初ダンジョン攻略3
「この主部屋のヤツを倒せば攻略完了となる。準備はいいかぼーや?」
師匠の声に気合が入るアレク。
「はい、大丈夫です。基本の作戦は
今まで通りで不測の事態には柔軟に対応
できるようにしておきます!」
(【身体強化】【気配探知】【魔力探知】)
「では、扉を開けます!」
重い石の扉が、ゆっくりと開いていき
2人が中に入ると扉が閉まっていく。
薄暗い空間が急に明るくなっていく。
主部屋に入ったことがきっかけに
室内の壁掛けになっている松明に火が
順々についてく。
(松明の自動点灯とか派手な演出だなぁ)
アレクが、そんなことを思っていると
奥に魔物の姿を確認できた。
しっかりと武装したコボルドが6体待ち構えている。
「あれは、コボルドナイトとコボルドロード
だな、青白い1体がロードだぞ?」
師匠が情報を教えてくれる。
コボルドナイトは5体、茶色の毛並みに
120cmくらいで皮の鎧に斧を装備している。
コボルドロードは、青白い毛並みに大斧持ち
150cmくらいで皮の鎧は着ていない代わりに
筋肉質で強そうな見た目をしている。
魔物達も、こちらを確認すると
コボルドナイトが纏めて突っ込んでくる。
「師匠!僕が前に出ます!」
アレクは剣と盾を構えながら
コボルドナイトを迎え撃つ。
(5体、纏めて相手は無理だ……なら!
【身体強化】本気モード【歩行術】)
並んで囲もうとしてくる魔物から一瞬で
脱出し包囲の外に回り込み斬りつける。
『ギャアァァ』魔物の1匹が悲鳴を上げる。
その一体の悲鳴と目標を見失ったことで
魔物達は、理解が追いつかずに動きが止まる。
それを待っていた師匠が魔法を5体に
向かって放つ「【ウインドカッター】×5」
頭を狙った魔法に3体が首を落とされる。
残り2体は、師匠の声に反応して姿勢を低く
して魔法を躱かわした。しかし姿勢を
低くしたことで頭の位置がアレクの間合いに
入ってしまう。「頭がガラ空きだ!!」
鋭い剣撃が2体の首を刎はねる。
瞬く間に、コボルドナイトを殲滅し
残るはコボルドロード1体のみとなった。
青白い毛並みのロードは、ゆっくりと
大斧を構えてアレク達を迎え撃つ態勢を取る。
その姿に、アレクは面白い個体だと思い
師匠にお願いをする。
「師匠、あの個体と一対一で戦っても
いいですか?」
「いいぞ、けれど無理はするなよ?」
意外に、あっさりOKを貰いアレクは
前に歩き出す。
アレクは盾をアイテムボックスにしまい
ブロードソードを両手で掴み正眼の構えを
とる。(【付与】【水魔法】【風魔法】)
「いくぞ!!」
気迫の声と共にロードに向かって突っ込む
アレク。今だに【身体強化】本気モードの
効果が続いており【歩行術】が発動すると
アレクの姿が揺らいで見える。
ロードがアレクを見失った一瞬
冷気を帯びた剣撃が足や腕を襲う。
『ギャウァ!!』痛みに反応してロードの
大斧が振り下ろされるが、攻撃は空を切る。
再び、間合いの外に現れるアレクに
逃がさぬように迫り攻撃を仕掛けるロード。
しかし、次の瞬間には背中を数カ所
斬りつけられる。
数分後……主部屋には冷気により動けなく
なったコボルドロードと堂々と立つアレクの姿があった。
コボルドロードは、うつ伏せに倒れ込み
虫の息である。アレクはその傍らに立ち
ロードの心臓に剣を突き刺した。
コボルドロードは塵になり魔石と
ロードがしていた腕輪だけが残った。
「ダンジョン攻略、おめでとうぼーや」
師匠が、嬉しそうに祝ってくれる。
「ありがとうございます師匠、これも
師匠のおかげです」
ロードの魔石と腕輪を回収して師匠に
向き直る。
「ぼーやは、本当に謙虚だな。たまには
子供らしく喜んでもいいんだぞ?その腕輪は
ドロップアイテムか、鑑定してみるか?」
「十分、喜んでますよ!鑑定お願いしても
いいですか?」
腕輪を師匠に渡して調べてもらう。
「【鑑定】……」
「これは、腕力の腕輪。装備すると筋力が
上昇する装備品だな。ぼーやの戦利品だ、
装備しておくといい」
師匠から返された腕輪を観察する。
黒革を基調として縁は銀細工が施され
薄い銀色の紋様が美しく見える。
「ダンジョン初攻略の記念品ですね、
頂いておきます。それと、あの扉は?」
