アルテスからの旅立ち
フェルム武具店に依頼していた武具を
受け取りにきたアレクは、朝から
何故かフェルムに拉致され工房の奥へと
連れて来られていた。
フェルムと弟子達から見慣れない
レザーアーマーを着せられ装備の調整を
手際よく済まされていく。
「ちょ!なんなんですか!?
押し売りですか!?僕、今そんなに
お金持ってないですよ!」
「うるせぇ!黙って突っ立てろ!
金なんていらねぇーよ!こいつは俺達の
気持ちだから有難くもらいやがれぇ!」
ドワーフ独特の大きな声で装備の調整を
しながらフェルムがアレクの質問に乱暴に
答えてくれる。
なんのことか分からずに頭にクエスチョンマークが出ていたアレクに弟子の1人が説明を
してくれた。
話によると今アルテスには、アレクの噂が
流れており内容としては冒険者見習いの少年が
凶悪な殺人鬼“静寂の影”から1人の少女を
守るために全身傷だらけになりながらも
必死に戦い守り抜いたという話だった。
そして少年は、冒険者から支払われた報酬を
少女の治療代と彼女の病気持ちの母親の命を
救う薬にあてて何も言わずに立ち去った。
それどころか事件解決の功労者にも関わらず
驕ることなく協力してくれた兵士や
冒険者達に感謝し報酬の一部まで回して
自分は1金貨も、受け取らなかった。
何かの物語に出てくる英雄のような内容で
アルテスの街で話題になっているらしい。
(う〜ん、なんだろう……大体合ってる
はずなのに全然違う内容に聞こえる)
「っていうか、なんでそこまで詳細に
事件の内容と後日談が伝わってるんですか?
いくらなんでも、おかしいでしょ!?」
「えっ?なんでも関係者と名乗る紺のローブ
を着た女性が街の酒場で噂を広めていた
らしいですよ?」
アレクは、条件に当てはまる女性が
自分の近くにいることに気が付き犯人を
睨みつける。
すると店内で待っていたパーティーメンバー
の内の1人、おもにルシアが明らさまに
顔を逸らした。
(犯人は、絶対に師匠だぁぁ!何して
くれてんだ本当にあの人はぁ!!
っていうか噂広がるの早すぎだろ!
タイミング的に昨日の夜しかなかったのに)
「事情はある程度、把握できましたけど……
装備の件は、どういうことなんですか?」
「先程の噂を聞いた親方が、このまま
アルテスから返しては必ず恩を返すドワーフとして納得できないと言い出しまして〜
そちらのパーティーメンバーの方に相談した
ところ戦闘で装備が、かなり破損してるから
代わりのものがあればとのお答えだったので
工房ですぐに用意できるものを調整して
渡すことになったのです」
調整してもらっているレザーアーマーは、
レッドサーペントとブラックサーペントの
合皮で作られた逸品であった。
レッドサーペントの皮は柔軟性に優れ
あらゆる衝撃に強く打撃などにも耐性がある。
逆にブラックサーペントの皮は、硬さに優れ
斬撃・刺突に耐性があることから防具に
多く使われている優秀なものだった。
「このレザーアーマーは、下地にレッドサーペントの皮・その上からブラックサーペント
の皮を使用して加工してあることから
かなりの防御力を誇っている。
お前さんのことをしっかり守ってくれるから
安心して接近戦もできるぞ?」
フェルムが防具についての説明をしている
うちに調整が終わりアレクは自身の装備を
姿見で確認する。
全身レザーアーマーは黒を基調として
縁に紅いラインが入っており見た目も美しい。
そして何よりも驚いたのは、殆ど重さを
感じないことだった。
感覚としては普段着を着ているのと変わらない
くらいに鎧の重さを意識させないほどだ。
「このレザーアーマー……すごい……!
こんな逸品を頂いていいんですか!?
さすがに……悪い気が……」
「気にするな!これは俺達だけじゃない……
アルテスの街の者達がアレクに感謝している
からこそ準備できたものなんだ。
素材から加工に調整まで街の職人達が皆が
手伝ってくれたから用意できた……
そういうものなんだ。
遠慮なく持って行ってくれ」
皆の想いが込めらた逸品を感謝と共に
アレクは確かめるように体を動かす。
いつも間にか装備の様子を見に来ている
パーティーメンバーも満足そうに
こちらを眺めている。
「本当にありがとうございます!
この装備は大切に使わせて頂きます!」
フェルムと弟子達に、何度も何度も
頭を下げて感謝を伝えるアレクに普段
お礼を言われ慣れていない職人達は
とても照れ臭さそうに笑っていた。
アレク達は、フェルム武具店で依頼の武具を
受け取ると既にネタばらししていたアレクの
アイテムボックスに収納して馬車を出発
させる。
フェルムや弟子達に見送られアルテスを
旅立ったアレクは、馬車の屋台から
少しずつ小さくなり見えなくなっていく
街を見つめながら感慨深そうにしていた。
それに気付いたリタから話し掛けられる。
「ねぇ、アレク……シャロちゃんだけ?
あの子に会わなくても良かったの?
