果物でも食べて。
甘みがあって疲れてる時には効くのよ?」
「あ、気を遣わせてすみません……
魔物との戦闘が、あんなに緊張するなんて
思いませんでした。
皆さんは、必死に戦っているのに私は
馬車で震えてることしかできなくて……
本当に申し訳ありません」
「今回はミザさんは、護衛対象なんだから
気にしないでいいのよ?初めての魔物との
戦闘なんだから緊張するのも当たり前。
私は、初めての魔物との戦闘の時は
足が震えるなんて可愛く思えるほどに
役に立たなかったんだから!」
アマリアが少しだけ恥ずかしそうに自らの
過去を思い出しながらミザに体験談を
聞かせてくれる。
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それは1年前のことだった……冒険者として一通りの訓練を終えたアマリアは、アレクと
カインと共に王都の近郊で魔物の群生地帯に
実戦訓練にきていた。
空には薄暗い雲が広がりアマリアの不安を
映し出したように冷たい空気に包まれていた。
森に入ると早速、アレクが魔物の反応を
探知してカインとアマリアに合図を送って
くる。
数は4体で素早いことから獣系の魔物だと
思われ各自戦闘態勢に入る。
初めての実戦で緊張と恐怖から吐きそうに
なっているとアレクが優しく肩に手を置くと
アマリアに語り掛けてくる。
「相手は、4体でこちらは3人だけど……
僕かカインが1体多く引き受けるから
アマリアは、目の前の魔物だけに集中して
訓練を思い出して戦うだけだよ。
敵は倒すのでなく?」
「敵は倒すのでなく、時間を稼ぐことが
私の仕事……だよね?無理せずに防御を
固めて隙があれば攻撃する!けど、深追い
せずにアレクかカインの加勢を待つ」
「それで大丈夫!いきなりの戦闘で
多くのことをしようと考えないで……
自分の身を守ることに集中すればいいから。
そしたら僕達がなんとかするよ!」
アマリアが不安で下げていた顔を上げると
アレクとカインが頼り甲斐のある様子で
こちらを見つめていた。
「アレクの言う通りだ!俺達が各自
役割を果たせば誰もケガもしないし
誰も欠けることなく生還できる!
俺とアレクはアマリアのことを信じてるぜ?
だから、アマリアも俺とアレクのことを
信じて戦ってくれ!」
「わ、分かった!2人を信じて戦う!
2人とも無理しないでね……」
声を掛け合うと3人は素早く配置につき
アレクの弓矢での先制攻撃を待つ。
アマリアは右手にメイスを左手に鉄の中盾を
装備し早まる鼓動を感じながら魔物が
いると思われる方向を見つめる。
(盾を構えて殴る……盾を構えて殴る……
盾を構えて殴る……盾を構えて殴る……)
頭の中で、やることを繰り返し暗示のように
唱えているとアレクの方向から甲高い音が
聞こえてくる。
アレクの一撃必殺の矢が放たれる音を
合図に戦闘が始まり森の奥の方から
獣が駆ける音が近づいてくるのが分かる。
アレクも気付くと近接戦闘装備に切り替え
翡翠色の美しい剣と小盾を構えていた。
(……くる!きちゃう!くるなぁー!)
混乱する頭と裏腹に訓練が染み付いた体は、
敵を迎え撃つべく迎撃の態勢を完了し
腰を低く落として茂みから飛び出してきた
狼の嚙みつき攻撃を盾で吹き飛ばす。
“ぎゃん”と反撃され鳴き声を発した狼の姿を
見失わないように盾をズラして構える。
(あの魔物は……ウォーウルフ!Fランクの
魔物!!大丈夫っ!勝てない相手じゃない)
“ううぅぅ”唸り声を上げ威嚇してくる魔物を
真正面から捉えて注意深く敵の動きを
観察する。
歯茎から生えている鋭い牙に地面に
めり込む爪が凶暴な魔物であることを
象徴してるようで少しだけ盾を強く
握り直す。
そこまで考えていると、不意に自分が
随分余裕で魔物を観察していることに
気がつく。
(あれ?以外と私……冷静じゃない?
これは私が戦いに向いているとか?)
