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引き継がれる想い

 アレクは、ヒョウドゥ・テュス・カエルレウムの手紙を読み終わると、静かに目をつむる。

 そして彼が過ごした〈ティエーメ〉での日々に、想いを馳せる。


 手紙の内容通りなら、100年前の転生者達は自分が思っていた以上に、苦労したようだった。

 それでも世界のため……自分の大切なもののために懸命に戦ったのだろう。

 それが手紙の端々から伝わってきた……だからこそ、次の転生者に向けたメッセージを残したことも理解できる。


「あなたは、この世界のこと愛していたんですね。そして情に厚い人のようだ……家族や国民のこと本当に大切に想っていたのが、伝わってくるようですよ」


 アレクは誰にも聞こえないつぶやきを、手紙の主に向かって伝える。

 100年前の出来事であっても、国民達はヒョウドゥ・テュス・カエルレウムの偉業を風化させまいと、世代・種族を越えて語り継いでいる。

 それができる国こそ、彼が目指した国だったのではないだろうか?アレクは、改めてヒョウドゥ・テュス・カエルレウムに尊敬の念を抱くのであった。


 感慨深そうにしているアレクに、戦姫とセツナが遠慮がちに声を掛ける。


「手紙の内容は、どういったものだったのですか?私達では、その文字を読むことができなかったので……」

「ああ、手紙の内容はヒョウドゥ・テュス・カエルレウムの生涯と、転生者に向けての言葉だったよ。それと彼が家族や国民のことを、本当に大切に想っていたことが書かれていた」

「そうでしたか……それでは、アレク殿も?」

「そうだね……ここまでの話で隠しても仕方ないことは分かったから打ち明けるけど、俺も転生者だよ。それもヒョウドゥ・テュス・カエルレウムと、同じ時代・同じ故郷で育ったね」


 アレクの言葉を受けて、戦姫とセツナは肩の荷が下り安堵した表情を浮かべる。


「これで私達、元王族が積み重ねて来たことが無駄ではなかったと証明されました!ありがとうございます!アレク様!」

「本当に、こんな時が来るなんて思っても、みませんでした。100年に渡り果たされずにきた役割が、自分達の代で果たされるとは……アレク殿お陰で、ヒョウドゥ国王陛下より託された役割を、全うできたことに心から感謝致します」


