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囚われの眠り姫

 エレナがカギを回すと一瞬だけカギと錠前が青白い光を発し、ガチャと錠前が落ちる音がする。

 ゆっくりと開く扉をエレナが軽く押すと、何の抵抗もなく扉が動く。

 先程の結界の効果を目の当たりにしていたルプルは、おおぉ!と声を上げて驚いていた。


 扉が閉まると結界が再度発動すると、アレクから聞いていたエレナは、扉が完全に閉まらないように細工してから、キア・ルプルと共に階段を登っていく。


 延々と続く階段を登りきると、そこに1つの扉が現れる。

 念の為に各自、戦闘態勢に入りアイコンタクトを取って一斉に部屋の中になだれ込む。

 施錠なども一切ない扉は、バタン!と勢い良く開かれる。


 開かれた扉の先には、見事な調度品が並ぶ豪華な部屋が待っていた。

 部屋の中に人影はなく、キア・ルプルの索敵にも何も引っかかることはなかった。

 エレナ達は、ここまでアレクの情報通りであることを確認しながら、救出目標である人物の元へと向かう。


 エレナ達が歩み寄った天蓋付きのベッドには、1人の女性が横になっていた。

 女性は雪の様に白い肌をしており、長い髪までも真白く、美しい造形をした人形のような姿をしていた。


 彼女が着ている白いドレスが、より美しさと清廉せいれんさを際立たせる。

 彼女はベッドの上に横たわり、両手を祈るように胸の前に組んでいるが……その体は水の膜で覆われている。

 エレナは、予め用意された指示を思い出しながら口を開く。


「お目覚め下さい、セツナ様」


 眠っているように思われたセツナだが……エレナの声に反応して、ゆっくりと瞼まぶたを開ける。

 彼女が目覚めると同時に、体を覆っていた魔力結界も霞かすみの様に消えていく。


 セツナは、ゆっくりとベッドから起き上がるとエレナ達に向けて顔を動かす。

 朧気おぼろけな意識が段々と覚醒していき、青い瞳に光が戻ってくる。



「えっと……貴方達は一体?」

「突然の訪問、失礼致しますセツナ様。私はドォールムで冒険者をしております《漆黒の魔弓》のエレナと申します」

「冒険者さん?が何故、私のところへ?」

「それは我々のリーダーアレクに貴女様の姉君が助けを求めたからにございます。それと貴女様からも、精霊を通じて“姉を助けてほしい”と依頼をお受けしたはずですが?」


 エレナの言葉に半信半疑だった、セツナの青い瞳が見開かれる。


「では、あの時に部屋の中に感じた存在は、やはり精霊だったのですね!それにそのアレクという方は、私と同じ存在ということですよね!?凄いわ!こんなことが本当に起きるなんて!」


 セツナの興奮した様子に、少しは信用を得ることがらできたと判断したエレナは、仲間の紹介と状況の説明を急ぎ足に始める。


「唐突でご無礼なお願いかと存じますが、切迫した状況のため、我々の話を聞いて頂くようお願い致します」


 同じ冒険者チームに所属するキアのこと、姉の直属の部下であるルプルのこと、そして今現在、王族派とクーデター派で争いが起き、クーデター派の代表としてセツナの姉であること。

 ヒョウカが“戦姫”と呼ばれていることなどを話していく。


「現在、我々リーダーであるアレクと戦姫様が囮になり、注意を平原に集めているおかげで私達は、ここに侵入できています。ですので、色々と聞きたいこともあるかと思いますが……とりあえずは私達に同行し、王城を脱出して頂きたいのです」


 一度に色々な情報を教えられたセツナは、混乱しながもエレナ達を受け入れようとしてくれていた。

 しかし、どうしても確かめたいことがあり、エレナ達に真剣な眼差しで質問する。


「大体の事情は分かりました。ですが、1つだけ教えて下さい……姉様は無事なのでしょうか?私はブラスマ宰相より、姉様も私と同様に幽閉されていると聞いていました。先程聞いた話が……あまりに姉様の印象と、かけ離れていて、戦姫と呼ばれてることが信じられないのです。ですから、姉様の無事が分かるまでは、私は王城を離れることはできません」


 真剣に心の内を明かすセツナに、事前に預かったものを渡すことを決める。

 エレナが後ろにいたルプルに目配せをすると、グイッと一歩前に出てきたルプルが話し出す。


「私は先程、エレナより紹介されましたルプルと申します。戦姫様の……セツナ様の姉君の直属の部下をしております。これはセツナ様より信用を得られなかった時に、渡すように言われていたものになります」


