本当の望み
アルテスの冒険者ギルドに呼び出された
アレクは、他のパーティーメンバーと共に
ギルドの応接室で事実確認を受けていた。
リーダーのフベルドが説明を開始し
依頼を受けてから活動を細かく説明していき
別行動の話に移ってからはルシアが引き続き
話してくれた。
そして、突然アレクの姿が消えたところから
アレク自身が説明をしていくことになった。
突然に襲撃を受けたこと、手掛かりからカマをかけ犯人の特定したこと、シャロのことに
気付き戦闘に入ったこと、順番に話し
シャロを守りきれなかった場面では少しだけ
言葉を詰まらせてしまう。
それから、マリリスに追い詰められた所では
パーティーメンバーから軽い殺気が話の中の
マリリスに向けられていたことには苦笑いを
しながら内心、嬉しくなってしまった。
反撃の一撃を加えた後にルシアとリタが
合流してきた所まで話すとアレクの話は
終わり、まだルシアが説明をし始める。
ルシアの話はアレクも気になっていたので
耳を傾け集中して話をきいた。
「私達は、アレクが消えた後にシャロの家に
突入して現状を確認したところ彼女の母親が
目の前で娘が消えた!と混乱していたこと
からアレク・シャロ両名が事件に巻き込まれたと判断しました。
私はアレクと同様に、あの紙がカギになると
考え聞き込みの時に紙を持っていた子供達に
紙を譲ってもらいに向かいました。
リタには、リーダーの元に向かってもらい
状況を見て応援をこちらに送ってもらえる
ように頼みました」
それからはアレクの場面と繋がり
全員が合流した所で集めた紙2枚を使って
空間に介入して2人が現れたということだった。
師匠の適切な判断で自分の命が救われた
ことに感謝しつつ話を聞いていたアレクは、
マリリス自身が言っていた犯行動機や
彼女の戦闘スタイルに使用する武器や
ユニークスキル【隔絶】についてなど
詳しい補足説明を話していった。
そこまで話すと黙って話を聞いていた
ギルド職員が疑問を口にする。
「アレクさんは、マリリスから麻痺毒を
受けていたのですよね?何故、その状態で
彼女に致命傷を与えることができたのですか?」
職員からの質問に何故かパーティーメンバー
から怒りの感情が感じ取れたが事情が
分からないので正直にネタばらしをする。
「僕は錬金術も使うことができますので
毒・麻痺毒の調合も当然できます。
自分の体で薬を試したこともあるので
麻痺毒が付与された攻撃にもすぐに
気付きました。
その時に、逆に薬の効果で動けないフリを
して敵の油断を誘う作戦を思いつきました。
師匠から言われて普段から毒等の対抗薬は
常に持つようにしていたので派手に傷を受け
ポーションを飲むフリをして対抗薬を飲んで
いたんです」
ギルド職員と師匠以外のパーティーメンバーが、その話を聞いて唖然としていたが
構わずにネタばらしを続ける。
「それと、うちのリーダーも使えますが……
僕も少量なら物を収納できるスキルを
持っているので武器を失ったように見せて
右手を隠して武器を用意していました」
アレクは、皆の目の前で右手を突き出して
歪んだ空間から練習用の剣を取り出して
見せる。
見せた剣を再度、収納してからアレクは
話を続ける。
「彼女の油断を誘い無抵抗の相手を
仕留める寸前まで誘導し最後に反撃の一撃を
心臓に突き刺そうとしたんですが……
予想以上に出血していたようで狙いが
正確につけられずに、なんとか首筋に
攻撃を当てられたということです。
最後の最後で失敗してしまいました」
イタズラを見つかって気まずそうに子供の
ように苦笑いをするアレクを見て周りが
少し呆れた表情を浮かべる。
「ギルドの人よ!これでアレクの疑いは
晴れただろ?あんたが感じた違和感の正体は
きっとアレクの戦術が上手くいき過ぎたせい
だと思うぜ?」
フベルドがアレクの肩を“バンバン”と
叩きながらギルド職員の人の顔を見る。
「えっ?僕なにか疑われたんですか!?」
会話が予想外の方向に進んでいたことに
驚きながらも先程、何故かパーティーメンバーが怒りを示していたことを思い出し
