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君の選択

 戦姫達とアレクの会議が終了してから、数日後……アレク達《漆黒の魔弓》と戦姫・セツナ・ルプルは、入口のない塔まで足を運んでいた。

 地下の宝物庫を通り過ぎ、隠し扉がある場所まで辿り着くと……そこには扉が取り外され、更に地下の水の精霊の聖域へと至る階段

 が出現していた。

 ランタンを持って先頭を歩き出すセツナの後に続き、一同は階段を下り始める。


 ことの始まりは会議が終了した、翌日までさかのぼる。

 戦姫より、昼間に王城の応接室に呼び出されたアレクは、セツナを救出した報酬について話し合いを始めることになった。


 応接室には、いつもの軽装鎧を着込んだ戦姫と、控えめながらも光沢のある清楚な白いドレスを着たセツナが、アレクのことを待っていた。

 早速対面式のソファに座った3人は、報酬について相談を始める。


「アレク殿には国としても個人としても、返しきれない恩がある……できる限り報酬に関しても希望があれば、叶えられるように努力しよう」

「私も姉様と同様に、お願いしたことに関して対価をお支払い致します。私個人では金銭面は提供できませんが……できる限りのことはしたいと考えています」


 2人から報酬の希望について詰め寄られたアレクは、正直困っていた。

 金銭面でいえば、既にブラスマから護衛・カエルレウム軍の拠点襲撃・戦姫との一騎打ちなどで報酬を、合計で金貨3,000枚ほど得ていたので……追加で金銭を貰うことには抵抗があった。


 戦姫からは王城の宝物庫から、何か気に入ったものがらあれば……と申し入れもあったが、どれも歴史的に価値のある金品や訳わからない調度品が多かったので辞退したのだ。

 権利や土地などの譲渡も、同様に面倒だと感じたアレクは、問題を先送りにして本題を切り出した。


「報酬については保留にさせて頂いても、よろしいでしょうか?それ以上に、大切なことがありまして……そちらを優先して頂けると有り難いです」

「アレク殿が、それで良いなら構いませんが……それで優先するべき大切なこととは、なんでしょうか?」


 アレクは一呼吸置くとセツナの顔を見つめながら、お願いを口にする。


「私達《漆黒の魔弓》を、水の精霊の聖域に連れていって頂きたいのです。セツナ様は聖域の場所をご存知なのですよね?」


 アレクのお願いにセツナは、少しだけ目をつむると優しく微笑みながら答える。


「分かりました。アレク様達を水の精霊の聖域へとご案内致します。ですが、少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか?実は今現在、聖域への道は封印によって閉ざされているのです」

「待つことは構いませんが……何故、聖域に至る道が封印されているのですか?過去に何かあったとか?」


 アレクの問いに、セツナは残念そうに頭を横に振る。


「元々は物置部屋程度にしか認識されていなかった場所だったのですが……私が聖域への道を開き、水精霊の巫女となった際に、お父様とお母様が聖域への道を封印してしまったのです」