 元王族としての役割、それは……次代の転生者にヒョウドゥ国王陛下の言葉を繋ぎ、その想いを伝承していくことにある。

 ヒョウドゥ・テュス・カエルレウムは、次代の転生者が〈ティエーメ〉にとって良き者にになるよう祈っていた。


 そのための元王族達の役割であったが……100年間、果たされずに引き継がれてきた役割は、戦姫やセツナにとっては誇りあることであると同時に、重圧でもあったのだ。

 それが満たされたことが2人にとっては、心から喜ばしいことだった。

 そんな2人の嬉しそうな表情を見たアレクは、自然に言葉を口にしていた。


「2人やカエルレウム家の方々が、繋いでくれた想いに敬意と感謝を捧げます。それだけ貴方達が、果たしてくれたことには価値がありました。本当に……ありがとう」


 笑顔で話すアレクの顔を見ていた戦姫とセツナは、表情が一瞬だけ固まると……目から涙が溢れるのを我慢できずに、泣き出してしまう。

 それからアレクは泣き出した2人をなだめながら、応接室で時間を費やした。


 次の日から戦姫より命令を受けたルプルは、入口のない塔の調査を開始する。

 聖域の入口が塔の下にあることをセツナから聞いたルプルは、その嗅覚と聴覚を頼りに指示された場所を、くまなく調べた。


 その結果……更に地下に降りることができる階段が、埋め立てられていた場所を発見。

 ここ数日で階段を発掘するという仕事を、こなしていたのだ。

 そして準備が整った段階でアレク達《漆黒の魔弓》に報告がいき、全員で聖域へと向かうことになったのである。



 ===============================



 ランタンを持ち先頭を務めるセツナは、まるで冒険を楽しむ子供のように、ガンガンと先に進んでいく。

 その後ろには、万が一に備えて探知に優れるルプルが控えていた。

 その更に後ろにアレク達《漆黒の魔弓》が続き、最後尾は戦姫が任されている。


 階段の下からは冷たい空気が流れ込み、階段を降りるアレク達のほほを、ヒヤリとかすめていく。

 最初は日の光もなく真っ暗であった階段は、敷き詰められたか石材に魔素が浸透しているためか……下に降りるにつれ、ボンヤリとした青白い発光を放っていた。


 しかし、その魔素に嫌な気配はなく……むしろ地下であることを忘れさせ、空気が澄み切っているようにすら感じさせてくれる。

 階段を降り終わると、次は3mほどの幅になった通路に出る。

 通路の両端には50㎝程の溝があり、その溝を石材に染み込んだ魔素が光源となり、流れる水を美しく映し出していた。


 その辺りまで来ると通路もかなり明るくなり、ランタンを持っていたセツナが、ランタンをアレクに返してくる。

 ランタンを受け取りながらアレクは、セツナに水精霊の巫女について質問する。


「セツナ様、セツナ様は水の精霊の巫女なんですよね?具体的に巫女は、私のような使徒とは何が違うのですか?」

「違いですか?私が分かる範囲ですと、巫女は精霊の口のようなもので、使徒は精霊の手足というものくらいでしょうか」


 セツナは、そう話しながら通路を真っ直ぐに進んでいく。


「両者共に精霊の加護を受けた者ではありますが……巫女には戦闘能力がありません。私にできるのは、精霊の声を代弁することだけですから」

「では、戦姫は……貴方の姉上様は、使徒なのですか?」


 その問いにセツナは、頭を横に振る。


「姉様は使徒ではありません。そうですね……使徒だった者の血を引く者と、言った方が分かりやすいと思います」

「血を引く者……ではカエルレウム家は元々

 、過去に使徒であった者の末裔ということですか」

「はい、ですが……その血が目覚めるきっかけを作ってしまったのは、私が原因なのです」


 そう言いながら、少しだけ後悔した表情で昔話を語る。

 それは2人がまだ、普通の姉妹として王城で過ごしていた頃の話であった。

 幼い2人が王城で遊んでいると、不意にセツナは何かに呼ばれているような感覚に襲われる。

 それは説明できないが、とても懐かしく安心できる存在のように感じられた。


 その気配に導かれ、セツナは入口のない塔へと足を向けていた。

 それに気付いたヒョウカは、妹の後を追って共に、宝物庫の奥にある物置部屋へと到着する。

 得体の知れない存在に導かれるセツナを、必死に止めようするヒョウカだったが……頑として折れないセツナに、仕方なく付き合うことになる。


 そして彼女達は物置部屋に隠された階段を降り、長い通路を歩いて1つの場所へと到着する。

 それが水の精霊の聖域であり、セツナが精霊より巫女に選ばれた場所だった。

 そしてヒョウカは精霊を間近に感じ、自らの内に眠る力を目覚めさせたのであった。

 そこまで話し終わるとセツナは、足を止める。

 セツナの前には、石製の小さな扉が設置されており、かなり古い紋章のような物が描かれていた。


「この先が、今話した水の精霊の聖域になります。足元が狭くなっていますので、皆様、お気を付け下さい」

「「「はい」」」


 皆の了解を得ると、セツナはまた歩き始める。

 そして、通路の終わりと思われた扉を開けると……アレク達の視界は一気に広がる。

 そこには直径300mに渡る、巨大なドーム状の空間が広がっていた。

 自分達が入ってきた扉から、部屋の中央に向かって真っ直ぐに1mの幅の通路が続いている。


 それ以外の床は全て水で満たされ、深さを窺い知ることはできない。

 しかし、部屋を満たす水には魔素が含まれている所為か、水底から光が反射しドーム内を明るく照らし出していた。


 幻想的な光景に呑まれるアレク達だったが……先に進むセツナに声を掛けられ、意識を切り替えて部屋の中央へと進む。

 部屋の中央部には円状に床が広がっており、セツナ・ルプル・アレク達・戦姫と全員が余裕で横並びになることができた。


 水の揺れる音だけが静かに聞こえる中で、セツナが跪き祈りを捧げ始める。

 すると……祈りを捧げ始めて直ぐに、アレク達の目の前で水面に変化が起こり出す。

 まるで無重力であるかのように、フワフワと水が球体状に集まり、宙を浮遊し始めたのだ。


 それは段々と大きくなり、やがて人間のような姿へと形成されていく。

 そしてアレク達の目の前に現れたのは、大人の女性だった。

 ライトブルーの美しく長い髪、透き通る白い肌、サファイヤのような美しく輝く瞳で、優しくアレク達を見つめている。


「ようこそ水の精霊の聖域へ、この地を救いし者達よ。私が水の精霊です。そして、あなた達の来訪を歓迎致します」


 水の精霊と名乗った彼女は、白いワンピースに薄花色うすはないろ羽衣はごろもを纏って、水面の上に浮いていた。

 その姿を見つめながら、カイン・アマリア・キア・エレナ・ルプルが思わず、その存在の力に後ずさる。

 そして、直ぐにアレクは皆の異変に気付いて声を掛ける。


「みんな……水の精霊の姿が見えてるのか!?どうして急に?」

「それは簡単なことですよ……ここには水精霊の巫女であるセツナがいます。彼女の力を借りて、皆さんに私の姿が見えるようにしているのですよ」


 水の精霊は、澄んだ瞳をアレクに向けながら微笑む。

 そんな微笑みに挨拶を返していなかったことを思い出し、アレクは水の精霊に挨拶を始める。


「そうだったですね……ご説明頂きありがとうございます。そして、挨拶が遅れましたが……初めまして水の精霊様、お会いできて光栄です。私は《漆黒の魔弓》のアレク、そしてこちらに並ぶ者達が、私の仲間です」


 アレクが床に跪き頭を下げると、仲間達もアレクにならい跪き頭を下げる。

 それを見た水の精霊はクスクスと笑い、頭を上げるように話しかけてくる。


「そのように堅苦しい挨拶は、なしにしましょう。火の精霊や風の精霊のように普段通りに、接して下さい。その方が私も話しやすいですからね」

「分かりました。お言葉に甘えさせて頂きます」


 そういうとアレク達は、立ち上がり水の精霊と向かい合う。


「では、早速ですが……色々とお話を聞かせて頂けますか?水の精霊様が知ることは、できるだけ把握しておきたいですし」

「そうでしょうね……皆さんには、全てを聞く権利がある。私の知ることを、お話しさせて頂きます」






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