主部屋の奥の壁にいつの間にか石の扉が
現れていた。
「ああ、あれはダンジョンの宝物庫。
ダンジョンによって収集された宝が
あの奥に集められているという訳だ。
だが……初心者ダンジョンだと攻略者も
多いから、あまり期待はできないな」
「あの、冒険者が死んだら装備などが
回収されて宝箱から発見されたって話の
やつですか?」
(冒険者の遺品だと思うと、ちょっと
嫌だなぁ。使えるものなら貰いたいけど)
「その話のやつだよ。ダンジョン自体が
生成した宝もあるみたいだから全てが
冒険者の持ち物ということでもないがな」
「そうなんですか……宝物庫に行ってみましょう。どんな部屋なのかは気になりますし」
2人で扉の前まで移動する。
アレクが石の扉を開けると、そこには
六畳ほどの大きさの部屋に宝箱が1つだけ
置いてあった。
「本当に、何もないですね。逆に清々しく
感じる程に宝物庫らしくなくて笑えます」
アレクは乾いた笑いを浮かべる。
「ここまで、何もないのも珍しいな……
前に誰かが攻略してから私達が攻略するまで
誰も犠牲にならなかったのかもしれない。
そうなるとダンジョンが宝を生成した
可能性を信じるしかないな……」
師匠も渋い顔をしている。
「まあ、元々レベル上げと実戦経験を
積むのが目的だったので別にいいですけど。
宝箱確認して、さっさと帰りましょう!」
アレクは、気持ちを切り替えると宝箱に
近づいていき何も考えずに箱を開いた。
すると宝箱の中には、1つだけ指輪が
入っていた。アレクは指輪を拾い上げ
手の平に乗せる。
「指輪ですね……師匠お願いしていいですか?」
師匠は、何も言わずスキルを使う。
「【鑑定】……」
「幸運の指輪、運が2倍になる」
「えっ?それだけですか?運が2倍になるって
曖昧な効果で意味が分からないですね……」
けれど、師匠は真剣な様子で考えている。
「運が2倍になる……意味のないことが
起こる可能性が……いや、これまでには
実証されていないだけで」
「師匠、研究に使うなら所有権を譲ります
けど……どうしますかこれ?」
「あ!ああ、私が持ってても仕方ないし
ぼーやに所有権を譲るぞ?もし効果を実感
できたら私に報告してくれ」
「分かりました。では僕が装備しておきますね。」剣を持たない左手の中指に指輪を
装備しておく。
「それでは、帰るとするか。ぼーやも
早く地上に帰りたいだろ?」
「はい、とりあえずお風呂に入りたいです。
でも、ダンジョンの上まで登るのは時間が
掛かりますね」
「ぼーや、知らないのか?ダンジョンは
攻略すると脱出の魔方陣が現れ地上まで
一気に行けるんだぞ?」
「へっ?地上まで行ける魔法陣ですか?
どこにあるんですか、そんなもの……」
「ほれ、あそこに見えるだろう?」
師匠が主部屋の中央を指差す。
そこには確かに青白く光る魔法陣が
存在していた。
「いつの間に出現したんですがあれは……
まあ、あれですぐに地上に行けるなら
文句はありませんが」
「では、地上に戻るとしようじゃないか」
喋りながら歩き2人で魔法陣の中に入る。
一瞬で地下空間から景色が森の中へと
変わり、周りの状況を確認すると外は
夜になっており久しぶりの新鮮な空気を
肺いっぱいに取り込んでみる。
「んん〜やっぱり外は空気がうまいですね。
ダンジョン内は、空気が澱んでいて
気が滅入りますよ本当に」
「そうだな!外はダンジョンに比べ
空気も、うまいし何よりジメジメしていないのがいいな」
2人でダンジョンに文句を言いつつ
森の中で開けた場所を探し小屋を出す。
ルシアもアレクも疲れていたが風呂だけは
我慢できず順番に体を清めた。
ダンジョン内では、浄化薬で体を清潔に
保っていたが……やはりお湯になれている
2人にとっては風呂に入らないと
気持ちが悪く、落ち着かなかった。
久しぶりの風呂を楽しみ、綺麗になった
2人はソファでくつろぎながら今後の予定を
話していた。
「師匠、王都に帰ってからの予定は
どうするんですか?また冒険者ランク上げの
依頼三昧ですか?」
「う〜ん、あと少しでCランクになるから
そしたら街を離れる依頼が多くなるかも
しれないな。それまでは今まで通りに
過ごすつもりだぞ」
「なるほど、今まで通りですね。僕は
現状あるスキルの熟練度を上げることと