納得してしまう。
「そうですね……どうやら私の考え過ぎ
だったようです。失礼な態度をしてしまい
申し訳ありませんでした」
ギルド職員の人が、深く頭を下げて謝罪の
気持ちを示してくれる。
職員の人は、冒険者見習いとはいえ何故
子供が“静寂の影”と戦って生き残ることが
できたのか?そしてトドメを何故刺さなかったのかと疑問に思い、もしかしたら関係者
なのではと考えたらしい。
事実確認を終えたアレク達は、その場を
後にしようとしたが……ギルド職員の人から
まだ、話があると引き留められた。
それは今回の報酬についてだったのだが……
討伐完了していないが“静寂の影”を撃退し
詳しい武器・戦術・犯行手口・容姿など
かなりの情報をもたらしてくれたことを
考慮して依頼報酬の半分150金貨を支払うと
いう話であった。
パーティーメンバーは、今回の報酬について
アレクに全額渡そうと言ってくれたが……
アレクは、少女1人守りきれなかったのに
報酬なんて貰っていいのかと考えていた。
そして、ギルド職員の人にお願いをする。
「報酬についてなのですが……今回の被害者
であるシャロの治療費と彼女の母親の病気を
完治する薬を買うことに使って頂けませんか?もし、それでもお金が残るようなら
今回依頼に参加した冒険者や王国兵の皆さん
で均等に分けて下さい」
「こちらとしては、それでも構いませんが
本当に手元にお金を残さなくともよろしいの
ですか?アレクさんは間違いなく今回の事件の功労者ですよ?」
「いいんです。今回の件で自分自身の未熟さ
を嫌という程に思い知りました。そんな
自分が報酬を受け取るのが我慢ならない
んですよ……それなら被害者の方や
事件の解決に関わった人達にお礼として
報酬を支払って頂けた方が僕は嬉しいです」
「アレクが、そういうなら俺達は反対
しないぜ?いつか自信を持って報酬を
受け取れるようになったら、その時は
しっかり貰うんだぞ?」
フベルド・ハンス・リタ・ルシアが
アレクを見つめて“ニカッ”と笑い掛ける。
そして話し合いは終わり栄光の剣一行は
ギルドを後にする。
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ギルドを出たアレク達は、これからの
予定を確認する。
どうやらアレクが休んでいた間に
フェルムさんの頼んでいた武具が完成し
明日には納品できるらしい。
その為に明日の朝にはアルテスを旅立つ
ことになっていたのだ。
フベルド・ハンス・リタの3人は旅の準備を
しに買い出しなどに向かうらしい……
アレク当然、手伝いについて行こうとするが
病みが上がりなのだからルシアと一緒に
休んでおいて!とリタから言われてしまい
ルシアと一緒に拠点にしている宿屋まで
戻ってきていた。
男部屋のベッドで横になっていると
不意に部屋のドアをノックする音が聞こえてくる。
アレクは、誰かを予想しつつノックに対して
返事をする。
「どうぞ!」
ゆっくり開く扉の前には、予想通りルシアが
立っていた。
手には本を数冊持って、これから読書でも
始めそうな雰囲気を感じさせる。
「やあ、ぼーや。特に用事はないが……
リタからぼーやが無茶をしないように
見張っておいてくれと頼まれてな。
面白そうだから引き受けてぼーやを
監視しにきてやったぞ!どうだ、嬉しいだろう?」
「師匠……そういうことは本人に言わないで下さいよ!それに監視が必要なほどの
人物扱いですか僕は?決して自分から
事件に首を突っ込んだわけじゃないですよ」
「なに、ちょっとした冗談だろ?あれで
リタもぼーやのことを心配しているんだ。
特に心の方の問題はな……ぼーやが何かに
悩んでいることは私も気にしていたしな。
リタも気を遣って私達を2人にしたんだろう」
「………………」
「別に無理に話せとは言わないし聞い出す
こともしない。だが、ぼーやの顔には
何かに納得していない感情や気持ちが
写っているように思う。
話すことで、その心の淀みが解消
されるなら相談してくれないか?」
諭すように声を掛けてくれる師匠の顔は
