馬車旅と魔弓の実戦
緑溢れるウィリデ王国 王都ドォールムから
1つの馬車が出発していた。
キャラバンと言われる幌馬車で
雨風を凌げ、荷物や人の運搬に用いられる
便利な馬車であった。
御者席にはフベルドとハンスが座り屋形には
アルクとルシアとリタが乗っていた。
二頭の馬を操りながら栄光の剣一行は早朝からルブルム王国に向けて出発していた。
ルブルム王国は、ウィリデ王国の南に位置する国でドワーフや様々な種族がモノ作りの
拠点していて定住している工業が盛んな街で
冒険者にとっても重要な場所になっている。
ウィリデ王国からは街道が続いていて
冒険者や商人など多くの者が、この街道を
利用している。
今回の依頼は、王都の商人からのもので
ルブルム王国に素材を届けることと
届けた素材を元に作った装備を持って
帰ってくるだった。
初めての馬車だったアレクは、初体験の
ことにテンションが上がっていたが……
暫くすると屋形の揺れから
お尻が痛くなり次第に気分は下がっていた。
(結構、揺れるもんだな馬車って緩衝装置とかないから凄く揺れるし操作性も悪いんだな……将来絶対に緩衝装置を付けた馬車を用意しよう)
リタは慣れたように色々と体を動かして
一箇所が痛くならないように過ごしていた。
ルシアは意外にも平然とした顔で
過ごしていたがアレクは騙されなかった。
風の魔法でお尻との接地面をクッションに
してやり過ごしていることに気付いたのだ。
(師匠ずるいぞ!自分だけ楽するなんて!)
アレクの視線に気付いたルシアは、一瞬だけ
やれるものならやってみろ!と言いたげな
表情を返してくる。
今試しても加減ができずに馬車を壊す
可能性があったのでアレクは諦めたが……
この旅の中で習得してやろうと心に決めた。
2日間は、大した戦闘もなく途中で
御者席に乗せてもらい馬車術を教えて
もらったりスキルについて教えてもらったり
して有意義な時間を過ごした。
その中で、意外にも勉強になったのは
ハンスさんの話だった。
Bランクの冒険者で狩人ということで積極的に質問をしていたのだが普段と違い、教える時は真面目にしかも分かりやすく技術や考え方を教えてくれた。
特に気になったのは夜戦での狩人の在り方に
ついてだった。
長い旅になると当然、野営になり見張りも
しなければならなくなる。
狩人にとって夜に弓で戦うことは絶対的に
不利なのだ。
何故なら、最高の武器であり最高の利点であるリーチが活かせなくなるからである。
夜では、容易に距離を詰められ接近戦に
移らざるおえなくなる。
しかし、それで終わっていいのか?弓は夜に無力なのか?そこでハンスさんが考えたのは夜でも弓で戦える方法だった。
具体的なスキルだと【夜目】【遠視】
【音波探知】が有効だという話だ。
【夜目】は夜でも昼間のように見えるスキル
で冒険者では持っている者は多いらしい。
次に【遠視】これは身体強化を目に集中
し訓練することで習得できるスキルで
遙か遠くを見通すことができる。
最後に【音波探知】これは身体強化を耳に
集中することで習得できるのだが知らない
者が意外と多いらしい。
【夜目】【遠視】は遠くの敵を狙う為に
有効なことは分かったが何故【音波探知】が
必要なのか分からなかった。気配探知や
魔力探知があれば十分に思えたので
そのままアレクはハンスに質問した。
「気配探知と魔力探知があれば
十分ではないですか?【音波探知】だと
隠密や歩行術で消音されて近づかれると思うのですが……」
その質問にハンスは、首を横に振って答える。
「上位の魔物になると気配も魔力も隠して
まるで煙のように接近してくる個体も存在
すると聞いたことがある。もちろん
消音してくる敵もいるだろうが俺達が
本当に聞くべきなのは周りの音だよ。
消音している敵からは聞こえなくても
そこに存在しているなら音の返りで
発見できるだろ?」
この話を聞いた時にアレクはハンスのことを
心から尊敬した。
彼のやっていることは現代のソナーと同じ
ことだったからだ。
一方から発生した音を聞くのではなく、こちらから音を発してその反射した音で敵を見つけると言ったのだ。