魔物や周辺国家についてなど色々な知識を
学びたいと思います。王都に図書館とか
あるんですか?」
「図書館か、あることにはあるが
王立図書館などは一般庶民には開放
されていないから入れんぞ?色々と調べ
たいなら冒険者ギルドの資料室や
教会に行けば書物なども見せてもらえる
かもしれんな」
「へぇ、ギルドに資料室なんてあったんですね。教会は一度しか行ったことないけど
あそこは部外者に厳しそうですよね?」
「ギルドの資料室は、過去の魔物の報告や
珍しい素材のこととか実用的な情報が多い。
教会は、国の成り立ちと宗教や医療の心得など歴史と医療関係が学べるぞ。確かに
部外者、特に冒険者には厳しいが
勤勉な者であれば受け入れてくれるだろうよ」
(教会で調べ物もしたいし、思い切って
行ってみるか……)
「説明、ありがとうございます。教会にも
足を運んでみようと思います」
「礼ならいいさ、それよりぼーや
レベルはどれくらい上がった?」
「まだ、確認してませんでしたね……
ギルドカードで確認してみます」
ステータス
〔名前〕アレクサンダー
〔年齢〕12
〔職業〕持たざる者
〔レベル〕12
〔体力〕(HP)470
〔魔力〕(MP)155
〔攻撃力〕290(+15)
〔防御力〕155
〔敏捷性〕240
「12レベルになってますね。ステータスも
全体的に40〜70くらい上昇してます。
腕力の腕輪の効果も出てるみたいですね」
「レベルが、ちゃんと上がっていれば
身体機能も自然と高まるからな。無駄には
ならないから時間は掛かるが頑張るんだぞ。
まあ今日は、ゆっくり休んで疲れをとって
明日に備えよう。私もベッドが恋しいから
もう寝る。おやすみ、ぼーや」
欠伸をしながら師匠はベッドに
向かって行った。
「はい、おやすみなさい師匠」
アレクも、久しぶりの慣れたソファで
泥のように眠った。
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6日後、王都ドォールムへと帰ってきた
ルシアとアレクは話し合った予定通りに
それぞれのやるべきことに向かっていった。
ルシアは冒険者ランクを上げに依頼を受け
アレクはスキルの熟練度上げと情報収集を
行う為に冒険者ギルドにきていた。
「そういえば、ダンジョン攻略の魔石を
買い取ってもらわないとけないな……」
受付に向う前に魔石の入った袋を
アイテムボックスから人目につかないように
出しておく。
受付には、セシリアさんがおりこちらを
見ると笑顔になり話し掛けてくれる。
「久しぶりアレク君、師匠とダンジョンに
行ってたんだって?ルシアさんから聞いたよ。またアレク君が強くなったって!」
(師匠、俺のことを自慢するのはやめて下さい……結構、恥ずかしいです……)
「お久しぶりです、セシリアさん。
まだまだ強くないですよ〜上には上が
いますからね。今日は魔石の買い取りをお願いしにと資料室について聞きにきました」
話し終わると、袋に入った魔石をセシリアさんが買い取り担当のギルド職員に渡し。
魔石を鑑定している間に資料室について
教えてもらった。
資料室はギルドの2階にあり、誰でも閲覧
できるが持ち出し禁止で資料の書き写しは
OKということだった。主に過去の魔物情報や珍しい素材に被害が大きかった依頼などの
資料が閲覧できるそうだ。
セシリアさんと話し終わったタイミングで
買い取り担当の人に呼ばれ買い取りの受付に
向かった。
「アレクさん、今回の魔石の買い取り金額は
手数料を引いて金貨44枚と銀貨7枚になり
明細はこちらになります。」
受付さんから換金したお金と明細を
丁寧に受け取ると、その足でギルド2階の
資料室に向かう。
資料室は、12畳程の大きさの部屋で
机が2つ並んでおり壁には本棚が設置されている。資料は古い物はスクロールになっているし新しいものは紙束が綴じ紐で纏められていた。
「この量は……読むのに時間が掛かりそう
だなぁ」
思わず独り言を呟いてしまう。
その日は、古い資料から読み始め
日が暮れるまで情報収集に努めた。
「明日は教会の方に、行ってみるか……」
師匠からの教会は、冒険者に厳しいと
いう言葉を思い出しながら家路に着いた。




