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第四話「犯人捜索、対する女」

 次の日、俺達は起きてすぐに探索に向かった。理由は勿論、犯人を探し出すためだ。

 あの犯人がたった一人で犯行を済ませるかは不明だが、無関係の人を巻き込んだ以上一回で終了とは限らない。だとすれば、他の被害者が出る前に探し出さないと。

 ちなみに夜空のパンツは黒色だった。大人ですねと言ったら本気で殴られた。能力付きで。

「どこから探そうか……」

 探すので一番楽そうな場所といえば、俺達が死体を見つけた現場だ。犯人は現場に戻るっていうし、いそうな気もするんだよなぁ……。

 歩いていくと、そこには警察の人達がいるだけだった。

 確かに野次馬も何人かいるけれど、殆どが老人か大人だ。20歳より若いはずなんだから、それなりの歳ではないはずだ。

「おぉ、巡君じゃないか」

 話しかけられて見ると、そこには俺を家まで送ってくれた刑事さんがいた。

「刑事さん、犯人は見つかったんですか?」

「それがまだなんだ。君も見たとおり、死体の損傷がかなり激しくて操作が難航している。それで質問なんだが、君が死体を見つけた時に何かおかしなものを見つけなかったかい?」

 おかしなもの? どういうことだろうか。

「死体を調べている時に見つかったんだが、鱗の様なものが付着していたらしい。どの魚の鱗にも当てはまらなくて、事件に関係あると思うんだけど……」

 どの魚にも当てはまらない鱗……。これで完全に、人の技ではないことが確定した。

「すみません。あんまよく覚えてないんです」

 この人をこれ以上巻き込むわけには行かない。俺は刑事さんに頭を下げると、この場所を立ち去ることにした。

 それにしてもこれをやった犯人……人外の奴らはどうしてあの人を殺したんだ?

 能力が強くなるわけでもないし、なんの理由があって殺したんだ?

「わからないことばっかだな。やっぱり俺が馬鹿なせいか……」

 定時連絡を行う。夜空の方でも見つかっていないらしい。こっちも見つからないから、どうしても探す範囲を広げなければならない。

 そして俺は、自らが殺された場所に来ていた。

 何故来たのか。そんな理由はわからないけれど、ここに来なければならない気がしていた。

 そこには――ルークがいた。

「やぁ巡君。久しぶりだね。と言っても一昨日ぶりってことになるのかな?」

「ルーク……ッ」

 ルークと対峙して俺は今始めてわかった。ルークは俺達と少し同じ雰囲気がしている。

「お前も代理天魔大戦の参加者だったのか!」

「少し違うかな。でも言い得て妙だね。半分当たりで半分ハズレ。僕から答えるわけには行かないけれど、君の敵じゃないってことだけは言っておくよ」

 ルークはそう言うと、その場所から街を眺め始めた。それに吊られて俺も街を眺める。

 いつも通り綺麗な街並みが広がっているが、特に変わったところはない。

「巡君は代理天魔大戦についてどう思う? 人と人を戦わせて天魔の勝敗を決める、実に馬鹿らしいと思わないかい?」

 微笑みながら聞いてくるルークの言葉に、俺は頷く。実際にそうだろ? 自分達の問題は自分達で解決すればいいのに、それを俺達に押し付けてくるんだから。

「それは初代代理天魔大戦が関わってくるんだけど、また別の機会にしようか。代理天魔大戦はふざけている。僕もそう思うよ。だからこそここにいる」

 笑ったままルークは俺に光の玉を渡してくる。そしてその光の玉は、俺の中に消えていった。

「何を、したんだ?」

「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。ただ僕の力の一部を渡しただけ。巡君ならいつか使いこなせるよ。助けたいのに助けられない。目の前で大切な人を失う苦しみなんて、味わいたくないでしょ?」

 そんな言葉に、俺は息を飲んだ。

「お前は、それを味わったことがあるのか?」

「まぁ少しだけ。あの時の悲しみの感情は、今でも僕の心の中に残っているよ」

 悲しげなその表情を見て、それを味わったことがあるのだろうと俺は確信した。でもだとすればルークはいったい何歳なんだ? そんな近い間に代理天魔大戦が起こったとは考えにくいんだけど。