この時代、この文明レベルで個人がソナーを開発していると考えると本当に脱帽した。
更に驚いたのは、犬笛ならぬ蝙蝠笛をハンスさんが持っていたことだった。
これにより広範囲に超音波を発生させ
ソナーとして使うことが可能となっていた。
以前、依頼で洞窟に行った時にいた魔物
ラージバットの喉笛を剥ぎ取って加工して
作ったらしい。
この時に初めて色々な意味で、この人は天才なんだと確信した。
ちなみに、この時に【音波探知】を使用
していてラージバットから音波が出ている
ことや、その音波の返りで敵を捉えている
ことに気付いたということだった。
それから、この件について2人で野営の
見張りの夜に遅くまで話し合った。
今までこれを説明してもアレクのように
理解し興奮し褒めてくれる人は皆無だった為、ハンスも初めての理解者に心から喜んでいるようだった。
アレクからも、知識としてある程度のだが
蝙蝠笛が、もしかしたら
獣などの魔物を呼ぶ音を発するかもしれないと注意しておいた。
ハンスは、話を聞いて評価してくれた
アレクにお礼として蝙蝠笛を
いくつか渡した。予備で作ってあったもの
だと言っていたがアレクは感謝してそれを
受け取った。
これをきっかけにアレクはハンスを
狩人の先生として接するようになっていった。
3日目からは魔物の襲撃を受けて戦闘になることが数回あった。
ハンスさんが探知のスキルで索敵をし
合図があるとパーティー全員が臨戦態勢に
入る。
殆ど先手を取られることもなく
馬車を止めて戦闘に備える余裕がある程に
パーティーメンバーの動きは安定していた。
初回の戦闘ではアレク以外の皆が戦闘に
参加しアレクは後方で待機していた。
アレクはフベルドの指示により全員の動きを
観察し戦闘全体の流れを見て勉強する。
フベルドがアレクを初回の戦闘に参加
させなかったのは誤って味方に攻撃を
当てさせないようにする為であった。
複数人のパーティーに参加した場合
慣れないうちは攻撃タイミングや
動きが被ってしまいケガをすることがある。
それを未然に防ぐ為に初回の戦闘では
アルクに味方の動きの観察を指示していたのだ。
フベルドは、戦闘になる前に武器となる
グレートソードを異空間から取り出していた。
驚くべきことに彼は武器収納という
この世界で初めて見るユニークスキル持ち
の冒険者だった。
容量は武器2つ分ほどと決して大きくない
ものの冒険者には嬉しいスキルであった。
襲撃してきた魔物は中型のオーク4体に
大型のオーガ2体という集団だった。
ハンスさんが弓でオークの足を止め
リタさんと師匠が魔法を放つ、隙が大きく
なったところにフベルドさんの特大剣で
トドメを刺すという戦術を取っていた。
足の早いオークを最初に潰し、残った足の
遅いオーガはフベルドさんとハンスさんで
足止めとダメージで削り射程外からの魔法で
トドメを刺して初回の戦闘は終了した。
初回の戦闘の後にフベルドさんから御者席に
呼ばれハンスさんと交代するように隣に座り
先程の戦闘についての分析を聞かれた。
「先程の戦闘で、自分が加わっていたら
どのような動きをするか想像できたかな?」
「はい、戦闘を見ながら自分を組み込んで
戦闘を想定できました。僕の場合だと
リタさんと師匠の防御をしつつ戦うか
役割をハンスさんと交代して前衛での
時間稼ぎを担当するかだと思います」
「その想定で正解だ。アレク君の場合は
体格も小さく攻撃力も高くない。先程の戦闘には向いていないだろう……なら後方で仲間を守るか敵を引きつけて時間を稼ぐのが1番現実的な動きになる」
そこでアルクは、魔弓の存在を思い出し
別の質問をフベルドとへと投げ掛ける。
「では、魔物を一撃で倒すことができる
威力のある弓矢での攻撃があったら僕は
後衛で攻撃ですか?」
フベルドは少し考えてから、自分の答えを
アルクに伝える。
「アルク君に、それだけの攻撃力があるなら
後衛のメインとして戦闘に参加してもらう
だろうな……魔法はできるだけ温存したいし
弓でなら、その負担も少なくて済むだろう」
「なら、次の戦闘の際に試しに弓で参加して