 そう言いながら、ルプルはふところから一通の手紙を取り出す。

 手紙を受け取ったセツナは、静かに手紙を開き読み始める。


 その手紙には懐かしい姉の字と言葉で、セツナに宛てた気持ちや思い出が綴られていた。

 手紙には2人でなければ知りえない事実なども、書かれていたようで何度も頷きながらセツナは手紙に目を通す。

 手紙の最後にはエレナ達に従うように書かれており、自分は外でセツナが救出されることを待っていると、締め括られていた。


 一通り手紙に目を通したセツナは、丁寧に手紙を折りたたむと大切そうに胸に抱きしめる。

 すると、セツナは先程までの不安が入り混じった表情ではなく……エレナ達にも、はっきりと分かる決意に満ちた表情へと変わっていく。


「この手紙だけで十分、姉様が私のことを考えてくれていたことが伝わりました」


 涙ぐみながらセツナはエレナ達に一礼し、安心したように笑いかける。


「お待たせして申し訳ございませんでした。私はエレナ様達と王城を脱出することに決めました……今後の行動も皆様の指示に従うことに致します」

「ありがとうございます!それでは特に持ち出すものがなければ……直ぐにでも王城を脱出したいと思います。セツナ様の護衛はルプルが務めますので、ご容赦下さい」

「えっ?何を――」


 セツナが疑問を持ち質問しようとしたら時には、セツナはルプルによってお姫様抱っこされていた。

 何だか気恥ずかしそうにしているセツナだったが……騒ぐのを我慢してルプルに身を任せてくれる。


「では、これより王城を脱出します!ここからは、突発的な戦闘も予想されるので前衛を私、後衛はキアさんに任せて王城内を一気に突っ切りますよ」


 エレナの指示にセツナも含めた全員が頷き、エレナ達は一斉に駆け出していく。

 風の様に階段を降りていき、あっという間に1番下まで辿り着く。

 宝物庫の前まで戻ってくると、まだ無力化した兵士達が冷たい床に転がっていた。


 流石に兵士達が可哀想に思えたエレナは、通り過ぎる際にキアに頼んで魔法袋から布を取り出し兵士達を包んでから、その場を離れる。

 既にモルレト平原で戦姫とアレクの一騎打ちが始まっていることもあり、王城の中ではほとんど兵士達に遭遇することなく、順調に進むことができた。


 残るは中庭を抜けることができれば、後は壁を越えて安全なところまで逃げるだけである。

 周囲を警戒しながら進んできたエレナ達だったが……何か自分達以外に騒ぎが起こっていることに気付き、中庭に出る手前で物陰に身を隠す。


 気配を殺していたエレナが中庭の様子を窺っていると、兵士達を引き連れた豪華なドレスを着た女性が、早足に中庭に入ってくる。


「お待ち下さい王妃陛下!どちらに参られるのですか!?現在は例の一騎打ちにより兵士が少なくなっております……できれば――」


 兵士達が必死に女性を引き止めようとしている様子を窺っていると、セツナが女性を見つめながら言葉を漏らす。


「お母様……」


 懐かしいような悲しいような、複雑な感情が込められた声色に、セツナを抱き抱えているルプルは、抱える腕の力を少しだけ強くする。

 それを感じ取ったセツナも、ルプルに心配を掛けまいと笑顔を取り繕って見せる。


 そんな2人を他所にエレナとキアは、緊張した面持ちで中庭を見つめていた。

 何故なら動きを止めた王妃が、間違いなくエレナ達が隠れている物陰を、凝視していたからだ。


「どうしますの?あの人数なら無理矢理でも突破できますが……」

「キアさん、今はセツナ様がいること忘れていませんか?セツナ様のことは兵士達には知られていません。最悪、無差別に攻撃される可能性も――」


 突破するかの判断について2人が話していると、ほぼ同時に何か嫌な気配を感じて視線を、原因と思われる人物に向ける。

 そこには、まるで獣のように咆哮と悲鳴を混ぜ合わせたような、絶叫を上げる王妃の姿があった。


「ギヤアアァァァァァァァ!!!!?」


 人の声帯から発生したとは思えない絶叫に、周りにいた兵士達は両手で必死に耳を塞ぐ。