「まぁそれはさておき、君は何か探していたみたいだけど何を探してたの?」

 あ、今思い出した。そうだ。俺はあの犯人を探してたんだ。

「最近あった殺人事件の犯人を探してたんだ。ルークは何か知らないか?」

「最近あった殺人事件かぁ……。僕はそのことすら今知ったんだけど、多分巡が調べてるってことは参加者が関係してるんだよね?」

 俺が頷くと、ルークは考え始めた。

「その状況を教えてもらえるかな?」

 状況を知りたいということは、ルークも一緒に考えてくれるってことでいいんだよな? 探す人は少しでも多い方がいい。ルークに事情を説明すると、ルークは難しそうな顔をした。

「やっぱり実際に見たわけじゃないから難しいかな。でも疑問に思うことがあるんだ。一つは何故人を食べなきゃいけない状況だったのか。一つはどうしてそんな証拠を残す必要があったのか。一つはどうしてそれが他の人に見つからなかったのか」

 三つの疑問をぶつけられて、俺も確かにと疑問に思い始めた。

 人を食べないと生きていけないわけじゃないし、証拠を残さないで食べてしまうこともできたはずだ。もしかするとただの偶然かもしれないけれど、どうして死体を俺が最初に見つけることができたのか。

「最後については参加者の特殊な五感と言えば何とかなるかもしれないけど、それでも他の人に見つからないのはおかしい。殺しているところでも状況的にヤられているところでも、目撃者がいてもおかしくはないんだ。なのに何故、目撃者が一人もいないのか」

 確かにおかしいってことはわかってるんだけど、それが繋がらない。その三つがあるとどうなるのかがわからない。

「ねぇ、参加者でないと気づけない様に細工されていたとしたらどうする?」

 参加者でないと気づけない細工? それがどんなものかは知らないけれど、もしそうだとしたらどうなる? 何が起こる?

「君の近くに、狙われる様な人がいるんじゃないかな?」

 一筋の道が、俺の頭の中に浮かんできた。いや、浮かんできてしまった。

「夜空っ!?」

 俺はそれに気が付くと、すぐに走り出そうとして止まった。

「動けな……!?」

「すぐに動くことはいいことかもしれないけれど、もう少し考えてから行こうよ。考えなしに向かっても、相手の思うツボになるだけだよ?」

 後ろにいたのはルーク。それはわかるけど、俺の体は一歩として動かない。下を見ると俺の影がルークの影と繋がっている。

「ルークてめぇ……!」

「落ち着きなよ。直接狙ってこなかったってことは、別に考えがあるってことでしょ?」

 考えてみればそうか。直接狙ってこなかったってことは、要するに直接は狙ってこれなかったってことだ。それは夜空一人に対してあまり戦闘能力が釣り合っていないと言うこと。

「ただだとすれば何があるんだ? 何をしようとしているんだ?」

「僕ばっかり考えているかもしれないけど、多分何か狙っているものがあるんじゃないかな? 後をつけていたって可能性もあるよね」

 色々な考察が飛び交い、俺はその中でも現実味がある可能性を求める。

「人質を取るためにつけていた?」

 だとすれば狙われたのは夜空でも俺でもなくて、それを保護しているおっさんと木沙耶さん!?

「人質を取られている可能性があるなら、すぐに戻った方がいい。一応他の人にも連絡をとって、フォーメーションを考えた方がいいんじゃない?」

 すぐに電話を取り出すと、夜空に連絡を入れる。

「もしもし夜空か? 今からいうことをよく聞いておけ?」

 今までの可能性を全て話すと、夜空が双也に連絡をかけると言った。同時に役割を決めることにした。

 我慢ができない俺が前。夜空が交渉役。そして双也が襲撃役だ。要するに俺が好きにできるようになっている。まぁ俺が馬鹿ってことを暗に言われてるんだけどな。

「おっさん達に手を出してみろ? ぶっ潰してやる」

 俺はジャンプして光丘から下の道路まで降りると、家まで急いで戻る。そして家に着いた時、家の前に夜空の姿があった。

「巡、行こう。お父さんとお母さんを助けないと」

 近づいてくる夜空を見てから、俺は一瞬にして肉薄すると夜空の顔面を殴り飛ばした。

「い、痛いよ巡。どうしたの? いきなり殴って……」

「黙れ偽物。お前はわかってねぇかもしれねぇが、そんな変装はすぐに見抜けるんだよ」

 俺は握り締めた拳をしまわぬまま、座っている偽夜空の顔面を再び殴った。

「ぐはっ」

「今日の夜空のパンツは黒だよ。白じゃねぇ」

 ホットパンツでも一瞬で見抜ける俺の目力舐めるなよ?