 アレクは幾つも不思議に思っていることがあった……1つは精霊の力を封印するほどの魔道具を、元王族の者が所有していること。

 2つは戦姫であるヒョウカ・テュス・カエルレウムや妹であるセツナ・テュス・カエルレウムなど、日本語っぽい名前が元王族に多いことだ。

 そして、そもそも水の精霊の聖域が、アクアエの中に在ろうことも気になっていた。


 アレクは思い切って、それらの疑問を戦姫とセツナにぶつけてみることにした。


「あの〜失礼を承知で、お伺いしますが……ヒョウカやセツナという名前は、どのような由来で授かったものだったのですか?変わった名前ですよね?」


 その質問をした瞬間、戦姫とセツナの雰囲気が変わり、品定めをするようにアレクを見つめてくる。

 訳が分からずアレクが、戸惑っていると……戦姫が真剣な表情で質問をしている。


「アレク殿……正直に答えて下さい。ニホンで1番高い山は?」

「えっ?…………ふ、富士山」


 予想外の質問に、答えを誤魔化そうと思ったアレクだったが……戦姫の迫力に負けて、正直に答えてしまう。

 その答えを聞いた戦姫とセツナは、爛々と瞳を輝かせながらアレクに質問を続ける。


「で、では!ニホンの首都は?もくしくは都は?」

「……東京」

「「おおおおぉぉぉ!!」」


 何故か興奮した様子で戦姫とセツナは、手を取り合って喜び合う。


「では、最後の質問です!貴方の外部との連絡手段は……コテイデンワ・ケイタイ・スマホのどれですか?」

「……スマホ」

「すごい……本当に……現れるなんて……」

「凄いです!姉様!!本当に言い伝え通りです!!!まさか、アレク様が!?」


 アレクと置いてけぼりにして、戦姫とセツナは大喜びして抱き合っていた。

 流石に困ってしまったアレクは、今の2人の質問について詳しく説明を求める。


「えっと……何がなんだか……説明してもらってもいいかな?」

「えっ?あ、すみません!私達ったら、興奮してしまって……今の質問は、カエルレウム共和国を建国した、偉大な国王陛下の言い伝えにある質問なのです」


 戦姫とセツナが話してくれた話は、アレクを驚かせることになる。

 カエルレウム共和国を建国した、偉大な国王陛下、ヒョウドゥ・テュス・カエルレウムは、一族だけに秘密を告白した。


 それは自らは、この世界の住人ではなく他の世界から転生した存在である、というものだったのだ。

 そして、また自分のように転生してくる者が現れることを予想し、ある仕掛けを残した。


 それが先程、戦姫とセツナがアレクに対して行った質問である。

 第一段階……王族の者は皆、ヒョウドゥ・テュス・カエルレウムが残した名前を名乗っている。

 それは全てが日本人なら聞き覚えのある、古風な者が多い。

 氷花ヒョウカ雪菜セツナも、代々王族に引き継がれてきた名前であった。


 そして第二段階……王族の者の名前に興味を持った者に対して、決められたパターンの質問を行うこと。

 これもヒョウドゥ・テュス・カエルレウムにより質問内容が決められており、その解答によって次の質問の内容も変わる。


 最初の富士山で日本人かをどうかを確認し、2番目の首都・都の質問で大まかな時代を限定する。

 そして最後の電話についての質問で細かい年代を絞り込んでいた。


 そしてアレクが辿り着いた年代は、ヒョウドゥ・テュス・カエルレウムと時代を同じくするものだったため、2人は興奮した様子を見せていたのだ。


「私達は昔良く、ヒョウドゥ・テュス・カエルレウムが残した書物を読みました。地を掛ける鋼鉄の馬車、空を翔ぶ巨大な箱、何千ももの人が乗ることができる巨大船などが、自由に広い世界を移動していると」

「それだけではありません!雪のように甘く蕩けるアイスなるもの、雲を形にしたふわふわのワタアメ、様々な素材で彩られた至高の甘味ケーキ!この世界では味わえない素晴らしい食があるとも聞いています!」


 戦姫とセツナが、それぞれ自分達の欲望のままに話していると……急に顔を見合わせ、慌ただしく部屋を出ていってしまう。

 アレクが状況が飲み込めずに、1人寂しく応接室で待っていると、2人は紙の束を抱えて戻ってきた。

 それをアレクに手渡すと、事情をアレクに話し出す。


「これは質問に答えた者に見せるように、言い伝えられているヒョウドゥ・テュス・カエルレウムからの手紙です」

「手紙……拝見しても?」

「ええ、どうぞ」


 古い羊皮紙に書かれた文書は、所々かすれてしまっていたが……アレクにとって懐かしい文字が、そこには書かれていた。


「これは……日本語か!?」


 アレクは興奮を隠し切れずに、急いで文書を確認し始める。

 その内容は、同郷の者を案じた1人の男の想いをつづったものであった。


 “初めまして、日本の友人よ。これを読んでいるということは……貴方は、私と同じ時代の人なのでしょう。そうだと仮定して、この手紙を残します。私は兵藤 哲也……日本に住む一高校でした。”


 そう書き始められた手紙には、彼が〈ティエーメ〉に転生してからの人生が書き記されていた。

 交通事故によって命を落とした彼は、神様にユニークスキルと何処かの国の王族に、なりたいと願ったのである。


 その結果、彼が目覚めたのはカエルレウム王国の、12歳の王子としてだったそうだ。

 バラ色の人生を想像していた彼だったが……異世界に転生して、本当の苦労を経験することになった。


 それは疫病に苦しむ人々や生活水準の低さ、そして何よりも、血を血で洗う戦争が彼を苦しめた。

 当時は人同士や他種族との争い絶えず、小規模な戦闘は色々な場所で発生していた。


 王族である彼も例外なく、兵を率いて戦争を体験することになる。

 そして彼は、本当の凄惨せいさんな世界の在り方を、知ることになった。

 剣や槍で殺し合い、負けた者は全てを奪われることになる。


 そこには国際法も何もなく、原始的な争いによってのみ勝敗が決してしまう。

 彼はユニークスキルや引き継いだ知識によって、生き残っていくことができたが……精神的に辟易へきえきしていく。


 何のために異世界に来た?もっと別の冒険や楽しいことが、待っているのではなかったのか?何故、自分は人と他種族と殺し合っている?次第に心を病みそうになる兵藤だったが……彼は奇跡的に同じように、転生した者たちと出会うことになる。


 そこから彼は徐々に仲間を増やし、前向きな気持ちを取り戻していった。

 やがて魔物大発生に巻き込まれ、更に過酷な運命に身を任せることになる。

 少年だった彼も、やがて大人に成長し国王となり、新たな時代を導く者になった。


 それらの戦いの末に彼は、種族の垣根を超えた国家作りに取り組み、自分の夢見た場所を国民と共に目指したのである。

 そして手紙の最後には、転生の後輩に向けての言葉が書かれていた。


 “色々と書いたが……結局のところ言いたいことは1つだけだ。この世界を……嫌いにならないでほしい。私がそうであったように、異世界に来て現実に打ちのめされることもあるだろう……しかし、それが本来の世界の姿なのだと私は思う。私は国民と共に未来を考え、作り上げることを選んだ。君も、君自身が納得できる人生を送れるように、選択することを諦めないでほしい。それが私から君に伝えられる精一杯だ。では、良い旅を。

 ヒョウドゥ・テュス・カエルレウム”





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