命を賭けて守った子なんだから会って
あげたら喜んだと思うんだけど……」
アレクは、頭を横に振りリタの問いに対して
否定的な意思を示す。
「彼女のことを僕は、守りきれなかったと
思っています……会っても、彼女の顔を見て
きっと笑えないから……今はまだ会えないんです。
僕が強くなって自信がついたら彼女に
いつか会いに行くつもりですよ」
「そう、きっと彼女もアレク君に会いたがってると思うから早く強くなって会ってあげなさい。
あと……カッコつけ過ぎ!恥ずかしなら正直に言いなさいよ〜」
アレクの少し落ち込んだ様子を励ますように
リタがお姉さんぶってアレクをからかってくる。
そんな様子をニヤニヤして見てくるルシアに
噂を流したことを問い詰めたりと屋台が
騒がしくなっていきながら馬車は
アルテスを離れて行った。
===============================
再び馬車での長旅が始まったが……
行きとは違い休憩を頻繁に取りながら
一行は街道を進んでいた。
頻繁な休憩のわけは、アレクに修行を
つける時間を多くとるためであった。
アレクの希望で、対人戦での実戦的な技術や
知識をパーティーメンバーからそれぞれ
教えてもらい修行していた。
フベルドからは、近接戦闘での実際に使える
剣術と体術と対人戦で注意する点などを
学んでいた。
マリリスとの戦闘で全くというほど体術が
使えず剣ばかりの偏った戦い方をして
しまった反省からの修行である。
ハンスからは、弓から近接戦闘に移る際の
牽制や投擲術の各種使い方を学んでいた。
特に近接戦闘での投擲術の使うタイミングや
相手への視線誘導に毒付きの投擲物を当てやすい死角などを中心に教えてもらった。
リタからは、基礎的な攻撃魔法でより
実用的なものを選んで学ばせてもらい。
アレクの得意分野の風・雷属性を集中して
伸ばす修業をつけてもらっていた。
そして師匠からは、属性付与魔法という
特殊な魔法を学ぶことになった。
スキルの【付与】では特性だけだったが
属性付与魔法は魔力の消費が多い代わりに
強力な付与を行うことができるので
剣で戦う前提で教えてもらっていた。
アレクは、貪欲に修業を行い1週間ほど
過ぎた馬車の移動中に状況が急変する。
森の中を通る街道を進んでいると
ハンスとアレクが同時に周囲を取り囲む
気配を探知したのだ。
御者席ではハンスがフベルドに
屋台ではアレクがルシアとリタに警戒を
伝えて一瞬で臨戦態勢に入る。
御者席にいるハンスが目視できた状況を
アレク達に伝えてくれる。
「恐らく相手は盗賊で数は10人前後
この先の森を出る箇所を閉鎖して待ち伏せ
をしているのが【遠見】で確認できた。
戦闘は避けられない……人が相手だが
やれるかアレク?」
一呼吸置いて、アレクは感情を感じさせない
冷たい声でハンスに答える。
「はい、殺れます。最初は僕の弓矢で
先制攻撃でいいですか?」
「ああ、御者席を俺様と交代して先制攻撃を
頼む!ルシアとリタは左右で後ろは俺様だ!
アレクの護衛でリーダーが傍にいるから
できるだけアレクの弓矢で敵の人数を
削ってくれ」
馬車の速度が、緩やかになり御者席から
アレクが魔弓を構える。
スキルの発動を済ませて森の出口を
封鎖して待ち伏せている盗賊の姿を
捉えると弓を引き絞る。
(相手は、あの殺人鬼マリリスと同じだ……
大切な人々の命を奪う者、もうあんな光景は
2度と見たくない!だから……俺は!!)
