アレクの事件簿2
王都 アルテスで起こっている連続殺人事件
の情報を集めていたアレクは新たな被害者が
増えてしまったことに胸を痛めていた。
今日は宿でパーティーメンバーが集まり
各自で集めた情報を報告して今後の対応を
話し合っているところであった。
「アルテスの冒険者ギルドから正式に依頼が
出された。今までは犯人の捜索や情報が
主な目的だったが……新たな被害者が出た
ことで国も冒険者ギルドも重い腰を上げ
討伐を主な目的した依頼を改めて出した。
我々としては、現在フェルムさんの武器が
そろそろ完成することもあり待機状態だが
今後のどう動くべきか意見はあるかな?」
フベルドがパーティーメンバーに向けて
意見を求めるように皆を見渡し問いかける。
まず、意見を言ったのは師匠であった。
「今回の連続殺人の依頼は受けない方が
良いと私は思う。理由としてはうちの
パーティーメンバーにはアレクという未成年
がいることが1番の理由だな。首を突っ込めば逆に被害者になる可能性もあるしな」
次に意見を言ったのはリタだった。
「アタシは、討伐に参加するべきだと思う。
理由としては、個人的だけど……小さな
子供ばかりが被害に遭っていることは看過
出来ないわ。けど、アレク君のことが心配
だからアレク君は今回の依頼から外すことも
考えた方がいいかもしれない」
リタは真剣な顔で皆に自分の意見を伝える。
彼女の中では、きっと自分の弟達が想像され
被害に遭ったらと考えているのだろう……
それは当然の考えてあり彼女の信念といえる
ものを判断基準にした結果だった。
「俺様としては、今回の依頼は受けてもいい
と考えてるぜ?うちに事件に巻き込まれる
可能性があるアレクがいる時点で何も
しなくても攻撃されるかもなんだし……
だったら、こちらから仕掛けられるように
動いた方がいい。もちろん、その場合は
アレクには誰かと組んでもらって絶対に
1人にしないことが条件だが」
「私も今回の依頼は、受けようと思う。
ギルドから出来るだけ多くのパーティーが
参加するように言われていることもあるし
何よりハンスの言う通り攻撃される可能性が
ある以上、後手には回りたくないからだ。
ただし、依頼を受けるのはフェルムさんの
武器が完成するまでに限定したい。
本来の依頼がある以上は俺達の拠点である
ドォールムからでなければ、そちらを優先
するのが筋だからな。
アレクの扱いについては、依頼から外しても
誰が守らないといけないことは変わらない。
白昼に犯行を繰り返す犯人からして
暗殺系のスキルを所持している可能性も
考えられるから仲間が守った方がいいだろう。
よって、これからは3人組と2人組に分かれ
アレクは常に3人組の方に入って依頼に
当たろうと思う。
何か異存のある者はいるか?」
師匠は、少し納得していない様子だったが
パーティーメンバーの総意に従い今回の依頼
を受けることを了承した。
それからアレク達はアルテスの街を見回り
ながら犯人の手掛かりを探し始める。
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アルテスの街は、王国の兵士や冒険者達が
見回りを行い異様な雰囲気に包まれていた。
昼夜問わず大通りや人目のない路地まで
見回りをし、それも3日目になったが……
犯人の姿や犯人の手掛かりを何も見つけ
ならないでいた。
アレク・ルシア・リタの3人は大通りから
少し外れた食事処で昼食を食べながら
一向に進まない犯人の捜索に頭を悩まして
いた。
「犯人の手掛かりすら見つからないとか
さすがにおかしくないですか師匠?
何か僕達に見落としがあるのか……それとも
盲点のようなものがあるのか分かりません
けど」
「ぼーやは、今回の事件について何か
考えていることはあるか?一応、下調べは
していたんだろう?」
「そうそう、なんでもいいからアタシ達に
情報を頂戴よ!アレク君が1番事件に詳しい
んだし!」
「う〜ん、そうですね〜。
犯人は、どうやって被害者を見つけていた
のかが分からないですよね……特に共通点が
ある訳でもないし子供ってことくらいしか
思い付かないですから」
「子供が被害者になっているが……
なぜ子供達は外にいたんだ?最近は殺人鬼の
噂も子供の耳に入っているだろうに」
「ルシアさん、子供でも家が貧しい所では
商店の雑用などでお金を稼いだりしています
から生きる為に外に出る子もいますよ?」
「まぁ、だが死ぬよりは家にいた方が
マシだろう?街が、これだけの非常事態に
なっていれば子供もさすがに分かるはずだ」
ルシアとリタが、子供が外に出ている理由に
ついて話し合っている時にアレクは薬屋で
すれ違った少女のことを思い出していた。
「2人とも、外にいる理由が分からないなら
子供に直接聞いた方が早くないですか?