「まさか、そんなことで見抜かれるなんて……」

 顔が変わっていく。夜空の顔から、普通に美しい女の人の顔に。

「顔を変える能力……ってわけじゃなさそうだな」

「えぇ。体を変える能力ってところかしら? 詳しいことは教えないけれど」

 俺は両腕に神鳴を纏うと、女を睨みつけた。

「おっさん達をどうした?」

「知りたければ戦いなさい。ディウスになったばかりの坊や」

 右拳のジャブを入れるが、女は軽く避けた。割と早く打ったつもりだったんだけど。

 次に左のストレート。だがこれは女が両手をクロスさせてガードし、殆どダメージが通らない。

 更に右フックを入れるが、これは当たる直前で上から叩き落された。

 この女、攻撃力はないかもしれないけれど強い。身体能力が低い分を技術で補っている。筋力が低い奴らが求めるものを、こいつは完成させていると言ったほうがいいか。

「余裕ではいられないか」

 俺は体全体に神鳴を纏い始めた。

 俺の唯一できる強化――保健体育。そこでならったことを、俺は忘れていない。人間の指令は電気信号によって出されている。だとすれば神鳴を使う事によって、それを更に上げることもできるはずだ。

「体中の電気信号を思考に直結させる。なるほど馬鹿ね。電気と言っても人間の電気と機械の電気は全く違うのよ?」

 知っている。人間が使っている電気は、ナトリウムやカリウム等のイオンの流れだ。イオンがプラスの出来を帯びているから、電流が出来たことになる。それに電気だけで動いるだけではない。

「大丈夫だよ。俺は超天才だからな」

 刺激があったらチャンネルを開けば電流が生じ、反応が生じる。電気だからこそできる反応系を、神鳴を通して回路にし組み込む。それによって非常に高速で動くことができる。超勝手理論だが、それでもやろうと思えば出来るはずだ。

 踏み込むと同時に拳を構えると、女の目の前に移動した。その姿を見て女は驚いて止まる。

「雷撃!」

 神鳴を纏った拳が腹にめり込み、弾かれた様にその体が吹き飛んだ。道路を抉りながらもなお進む姿は圧巻の一言に纏まる。自分でもこれほどの力が出るとは思ってなかった。

「すげぇ。これが俺の力……」

 両腕を握って、同時に確かめる。

 ――これが人を殺す力ということを。

 人が持つものには武器が存在する。その中でも人を傷つけたものは、凶器と呼ばれる。だとすれば俺の体は全身がその凶器だ。ただの武器なら、武器というもののせいにできたのかもしれない。でも俺の武器は体だ。否定することは許せない。

 だけど自分の体程信頼できる相棒もいない。

「予定変更よ。この子に人質を使いなさい」

 女の声でまずいと判断した俺は、近づくと右拳を構えた。

「待ちなさい。今から貴方に人質を使うわ」

 その声と共に家の方から声がして、現れたのはおっさんだった。

 おっさんの両腕は男二人に掴まれており、身動きがとれないことが見て分かる。

「よう巡。わりぃ。捕まっちまった」

「おっさん!」

「感動の再会……ってわけでもなさそうね。交渉しましょう。貴方の命一つで、あの男の命を助けてあげる。ただし女の方はダメよ? そっちにはもう一人使えそうな相手がいるから」

 女が睨んだ先にいたのは、夜空だった。現れた夜空は拳を握りながらも女への威圧を辞めない。

「随分と気丈ね。一体どんな教育を受けたのかしら?」

「黙れ。お父さんとお母さんを返せ」

 夜空の背後に八個の火球が浮かぶ。その熱量は凄まじく、近くの標識が熱で歪んでいた。

「酷く怒っているわね。まぁいいわ。こっちはディビク二人にガヴィアの私。ついでに見張っている二人。そっちはディウス二人。幾らディウスが強くても、数と人質でなんとかなるもの」