フベルドさんが僕のことを判断して頂けませんか?生意気に聞こえると思いますが……
お願いできないでしょうか?」
「アルク君は、かなり慎重派な印象があった
んだが……何か奥の手があるからの発言なんだろうな。分かった次の戦闘では弓での参加
を許可しよう……だが、私が見て危ないと
思ったら指示を出すから従ってくれよ?」
「もちろんですよ!お願いを聞き入れて頂き
ありがとうございます。皆さんの迷惑にならないようにフベルドさんの指示に従います」
フベルドから戦闘参加の許可をもらった
アレクは少し緊張していた……それは魔弓を
使用しての実戦は初めてだったからだ。
弓の訓練は毎日欠かしたことはなかったし
スキルの熟練度も、かなり高くなっていると
自負していたが何故か震えが止まらなかった。
そんなアレクの様子を見守っていたルシアが、馬車移動の休憩中に話し掛けてくる。
「緊張しているのか?ぼーや。戦い慣れているぼーやにしては珍しいじゃないか……
先程、フベルドから聞いたが次回の戦闘から
ぼーやも参加するんだろう?魔弓を使う気なんだろうが実戦では初めてだが行けるのか?」
正確にアレクのことを見抜いているルシアは
質問しながら、いつもと違うアレクの様子に
違和感を覚えていた。
「師匠……先程から震えが止まらないんです。魔物との戦闘は初めてじゃないし必要以上の恐怖を感じている訳でもないのに……
魔弓で戦うと思うと無性に気分が高ぶって
落ち着かなくて仕方ないですよ」
ルシアは、先程から自分の感じていた
違和感をアレクの言葉から何なのか確信することができた。
「ぼーや、それは緊張や恐怖からくる震えで
はない……それは自分の力で戦うことに
高揚する気持ちからくる震えだよ」
ルシアの言葉にアレクは、“はっ”とする。
前世でも経験したことのない感覚……。
漫画や小説でした読んだことのない戦士など
が戦いの前に感じる気持ち。
(初めて体験したが……これが武者震いと
いうやつか?自分の気持ちが自分のものでは
ないように高揚し抑えきれなくなり震えになるとは……)
「師匠、ありがとうございます!師匠の言葉
で気持ちが楽になりました。これで次の
戦闘では足を引っ張らずに済みそうです」
今までの固い笑顔ではなく1人の男が見せる
顔で笑ったアレクの様子に安心しルシアは
肩をポンポンと叩くと馬車に乗り込んで行った。
王都を出発してから4日目にアレクが心待ちにしていた魔弓での初戦闘が発生した。
魔物は小型の武装したゴブリンが7体と
大型のオーガが3体という内訳だった。
「敵はゴブリンナイトが7体にオーガが3体
周辺に追加の気配はなしだが……油断は
できない状況だな」
ハンスの索敵で先制を取れる状態での
優位なスタートとなったが魔物までの距離は
50mほど離れている。
フベルドがアレクに弓での先制攻撃の指示を
出すがアルクが弓を構えた場所から魔物まで
の距離の間には木々が邪魔になり正確には
狙えそうにない。
フベルドが、アレクに場所を移動するように指示を伝えようとした瞬間……“キィィ!!”
甲高い鋭い音がアレクの弓から放たれる。
パーティーメンバーが、唖然とアレクを
見つめていると魔物達がいた場所から
“ドシンッ!”と重い何かが倒れる音が
森の中に響き渡る。
どうやらアレクの放った矢は魔物との間に
あった木々を貫通し1体のオーガの頭部を
射抜いたようであった。
何事もないように、今度は2本の矢を
取り出して同時に構えるアレク……
その目線の先には何が起きたか理解できずに死体を眺めるオーガ2体がいた。
弓を斜めに傾け迷うことなく矢を放つ。
“キィィ!!”またしても閃光が森を走り
閃光はオーガの頭部と胸を吸い込まれるよう
にそれぞれを射抜くと森の奥へと消えていく。
2体のオーガが大きな音を立てて崩れ落ちた
タイミングで、やっとゴブリンナイト達は
攻撃されていると理解し辺りを警戒して
こちらの存在を探し始める。
しかし、その行動はあまりに遅すぎた。
目では追いきれない程のスピードで放たれる
矢を50m離れた距離から障害物関係なく
受けることとなったゴブリンナイト達は
なす術もなく1分程の時間で殲滅された。