さすがに未だに外にいる子供は少ないと
思いますが……見回りも兼ねていますし
無駄にはならないと思います」
ルシアとリタは、お互い顔を見合うと
アレクの提案に頷き未だに外にいる子供を
探しにアルテスの街を見回り始める。
最初は、犯人を探していた為に気づか
なかったが子供達は意外と外を歩いていた。
その内の1人に声を掛けて何故、危ないと
分かっているのに外にいるのか?という
質問をしたところ意外な答えが返ってくる。
子供は、オバケは昼に外にいてもお守りを
持っていれば悪さを出来ないから大丈夫!
と言い1枚の折り畳まれた紙を見せてくれる。
それには見たことのない紋様の魔法陣が
描かれており中心に血のようなものが
付着していた。
アレク・ルシア・リタは子供が持つには
似合わないお守りと呼ばれる魔法陣を
見ると顔を見合わせる。
「すまない君、このお守りを少し調べても
いいかな?決して傷つけたり破ったりしないから安心してほしい」
師匠が、少年に優しくお願いし魔法陣が
描かれた紙を【鑑定】で調べて結果を
教えてくれる。
「この紙は、魔法かスキルか何かを発動
する為の媒体となるものだな。内容までは
分からないが……決して、お守りと言える
ものではないのは確かだ」
3人は、この紙が事件に関係していることを
予感して詳しく調べることにした。
外にいる子供達に片っ端から声を掛けて
調べた結果、驚くべきことに殆どの子供達が
お守りを所持していたのだ。
やはり殆どの子供が、お守りを持っていると
悪い者から自分を守ってくれると話していた。
そして数人からお守りの入手先を聞くこと
ができたのだ。
お守りと呼ばれる紙を配っていたのは
1人の少女でありアレクも知っている者
だった。
この時点で、事態の大きさからリタが
フベルドとハンスの元に向かいアレクと
ルシアは紙を配っているとされている
少女の家の近くで張込みを行っていた。
「あの家が、ぼーやの言っていた薬屋で
すれ違ったシャロという娘の家か。
確か病気の母親がいて薬を買いに来ていた
という話だったな?その時に不審な点は
あったか?」
「僕の見た限りでは、不審な点はありません
でした。嘘をついている様子にも見えなかったので彼女自身が犯人である可能性は
低いと思うのですが……」
「見た目だけでは判断できんさ、見た目が
幼くとも遥か昔から生きている存在なども
いるからな。
それに彼女自身は無自覚で犯行を
手伝わされてる場合もある。
今の所、彼女の母親辺りが1番の容疑者だと
私は考えているがな」
「皆さんが集まったら探知系のスキルで
探りを入れてみますか?それで何かしらの
反応があれば関係者として取り押さえ
話を聞くということもできます」
そんな話をしているとフベルド・ハンス・
リタが合流してくる。2人はリタから
ここまでの事情を聞いていたらしく
張込みをの様子について尋ねてくる。
アレクとルシアから張込みをの間の話を
聞いたフベルドはハンスに探知スキルを
使ってシャロの家を調べるように指示を出す。
「リーダー、あの家には2人しかいないぜ!
1人は子供にもう1人はベッドで横になってる
アレクの情報通りだが、これからどうするよ?」
「アレクとリタに、あの家を尋ねてもらう。
この辺りに不審な者の目撃情報があり
見回りに来た冒険者としてなら行けるし
アレクの顔を覚えていれば色々と話を
聞ける可能性があるからな」
「分かりました。最大限に注意して
行ってきますので皆さんは周囲の警戒を
お願いします」
「ルシアさんも、アレクはアタシが無理しないように見とくから安心して待っててね!」
アレクとリタが、シャロの家へと向かい
玄関をノックすると中から少女の声で返事が
聞こえてくる。
「はい……どちら様ですか?」
アレクとリタは、アイコンタクトをすると
アレクが前に出てシャロの問いに対して
答える。
「突然、失礼します。僕は冒険者ギルド
所属のアレクと申します。この辺りで
不審者の目撃情報があり安否確認の為に
この周辺の民家を見回っています」
アレクの声を聞き、ドアが少しだけ開き
ドアの隙間から小さな少女の目がこちらを
見つめている。アレクとリタを確認すると
ゆっくりとドアを開けてくれる。
シャロもアレクの姿を覚えていたらしく
警戒心は和らいだように感じた。
「あの〜もしかして、この間マリリスさん
の薬屋にいらしてた方ですか?私を覚えて
ますか?」
そう問いかけてくるシャロは金髪に碧眼と
改めて見ても可愛らしい顔をしていた。
とても殺人鬼の犯人にも共犯にも見えないが
アレクとリタは気を締め直し情報収集に
徹する。
「あ〜確か君は、薬屋で僕と入れ違いに
来たお客さんだったね!覚えてるよ!