とても優しくて故郷の母を思い出させる。
今までダムのようようにせき止めていた
感情が少しずつ流れ出していくのを感じる。
「師匠には、敵いませんね……僕は……
自分の命が1番大切で次に親しい人の命だと
考えています……それ以外の人達のことは
正直どうでもいいとすら考えていました。
けど、シャロが短剣で切り裂かれた瞬間……
理不尽に奪われそうになっている命を
目の当たりした時に思ったんです。
死なせたくない!この少女を救いたいっ!と。
それまでの理屈なんてどうでも良かった……
見捨てることなんてできなかった……
只々守りたかった……!その時に気付いんです。
僕が本当に望んでいたことは、理不尽に
苦しめられている人を救いたいということだったんです。
全ての人々を救うことなんて不可能だし
救いたいなんて思うこと自体が傲慢なのかもしれない……偽善なのかもしれない……それでも僕は自分の心に嘘はつきたくないんです」
黙ってアレクの話を聞いていたルシアが、
真剣な表情でアレクに問うてくる。
「その気持ちは、きっと正しいだろう……
しかし、その道は矛盾した意味を持つ。
理不尽な人々を救うために他の者を犠牲にし
綺麗事では済まされない道を歩み
苦しみを背負うことになるだろう……
その覚悟があるかアレク?」
いつもの“ぼーや”呼びではなく1人の人間に
対して真意を問うルシアの瞳は真剣で
アレクの心の中を見抜こうする力があった。
だからこそ、アレクも心から答える。
「背負う覚悟はあります!ですが……
1人で全てを背負えるほど僕の背中は大きく
ありません。
だからこそ僕は色々な人々を巻き込んで
他の人に助けてもらいながら信頼できる
仲間にも一緒に背負ってもらおうと思います」
アレクは、この世界に生まれてから今に
至るまでに学んだことから自分の答えを
導き出していた。
自分1人の力などたかが知れている……
自分は物語に出てくる英雄なんかじゃない。
それを教会と冒険者ギルドの確執の時に
学んだことだった。
「それが、アレクの選択なのだな……
その信念を突き通す為に私達に頼みが
あるのだろう?言ってみろ」
(師匠は、本当にすごい人だ……こちらの
考えていて言いづらいことを聞いてくれる)
「はい、今まで躊躇してお願いしませんでしたが……対人戦の戦闘についても積極的に教えを乞いたいのです。
今のままでは、僕は誰も助けられません。
魔物であろうと人であろうと殺すことの
できる力が欲しいのです」
「だそうだ!皆の者どうするかな?」
師匠が、部屋の扉の方に大きな声で
問いかけるとぞろぞろとフベルド・ハンス
リタが部屋の中に入ってくる。
「いや〜盗み聞きをするつもりはなかった
のだが……帰ってきたら中に入りづらい
雰囲気だったのでな、外で待たせてもらったよ」
どこか申し訳なさそうなフベルド達が
頭を下げながら話し出す。
「しかし、アレクは辛い道を選択したのだな。
その目を見れば覚悟があることも分かる……
俺ができることなら協力しよう」
「そうだな……俺様がアレクくらい歳の頃は
まだまだ鼻を垂らした小僧だったぜ?
正直、最初は心配してたが話を聞いて見直した。
だから、お前がやるってんなら全力で
協力してやるよ!」
「いつも子供扱いしてたけど……アタシより
色々なことを考えてたんだね。
どれくらい力になれるか分からないけど
アタシもアレクに教えてあげられることなら
何だって教えてあげる!けど弟扱いは、
変わらないからね!」
「私も、ぼーやに対人戦を含めた戦い方や
効果的な戦略など遠慮なく教えよう。
それに師匠としてぼーやが間違えた道に
進みそうになった時は殴ってでも止めて
やるから安心しろ」
「フベルドさん、ハンスさん、リタさん、
師匠、本当にありがとうございます!
これから改めてよろしくお願いします!」
こうして、アレクは魔物と人の両方と
向き合い戦っていく選択することになった。
13歳の少年が、決断した選択が何を為すのか
どんな影響を及ぼすのか誰も知れない。
……しかし、そんな彼に影響された人間が既にいることは事実であった。