 この女、戦闘能力はないけど頭がいい。こっちは脳筋の俺に、頭のいいと言っても女程ではない夜空だけだ。まずい。本当にまずい。

 だけどこの場面を塗り替えることができる人物はいる。双也。どれほど強いかはわからないけど、戦力にはなるはずだ。

「さて、なら天丘巡。貴方から始末しようかしら?」

 俺は暴れる事担当だ。だけど暴れてもいいのか? ここで間違えれば、おっさんも夜空も死ぬことになるかもしれない。

 夜空の方を見ると、夜空の目は真っ直ぐ俺の方を見ていた。

 おっさんも、俺の方を真っ直ぐ見ている。

 その瞳をしてくる時を、俺は覚えている。昔俺が迷った時に、その瞳で言ってくれたことを。

『自分の好きにすればいい』

 そう言ってくれたことを、俺は忘れてない。だからやらせてもらうぜ。

「おい女」

「なにかしら?」

「俺のこと舐めてんじゃねぇよ。人質を取ったくらいで完全に俺を防げるとか、思ってんじゃねぇぞ!」

 体中から神鳴が溢れ出し、辺りの景色を破壊しながら女を感電させる。そして男二人をおっさんが投げ飛ばし、神鳴に直撃して倒れた。おっさんすげー。

「こっちは元代理天魔大戦の生き残りだぞ? 寄越すならガヴィアを寄越しやがれ!」

 おっさんの叫びに答えるかの様に、ディビク二人がおっさんに向かっていく。それを俺は肉薄すると、雷撃で吹き飛ばした。

「この小僧!」

 俺の体を後ろから女が銃で狙ってきた。てか銃!? なんで銃なんて持ち込めてんだよ。ここ日本だぞ!?

「遠距離だったら私がいるから大丈夫!」

 炎の球体から炎の弾丸が次々と発射され、女の体は再び吹き飛ばされた。今度は遠くの家の塀に激突し、そこに俺が地面を踏みしめて突撃する。

「てめぇの命、奪わせてもらう」

 右腕に多くの神鳴を纏うと、全力で女の顔を地面へと殴りつけた。

 真っ赤な血が辺りに花の様に広がり、俺の右腕も半分以上赤く染まる。そして俺が右腕を抜くと、女の姿は灰の様に消えていった。だが右腕の血は消えない。それが俺の罪だということは十分にわかっていた。

 夜空は二人の男に向けて炎を放つ。相手の一人はコンクリートの様なもので炎を塞き止めていたが、夜空の威力を上げた炎によって破壊された。

 もう一人は俺を殺した女の様な異形の姿に変化して攻撃してきたが、無駄だ。

 夜空はそれを全て見切って避けると、八つの球体の炎の一つから炎の槍を放ち異形の姿となった男を貫いた。

「もう一人!」

 別の球体からは炎の剣が幾本も放たれ、男の防御を破壊しながら男を貫いて灰へと変えた。

 夜空の武器である後ろにある八つの球体。それは夜空の最大の力にして、八尺瓊勾玉をモデルにした最強の武器。全て炎の弾丸を出す機能はあるのだが、それ以外に一つずつ機能が付いている。

 槍を放つ機能、剣を放つ機能、ビームの様な炎を放つ機能、追尾性の弾丸を放つ機能、連射型の弾丸を放つ機能等多くの特徴を持っているからこそ、弱点が非常に少なくなっているらしい。

 俺も全ての機能を知っているわけじゃないから言えないけれど、多分手数の多さなら俺は敗北していしまう。

 その場所に戻ってくると、俺の頭の上におっさんの手が置かれた。

「さっさと戻って右腕を洗ってやれ」

 おっさんの隣には木沙耶さんがいた。って木沙耶さん!? 一体いつの間に出てきたんだ?

「監視はいなかったの?」

「双也君が連れて行ったわ」

 木沙耶さんの言葉に、俺は驚いてその場で止まってしまった。




 よぞらんからの連絡を受けてよぞらんの家に向かうと、木沙耶さんだけが縛られてその前に男がいた。見た限り二人で、ディビクか。

「邪魔だから連れて行くか」

 僕は窓を開けて二階から入ると、目を閉じた。集中しなければいけない。

「領域、発動」

 目を開くと同時に世界が変わり、男二人は驚いた様に周りを見ていた。これが領域。対象を選択して連れて行くことができる、参加者が戦う為の場所。なんか色々と手順が必要らしくて、僕しか使えない。

