ギャップ萌え
「ボロ布の男の正体……あれは多分、俺と同じ転生者だ」
アレクの話を聞いていた仲間達の唾を飲む音が、いやに大きく聞こえアレクの耳に届く。
皆が考えていたことをカインが代表して、アレクに質問する。
「アレクと同じ転生者……なんで、そう思ったんだ?何か思い当たることでも?」
「ああ、ボロ布の男は俺に接触して来た目的について語った時……“正直に言うと君を勧誘しに来たんだ……もしかしたら、同郷の者かと思ってね”と言っていた」
しかし、それだけで判断するには情報不足であると、《漆黒の魔弓》の面子は考える。
それを察したようにアレクは、詳しい話を続ける。
「その時、俺は……自分が〈ティエーメ〉で生を受けたこともあって、迷いなくウィリデ王国の名前を出したけど……ボロ布の男は、本当は俺の反応を見ていたのかな?って思ってさ」
「アレクの反応を窺ってたってことか……質問の答えに関係なく、何かしらの動揺が見られれば、アレクが転生者であると判断したわけだな」
「うん、恐らく……その後の不自然な態度も、ボロ布の男の目的が俺が転生者であるか探るためだと仮定すると、筋は通るんだ」
しかし、話によるとボロ布の男は、アレクのことについて名前も何も知らないということだった。
なら、何を根拠にアレクを同郷の者と判断したのか?その考えに至ったエレナは、ポツリと言葉を呟く。
「だとしたら、どうやってアレクさんに目星をつけたのでしょう?何かのスキルや特殊能力でしょうか?」
「そういったことじゃないと思うんだ……奴は“勧誘に来たのは、君の強さが気に入ったとか、君のような強力な力を持つ者は、きっと孤独に苛まれると思う”とか話していた。俺が転生者だから分かることだけど……常軌を逸した力を持つことが、奴が俺に目星をつけた理由だと思う」
アレクは神様からの恩恵を断っていたが……本来、転生者はユニークスキルや強力な武器を、神様から授かることができる。
それを知っている者なら、モルレト平原での“灼炎”を見て、何かしらのスキルや武器の力だと判断しても、おかしくないとアレクは考えていた。
「では、ボロ布の男はアレクの力を確認した上で、転生者であろうと予想して近付いてきたわけですね。まぁ、それなら納得できないこともないです……でも、そもそも転生者は皆がアレクのように強い者なのですか?」
「それは……微妙じゃないかな?いくら強力なスキルや武器があろうとも、生き残れるかどうかは、扱う本人次第だと思う。ただ、使いこなせる者なら……とんでもない強さを得ることになるかもしれないな」
100年前に活躍したとされる英雄達は、恐らく授かったスキルや武器を駆使して、生き残ることができた者だったのだろうと、アレクは想像する。
しかし、それと同時に……今現在では何故、英雄と呼ばれるような者が少ないのかと疑問が、アレクの中で湧き上がる。
(俺は恩恵を断ったから、強くなるのに時間が掛かったけど……普通に恩恵を授かった転生者なら、あっという間に有名になりそうなものだよな?けれど、ここ100年そういった者は現れていない……俺が知らないだけという可能性もあるけど、何か別の理由があるのか?)
思考の檻に囚われ始めたアレクだったが……キアの声によって意識を現実に引き戻される。
「仮にボロ布の男が転生者だとしても……その能力や目的が不明では、対策の立てようがありませんわね。結局、ボロ布の男が黒幕だったなら王妃や国王が魔物になったのも、奴の仕業ということでいいんですの?」
「奴が実験と言っていたこともあるし、その可能性は高いと思う。それがスキルによるものなのか、何か別の物が原因なのかは不明だけど」
「厄介ですわね……人を魔物に変える力なんて無差別に使われたら、簡単に国が滅びますわよ?」
キアの言葉に《漆黒の魔弓》の面子は、街中の人々が国王や王妃のような魔物になるのを想像して、絶望的な気分になる。
そんなパーティーメンバーにアレクは、頭を切り替えるように言葉を掛ける。
「奴が、そうしないだけなのか……それとも何か条件があるのかは不明だ。けれど、奴がこの世界に対して、良い感情を抱いていないことは確かだろう。故に敵対する可能性は高い……だから今後は、自分達の力を伸ばしながら警戒していくしかない。あとは味方を増やして、いざという時に備えるくらいか」
そこまで話すとアレクは、パーティーメンバーの皆の顔を見渡す。
一人一人が真剣な表情でアレクの話を聞いていることを確認すると……深く深呼吸をして言葉を伝える。
「これからは、一層厳しい戦いが予想される……皆、改めて宜しく頼む」
アレクが丁寧に頭を下げると……頭を上げる前から、周りからクスクスと笑う声が聞こえてくる。
不思議に思ったアレクが頭を上げると、そこには笑いを堪える仲間の姿があった。