 少しは離れた場所に隠れていたエレナ達でさえ、立ち眩みを起こしそうになる程の声量に……中庭は騒然とした空気に包まれる。


 その中心ではバギィバギィと骨が折れるような音と、グチャグチャと何か得体の知れないものが生まれるような不快な音が混じり合い……真っ白な蒸気を吹き上げていた。


 その蒸気の中に薄っすらと映っていた人影が、風船のように急激に膨れ上がっていく。

 その場で腰を抜かした兵士達は、中庭にへたり込みながら段々と巨大になっていく影を見上げ、恐怖に満ちた嗚咽おえつを漏らす。


「ひっ!!はぁはぁぃぃ!!」

「な、なんで!?王妃様がぁぁ!」

「ぁ……あぁぁぁぁぁ!!!」


 やがて、中庭に風が通り抜けると影を覆っていた蒸気が晴れていく。

 その中から現れたのは、真っ白な毛並みをした人の面影を残した巨大な獣だった……長い腕に鋭く尖った爪、人を簡単に喰い千切れそうな牙、禍々しく伸びたシカのような角。


 狂暴性が皮を被った風貌に兵士達は、完全に恐慌状態に陥ってしまう。

 そんな兵士達に獰猛どうもうな白き獣は、ギロッと獲物を狩る瞳を見せる。

 大きく噛み締められたあごからは、大量のヨダレが流れ出し、兵士達の足元を濡らす。


 兵士達が死の恐怖から、意識を手放そうとした時……中庭に鋭い風切り音が連続で響き渡る。

 何処からか放たれた矢が、白き獣の肩へと突き刺さり、獣は荒れ狂いながら悲鳴を上げる。


 呆気にとられている兵士達に後ろから、凛とした声が発せられ全員が一斉に、声の主に向けて振り向いた。

 そこには漆黒のマントを纏い、怪しげな仮面をつけた一団が立っていた。


「何をしてるんですか!座り込んでないで、さっさと引いて下さい!!」


 兵士達は命の危機を救ってくれたのが、彼女達だと判断して慌てながらも指示に従う。

 そのうちの1人の兵士が、見覚えのある格好に思わず声を掛ける。


「あんた達は、傭兵団《黒狼》の人達か?全員、モルレト平原に向かったはずじゃ!?」

「我々は傭兵団《黒狼》の別働隊です!依頼主から、貴方たち兵士を守ってほしいという要望がありまして、特別に助けてに入ったというわけです!」


 そう言いながら女性は、漆黒のマントを外し完全な戦闘態勢に入る。

 全身にピッタリと張り付くような、トゲドゲしい漆黒の鎧を纏い、その爪は全てを切り裂くような鋭利な凶器になっている。

 首元まで及ぶ漆黒の鎧は、彼女の白い肌を侵食するようにほほを包んでいた。


「さぁ!走って!!」


 白き獣に真正面から立ち向かう勇敢な彼女の背中を見つめていた兵士達は、その声に反応して一斉に王城内に向かって走り出す。

 兵士達の逃げた先には、お伽話に出てくるような真っ白な美しい女性が佇んでいた。


「早く、こちらに!!」


 女性に誘導された兵士達は、建物の中に滑り込むと女性の姿に戦姫様の姿を重ねてしまう。

 戦姫様が普通のお姫様だったらと……そんな兵士達に《黒狼》の金髪のメンバーが、警告を発してくる。


「そこの兵士達!!私達の依頼主を守りなさい!もし、変な真似をしたら貴方達のイチモツを切り落としますわよ!」

「キアさん、お下品ですよ〜そんなことになる前に、私が兵士達をボコボコにするので安心して下さい!」


 金髪の女性とフードを深く被った茶髪の女性の会話に、兵士は下半身がキュッとなるのを感じながら、黙って激しく頷いてみせる。


 女3人は、矢を抜いて威嚇してくる白き獣と向かい合いながら、とても嫌そうに話を続ける。


「で、エレナ?どうやって、この白い獣を倒しますの?」

「さぁ〜とりあえずダメージが入るか確認しないと、なんとも……流石にアレクさんも、これは想定してなかったですし」

「えっ?殴って倒せばいいんじゃないんですか?」


 エレナとキアは、ルプルの脳筋的発言に顔を見合わせながら、大きな溜め息を吐く。


「まずは、私とルプルさんが前衛!後衛はキアさんで、どんどん攻撃を仕掛けます!」

「「了解っ!」」


 女3人は勇ましく、白き獣に向かって駆け出していく。





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