「貴様、何者だ!」

「僕は二葉双也。よろしく。と言っても君達が死ぬことはもう見えてるんだけどね」

 その言葉に怒ったのか、二人は僕に向けてそれぞれ能力を使ってきた。片方の体が狼に変化し、もう片方は体から炎を出してきた。

「さてと、どうしてみたものかな?」

 僕は両腕に天風を纏うと、その風の力で空を飛んだ。

 炎の弾が俺に向かってくるが、それは風圧で全て消失させる。狼の方は遠吠えをしたかと思うと、僕の頭に痛みを感じた。聴覚から頭に攻撃してくるのかぁ。

「ちょっと見せられないよになっちゃうけどいいよね?」

 僕は風での飛行を辞めると、狼の方に突撃していった。それを待っていたかのように噛み付こうとする狼の攻撃を軽く避けると、右腕を狼の腹に当てた。

「動物虐待みたいで嫌だなぁ」

 右腕から風が発生し、その鋭さによって触れているところが細切りの様に切り裂ける。そして狼の体は大量の血を噴き出しながら細切れの肉塊になった。

「これ、服が汚れちゃうから嫌なんだ」

 笑顔で言った僕に対して、目の前の炎を吹き出していた男は怯えたような表情をし始めた。

「どうしたのかな? 僕に恐怖した? でもそれはもう遅いよ。君が死ぬまで僕はこの領域を解くつもりはないから」

 僕は風を纏うと男に肉薄する。そして触れようとすると、男は悲鳴をあげながら炎をぶつけて逃げ出した。

「追いかけっこかぁ。でも逃がさないよ。僕は逃げてる相手を倒すのが得意だからね」

 空中に風の刃を十個程作り出すと、それを全て逃げている男に対して放つ。だけどそれは男の放った炎の壁に防がれ、大した威力は出さなかった。まぁそういう威力で放ったんだけど。

「次、ギロチン行くよー?」

 右腕を振るうと、巨大な風の刃ができた。それを放つと炎の壁を切り裂き、男の体を二つに切り裂いた。僕のからが汚れないだけ良かったかな。

「ごめんね。僕みたいに心の壊れた人物を相手にするのは少し厳しいかもね」

 まぁ死んでいる人に言っても聞こえないだろうけど。

 領域が解けると、残ったのは血に汚れた僕の姿だけだった。

「ふぅ。お風呂を貸してもらおうかな」

 下に降りると、めぐるんとあった。だけどめぐるんは悲鳴を上げて倒れてしまった。なんで?




 双也が血塗れで笑ってた。意味がわからないかもしれないけれど、俺が見たことなんだ。信じて欲しい。

 風呂に入ろうと思って浴場に行こうとしたら、上から降りてきた血だらけの双也が笑ってたんだ。怖かった。非常に怖かった。ホラーかよ。

「と言うわけでもう血塗れで笑うのはやめろ。怖いから」

「あはは。ごめんねめぐるん」

 笑って謝る双也だが、笑い事じゃねぇよ。滅茶苦茶こえぇよ。殺す気かと思ったわ。

「それにしても、あの犯人達は全員死んだってことでいいのか?」

「そうだと思う。巡が吹き飛ばした相手は私が止めを刺したし、あの女は巡が倒した。残った二人も双也が倒したから、残っている奴はいないと思う」

 その夜空の言葉にホッとする。それと同時に双也を見た。

「てかお前凄い強かったんだな。知らなかったぜ。俺としては戦力になるかな位の感覚だったんだけど、俺より強いどころかお前より強い奴を俺は知らねぇよ」

 すると双也は苦笑いをして、夜空は偉そうにふんぞり返っていた。

「伊達に今までこの街に来た参加者を追い払ってたわけじゃないからねぇ~」

「双也がだろ?」

 その言葉に夜空は黙りきってしまった。

「そんなものじゃないよ僕は。よぞらんの方が凄いよ。何せ力の使い方なら僕なんかよりも上だからね」

「ありがと。でも巡の近接技能もかなり強いと思うよ? 双也は能力による防御だよね? あれ」

 あれっていうのはさっき聞いた、風を纏うことだろう。

「カウンターできる鎧。マジでどうやって殴ればいいのかわからない」

「殴らなければいいんだよ。確かに近距離の相手にはカウンターが怖い攻撃だけど、遠くから攻撃してればそんなに怖い防御じゃないよ?」

「で、離れたらギロチンと。抜け目ねぇじゃねぇか」

「自分の能力で最高のスペックを誇れる様にしないと、この大戦を生き残ることなんてできないよ」

 笑う双也を見ていると、俺よりも大人な気がしてきた。こいつは命の取り合いを承知でやっているんだ。俺なんかよりも全然大人だ。

「それにしても、奴らの目的は夜空だったってことでいいんだよな?」

「多分ね。今までもそうだったし。でも今回の戦いで相手側に一人ディウスが増えたことが知られると思う。これが一番面倒だ。相手側に自分達の戦力が知られる。うん。めんどくさい。でもめぐるんの性格から考えると、隠れてろって言ってもどうせ攻撃するだろうからこうするしかなかったんだよねぇ」