「えーー、なんで俺が真剣に頼んでるのに笑うんだよ?」
「だって、今更そんな頼み方されてもなぁ〜前みたいに寂しいから誰も死ぬな!って言われた方が、可愛げがあるだろ?言い直してくれないか?」
からかうようにカインが喋り出すと、それに釣られてアマリアとミカエラも話に乗ってくる。
「アレクって、緊張すると丁寧に頼む癖があるよねぇ〜カインの言う通りに素直に頼んでくれた方が、私達は嬉しいよ?」
「ぼ、僕もお姉ちゃんと同意見です!いつも通りのアレクさんの言葉の方が嬉しいです」
以前に弱い所を見せたことがある3人は、遠慮なくアレクを弄るが……話題に取り残された、キアとエレナはキョトンとした表情をしていた。
そんな中でアレクを見ていたカインとアマリアが、イタズラを企む子供のような笑顔を見せると……キアとエレナに何かを耳打ちし始める。
「おい……なんで内緒話を始めるんだ?カイン!アマリア!2人に変な話を吹き込むのは、やめろ!おいってば!?」
アレクの制止を振り切り、カインとアマリアがキアとエレナに耳打ちをすると……2人のアレクを見る目が、ニヤニヤと気持ち悪いものに変わっていく。
「へぇ〜アレクが以前に、そんなことを?それは是非、直接聞いてみたいですわ。私も素のアレクの言葉で頼んでほしいですわ」
「ほぅ〜アレクさんって意外と甘えん坊なんですね〜でも、私はそういうのも良いと思いますよ?」
意味深な笑いをアレクに向けながら、パーティーメンバーが徐々に距離を詰めてくる。
完全に取り囲まれたアレクは、抵抗しようと色々と言い訳を考えたが……現状を打開する手段が思い付かず、観念して5人の望む言葉を言わされることになった。
やけくそになり、恥ずかしさで顔を赤らめながら、アレクは仲間達に言葉を掛ける。
「あっー!!分かった!言えばいいんだろう!?……みんなことを本当に大切に想っている……だから死ぬな……俺を1人にするようなことになったら……絶対に許さないからな?」
「「「………………」」」
アレクを除く全員が、何故か惚けた表情を浮かべてアレクを見つめていた。
「おい!!言わせといて、それはないだろ!?なんか言えよ!??」
理不尽な仕打ちにアレクは、恥ずかしくなり部屋を出て行ってしまう。
部屋に残された面子の時が、ゆっくりと動き出し……それぞれが自らの感想を漏らす。
「……なんて言うのかな〜普段と違う一面を見ると、何かグッとくるものがあるわよね?」
何かを噛み締めるような表情で、アマリアが皆に問い掛けると……突然キアが奇声を上げる。
「むほぉーー!!堪りませんわ!!あのアレクが、上目遣いで私にお願いをーー!!!これは……癖になりそうですわーー!!」
「普段が冷静なだけに、結構な破壊力でしたね……なんというか……苛めたくなる感じでしょうか?」
「わ、分かります!!なんか良いですよね!?でも……あんまり、しつこくすると流石にアレクさんも怒るかも……」
「…………」
おかしなテンションになった《漆黒の魔弓》の面子だったが……カインだけ無反応なことに、アマリアが突っ込みを入れる。
「ちょっと……大丈夫?カイン?」
「……えっ?な、何が!?」
「何って……ずっと、固まってたから」
「ああ!大丈夫だぞ?問題ない!」
「ならいいんだけど……」
明らかに不自然なカインは、何かを隠すようにエレナに話題を振る。
「そういえば……今日の戦姫達との会議は、エレナも参加するんだろ?アレクについて行かなくていいのか?」
「あっ!忘れてました!皆さん、失礼します」
慌てた様子でアレクの後を追い、部屋を出て行ったエレナを見送るアマリア達だったが……アマリアだけは、カインの普段とは違う様子に、違和感を抱くのであった。
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戦姫達とアレクの会議が終了してから、数日後……アレク達《漆黒の魔弓》と戦姫・セツナ・ルプルは、入口のない塔まで足を運んでいた。
地下の宝物庫を通り過ぎ、隠し扉がある場所まで辿り着くと……そこには扉が取り外され、更に地下へと続く階段が出現していた。
「これが水の精霊の聖域へと至る階段ですか……まさか、塔の下にあったとは」
アレクは驚きを露わにすると、セツナに聖域について質問する。
「この階段の先は、真っ直ぐ聖域まで続いているんですか?」
「はい、階段と通路が続きますが……聖域までは一直線です。特に行く手を阻む仕掛けなどもありません」
「なるほど、それでは皆で進むとしますか」
「ええ、それでは先頭は私が務めますので、後ろをついてきて下さい」
エッヘンと胸を張り、ランタンを持って先頭を歩き出すセツナに驚きながらも、一同は後に続き階段を下り始める。