昂りそうになる気持ちを落ち着けようと
一瞬、目を閉じて息を吐き自分の心を
いつも通りに深い水の底へ沈めていく……
自分の心臓の音が徐々にゆっくりと聞こえ
何も聞こえなくなる。
冷酷な狩人になったアレクは、
目を開き敵に向かって無心で矢を放つ。
===============================
盗賊達は、この辺りを縄張りとしている
小規模な集まりの者達だった。
素性は、それぞれ違ったが街で犯罪や
事件を起こして追放された者が殆どだった。
街道での略奪行為は重罪だが魔物に襲われ
ように偽装すれば冒険者ギルドから目を
付けられることもなく過ごすこともできる。
一カ月前に王都ドォールム方面から来た
馬車と同じ形をした一行が縄張りに入った
と見張りから報告を受け盗賊達は下品な
笑いを浮かべる。
盗賊達は、基本的に王都ドォールム方面から
くる馬車は襲わないようにしていた。
理由は簡単でドォールムから来る馬車は
屋台が空であったり素材だけであったりと
アルテスに向かって商品を入荷しにいく
ことが多い馬車で稼ぎが悪いからだ。
そのため、馬車の形を覚えておいて
アルテスからの帰りを狙った方が稼ぎに
なることを盗賊達は知っていた。
今回も一カ月前に形を覚えた馬車だったので
やっと獲物が大きくなって帰ってきたと
考えてあたのだ。
盗賊達は、いつも通りに森の出口付近に
バリケードを置き強行突破できないように
準備して行く。
こうしておけば、大抵の場合は馬車を止めた
タイミングで包囲していた者達が襲い掛かり
なんなく獲物を狩ることができるのだ。
「へっ!そろそろきますぜぇ兄貴……
今回の獲物は、どれくらい武具を積んで
ますかね?高く売れる物が多いといいんですが」
「さあな、けど最近は女も抱いてないし
武具がなくとも女がいれば楽しめるからな
どちらかがあれば十分だろ?」
兄貴と呼ばれた男は、スキンヘッドに
盗賊独特の小汚い格好で体格だけは立派な
強面な面をした者だった。
両手斧を前に構えながら舎弟の男と
屑のような話を楽しそうに喋っている。
やがて馬車が、ゆっくりとこちらに
近づいてくるのを目視すると兄貴と呼ばれた
男が周囲にいるものに合図を送る。
等間隔に包囲をしている盗賊達が合図を
受けて準備に入り次の襲撃タイミングの合図を
待っていた。
最後の合図をスキンヘッドの男が出そうと
片手を上げた瞬間に耳が痛くなるほどの
甲高い音が聞こえ思わずスキンヘッドの男と一緒にいた小物風の盗賊の男は耳を押さえた。
何事かと、周囲を確認しようと思った時には
横から“ガンッ!”と大きな金属の落ちる音が
聞こえて音の発生源を直視する。
そこには、両手斧が無様に転がっている……
その両手斧に上から真っ赤な液体が鼓動に
合わせて“ドッ、ドッ”と金属を汚していく。
真っ赤な液体の元をたどるように視線を上げると、手を上げようとしたまま固まって
動かないスキンヘッドの男がいた。
「あに…………」
小物風の盗賊が言葉を言い終わる前に
スキンヘッドの男がゆっくりと前のめりに
倒れ“グシャ”と嫌な音を立て土煙を上げる。
小物風の盗賊が当然の光景に恐怖し声を
上げようとするが……“キイィィィ”と
甲高い音を聞いたのを最後に男の意識は
途切れるのであった。
===============================
アレクの魔弓による先制攻撃により
森の出口付近を封鎖していた者達を
一瞬で屠った一行は、何故か包囲した状態
から襲ってこようとしない盗賊達に各自
弓矢・魔法で攻撃を仕掛けパーティーメンバーの誰もケガを負うことなく戦闘を終えた。
フベルドとアレクが森の出口を封鎖して
いたバリケードを撤去しようと付近に
近づくと盗賊2人の死体が転がっていた。
1人は心臓付近を抉られ穴が開き
もう1人は、頭を撃ち抜かれ表現しがたい
血肉を周辺に撒き散らしていた。
自分でやっておきながら、あまりの光景に
吐き気がこみ上げてくるアレク。
血生臭い現場は、覚悟していたアレク
でさえも気分が悪くなることは耐えることが
できなかった……途中まで我慢して撤去
作業を行っていたが再度、死体を見た時に
吐いてしまった。
その後は、ルシアと役割を交代してもらったが
ルシアでさえも死体を見た第一声は。
「これは……ひどい……ぼーやの初体験
としては最悪だな……」
と同情的な感想を漏らすほどであった。
馬車に戻ったアレクをリタが介抱している
うちに日没が近づいて今日は、森を抜けて
距離を置いた場所で野営をすることになった。
先程の光景が目に焼き付き気分が悪い
アレクは、夕飯すらも喉を通らなかったが
押し込むように無理やり食事を胃に入れる。
人を殺めたことのある者なら誰もが通る道を
体験したアレクに仲間達は複雑な表情を
向けていた。
やがて、仮眠時間になり交代で見張りを
することになっていたがアレクは、
まったく眠れず火の番をしながら見張りを
交代せずに続けていたが……
そこに仮眠時間をおえたルシアが現れる。
アレクの近くに座ると火を見つめながら
ゆっくりと話始める。
「人を殺めるということは、思っていた
よりもずっと辛いものだろうぼーや?
けれど、ぼーやは何度も何度も同じように
これからも人を殺めることになる」
「中々に辛いことですね……人を殺すということは……師匠達は、どうやってこれを
克服しているんですか?こんなことを
聞かれても答えるのは難しいと思いますけど」
「今回のような相手については何も考え
ないことだな……命を奪いにくる者のこと
まで一々考えていては心が耐えられないぞ?」
「そういうものですか……では、命を奪いに
くる者以外はどうなのですか?」
「そういう者達のことは忘れないように
してあげろ。助けられなかった者、自分を
庇ってくれた者、見知った者の死は
どうしても心の中に傷を作るだろう。
時間と共に傷は治るが……傷跡は残る……
その傷跡を見る度に亡くなった者を思い出し
自分が生きていることに感謝するんだ。あとは
心の中の亡くなった者達が笑えているように
誇れるような生き方をすることだ」
アレクは、師匠の言葉を噛み締めるように
夜空を見上げて目を閉じる。
これからの人生で、どれくらいの死を見る
ことになるのか……どれくらいの人を
救うことができるのか……自分は誇れる
ような生き方をできるのか。
答えが出ないまま夜は更けていく。