「でも見た奴らは倒したんだし、情報は出ないんじゃないのか?」

「そいつらに力を与えた悪魔や魔神も見てたってこと。はぁ。どうしよ」

 悩み始める双也。なんかすみません。俺のせいで色々迷惑かけたみたいで。言わないけど。

「まぁこの選択には後悔していないんだけどね。それでも立場的に、僕達は最も狙われるディウスだ。だから聞いておくよ? この街の人達を見捨てる覚悟はある?」

 全く笑っておらず真剣な表情で見つめてくる双也を見ながら、俺は口を開いた。

「ない。見捨てるくらいなら死んでやる」

「やっぱりね。めぐるんならそう答えると思ったよ。だってこの街のことが大好きなめぐるんだからね。見捨てるって言ったら、僕達はめぐるんのことをメンバーから外すつもりだったよ」

 普通は見捨てなきゃいけないんだろうなぁ。でも俺達には無理だ。この街を見捨てることも、この街を放棄することも。

 どうせ俺達がいたという情報はバレているんだ。だったら逃げたらこの街の人達が襲われる可能性が高い。知らない人襲われただけでもキレそうだったんだ。知っている人が襲われたら、俺は理性を保てない。

 それにしても、俺の頭の中になにか引っかかりを感じる。何かを忘れている様な……。

「なぁ双也。お前の相手の能力って、狼と炎だったんだよな?」

「そうだよ」

「――おかしくないか?」

 そうだ。おかしい。可笑しいんだ。何でこんなことに気がつかなかったんだ。

「あ」

 夜空も気づいたみたいだ。俺が見た死体は、上半身を肉だけにされていたはずだ。それほど大きな口を狼が持っているか? 夜空が戦った男はそんなに大きな口だったのか?

「まだ殺人事件の犯人は残っている。死んだのはその使いっぱしりみたいなものかも知れない」

 だとすればこれから先も殺人事件が起こる可能性がある。そんなことはさせたくない。

 結局俺達がしたことは無駄だったのか? いや、それはないか。おっさん達を助けられた。

「なら明日からは作戦を決めよう。一人が自宅警備員。後の二人が見回りだ」

「待って巡。その言い方には悪意が感じられる」

 自宅警備員のどこに悪意が感じられるって言うんだ。まぁ別にいいけど。

「僕が残るよ。カウンターを得意としているのは僕だし、気づかれないようにする隠密においては結構自信があるからね。二人が探してくれないかな?」

 双也が言っていることも正しいか。だけど明日は学校があるんだ。

「学校はどうする?」

「学校は行かないと。家はお父さんが本気で守れば大丈夫。お父さんも今回いざとなれば本気になってただろうけど、私達に力を使わせる為に力を使わなかっただけだから」

 ほんとおっさん強いな。

「わかった。じゃあ学校には行こう」

 それから双也を送ると、俺達は自分達の部屋に戻った。

「ふう」

 すぐに眠気が襲いかかってきて、俺の視界は闇に閉ざされた。




 暗い闇。まるで全てを飲み込むかの様なその闇を眺める人物がいた。

「……色々と大変なようだな」

 その人物に対して声が響く。その声にその人物は振り向かない。

「そうだね。大変だよ。僕じゃなくて巡が」

「あいつならこの程度、超えてもらわなくてはな」

 ルークは声の人物の言葉に、呆れたようなため息を吐いた。実際に呆れているのだが。

「この程度じゃないよ。だって最初の戦闘がディビクの中でも中堅。次の戦いがガヴィアの下位だよ? 本来ならディビクの初心者としか戦わないでいないと死ぬ様な経験値なのに、巡が死ぬよ?」

「あいつはこの程度では死なないさ。だからお前は精一杯ヒントを出してくれればそれでいい」

「甘いのか厳しいのかよくわからないなぁ」

 苦笑いするルークは、闇を見つめながらその瞳を真剣なものに戻した。

「これで良かったの?」

「……あぁ。これで良かったさ」

 少しの沈黙の後に起こった言葉に、ルークはそっかと返すと瞳を真剣なものから変えた。

「じゃあ頼むな。俺からの干渉はこれが最後だ」

「うん。もう会わないことを願っているよ」

 帰っていく声の主を見送りながら、ルークは闇に一筋の光を見た。


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