ここの辺の子だったんだ驚いたよ」
「はい、私も驚きました!こんな偶然も
あるんですね!あ、私はシャロといいます。
名乗りもせずに失礼しました……」
「別に気にしないで!こちらも急に
押し掛けてゴメンね怖かったでしょ?
あ、こっちの女性は同じパーティーの
リタさん優しいお姉さんだから安心して」
「ちょっと!アレク君!それだと見た目が
優しく見えないって言ってるように聞こえる
んだけど……どういうこと?」
リタを宥めているアレクを見てシャロから
笑顔が溢れる。やがて、アレク達を信用した
のか家の中へと案内してくれた。
「奥の部屋で母が寝ていますので、こちらで
お話しさせてもらってもいいですか?」
シャロにテーブルに案内してもらい
アレクとリタは今回、シャロの家を訪れた
理由を改めて説明する。
“静寂の影”と呼ばれる殺人鬼の目撃情報が
ギルドに入り、この周辺を手分けして
回っていることや安否確認もしていること
色々な話をしながらシャロの反応を見る。
しかし、疑うべき点は感じられずに
無自覚に犯行を手伝わされてる線に切り替え
アレクとリタは質問の方向を変えていく。
「この周辺を何軒か回った時に、お守りの
話を子供達から聞いたんだけど……
最近、そういうのが友達の間で流行ってるの?」
「あ、お守りですか?あれならマリリスさんが子供達が怖がらなくて済むようにって
沢山用意してくれたんです。お友達にも
配ってあげてほしいって言われて」
「へぇ〜マリリスさんが用意してくれたんだ。僕もお守りをもらってもいいかな?
冒険者をしてると色々な怖いことがあるから
守ってもらえるなら助かるしね」
「あと1枚だけなら余ってますよ!あとは
皆に配っちゃったから、これで最後の1枚
だから渡せて良かったです」
シャロは笑顔で例のお守りを渡してくれる。
その様子からシャロは利用されているので
間違いないとアレクとリタは判断して
薬屋のマリリスが犯行に関わっている
可能性が高いという結論に達する。
アレクとリタは話も、そこそこに切り上げ
シャロの家を後にした。
物陰に隠れていたパーティーメンバーに
アレク達はシャロの家で聞いたことと
シャロ本人の様子を伝えて今後の展開を
決めることにする。
「話を聞く限りでは、薬屋のマリリスという
女が怪しいな……だが、情報としては
シャロの話を全て信じるのは危険だろう。
だから、引き続き3人はシャロの家の監視で
俺とハンスは冒険者ギルドに応援を頼み
薬屋のマリリスの元へ向かう。
これでいいか?」
フベルドの判断にパーティーメンバー全員が
頷き肯定の意を示す。
それからは素早くフベルドとハンスは、
その場を離れて冒険者ギルドへと向かっていた。
残されたアレク達は、小声で事件の手掛かり
について話し合っていた。
「結局のところ、この紙は何の為に子供達に
配られていたんでしょうね……まさか本当に
善意でやっていた訳ではないでしょうし」
先程、シャロから貰った紙を眺めながら
アレクはルシアとリタに疑問に思ったことを
問いかけてみる。
「普通は魔法やスキルの媒体になるものを
不特定多数に、ましてや子供達に配るなんて
ありえないからな……それがマリリスとやら
の能力に関係あるものなのかもしれんぞ?」
「アタシには、ただの紙にしか見えないけど
そんな紙で能力とか魔法とかが使えるの?
それより直接魔法とか飛び道具で攻撃した
方が早くて確実じゃない?」
各自に思っていることを話していると
不意にアレクの周りから音が消える。
異変を察知してアレクは最大限に警戒を
強めて辺りに神経を研ぎ澄ませる。
次第に高まっていく緊張感の中で
アレクの頭上から鋭い輝きの凶器と
漆黒に包まれた者が無慈悲に命を狙っていた。