こちらが油断していると判断したのか
ウォーウルフがメイスを持っている右側に
回り込み足に噛みつこうとしているのが
アマリアにも感じ取ることができた。
素早く態勢を入れ替え盾を低く構えると
ウォーウルフのタイミングに合わせて
今度は盾強打を放ち敵の態勢を崩す。
ここが攻撃のチャンスだと思い
アマリアが、狙い澄ましたメイスでの一撃を
ウォーウルフの頭部めがけて振りかぶる。
しかし、本人が思っていた以上に腰が引け
メイスの攻撃に体重が乗らなかったために
当たったものの命を奪うダメージにならずに
ウォーウルフはヨロヨロと距離を取る。
(……やった!一撃入れてやった!
とりあえず一撃入れたから上出来!)
再度、ウォーウルフを盾越しに捉えて
睨み合っていると突然ウォーウルフの頭が
“ズリュ”と生々しい音を立てて地面に落ちた。
辺りに何と言えない血の匂いが広がると
ウォーウルフの亡骸の横にアレクが
立っていることに気が付いた。
「すごいよアマリア!僕が来る前に魔物を
追い詰めるんて……戦闘の才能があるんじゃないの?目立った負傷もないようだし」
「えっへへ!そうかな〜?私ったら
もしかして才能ある感じかな?」
そこに倒したウォーウルフを運んできた
カインが合流してくる。
話し掛けてきたカインは怪我一つなく
余裕の態度を取っていた。
「おおっ!その様子だと問題なく戦闘
できたみたいだな!アマリアは戦闘に向いた
性格だったんだな。ちょっと意外だぞ?」
「私ってば、アレクから才能ありと
認められた女だからね!戦う修道女として
バリバリ頑張りますよ!」
パーティーで初戦闘を終えて談笑していると
アマリアは不意にアレクによって首を
落とされたウォーウルフを見てしまう。
切断された断面からは血が規則正しく
“ビチャビチャ”と漏れ出していた。
あまりに生々しい光景に朝に食べた
野菜スープが胃から逆流してくるのを
感じて思わず口を押さえるが……勢いを
止め切れずに大惨事を起こしてしまう。
「うん?どうしたの?アマリア……
顔色が……」
「おえぇぇぇぇぇぇぇ、うっぷぇぇぇぇ」
「アマリアが時間差で吐いたぁぁぁ!
アレク水用意しててぇぇくれぇぇぇ!」
“バシャバシャ”と勢い良く吐き、辺りに
酸っぱい匂いが漂ってアマリアと2人は
騒ぎながら初戦闘を終えたのだった。
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「っていうのが私の初戦闘だったのよ……
それに比べればミザさんの足が震えたとか
全然、マシだと思うんだけど……どう思う?」
遠い目をしたアマリアが、ミザの目の前で
非常に答え辛い質問をしているとアレクが
話を聞いていたのかフォローを入れてくる。
「えっと、つまり何が言いたかというと
護衛する側と護衛される側でもお互いを
信じて戦闘に臨むべきだと言いたいみたい
だよ……多分……」
ミザも、アレクのフォローに乗っかるべきと
反射的に判断してすかさずに話を思い出して
会話を合わせる。
「ああ!アマリアさん達が、互いの気持ちを
強く持つためにと話していたやつですね!?
なるほど!私も皆さんを信じることで
気持ちを強く持ち戦闘に対しての苦手意識を
克服するということですね!」
遠い目をしていたアマリアがアレクとミザの
話を聞いて、こちらの世界に戻ってくると
自然と会話に混ざってくる。
「あっ、うん?そうそう立場は違っても
お互いを信じて行動すれば良い方向に
向かっていくものだからね!だからミザさん
もいきなりは難しくても私達のことを
信じてみて!って話ね」
「わ、分かりましたぁ!皆さんのことを
信じて護衛されたいと思いますぅ!」
アマリアをフォローすることで妙な連帯感を
得たアレクとミザは自然と接するようになり
違和感なく《漆黒の魔弓》と行動できる
ようになった。
人は自分よりも哀れな者の様子を見せると
客観的に自分を見れるようになり落ち着きを
持って行動できるようになると言う。
アレクは、アマリアが自分の恥をあえて
晒すことでミザに落ち着きを持たせようと
して過去の体験談をしたのだと思うことにし
考えることを放棄した。




